2022 年 38 巻 1 号 p. 50-59
骨系統疾患は個々の疾患の疾患は頻度が低いが,これらをすべて集結させた全体の頻度は1,000人に1人と考えられ,ダウン症とほぼ同数で決して稀な疾患ではない.またこれらの診断に有効な診断方法は現在でも単純X線撮影が第一選択である.本稿は骨系統疾患の総論,Bone dysplasia familyの考え方,診断方法の実際を紹介し,各論では骨系統疾患の中のムコ多糖症の読影につきX線所見を解説した.骨系統疾患の大部分は有効な診断・治療法がない難病であるが,治療法のあるモルキオ症候群が日常診療において埋もれていないかを今一度チェックすることが大切である.
The incidence of any particular skeletal dysplasia is thought to be low, but together all these diseases amount to approximately 1/1000, similar to Down syndrome. Recently, advanced diagnostic modalities such as CT scan, MRI, ultrasound and nuclear medicine play important roles in modern radiology. However, the usefulness of plain radiography has been unchanged for all skeletal dysplasias. In the first half of this review article, the author introduced the basic concepts of skeletal dysplasia, bone dysplasia family, and methodology of X-ray diagnosis. The second half of the article focused on particular radiological diagnosis of mucopolysaccharidoses (MPS) among skeletal dysplasias, especially the diagnosis of MPS-IV (Morquio syndrome). It is important to diagnose MPS-IV because a therapeutic drug has been established for this particular rare dysplasia.
本総説は令和3年第57回小児放射線学会学術集会(浦和,埼玉県)のシンポジウムで講演した内容を抜粋し,骨系統疾患の総論と骨系統疾患の中の一疾患群であるムコ多糖症(mucopolysaccharidosis;以下MPS)の診断にフォーカスを当て解説する.特に前半の総論部分は骨系統疾患について知っておきたい疫学や,診断方法,bone dysplasia familyの概念などを紹介し,後半はMPSに特徴的なサイン名のついたX線所見などにつき解説する.これらの基礎的な内容はこれから骨系統疾患について学ぶ若手放射線科や小児科の先生方に役立つものと思われる.
骨系統疾患とは,骨,軟骨,靭帯など骨格を形成する組織の発達・分化の障害により,骨格の形成や維持に異常をきたす疾患の総称である1).その中では軟骨無形成症(achondroplasia),および骨形成不全症(osteogenesis imperfecta)などが代表的な疾患である.異形成(dysplasia)とは,ある組織系の分化,機能,成長をつかさどる遺伝子変異の結果,これらが持続的に侵される疾患を指す.
骨系統疾患の大部分は有効な診断・治療法がない難病であり,成長障害や関節の機能不全などにより運動機能障害など様々な障害を来たす1).
2) 骨系統疾患の頻度骨系統疾患は一疾患単位では頻度は少ない.厚生労働省,小児慢性特定疾病情報センターのホームページによれば,最もよく見られる代表疾患である軟骨無形成症2)と骨形成不全症3)はともに2万人に1人程度である.その他MPSで最も頻度が高いII型(ハンター症候群)4)は5万人に1人だがMPSの他の型を合わせた場合は2万5千人に1人の割合で軟骨無形成症や骨形成不全症例に次ぐ頻度となる.次いで2型コラーゲン異常症5)と点状軟異形成症6)が約10万人に1人程度の頻度である(Fig. 1).このように個々の疾患は頻度が低いが,これらをすべて集結させた全体の頻度は1,000人に1人と考えられ,ダウン症(600–800人に1人)7)とほぼ同数で決して稀な疾患ではない.
厚生労働省 小児慢性特定疾病情報センター等より引用
改訂版の骨系統疾患国際分類(第10版2019年)によれば臨床的,X線学的所見,分子生物学的見地から,現在461疾患,42の疾患グループ,437の遺伝子異常に分類されている8).しかしこれらは後述のBone dysplasia familyに分類可能なもののみが分類されているだけで,実際は1,000疾患ほどあると推定されている1).これだけの膨大な疾患数は,この領域に関わる各科医師であっても一生に1回遭遇するか否かの稀な疾患が数多く含まれる.また前述のように骨系統疾患の大部分は有効な治療法がない難病である.このような状況から骨系統疾患はorphan disease(希少・難治疾患)として認識されている.
