頭部MRIは被ばくすることなく,多くの形態学的情報・機能的情報をもたらすことができる画像検査である.しかしながら,MRIは検査時間が長いため,未就学児のほとんどや障害のある児では鎮静処置が必要となる.また,成人や年長児の脳と比較して水分含有量の多く,髄鞘化の未熟な新生児や乳幼児では,小児に合わせたパラメータ設定や,必要な撮像シークエンスの選択を予め行っておかなければならない.本稿では,小児頭部MRIを撮像する上で知っておいていただきたいコツについて解説する.
Brain magnetic resonance imaging (MRI) provides detailed anatomical and functional information about the brain without radiation exposure. One of the biggest challenges in pediatric brain MRI is to successfully acquire high-quality diagnostic images. As water content in brain tissues is higher and brain myelination is less mature in newborns and infants compared with older children and adults, specific scan parameters are required in sequences that are designed according to the age of the child. In addition, younger children often need to be sedated to enable them to hold still adequately during the long acquisition time. The recently published “Joint recommendations for sedation during MRI” provides valuable advice for improving safety in pediatric MRI. In this paper, practical tips and tricks for pediatric brain MRI are reviewed and safety issues in pediatric sedation are discussed.
Magnetic resonance imaging(MRI)は組織分解能が高く,造影剤を使わなくても形態学的情報や機能的情報を得ることができるため,臨床に有用な情報をもたらす.またMRIは被ばくのない検査であることから,余命が長く放射線感受性の高い小児においては被ばく線量の高いCTではなくMRIを選択するメリットは大きい.中枢神経系の画像検査では,皮質脳回形成異常の形態学的評価や新生児低酸素性虚血性脳症の予後評価などMRIは非常に多くの情報を得ることができ,今後もさらにその重要性は高まると考えられる.一方で,MRIは検査時間が長いため未就学児のほとんどや障害のある児では鎮静処置を必要とし,また多くの施設で検査の予約は混雑しているため時間のかかる小児のMRI検査を行うには困難を伴うことが多い.また,撮像を行うことができても小児に合わせた設定がなされていないと,画質が不良であったり適切なシークエンスを撮像できていなかったりなど,十分な評価が行えないという結果になってしまうこともあり得る.
画像診断を行うにあたっては,適切に評価できる画像が得られていることが大前提であるが,小児患者においては良質な画像を得るために鎮静法や撮像シークエンスの選択,パラメータ設定などたくさんのコツがある.本稿では,小児頭部MRI撮像のコツについて当院での実例を紹介しながら解説する.
胎児期,新生児期,乳幼児期の脳は水分含有量が多いため,年長児や成人の脳と比較してT1強調像では低信号,T2強調像では高信号を示す.このため,新生児や乳幼児期の頭部MRIで良質なT2強調像を得るためには,repetition time(TR)・echo time(TE)ともに長めに設定する必要がある1,2).特にTEは重要で,新生児で適切な白質・灰白質と髄液のコントラストを得るためには1.5T装置では135 ms前後,3T装置では120 ms前後が望ましい.横断像では最低でも5 mm以下,できれば3–4 mm以下のスライス厚で,あまりgapをあけずに脳全体をカバーする枚数の撮れるTR設定(4000–6000 ms)で,時間短縮効果を損なわない程度のできるだけ少ないエコートレイン(echo train length: ETL)設定(当院では12 or 13)が望ましい1,2).
