日本小児放射線学会雑誌
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第57回日本小児放射線学会学術集会“こども達の未来が私たちの未来”より
こどもに優しい画像診断を目指して
相田 典子
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2022 年 38 巻 1 号 p. 21-28

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要旨

小児は成人に比べて放射線被ばくの影響を受けやすく余命も長いため,できるたけ被ばくを伴う検査を避け,必要な場合でも診断に必要な画質を担保しながら最小限の線量で検査を行わなければならない.未来を担う子ども達に医療情報価値の高い適切な画像診断を,ハード,ソフトともにできるだけ優しく行い,それを世の中に示し広めていくのが,私たち日本小児放射線学会会員の目標である.本稿では,小児画像診断の正当化と最適化を含む進め方,考え方をおさらいし,年少児や知的障害児では避けて通ることのできない鎮静処置とその安全対策をとりあげる.さらに,被ばくがなく情報量は大きいが,検査時間の長くとてもうるさいMRI検査を,鎮静なしでできる子どもが増えることを目指した日本の子ども向けのプレパレーション動画を紹介する.

Abstract

Children are more susceptible to radiation exposure and have a longer life time than adults, making it necessary to avoid imaging examinations with radiation exposure as much as possible. If necessary, they should be performed with the minimum radiation dose while ensuring sufficient image quality required for diagnosis. It is the goal of the members of the Japan Pediatric Radiology Society to perform appropriate diagnostic imaging with high medical information value as gently as possible for all children. In this paper, the practical idea of justification for and optimization of pediatric diagnostic imaging are reviewed, and safety issues of pediatric sedation are discussed because sedation cannot be avoided in young children and intellectually impaired ones. In addition, MRI preparation videos are introduced, which are for Japanese children aiming to increase the number of them who can undergo noisy MRI examination without sedation.

はじめに:小児画像診断の特徴

小児画像診断の対象となるのは胎児期から,早産児を含む新生児,乳児期から思春期,AYA世代までと非常に幅広い.つまり,画像診断の基本である正常像が年齢・発育とともにどんどん変わっていく.脳神経領域や骨格系ではこのことが顕著である.また,疾患スペクトラムは成人とは全く異なり,月齢,年齢ごとに変わっていく.つまり,刻々と変わる正常像と年齢ごとに変わる好発疾患の知識を持っていないと適切な画像診断が行えないので高い専門性を必要とし,主に成人を対象として診断を行っている多くの放射線診断医/画像診断医には敷居が高いと苦手意識を持たれる場合が多い.また,小児は成人に比べて放射線感受性(発がんリスク)が高いので,画像診断の手法としては,できるだけ被ばくのない画像検査への振替が推奨される.具体的には,被ばく線量と検査頻度の高いCTを,MRIと超音波検査に置き換えて施行することを目指す.しかし,MRIはCTとは比べられないほど検査時間が長いので,未就学児のほとんどでは鎮静処置を必要とし,多くの施設で検査の予約は混んでいるので小児のMRI施行にはいろいろと困難が伴う.超音波検査は,体格が小さく内臓脂肪が少ない小児全般において空間分解能に優れた高画質な画像(Fig. 1 US)が得られ最適な検査であるが,じっとしていてくれず指示に従わない小児の超音波検査は技術的に簡単ではなく,我が国では実際に熟達している検査者は多くはないのが現状である.

Fig. 1 小児の超音波検査

新生児例 a:腹部正中横断像 b:脊髄矢状断像 c:脊髄円錐横断像

腹部では肝左葉内外側区およびその背側の酸いが頭部体尾部まで観察でき,さらにその背側には大血管(Ao, IVC)とその分枝,周囲のリンパ節(L/N正常)と両腎上極が見える.

脊椎の骨化が未熟な生後2か月頃までは,脊髄(Cord)および神経根が明瞭に確認できる.リアルタイムでみると馬尾が髄液の流れによってそよぐように動くようすが観察できる(b, c).

小児画像診断の正当化

正当化は,放射線被ばく・鎮静などのリスクに対して患児の診療上における利益が上回る時のみしか施行してはいけないということであるが,かいつまんで言えば「本当に必要な検査のみを厳選して行うこと」である.

