抄録
太陽系の最外縁部であるカイパーベルトの天体はとても軌道が乱されている事が知られている。現在、カイパーベルト天体は600個以上も観測されている。その軌道分布について統計的に調べられ、軌道離心率と軌道傾斜角の関係において2つの集団がある事が発表されている。1つは軌道離心率と軌道傾斜角が比較的小さく軌道離心率と軌道傾斜角の大きさが同程度である天体の集団、もう一つは軌道傾斜角が軌道離心率に比べ非常に大きい天体の集団である(Brown 2002)。この軌道離心率の大きい天体の集団は軌道離心率が小さい天体の集団に比べてサイズが小さいことも知られている(Levison and Stern 2001)。
カイパーベルト天体の乱れた軌道の起源についていくつかの過去の研究がある。太陽系が若い頃に恒星と遭遇しカイパーベルト天体が乱される説、過去に海王星付近に地球大の原始惑星があり、その原始惑星が海王星に跳ね飛ばされる間にカイパーベルトを乱したと言う説、原始惑星系円盤が消失する間に永年共鳴がカイパーベルトを通り軌道を乱した説など様々な説がある。しかし、これまでの説では軌道傾斜角と天体のサイズの関係を説明することは難しかった。
原始惑星系において天体はガス円盤との摩擦を受けている。この摩擦力によりカイパーベルト天体の軌道も変化する。もし、カイパーベルト天体の軌道が何らかの原因で乱されているとしたら、ガス抵抗による軌道傾斜角の減少はサイズが小さい方が大きくなる。そのため、サイズが小さいものが軌道傾斜角が小さいことを説明できる。
このようにガス抵抗力が効いたとなれば、小さな天体はガス抵抗の効果により太陽に向かって落ちてしまい、カイパーベルトに存在しないだろう。観測が進み、カイパーベルトで小さい天体を発見できるようになれば、ガス抵抗により天体が存在できない大きさ以下では天体が無いことがわかる可能性がある。