日本小児放射線学会雑誌
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第57回日本小児放射線学会学術集会“こども達の未来が私たちの未来”より
小児における造影剤の適正使用
田波 穣
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2022 年 38 巻 1 号 p. 29-34

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要旨

小児における造影剤の適正使用について述べさせていただく.適正利用といっても幅広い領域をさすが,紙面の関係上,今回の原稿の中では造影剤の合併症に対する裁判例及びガイドライン,医療安全情報など医療安全の側面を中心とする.

Abstract

I would like to discuss the proper use of contrast media in children. Proper use refers to a wide range of areas, but due to space limitations, this manuscript focuses on medical safety aspects such as judicial precedents and guidelines for complications of contrast media, and medical safety information.

序文

小児における造影剤の適正使用について以下に述べさせていただく.適正利用といっても幅広い領域をさすが,紙面の関係上,今回の原稿の中では造影剤の合併症に対する裁判例及びガイドライン,医療安全情報など医療安全の側面を中心とする.

造影剤の合併症の分類

造影剤投与から60分以内を即時性,60分~1週間程度までを遅発性,1週間以降のものを超遅発性と時系列による分類が行われている.即時性のCT,MRI共通の副作用としては,急性アレルギー様反応がある.またCTによる造影剤に起因する腎障害はcontrast-induced acute kidney injury(CI-AKI)と呼ばれ,遅発性の副作用に分類される.さらにMRIでのガドリニウム(Gd)の沈着は超遅発性の副作用と考えられている.

即時性の副作用について

CT,MRI共通の副作用として,急性アレルギー様がある.まずはこの副作用に関しての有名な裁判例を紹介する1).概略をFig. 1に示す.40歳の男性がアイナメの刺身,ピザを食べた後にじんま疹,腹痛などが出現したため,夜間救急を受診した.その後内科医師が診察し,著明なじんま疹,軽度の腹痛を認めた.その際以前にサバで同様の症状が出た旨の訴えがあった.腹部単純CT検査後,造影CT検査が開始.一旦,ほてりが出現し撮影が中止された後,体動が確認されため,医師が異常を感じてCT撮影室に入室したところ,胸が熱いと訴えていた.医師は造影剤アレルギーを疑って上記検査を中止し,応援を要請した.その後,アドレナリン投与,心臓マッサージなどの救命処置も実施されたが,お亡くなりになったという事例である.

Fig. 1 造影剤副作用に関する判例

この裁判例において原告からの訴えの論点がいくつかあるので整理したい(Fig. 2).最初の訴えは,医師に対しての訴えであり,造影CTの必要性,適応がなかったのではないかというものである.その理由としては急性腹症ではなく,緊急の外科的治療が必要な疾患が疑われる状態ではなかったのではないかという疑問である.実臨床,特に救急の現場ではかならずしも腸間膜動脈血栓症,大動脈解離などの真に重症の病態を短い時間で把握するのは容易ではなく,造影CTは有力なツールである.しかしながら,診療録への十分な記載がないという点が争いとなっている.

Fig. 2 本判例における原告の主張

2番目の訴えとしては同じく医師に対するもので,造影剤使用後の診断治療義務違反である.造影撮影時にアナフィラキシーが発現した場合には以下の注意義務があると考えられている.①ショックの前駆症状である初期症状の段階で的確にアナフィラキシーを診断する.②バイタルサインの確認を行う.③救命処置を実施する(気道確保して酸素を供給する).アドレナリン投与や心臓マッサージを行うなどである.具体的には本症例においてはA. 担当医師はショックの前駆症状の段階でバイタルサインの注意義務違反がある.B. アナフィラキシーショックの診断がされた時点でアドレナリンが速やかに投与されるべきであった.C. アナフィラキシーの発症から気道確保まで時間が過度にかかったとの主張である.

3番目の原告からの訴えとしては,造影剤を使用する場合の救命準備義務違反になり,これは病院に対するものになる.アナフィラキシーは急速に発現する致死性の病態であり,緊急対応の適否により予後が異なることから,造影剤を使用する場合には救命準備をしておかなければならない.具体的には救命準備として体制の整備や医療従事者に対する研修,訓練を行うべき注意義務があるところ,被告病院においてはそれを怠った注意義務違反があった(アナフィラキシーショックの治療にはアドレナリンが第一選択薬であることを徹底すべきであった.)また連絡体制の整備義務違反として被告病院においては医師を一斉に呼び出す体制が取られておらず,人を集めることに余分な時間がかかることになったとされている.