画像診断の施行には成人でも小児でも正当化と最適化が必要である.しかし,成長途上で細胞分裂が盛んであり放射線感受性が高く,余命が長いために薬剤等の影響も含めて長期にわたりリスクのある小児においては,より厳しく正当化と最適化に努めなければならない.中でも大人より明らかに影響が大きいのは,放射線被ばくに伴う発がん上昇リスクであり,被ばくを伴う検査の中で,検査数,総線量ともに大きいのはCT検査なので,CTの適応の正当化をきちんとすることが,子どもへの被ばくを抑制するという意味で重要である.例えばMRIや超音波検査のような被ばくのない検査に置き換える努力をするのも正当化であるが,かといって被ばくを怖れるあまり必要なCTを行わないのは本末転倒となる.したがって,CT,MRI,超音波などの画像診断が専門の医師と担当医とがよく話し合って最適な検査を決め,ご家族にも納得していただける説明をするのが最も良い方法となる.

世界保健機構(WHO)の作成した「小児画像診断における放射線被ばくリスクの伝え方」には,正当化には画像診断医,依頼医,患者および家族のコミュニケーションが必要と書かれている1,2).依頼医は,検査依頼時にその検査が,既に行われているのではないか? 患者管理に影響するのか? 本当に必要か? 今必要か? 最適な検査か? 画像診断医に必要性を明確に説明したか? を自問してから依頼するとされ1,2),欧米では依頼医側のガイドラインも作られている.我が国ではこのような教育・啓発は不十分である.患者に利益をもたらす画像診断などの医療被ばくには線量限度はないが,我が国より放射線科専門医がCT検査をコントロールしている率がかなり高いと考えられるヨーロッパからの報告でも,小児CTのうち30%は検査不要か放射線を使わない他の検査(超音波検査,MRIに代表される)に変更可能であると考えられている3)

神奈川県立こども医療センターでは,医師全体に小児における被ばくの影響を周知し,放射線科医から積極的に担当医に働きかけてCT検査をできるだけMRIと超音波検査に振り替えて行う努力を徹底してきたため,2013年を境にMRI件数がCT件数を上回り,放射線科医が直接施行する精査の超音波検査も右肩上がりを続けている(Fig. 2).放射線科で行われるCT,MRI,超音波検査は精査の画像診断であるが,2010年にはその半数あまりがCTであったのに対し近年では3分の1以下となっている(Fig. 2).

Fig. 2 神奈川県立こども医療センター放射線科におけるCT・MRI・超音波検査(US)の年次推移

(2020年以降はCOVID19禍の影響で比較が難しいので2010年から2019年の10年間を提示.2016年と2018年には機器更新による休止期があったため半期の件数を2倍とした.)

CTを被ばくのないMRIとUSに振り替える努力を行った結果,MRIとUSは右方上がりに漸増,CTは減少した.近年は精査の検査でCTを用いる割合は3分の1以下である.

小児画像診断,特にCTおよび造影MRIの最適化

CT,核医学,単純写真,透視検査など放射線被ばくを伴う画像診断の最適化はALARAの原則(合理的に達成できる限り低く保つという法則)4)に則って行い,CTであれば機器の性能に合わせて,適切に診断できる画質を保つできるだけ少ない線量に条件設定する.最適化には診断医,技師(原文では医学物理士も入っているが日本の診断の現場に物理士はいない)のコミュニケーションが必要とWHOのレポートは述べている1,2).MRI検査の最適化は,小児の年齢や体格,目的に合わせて検査プロトコールを設定することである.

適正な造影剤使用も画像診断の最適化には重要である.虫垂炎の疑い,腹痛などで腹部CTを依頼する際,「とりあえず単純でお願いします」と言われた経験はけっこう多いと思われる.頸部リンパ節腫脹などでも同様であろう.小児に点滴ルートを確保するのは労力のいる仕事であり,点滴を取らずに検査したいという担当医の気持ちは理解できないことはない.しかし,検査部位,検査目的により,きちんと単純,造影CTを使い分けないとCTから得られる診断情報は限られたものとなる.小児は10代になっても,成人のように内臓脂肪が多くはない(Fig. 3).乳幼児はお腹が出ているように見えても腹腔内脂肪は非常に少なく,新生児ではほとんどないと言っても過言ではない.したがって天然の陰性造影剤である内臓脂肪による臓器の描出は期待できないのである.したがって炎症の精査においては適切な造影剤の使用による解剖学的構造の描出が必須となる.dirty fat signを探すのも成人に比べると容易ではない.禁忌等のできない理由がないのに,炎症,腫瘍(疑い)時に単純CTだけを撮るのは最適化されていないどころか,不適切な検査である.きちんとした診断のためには結局あらためて造影CTの追加施行が必要となり,被ばくは2倍となる.小児CTでは単純+造影CTを基本とするのではなく,単純CTだけ,あるいは造影CT(1相)だけを行うのが被ばく低減の観点から推奨される.単純+造影CTをしたがる理由として,「石灰化が診断に重要」という意見がある.しかし,造影された血管の連続性をきちんと追いかけて診断すれば,石灰化と脈管を混同することはまず考えられない.実例をFig. 4に示す.

