日本小児放射線学会雑誌
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第57回日本小児放射線学会学術集会“こども達の未来が私たちの未来”より
MRIの新技術:小児に使える実用的価値
丹羽 徹 渋川 周平堀江 朋彦相田 典子橋本 順
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2022 年 38 巻 1 号 p. 44-49

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要旨

小児MRIにおいては,撮像にあまり時間がかけられず,使用できるシークエンスおよびその設定には制限があったが,近年の装置の進歩に伴い比較的短時間で画像データを取得できるようになってきている.本稿では主に小児頭部MRIにて日常臨床的にて使用可能な近年の撮像法に関して解説する.

Abstract

Pediatric magnetic resonance imaging has been made difficult by the limited scan time available while keeping children still. However, recent MRI developments have enabled clinical application of advanced MRI technique for children. In this article, we describe such MRI sequences for pediatric neuroradiology.

はじめに

Magnetic resonance imaging(MRI)は形態情報のみならず,機能的な情報が取得でき,臨床に有用な情報をもたらすが,小児MRIでは,撮像にあまり時間がかけられず,使用できるシークエンスは限定的であった.近年,装置の進歩に伴い比較的短時間で画像データを取得できるようになってきており,小児MRIにて詳細な形態診断や機能情報取得といった臨床応用が発展しつつある.

拡散強調像(diffusion-weighted imaging; DWI)は急性期病変の検出に優れ,臨床でのルーチンとして使用されるようになった.高b値撮像や拡散テンソル画像など応用が進んでいる.その他,arterial spin labeling(ASL),magnetic resonance spectroscopy(MRS)といった形態以外の撮像法においても臨床利用が進んでいる.また,近年では3Dのみならず,4D/動態解析の手法も発展しつつあり,X線被ばくがなく,連続的な撮像が可能なMRIの応用として利点がある.血管/血流評価,脳脊髄液の動態評価など,今後の臨床応用が望まれる.

本稿では小児MRIで近年有用性が向上しつつある新しい撮像手法に関して紹介し,実臨床での有用性に関して考える機会となれば幸いである.

拡散強調像

拡散強調像は急性期病変の検出のためのルーチンの撮像法として定着した.それのみならず,motion probing gradient(MPG)の多軸撮像,高b値撮像,複数b値撮像など発展してきており,解析系の発達も伴って,微細構造の解析,病変の特徴量の追加,発達の評価,neurographyなど応用が広がっている.虚血性変化や急性脳症などの急性期病変の早期検出,腫瘤性病変の良悪性の評価,腫瘍の悪性度の評価に多くの施設で日常的に利用されているものと思われる.

高b値を用いた拡散強調像は3Tの普及などにより実用的になってきている.b値3000 s/mm2ほどの撮像ではsignal-to-noise ratio(SNR)は低下するが,通常使用されるb値1000 s/mm2ほどの拡散強調像に比べ,細胞内成分をより反映すると考えられている.小児では通常のb値での拡散強調像に比べ,高b値での拡散強調像では,急性脳症の描出能の改善1),後頭蓋窩脳腫瘍の悪性度の評価2)に有用性が報告されている.

拡散テンソル画像は,拡散強調像の MPGを6軸以上印加することにより,拡散の異方性(fractional anisotropy; FA)の解析が可能となる.また,拡散テンソルデータから三次元的に神経線維を構築したものが,トラクトグラフィーになる.これら,近年ではアプリケーションが充実しており,比較的簡便に作成することができる.胎児から小児にかけた白質の発達の評価3),先天性形態異常における神経線維路の評価4,5),術前における腫瘍と線維路との関係評価6)などに使用されている.

拡散係数から脳内の温度を推察する試みもされている7).脳室内ではある程度自由拡散があり,拡散係数と温度の関係式が考案されている.脳梗塞,多発性硬化症,頭部外傷などでは脳温が上昇することが知られている.成人のもやもや病の検討8)では,脳室内の温度は健常人に比べ高い傾向があり,代謝と灌流のミスマッチの可能性が考えられている.新生児では拡散強調像における早期の予後予測の有用性が知られるが,上記と同様の理由で,新生児の低体温中では拡散係数は少し低く算出される9).脳温評価は,今後病態を考える上で新たな指標となりうる.

拡散neurographyは,拡散強調像を連続的に撮像し,最大値投影法にて腕神経叢,腰神経叢,末梢神経を描出する手法である10).近年は分解能の問題から脂肪抑制3D-T2強調像を基にしたシークエンスで撮像されることが多い11).外傷(Fig. 1)や神経線維腫症2型の神経鞘腫による多発神経症の評価12)などに有用性がある.

Fig. 1 拡散neurographyでの引き抜き損傷

a:T2強調冠状断像,b:拡散neurography

18歳バイク転倒による外傷後,右上肢の麻痺が生じた.T2強調像では右鎖骨上窩の領域に高信号域が認められ,外傷後変化に相当する(a矢印).拡散neurographyでは,左腕神経叢が描出されているが,右側は描出不良であり,引き抜き損傷が示唆される所見である(b).

Arterial spin labeling(ASL)

ASLは頸部(頸動脈)にlabelingとしてのパルスを印加し,ある一定の時間後(postlabeling delay; PLD)後に脳の撮像を行う.labeling前とlabeling 後の画像の差分として脳血流の評価を行う.label前後の信号変化は1~2%ほどであり,造影MRIのような視覚的評価は困難である.通常,脳血流(cerebral blood flow; CBF)mapが算出され,これによる評価を行う.ASLの手法は大きくは,pulsed ASL(PASL)法,continuous ASL(CASL)法,およびpseudo-continuous ASL(pCASL)法に分類される.PASL法は,頸部に厚いスラブのlabelingを短い時間で行う方法であり,シンプルでハードウェアの制限が少ない一方,SNRが低い.CASL法は頸部のある断面に連続的にパルスを印加し反転磁化を得る方法でPASL法より高いSNRが得られるが,専用のハードウェアが必要である.pCASL法はCASLと同様の頸部のlabel面に対し,連続波の代わりに,間歇的なRFパルスを印加する方法で,通常のハードウェアで施行可能で,比較的高いSNRが得られる.