4) 診断に適した画像診断のモダリティ骨系統疾患の遺伝子診断の進歩は目覚ましく,疾患を遺伝子で語る時代が到来したと考えられている.前述の国際分類でも95%の疾患遺伝子がすでに報告されている8).しかし日常診療における骨系統疾患の診断は単純X線診断に委ねられている.その理由はX線撮影以外に有用な補助診断が少ないこと,過去に骨系統疾患のX線診断に関する膨大な知見が蓄えられていることや,比較的低侵襲であること,外来で鎮静せず行えることなどである.
意外と思われる方も多いかと察するが,現代の放射線診断学の主流を支えるCTやMRI,超音波,核医学検査は骨系統疾患の診断にあまり役に立たないことが多い.頭頂部から足趾までの全身の骨格に粗大または繊細な異常を複数有する骨系統疾患の画像診断は,合計15枚程度の単純X線撮影による全身骨撮影(骨サーベイ,ボーンサーベイ)のみである.
5) Bone dysplasia familyについてBone dysplasia familyは骨系統疾患のX線診断の国際的なオーソリティであるJurgen W. Sprangerが提唱した概念である9).骨変化の類似性が大きい疾患をfamilyとしてまとめ,骨系統疾患のX線所見をパターン認識し,病態の共通性を示唆したものである.現在の国際分類もこの概念を反映したものである.代表的な疾患は軟骨無形成症とその軽症である表現型の軟骨低形成症,重症型の表現型であるタナトフォリック骨異形成症である.SprangerらはX線学的な表現に類似性のあるこの3疾患は同一の遺伝子異常であろうことを予言し,その後に本当にこれらの疾患はFGFR3遺伝子異常であることが証明された.
6) 実際の診断の進め方対象となる患児の臨床情報を受け持ち医に尋ねるか,電子カルテを参考にする.低身長の有無や程度(−3SDなど),顔貌や合併する体表奇形の有無(口蓋裂や多指,多趾,拘縮など),精神発達遅滞の有無などである.これらは鑑別診断のヒントになる.
次に単純X線撮影の所見を組み合わせ,その疾患の主徴を捉えることである.その際に前述の国際分類のグループを想定し,最も矛盾がなくリーズナブルな診断となるよう熟考する.さらにそのグループ中の固有の診断のどれに合致するかを教科書や文献から吟味し絞り込む.
また症例により診断が絞り込めない場合も多く,可能性のある鑑別診断として2ないし3の疾患群を想定するところまででも十分診断的価値がある.
近年インターネットでの骨系統疾患の検索も可能となっている.著者は遺伝性疾患の総合的なサイトであるOMIM(Online Mendelian Inheritance in Man https://www.ncbi.nlm.nih.gov/omim)をよく参考にしている.
動物の細胞内にはライソゾーム,水解小体と呼ばれる小器官がある.語源は“lysis(分解)”+“some(〜体)”に由来する.ライソゾームは細胞内消化の場である10).内部に加水分解酵素を持ち,オートファジーなどによって膜内に取り込まれた生体高分子はここで加水分解される.このプロセスには複数の重要な酵素が関与しており,もし遺伝子異常などによりこの酵素の一つが欠損すると細胞内に粗大な分子が集積する.ライソゾーム病とは酵素の先天的な欠損により不完全なごみ処理となる.ごみ処理場の作業が停止することで大量のごみが残留すると例えると理解しやすい.
ムコ多糖症(Mucopolysaccharidosis;MPS)はライソゾーム病の部分集合であり,代謝内分泌疾患の1グループである.ライソゾーム酵素の欠損または機能異常のため,グリコサミノグリカンglycosaminoglycans(GAG,狭義のムコ多糖)が分解されず蓄積する.その結果GAGが多数の臓器に蓄積し,臨床的に多彩な症状を呈する.
2) ムコ多糖症の確定診断①スクリーニング検査(基質の測定):尿中ムコ多糖(ウロン酸)の定量・分画→蓄積物質の増加を証明 ②確定診断(酵素活性測定):白血球中ムコ多糖症酵素活性→酵素欠損の証明 ③保因者診断,出生前診断,重症度の推測(遺伝子解析)遺伝子検査→遺伝子の病因変異の証明の3つのプロセスがある.遺伝子検査では変異が同定されなくても,生化学的診断を否定することにはならない.