Fig. 3 13歳男児 腹痛,虫垂炎疑い

ヨード造影剤アレルギーの既往のため単純CTが施行された.

MPR冠状断像で右下腹部に円形の高吸収値域(矢印)があり,虫垂石に合致する.しかしこれがなければ,虫垂炎の診断は難しい.同日のUSでは虫垂石の背側尾側の小骨盤側に膿瘍を確認したが,単純CTでは診断困難である.また,13歳でも腹腔内脂肪が非常に少ないことに注目していただきたい.

Fig. 4 3歳女児 神経芽腫初診時の造影CT1相撮影

MPR冠状断像の連続画面であるが,右腎動脈を囲む腫瘤(*)内に点状・小班状の石灰化を認める.小動静脈は連続画面で追跡できるので石灰化とは区別できる.

1相撮影でも,動脈,静脈,門脈ともに良好なコントラストで描出されていることに注目していただきたい.造影CT1相撮影で診断的には十分な情報が得られている.

また,特に必要でない場合に,漫然と造影剤使用を行うのも不適切と言える.CTにおいてもMRIにおいても造影剤を使用することで追加情報が得られることがあるが,造影剤には副作用があるし,近年ではMRI用のGd造影剤に体内沈着が起こることも証明されている5).したがって,造影剤使用が必要かどうかを厳密に判断することは放射線診断専門医の重要な職務である.「せっかく寝たのだから,できることはすべてしたいのでとりあえず造影検査もやってください」と言う姿勢の担当医がいるが,特に必要でない場合に,漫然と造影剤使用を行うのは避けるべきである.造影剤を使うことでしか得られない情報がある可能性をきちんと見極めてから検査は行われるべきである.CTと異なり,MRIは組織分解能が高いので,内臓脂肪が少なくても組織コントラストは十分であり,造影剤の必要性は限られる.脳脊髄の実質においてはCTの造影剤と同様に脳血液関門の破綻部が造影増強されるのが原則であるが,例えば腫瘍の経過観察では,大きさの比較に造影剤使用は不要であり,内部の状態も拡散強調像,MRスペクトロスコピー等にてかなり評価できる.また,播種を起こすような高悪性の小児脳腫瘍では細胞密度が高いことが多く拡散強調像で高信号を示し,播種巣も拡散強調像で診断する方が容易な場合もある.繰り返しMRI検査を施行しなければならない小児の病態においては,漫然と毎回造影剤を使用するのではなく,その時点で何を評価すればいいのかを考えてから造影の有無を判断し,必要な場合にのみに環状型Gd造影剤を使用する習慣をつけてほしい.最近の後方視的研究では,17才以下の小児脳(下垂体評価を除く)のMRI検査単純で正常であった3003例のうち,造影剤を追加して新たな情報が得られたのはたった8例(0.3%)で全て髄膜の増強効果であり,全例臨床的に髄膜炎の診断がついていたため診断的有用性はなかったと報告している6).したがって,小児の脳単純MRIが正常だった場合には,よほどはっきりした理由がない限り造影剤追加の適応はないということになる.