アナフィラキシーの症状は非常に多彩で,診断は時に難しく,また,本症例のように急激に進行する場合において病院が万全の準備を行うのは医療資源的に容易なことではない.この点を考慮し,最終的にこの判例においては訴訟が棄却されている.しかし,以上の点に対する対応を可能な限り準備しておくことは医師個人としても病院としても必須ではないかと考えられる.改めてこの3点について振り返ってみると,まず造影CT検査に際しての注意義務違反に関しては,CTの適応を適切に判断しその理由に関して診療録に記載していくことが肝要と考えられる.また3番目の造影剤を使用する場合の救命準備義務に関しては,現時点で各病院ではコードブルーなどのシステムが整備されている場合が多いと考えられ,比較的この点に関しては条件を満たしている病院が多いのではないかと考えられる.

医師個人として最も重要なのは,2番目の造影剤使用後の診断治療義務に関する点と考えられる.具体的な対応としてはアナフィラキシーガイドラインがまとめられ,公開されているので,その中から改めて整理する2).アナフィラキシーの定義は複数あるが,臨床的に遭遇しうる可能性が最も高いのは「一般的にはアレルギーとなり得るものの曝露の後,急速(数分~数時間以内)に発現するa. 皮膚粘膜症状(全身の発疹,掻痒,紅斑,浮腫など),b. 呼吸器症状(呼吸困難,気道狭窄,喘鳴,低酸素血症など),c. 循環器症状(血圧低下,意識障害など),d. 持続する消化器症状(腹部仙痛,嘔吐など)の4項目の内,2つ以上を伴う場合」という定義と考えられる.一般的に皮膚及び粘膜症状はアナフィラキシー患者の80~90%,気道症状は最大70%,消化器症状は最大45%,心血管系症状は最大45%,中枢神経系症状は最大15%に発現するとされている.

具体的にはアドレナリン筋注の適応はアナフィラキシーの重症度評価におけるGrade 3(重症)の症状を有する場合であり,それぞれ各症状における重症の基準を知っておく必要がある.皮膚粘膜症状の判定は,しばしば緊急対応する医師は造影剤注射後に検査室に呼ばれる場合が多く,通常の状態と比較するのが難しいために,保護者の方が直接患児の顔をご覧になって「顔が全体にむくんでいる」とか,あるいは患児本人が自分で手鏡を見て,「顔が全体に明らかにむくんでいる」などのコメントがあればその時点で重症と判定できる.呼吸器症状としては持続する強い咳込みや明らかな喘鳴,呼吸困難,チアノーゼなどが該当し,具体的にはSpO2が92%以下であれば重症と考えられる.また循環器症状では,不整脈,血圧低下,徐脈や心停止などが該当し,血圧低下の基準としては1歳未満では70 mmHg未満,1歳~10歳では70 mmHg +(2 × 年齢),11歳~成人では90 mmHg未満と記載されている.また消化器症状としては咽頭痛や持続する強い腹痛,繰り返す嘔吐など,神経症状としては,ぐったり,不穏,失禁,意識消失などである.臨床的にはまずは頻度が最も高い皮膚粘膜症状を外観からチェックし,それに加えて,SpO2 92%以下あるいは70 mmHg以下の血圧低下の有無をチェックし,アドレナリン筋注のタイミングを逃さないようにすることが重要と考えられる.なお過去の重篤なアナフィラキシーの既往がある場合や症状の進行が激烈な場合はGrade 2(中等症)でも投与する場合がある.https://anaphylaxis-guideline.jp/でも詳しく解説されているので参考にして頂きたい.