・撮像シークエンスの選択Table 1に当院における頭部MRIの撮像シークエンスを示す.T2強調像横断像は,神経疾患等の精査や新生児ではスライス厚2 mm,その他では5 mmで撮像を行っている.血液内科の患者に対しては骨・骨髄の異常や骨外腫瘤形成を検出しやすくするため脂肪抑制を用いる.T1強調像は皮質脳回形成異常など脳の構造異常を評価するためにはなるべく薄いスライス厚で高画質のものが望ましい.当院では3Dシークエンスであるmagnetization prepared rapid acquisition with gradient echo(MPRAGE)(スライス厚1 mm)を用い,神経疾患等の精査や新生児では横断像を撮像し,冠状断像・矢状断像に再構成を行う.その他では矢状断像で撮像し,横断像・冠状断像に再構成を行っている.体動のある患者に対しては,T2強調像ではmotion artifactを軽減するシークエンス(当院ではBLADE),T1強調像では撮像時間の短い2Dシークエンス(当院ではfast low angle shot(FLASH)など)を使用する.fluid-attenuated inversion recovery(FLAIR)は病変の描出に有用であるが髄鞘化の未熟な新生児・乳児ではパラメータ設定や解釈が難しいため,当院では基本のT1強調像,T2強調像を撮った上での追加シークエンスとしており,生後6か月以上の児にはルーチンにFLAIR横断像を撮像している.冠状断像はFLAIRではなくT2強調像を撮像する.他院画像でFLAIR冠状断像を撮像している小児の症例をよく目にするが,皮質脳回形成異常など形態評価にはT2強調像が望ましい.FLAIR像は時期によっては出血に鋭敏であるため,少量の出血を見たい場合(外傷や虐待疑いなど)にはFLAIR冠状断像を追加してもよい.拡散強調像(diffusion weighted image: DWI)は,神経疾患等の精査や新生児では拡散テンソル画像(DTI/DWI)を,その他は通常のDWIを撮像している.脳症など緊急MRIではb = 0,1500,2500(1.5Tではb = 0,1000,2000)のhigh b-value DWIも撮像する.
シークエンス | スライス厚 | コメント |
---|---|---|
T2強調像 横断像 | 2 mm(精査,新生児) その他は5 mm |
TE 1.5T新生児140 ms,乳児110 ms,年長児100 ms 3T新生児126 ms,乳児90 ms,年長児80 ms |
3D T1強調像 | 1 mm | 精査・新生児では横断像を撮像し,冠状断像・矢状断像を再構成.その他は矢状断像を撮像し,横断像・冠状断像を再構成. |
DWI | 3 mm | 1.5Tではb = 1000 s/mm2,3Tではb = 1500 s/mm2 |
DTI/DWI | 2 mm | 精査・新生児で使用.b = 1000 s/mm2 |
FLAIR 横断像 | 3 mm | 6か月以上の児で追加 |
T2強調像 冠状断像 | 2 mm | |
SWI | 1.5 mm | 体動があるときはT2*強調像を使用 |
MRS | 深部灰白質,半卵円中心,小脳で取得 |
基本シークエンスであるT1強調像,T2強調像/FLAIR像,拡散強調像に加え,症例に応じて追加するシークエンスを次に紹介する.
1H-MR spectroscopy(MRS)は生体内の代謝物・分子の構造などによりプロトンの共鳴周波数にずれ(chemical shift)が生じることを利用し,生体内の分子の種類・成分・量などを調べる手法である.MRS の小児頭部の臨床応用としては様々なものが報告されており,主には虚血性疾患,代謝性疾患などの早期検出や診断,腫瘤性病変の性状評価,発達の評価などが挙げられる3).代謝病の診断に代表されるような微量代謝物を検出したい場合には,腫瘍の診断に頻用されるlong TE(135,270など)ではなく,short TE(30など)のsingle voxel法を用いる.MRSは新生児低酸素性虚血性脳症の予後評価にも有用であり,新生児仮死の撮像では文献報告の多いlong TE(288)も使用する4).当院におけるMRSの取得部位は深部灰白質,半卵円中心,小脳の3箇所であり,新生児仮死の症例では深部灰白質でlong TEのMRSを追加で取得している.
その他,脳神経や頭蓋頸椎移行部,内耳,嚢胞,水頭症の評価で3D heavy T2強調像(constructive interference in steady state: CISS),出血の評価にT2*強調像や磁化率強調像(susceptibility-weighted imaging: SWI),脳血流評価のためASLを適宜施行する.
小児のMRI検査で重要なことは,途中で終わっても最低限の情報が得られるように優先度の高いシークエンスから始めることである.また,前述のように,新生児,乳幼児,年長児でパラメータの設定も異なるため,あらかじめ年齢別に必要なシークエンスを組んでおき,次々に撮像できるように準備しておくことも重要である.鎮静下で検査をうける患者はいつ覚醒するかわからないし,鎮静なしで検査を受ける患者もいつまで動かずに我慢できるかもわからないのである.患者の月齢/年齢,検査目的に応じてどういったシークエンスが必要かあらかじめ検討し,優先順位を立ててスムーズに撮像を行っていくことが肝要である.