実際に使用可能なASLの手法や信号収集の方法はハードウェアに依存するため,各施設で使用しやすいASL法にて撮像することになる.ASLに影響を与える因子としては,被検者の体動,labeling,画像の歪みの他,年齢,血流速度,ヘマトクリット,脳血管の変異,性差,ホルモン状態,心拍,栄養状態,脱水など個人的な要因も関係する1315).新生児では成人に比べ,血液の縦緩和時間が長く,個人差が大きいことが知られる.小児におけるPLDの設定は実際定まった方法はなく,悩ましいところである.PLDが短い場合,labelされた血液が毛細血管床から脳組織中の水分子と交換前の状態での撮像となり,適切な脳血流画像が得られない(Fig. 2).PLDが長い場合は信号が低下する.文献の記載13)も含め小児ASLのPLDは現状では1.5~2.0秒程が適正であると思われる.年齢や個人差,頸部labelの設定方によっても異なってくるが,実際のASLの脳血流mapping画像をみて,評価の際には適正な脳血流画像になっているか各施設で確認が必要である.近年,PLDを複数取得する手法も考案されており16),個別に血流状態がかなり異なることが予想される小児において今後検討の価値がある.

Fig. 2 不適切なpostlabeling delay(PLD)設定によるarterial spin labeling(ASL)

a:2歳,PLDを2.0秒に設定したpCASL法によるASLでは,脳血流を反映した画像が得られている.

b:1歳1か月,PLDは1.5秒に設定したpCASL法によるASLでは主に血管内の信号が目立っており,脳血流を適切に反映した画像となっていない.設定方法は装置により異なるため,各施設での最適化が必要である.

小児ASLの臨床応用としては,脳血管障害における脳血流評価,低酸素性虚血性脳症,小児脳腫瘍,けいれんによる経時的な血流変化,外傷後の予後予測15),急性脳症の早期検出17),片頭痛における主に後頭葉での血流異常の検出18)などが報告されている.

MR spectroscopy(MRS)

生体内の代謝物・分子の構造などによりプロトンの共鳴周波数にずれ(化学シフト)が生じることを利用し,生体内の分子の種類・成分・量などを調べる手法である.生体内で圧倒的に信号が強い水と脂肪は抑制する.通常,出力は化学シフト量と信号強度の関係をフラフにしたもので表示される(Fig. 3).TEの設定,single-voxel/multi-voxel,加算回数などデータ取得にかけられる時間によって考慮する必要がある.また,取得後のスペクトラムは通常MRI装置により解析されたピーク比で評価するが,解析ソフトウェアを使用することにより代謝産物の定量も可能である.

Fig. 3 MELAS(mitochondrial myopathy, encephalopathy, lactic acidosis, and stroke-like episodes)におけるMR spectroscopy(MRS)

8歳児,けいれん,頭痛にてMRIを施行.

a:T2強調像,b:拡散強調像,c:MRS

T2強調像(a)や拡散強調像(b)では異常信号は認められないが,MRS(c)では乳酸に相当するピークが認められる.MRSでは通常のMRI画像で描出されない異常を鋭敏に反映する可能性がある.

MRSの小児頭部の臨床応用としては様々なものが報告されている.主には虚血性疾患,代謝性疾患などの早期検出や診断,腫瘤性病変の性状評価,発達の評価などが挙げられる19,20)

動態画像

近年,MRI の連続的なデータから,動態を解析しようとするものが広がってきている.cine,4Dなどといわれることもある.主に血流や,髄液の動態解析に使われることが多い.

4D-MRAでは,造影剤を使用するもの,ASLを利用するもの,time-of-flightを連続的に収集するもの21)などが考案されている.

髄液では3D-phase contrast法,髄液の特定の領域にパルスを印加し追跡する方法(Time-SLIP法),motion-sensitized gradient(MSG)を用いて比較的緩徐な動きの信号変化を取とらえ可視化する方法(dynamic improved motion-sensitized steady-state free precession(iMSDE SSFP)法)2224)などがある.iMSDE法では,MPGを使用した撮像にて流れのある部の信号が低下する(Fig. 4).MSGを使用しない撮像と使用した撮像との差分画像により脳脊髄液の動きを連続的に把握しやすくなる.

Fig. 4 Dynamic improved motion-sensitized steady-state free precession(iMSDE SSFP)法による髄液流れの可視化

a:T2強調矢状断像,b:iMSDE SSPE法

9歳 急性リンパ性白血病,髄注治療困難にてMRIを施行.以前に髄注の既往がある.T2強調像矢状断像ではクモ膜下腔の不整な拡大が認められ(a矢印),癒着性くも膜炎の状態が考えられる.iMSDE法では,髄液中の流れのある部位が低信号として描出される(b矢印).髄注が行われる下位腰椎レベルではT2強調像では特に異常は認められないが,iMSDE法では同領域の流れが乏しいことが示唆される.

まとめ

本稿では近年広まりつつMRIシーケンスにつき,小児MRIでの実用的な面に関して解説した.MRIは装置により撮像方法,設定方法も異なるため,各施設で最適化することが必要であるが,上記を考慮しつつ,従来の形態画像のみならず,小児MRIに有用な追加撮像を考慮されたい.

 

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