アドレナリンの筋肉内注射の部位としては,一般的に血流が豊富であり血中濃度の上昇が比較的高い大腿部への注射が推奨されている.これは過去の研究でアドレナリンの上腕への皮下注射と筋肉内注射,大腿部への筋肉注射を比較した結果,大腿部の筋肉内注射後にアドレナリン至適血中濃度が速やかに得られたと報告されているためである.一方で小児ではアドレナリンの筋肉内注射と大腿四頭筋拘縮症との関連が指摘されている.ただし,アナフィラキシーが疑われ,アドレナリンの筋肉内注射の適応と判断された場合には致死的な緊急事態であるため,一般的には筋肉注射を避ける理由にはならないとされている2)

さらに医療事故の再発防止に向けた提言第3号の中で注射や薬剤によるアナフィラキシーに関わる死亡事例の分析が行われている3).それによると2015年から2017年の2年間に報告されたアナフィラキシーを死因とした事例は13例あり,その中で造影剤は4例あったと報告されている.さらに分析の中では,過去に複数回安全に使用した薬剤でも致死的なアナフィラキシーに陥ることがあり,また薬剤に関してはアレルゲンへの曝露から心停止までの時間の中央値が極めて短く,約5分以内で皮膚症状の出現に関わらず症状が出現した場合はアナフィラキシーを疑うとされている.したがって速やかなアドレナリンの筋肉内注射が可能な体制の整備が重要と考えられる.

一方で医療安全情報では2020年8月に,アレルギーがある薬剤がすでに記録に残っていたにも拘わらず,アラートが機能しなかった事例が報告されている4).これは薬剤名を選択して登録したのではなくテキスト入力をフリー入力した結果検索に引っかかっておらず,2回目にアレルギーとなり得る薬剤を投与してしまったという事例である.電子カルテの入力時などに注意すべきと考えられる.

小児における急性アレルギー反応の頻度5,6)としては,ヨード造影剤が0.18~0.46%,あるいは重症のものに限ると0.04%程度と報告されている.またGd造影剤による副作用は0.04~0.05%程度と報告されており,いずれも成人よりも低い.何らかの治療が必要な中等度以上に限れば,ヨード造影剤は凡そ0.05%程度,Gd造影剤は0.007%程度と考えられている.

遅発性の副作用について

次に造影剤の合併症のうち,CTでの造影剤に起因する急性腎障害について述べる.この中では,小児の腎機能障害の診断と腎機能評価の手引き及び欧州泌尿生殖器放射線学会のガイドライン(ESUR; European Society of Urogenital Radiology)を我々は重視している7).造影剤に起因する急性腎障害(postcontrast acute kidney injury; PC-AKI)は以前CIN(contrast induced nephropathy)造影剤腎症と呼ばれていたものから定義や名称が変更になっている.従って,過去の論文中に,複数の定義が混在しており,その点について注意が必要である.PC-AKIは造影剤投与後48~72時間以内の血清クレアチニン値が0.3 mg/dl以上の上昇,もしくは前値から1.5倍以上の上昇と定義されている8)

この中で重要なのは,心臓カテーテル検査を受けた907名における腎機能障害の発生頻度が分析され,潜在的に腎機能障害がある群において造影剤に関わる腎機能障害の頻度が高いという点である8).これを根拠に成人ではeGFRを用いて,腎機能の評価をCT前にチェックするのがルーチンとなっている.しかし,このeGFRの推定において今まで一般的に使われていた小児のSchwartzの計算式においては,人種における体格の違いや男女の違いは考慮されていなかった.これに対して2019年に小児慢性腎臓病(小児CKD)を適切に診断治療するために小児の腎機能障害の診断と腎機能評価の手引きが整理され,この中で新たに日本人の体格に合った形で年齢や性別を考慮した式が記載されている9).一般的には今までのSchwartzの式に比べて小児CKDガイドラインの式では若干eGFRが小さめに計測される場合が多く,Schwartzの式をそのまま使用した場合には相対的に過大評価となってしまう危険性がある.当院ではエクセルにこの小児CKD eGFR計算式を入力し,事前に計算をするようにしている.