小児画像診断のクオリティを保つためにさらに必要なこと

今まで述べてきたような小児画像診断の正当化と最適化を行い,いざ検査に臨んでも,小児画像診断にはまだ必要なことがある.検査時に動いてしまっては必要な画像情報が得られないのである.近年のCTは高速化しており,適切な固定を行えば静止したCT画像を得られることが多いが,固定が不十分であればいくら短時間撮影でもぶれた画像となり,診断情報は大きく損なわれる.MRIでは短くても10–15分以上の安静保持/静止が必要であるので,未就学児および知的障害の児では鎮静処置が必須となる.鎮静処置を施すためには必然的に安全対策を講じる必要が出てくる.鎮静処置では,静注薬,経口薬に関わらず呼吸抑制に代表される副作用が起こる可能性がある.特にMRI検査の鎮静は,検査時間が長く,検査時に大きな音を伴い,磁場の中で通常のモニター機器が使用できないなど困難が大きい.検査を受ける子ども達の安全のために日本小児科学会,日本小児麻酔学会,日本小児放射線学会が出した「MRI検査児の鎮静に関する共同提言」7)を参考にして,検査室の環境,物品整備,人員配置,院内のバックアップ体制を整えて検査に当たっていただきたい.成人対応の技能と成人用の機器/用具では小児の緊急事態には対応できないが,この共同提言に準じた体制があれば,造影剤のアレルギーやMRI以外の検査における鎮静への対応にも心強い.正当化された検査を最適化してきちんと施行するためには,必要十分な固定・鎮静処置と適切な安全対策が必要なのである.

MRI検査において,鎮静なしで検査を受ける子どもたちのための検査前の準備措置として,スタッフによる(遊びながらの)説明や,おもちゃ仕様の模擬検査装置を用いた練習など,各種のプレパレーションがあることは知られているが,人員や時間の関係で我が国では必ずしも盛んとはいえなかった.MRI検査では閉鎖空間でじっとしていることを求められ,不愉快な大きな音もする.また,何だかわからない初めての検査に子どもが不安を持つのは当然であり,MRI前のプレパレーションの意義は大きい.人員や道具の必要がなく手軽に活用できる方法として,スマートフォン等でも気軽に見られるプレパレーション動画があり,欧米の小児病院では独自の動画をYouTube等にあげていることも多いが,日本語のものは皆無であった.

そこで,我が国でもできるだけ鎮静処置を施さないで検査ができる子どもたちを増やすために,日本語のプレパレーション動画を作ることを模索した.作成には資金が必要なため,画像診断に関わる企業に働きかけを行ったところ,2社から協力を得ることができ,アニメーション版8)と実写版9)が作成されHPおよびYouTubeで公開された.すでに多くのアクセスがあり,小児担当医からの評判も良好である.また,日本小児放射線学会のHPからも閲覧することができる.2種類のプレパレーション動画のリーフレットを図に示す(Fig. 5).

Fig. 5 MRIプレパレーション動画リーフレット

企業の協力により作成された子ども向けMRIプレパレーション動画のリーフレット,aはアニメーション版,bは実写版で,それぞれのQRコードからYouTubeを閲覧できる.

プレパレーション動画はMRI検査を受ける子どもにとって有益であるのはもちろんであるが,検査を受ける子どもに説明をしなければならない子どもの親・養育者はまだ若く,ほとんどMRI検査を受けた経験がない世代なので,動画を見ることにより検査の実際を知ることができ,安心してより良い説明が可能となることも重要な利点と考えている.

子ども達のために:画像診断医として,小児医療にかかわる医師として

日本は子育てをしにくい国と言われている.政府の予算配分を見ても子どもにお金をかけない国である.しかしながら,医療が小児を大事にしないようなことがあってはならない.未来を担う子ども達に医療情報価値の高い適切な画像診断を,ハード,ソフトともにできるだけ優しく行い,それを世の中に示し広めていくのが,私たち日本小児放射線学会会員の目標である.

稿のおわりに,日本医学放射線学会の診断ガイドライン2021の総論,小児画像診断の考え方,進め方10)の「終わりに」を引用してまとめとしたい.

小児は放射線被ばくによる発がんリスクも高い上に,造影剤などの薬剤の影響(蓄積効果やその結果の副作用など)も60年から80年以上の長い余命で考えなければならない.したがって小児画像検査は専門医の見識を持って厳選され,最もふさわしい方法で低侵襲かつ必要な診断情報を損なわないような形で行われなければならない.これは放射線診断専門医がその能力を最も発揮できるところであり,専門知識を駆使しての積極的関与が未来を担う子ども達のために直接貢献する領域である10)

文献
 
© 2022 日本小児放射線学会
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