3) 画像診断の役割著者の施設でムコ多糖症の診断と治療に従事されている国立成育医療研究センター遺伝診療科小須賀基通先生より教えていただいた,ムコ多糖症の診断にあたり小児科医,放射線科医が知っておくべき5つの項目を以下に列挙する.
i)治療法のあるMPS IV型であるモルキオ症候群を見つけ酵素補充へつなげること
ii)MPSは型により調べる酵素が異なること
iii)それぞれの酵素検査は高価(4万円程度)なため疾患を絞ることが大切
iv)そのために単純X線撮影の質の高い読影が必要であること
v)また他の骨系統疾患の中にモルキオ症候群が埋もれていないかを今一度チェックすることが大切
4) MPSの画像診断MPSのX線学的特徴所見
以下にMPSの単純X線撮影の所見を中心に一部MRI,CTを含めた画像上の特徴的な所見を列挙する.前述の国際分類によればMPSは1型から7型まであり5型は欠番である.これらの7型はX線学的には軽度の際を認めるもののどの疾患もMultiplex dysostosisと呼ばれる共通かつ特有の所見を呈する11).
1)頭蓋
躯幹に対して頭部のバランスが大きくmacrocephalyを呈する12).また頭蓋冠は厚く描出される(Fig. 2)11).トルコ鞍は大きく開大しJ型を呈する(J-shaped sella Fig. 3)11).また頭蓋縫合早期癒合症を呈する場合があり,このうち矢状縫合早期癒合の頻度が高い13).その結果,前後径の長い舟状頭蓋を呈する(Fig. 4)11).
頭部単純X線撮影正面像(a),側面像(b):躯幹に対して頭部のバランスが大きくmacrocephalyを呈する.また頭蓋冠は厚く描出される.
単純X線撮影側面像(a),MRI T2強調像矢状断像(b):トルコ鞍の形態はJ型変形を呈している(J-shaped sella,矢印).
頭部単純X線撮影正面像(a),側面像(b):頭蓋縫合早期癒合症(Craniosynostosis)は矢状縫合早期癒合の頻度が高く,その結果,頭蓋骨の前後径が長い舟状頭蓋を変形を呈する.
2)胸郭
肋骨の形態は,肋骨側方,前方の幅広所見である.すなわち肋骨は椎体付着部近傍が細く,遠位へ向かい太まりを認める(Fig. 5).この形態はオール状変形と称される11,12).肩甲骨は高位で,関節窩(glenoid fossae)は低形成である13).また鎖骨は短くかつ厚い13).
胸部単純X線撮影:肋骨の形態は,肋骨側方,前方の幅広所見であり,椎体付着部近傍が細く,遠位へ向かい太まりを認める.オール状と称される.肩甲骨は高位で,関節窩(glenoid fossae)は低形成である.鎖骨は短く厚い.
3)骨盤
臼蓋,および臼蓋上部の低形成を認め臼蓋角は浅い13).またこれに伴い大腿骨頭の低形成を認める(Fig. 6)11).大腿骨頸部の形態は外反股変形を認める.大腿骨頸部の形態は外反股変形を認める13).小骨盤内縁はワイングラス様に認められる11).
骨盤X線撮影:臼蓋,および臼蓋上部の低形成を認め臼蓋角は浅い.またこれに伴い大腿骨頭の低形成を認める.
大腿骨頸部の形態は外反股変形を認める.小骨盤内縁はワイングラス様に認められる.
4)長管骨
MPSの長管骨における形態の特徴は骨幹端のovermodelingと,骨幹のundermodelingである.Overmodelingとは本来の長管骨のあるべき形態より径が細まりを呈する状態,undermodelingはその逆で本来あるべき形態より径が太まりを呈した状態を指す(Fig. 7)9).様々な骨系統疾患でovermodelingと,undermodelingを呈し,疾患により病態や成因が異なる.MPSでは骨髄内へのムコ多糖の沈着により骨幹部で太まり(undermodeling)を認め,骨幹端ではムコ多糖沈着による破骨細胞の機能亢進のため細まり(overmodeling)を認めると考えられているが明らかではない9).Fig. 8に橈骨,尺骨におけるundermodelingとovermodelingの実例を示す.
overmodelingとは本来の長管骨のあるべき形態より細まりを呈する状態,undermodelingはその逆で本来あるべき形態より太まりを呈した状態を指す.
MPSでは骨髄内へのムコ多糖の沈着により骨幹部で太まり(undermodeling)を認め,骨幹端ではムコ多糖沈着による破骨細胞の機能亢進のため細まり(overmodeling)を認めると考えられている.
橈尺骨の骨幹部で太まり(undermodeling, *)を認め,骨幹端では細まり(overmodeling,矢印)を認める.