一方でESURのガイドラインが改訂された結果,今まで経静脈性ヨード造影剤投与における腎機能障害の危険因子はeGFRが45 ml/min/1.73 m2以下であったのがeGFR 30 ml/min/1.73 m2以下に緩和された.この背景としては造影剤の経静脈投与群と径動脈投与群を比較した結果,経動脈投与群の方がより腎機能障害のリスクが高く,CTで使用するような経静脈投与群では相対的にリスクは低く,異なる定義を使用すべきということがある8)

小児CTでのPC-AKIに関しては議論が数多くなされており,例えば造影剤を使用した群と使用しなかった群でAKIの頻度が変わらないとする報告がある10).また比較的最近発表された論文の中でも18歳以下の造影CTを行った925名と超音波検査を行った925名を比較して急性腎不全のリスクを評価したところ,造影剤の使用はeGFR 60 ml/min/1.73 m2以上の場合は独立した危険因子ではなくむしろ抗生物質の使用やeGFR,BMI,人種などが独立した危険因子として挙げられると報告されている11).さらに新生児では一般的に腎機能が未熟であるため,腎機能障害のリスクが考慮されていたが,生後30日の造影CTと非造影CT 51例,造影MRIと非造影MRI 81例の血清クレアチニン,GFRを造影後45日後まで追跡評価したところ有意差はなかったとの報告もある12).現時点で造影剤使用後の腎障害に関しては少なくともその一部は因果の誤謬の可能性があると考えられている.

臨床において問題になるのは緊急CTにおける事前のeGFR測定にある.ガイドラインの中では①造影CTを遅らせることが可能な場合はeGFRを測定する.②eGFRが評価する余裕がない場合はまずヨード造影剤を使用しない他の画像検査法を考慮する.③造影CTを遅らせることもヨード造影剤を使用しない検査法も難しい場合には,事前の補液を行うことによって造影CT検査をまず行い,検査後eGFRが30 ml/min/1.73 m2以下の場合は補液を継続する.さらにeGFRを造影剤投与後48時間後に再度測定するという対応が推奨されている7)

超遅発性の副作用について

最後にMRIでのGd沈着について簡単に述べる.すでによく知られているようにGdイオンは重金属であり,毒性が高く蓄積性もあると考えられている.これに対してGdの周囲をキレート化することにより毒性の低減と水溶性(尿中排泄)が得られるとされ,各種の造影剤に利用されている.

NSF(nephrogenic systemic fibrosis)は1997年に初めて同定され,2000年に文献に報告された13).NSFは線維化によって皮膚が肥厚硬化し,進行すると四肢関節の拘縮を生じて活動が著しく制限され,歩行困難などの問題が生じる.さらに有効な治療法は確立していない.2006年にNSFとGd造影剤との因果関係が認められ,その後NSFの発現頻度が腎機能障害によって異なり,そのほとんどがeGFR 15 ml/min/1.73 m2未満の症例に集中していることが判明した14).腎機能障害のためGd造影剤の尿中排泄が遅延し,Gd造影剤から遊離したGdが原因と考えられたため,2007年にGd造影剤の腎不全患者の投与が禁止され2009年移行NSFの新規発症は報告されていない.

さらに2014年の段階で脳へのGd残存が報告された15).今のところ神経学的な症状は報告されておらず,今のところこれらの変化の臨床的な意義は不明である.Gd造影剤の構造式は線状型と環状型に大きく分類され,この線状型においては複数回のGd造影剤の投与後,非造影T1強調画像において歯状核の信号が上昇する一方で,環状型のGd造影剤では複数回投与しても明らかな信号上昇は認められなかった16).この結果平成29年11月に「線状型Gd造影剤は環状型Gd造影剤より脳にGdが多く残存するという報告があるため,環状型Gd造影剤の使用が適切でない場合に限って線状型Gd造影剤の使用を推奨する」という形で使用上の注意が改訂された.

最後にGdの潜在的環境汚染について簡単に述べる.Gdの潜在的環境汚染に対しては多摩川でのGdの濃度上昇が報告されている17).この濃度上昇は日本だけのものではなく,すでにベルリンの周囲のHavel川でも同様の事例が報告されている18).ご承知のように,日本やアメリカ,ドイツは人口100万人あたりのMRI台数が多く,今後Gd造影剤の使用という観点からは大きな潜在的な問題になってくる可能性がある.MRIはGd造影剤を使用しないでも多くのシークエンスで数多くの情報が得られる魅力的なツールであり,今後Gd造影剤に頼らない診断法をさらに開発していく必要性があるのではないかと考えている.

まとめ

造影剤は比較的安全に使用が可能な薬剤である.その中で稀ではあるが,小児領域に対して使用するにあたり安全管理の側面を中心として概説した.皆様の少しでもお役に立てれば幸いである.

 

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