MRI検査では,激しい騒音が長時間継続するため,安静を保つことができない小児患者に検査を行うためには,深い鎮静により患者を動かない状態に維持する必要がある.しかしながら,MRI検査では医療者は鎮静中の患者から離れざるを得ず,呼吸運動などの微細な動きを目視することは難しい.さらに,検査室内には磁性体の医療機器を持ち込めない.当然ながら,緊急事態に陥った場合でも磁性体の医療機器を持ち込めないため,検査室内での対応は極めて限られる.このようにMRI検査のための鎮静は,様々な危険因子を孕んだ医療行為である,ということをまず認識しておく必要がある(Table 2)5).
1.高磁場のため使用可能な医療機器が制限される |
2.高磁場のため検査室内への入室が制限される |
3.検査室が暗いため室内外から患者監視が困難 |
4.ガントリー内での患者の気道アクセスが困難 |
5.検査中は不動・騒音のため深い鎮静が必要 |
6.検査室周囲の人手が少ない |
2010年に日本小児科学会医療安全委員会により,MRI検査を行う小児患者の鎮静管理に関する実態調査が行われた6).その結果,35%の施設で検査中の有害事象として呼吸抑制,呼吸停止,徐脈,心停止などの重篤な合併症の発生があることが明らかとなった.こうした背景のもと,小児患者のMRI検査のための鎮静をより安全にするための基準を示すことを目的として,日本小児科学会,日本小児麻酔学会,日本小児放射線学会により共同で「MRI検査時の鎮静に関する共同提言」が2013年に作成された.現在は2020年に改訂版が公表されている7).内容は,①MRI検査の適応とリスクに関する説明と同意,②鎮静前の患者評価,③緊急時のためのバックアップ体制,④鎮静前の経口摂取制限,⑤検査前,中,後の患者監視,⑥検査終了後のケアと覚醒の確認の6項目である.この共同提言は,鎮静に対する考え方や心構えが示されており,現在はその遵守により保険診療上の優遇も受けられるようになっているためMRI鎮静に関わる医療者は必ず目を通していただきたい.
以下に,共同提言の中から抜粋して④鎮静前の経口摂取制限,⑤検査前,中,後の患者監視について具体的に示す.
・鎮静前の経口摂取制限鎮静薬による鎮静は,自然睡眠とは異なり気道の反射が抑制されるため誤嚥の危険性が生じる.誤嚥のリスクを最小限にするため,鎮静下の検査では,全身麻酔を要する待機手術患者と同様に一定時間,経口摂取を制限する必要がある.具体的には,清澄水*は2時間前,母乳は4時間前,人工乳あるいは固形物(軽食**)は6時間前から行う(2-4-6ルール).自然睡眠を誘導するために哺乳などの経口摂取を行った場合は,2-4-6ルールに照らし合わせ鎮静薬を一定時間投与してはならない.したがって,母乳あるいは人工乳で自然入眠をはかったが,寝なかったためそのままトリクロホスナトリウム(トリクロリールシロップ)を飲ませるなどということはしてはならず,母乳を飲ませたのであれば4時間,人工乳であれば6時間待ってから鎮静薬を投与しなければならない(あるいは日を改めて絶食時間を設けてから鎮静を行う).また,新生児や乳児の場合は,制限時間が過剰にならないように配慮する必要がある.
*清澄水;水,茶,果肉を含まない果物ジュース,ミルクを含まないコーヒー,スポーツドリンクなどの非炭酸飲料水
**軽食;大量の食事や脂肪分を含む食物,肉,魚,などは胃排泄時間が遷延するため,より長い絶食時間(8時間程度)を必要とする.
・検査前,中,後の患者の監視まず,鎮静を行う前に蘇生行為が必要となる最悪の状況を想定し,蘇生に使用する物品類がすぐに使用できる状態であることを確認する.鎮静担当医は,患者の鎮静前の全身状態や,使用薬剤の禁忌事項に患者が該当していないことを確認する.検査中の監視として,MRI対応のパルスオキシメーターの使用は必須である.しかしパルスオキシメーターは酸素化のモニターであって換気のモニターではないため,可能な範囲での目視による呼吸の監視を行い,MRI対応のカプノメーターも併用する.カプノメーターを使用できる施設は多くはないと思われるが,MRI装置の更新などの機会に,2方向以上のモニターカメラとMRI対応のカプノメーターを含む多機能モニターを設置していただけるとより安全に呼吸状態の監視が可能となる.鎮静中は患者の監視に専念できる医師あるいは看護師を配置し,バイタルサインや鎮静薬の投与時間,投与量などを記録する.配置する医師あるいは看護師は,蘇生事象が発生した際にバックアップチームが到着するまでの間,気道確保や用手換気などの蘇生行為を実施できる者でなければならない7).