5)短幹骨
MPSの特徴的所見として中手骨近位部に細まりを認め,ペン先のような形態を呈する(Fig. 9矢印).これはmetacarpal pointingと呼称されている11,13).その他中手骨の近位端に末節骨は著しい低形成を呈し,中節骨,基節骨は遠位骨端が凸となり小弾丸様(bullet-shape)を呈する11).
中手骨近位部に細まりを認め,ペン先のような形態を呈する(矢印).これはmetacarpal pointingと呼称されている.また末節骨は著しい低形成を呈し,中節骨,基節骨は遠位骨端が凸となり小弾丸様(bullet-shape)を呈する.
6)椎体の変形
胸腰椎の椎体はモルキオ症候群とモルキオ症候群以外で変形のパターンが異なり鑑別診断に有用である(Fig. 10)11).モルキオ症候群以外のMPSでは椎体の前下側に突出(inferior tongue a,矢印)を認め,モルキオ症候群では椎体の中央部に突出(central tongue b,矢印)を認める11).その他胸腰椎移行部に突背を認める(a).またモルキオ症候群では全体的な扁平椎が目立つ.また頸椎では軸椎(C2)の歯突起低形成を認める11,13).このためC1/C2レベルの不安定症を呈する(Fig. 11)13).
Morquio syndrome以外のMPSでは椎体の前下側に突出(beaking,inferior tongue,a矢印)を認める.一方Morquio syndromeでは椎体の中央部に突出(central tongue,b矢印)を認める.
その他胸腰椎移行部に突背を認める(a).
頸椎では軸椎(C2)の歯突起低形成を認める.このためC1/C2レベルの不安定症を呈する.
7)骨格変形以外の所見
頭部MRI;全般的に脳室の拡大を認め脳実質の萎縮が認められる(Fig. 12a).T2強調像(以下T2WI)で深部白質や脳梁に一致して高信号(Fig. 12b矢印),T1強調像,FLAIR画像で低信号のスポットを認める(Fig. 12c矢印).これらは傍血管腔にムコ多糖が沈着し拡大するためと思われる.その他に深部白質や視床に一致したT2強調像およびFLAIR画像高信号を認める(Fig. 12c矢頭)14).
全般的に脳室の拡大を認め脳実質の萎縮が認められる(a矢印).T2強調像(以下T2WI)で深部白質や脳梁に一致して高信号(b矢印),T1強調像,FLAIR画像で低信号のスポットを認める(c矢印).これらは傍血管腔にムコ多糖が沈着し拡大するためと思われる.その他に深部白質や視床に一致したT2強調像およびFLAIR画像高信号を認める(c矢頭).
躯幹部CT;気管はムコ多糖沈着により壁の肥厚を認める(Fig. 13a矢印).また気管内腔の狭小化を認める(Fig. 13b矢印)15).気管の狭小化は呼吸抑制を惹起し気管切開の適応となる重要な病態である.その他肝腫大,脾腫大が知られている(Fig. 14a, b矢印).
胸部CT縦隔条件水平断画像で,気管はムコ多糖沈着により壁の肥厚を認める(a矢印).また矢状断再構成画像で気管内腔の狭小化を認める(b矢印).
ムコ多糖沈着により肝腫大,脾腫大を生じる(a:水平断CT,b:冠状断再構成CT画像).
本稿は総論としてMPSを含めた骨系統疾患全体についての基礎的な知識,Bone dysplasia familyの概念,実際の診断の進め方につき解説した.また各論ではMPSの単純X線撮影所見を中心に診断へ結びつくkey findingを紹介した.画像診断の役割の項で述べたように,放射線科医,小児科医は,他の骨系統疾患の中にモルキオ症候群が埋もれていないかを今一度チェックすることが大切である.その理由はモルキオ症候群が治療方法(酵素補充療法)のある数少ない骨系統疾患のひとつであるためである.これらの基礎的な内容がこれから骨系統疾患について学ぶ若手放射線科や小児科の先生方に役立てば幸いである.
稿を終えるにあたり,骨系統疾患のX線診断学の恩師である西村 玄先生に深謝を申し上げます.また国立成育医療研究センター遺伝診療科小須賀 基通先生にはムコ多糖症の臨床診断と治療に関するご指導を賜り感謝いたします.
また令和3年第57回小児放射線学会学術集会のシンポジウムで講演した本発表はBioMarin Pharmaceutical Japan株式会社の協賛を得て行われた.