これまで鎮静薬を使用することを前提として述べてきたが,鎮静薬投与の難しい未熟な早産児など鎮静することができない症例も中にはあろうかと思われる.また,年長児になってくると,事前に心の準備ができていると鎮静薬を使用しなくても検査ができることもある.ここでは,検査の際に動かない工夫や鎮静薬に頼らない工夫について述べたい.
・動かないための工夫1.おくるみや真空固定具新生児では,おくるみでしっかりとくるむと鎮静効果があり,睡眠を促進することができる8).簡易的にはバスタオルなどでくるむこともできるが,真空固定具を使用すると,しっかりと身体全体をくるむことができ,早産児や出生すぐの満期産児の脳の検査では,非常に有用である.どのように使用するかというと,まず寝台の上に真空固定具を広げ,その上に患者を寝かせる.タオルやクッションを用いて身体が圧迫されないように気をつけながら,身体を包み込むように固定具を保持し吸引口より吸引を行うと,内部が真空状態となって身体全体が固定具にくるまれた状態を維持することができる(Fig.1).固定具を使用すると,多少もじもじしていても身動きが取れないため,体動による影響が小さくなる.NICU退院前の患者に真空固定具のみでMRI検査を行った群が,経口鎮静薬を使用した群より撮像成功率が高く,有害事象も少なかったという報告もある9).当院では新生児のMRI検査ではほぼ全例で鎮静を行っているが,併せて真空固定具も使用している.
a.寝台の上に真空固定具とタオル広げ,その上に患者を寝かせた後,モニターをつける.
b.患者をしっかりとくるんだ状態で真空固定具の吸引口より吸引し,内部を真空にして固定する.
c.ヘッドコイルの中に患者を入れ,位置を調整する.
真空固定具を使用する場合には,目視による観察が困難となるため,パルスオキシメーターやカプノメーターなどによる監視が重要となる.
2.おしゃぶりおしゃぶりには泣いている新生児を落ち着かせる効果があり,おしゃぶりを吸わせたまま検査を行うこともある(Fig.2).ただし,おしゃぶりを吸わせると,あごの動きによるアーチファクトを生じるため,撮像部位によっては注意が必要である.
T1強調像矢状断像で,おしゃぶり(白矢印)をくわえているのがわかる
MRI検査におけるプレパレーションとは,子どもの年齢や理解度に合わせて写真やおもちゃ使用の模型を用いた練習や,MRI装置を実際に見学したり,動画を使用したりしながら事前にMRI検査について説明することで,子どもなりの理解や心の準備を促す手法のことを指す.MRI検査では狭いトンネルの中でじっと動かずにいることを求められ,大きく不快な音もするため,何がおこるかわからない初めての検査で子どもが不安を持つのは当然のことであり,MRI検査前のプレパレーションの意義は大きい.プレパレーションを行うにあたっては,人員や時間が必要となるため,我が国ではそれほど盛んではなかったが,できるだけ鎮静処置を施さないで検査ができる子どもたちを増やすために,日本語のプレパレーション動画が作成された.現在までに2社の協力により,アニメーション版10)と実写版11)の2種類がHPおよびYouTubeで公開されている(Fig.3).動画を観ることで,検査を受ける子どもだけでなく,保護者も一緒に検査の実際を知ることができ,安心してよりよい説明が可能となる.
企業の協力により作成されたMRIプレパレーション動画で,QRコードからYouTubeで動画が閲覧できる.
また,検査中のかかわりとして,お気に入りのブランケットや毛布を持参するなどの工夫や,好きな音楽の音源を持ってきてもらうなど,落ち着いて検査できるように持ち込み可能なものを事前に伝えておくことも有用である.
小児の頭部MRI検査撮像について,撮像法・鎮静を中心に解説した.MRIは装置によって撮像方法や設定方法も異なるため各施設で最適化することが必要であるが,より小児に適した良質な画像を得るヒントとなれば幸いである.また,鎮静については,共同提言に則ってより安全な鎮静を目指すことはもちろんのこと,鎮静をしないMRIにも取り組むきっかけとなり,鎮静なしでMRI検査ができる子どもが増えることを期待したい.