日本惑星科学会秋季講演会予稿集
日本惑星科学会2003年秋季講演会予稿集
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オーラルセッション1 10/8(水)9:15~10:30
実験から見る金属鉄の凝縮挙動
*達見 圭介小沢 一仁永原 裕子橘 省吾
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p. 4

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抄録
惑星形成時の現象の考察する時、惑星を構成する固体物質の最小構成単位として気相から凝縮したダストの描像が求められる。こういったダストがいかなる形態、組成、鉱物からなっているか、というのは未だ直接確かめられてはいないが、宇宙に存在する難揮発性元素の存在度からMg, Fe, Siなどがこういうダストを構成する主だった元素だと考えられている。若い天体周辺の赤外吸収スペクトル観測からダストとしてのマグネシウムシリケイトの存在が有力である。一方もう一つの主要な難揮発性元素であるFeは酸化物あるいは硫化物としての存在が示唆されているが必ずしも酸素や硫黄がダスト形成の場で存在していたとは限らず鉄が単体でダストを形成していたり、先に凝縮したマグネシウムシリケイトの上に凝縮していた可能性もある。本発表ではこの鉄のダストの様相を探るべく行った凝縮実験の結果を報告しそこから考えうる宇宙空間中での現象を議論する。 今回の実験では真空実験装置を用いた。ステンレス製の円筒形容器(内径高さ共約40cm)中にタングステン製の円筒形電熱メッシュヒーターが据えられておりその周囲を円筒形に断熱板が覆っており、ヒーターの輻射熱が真空装置外壁に直接伝わらないようになっている。容器は常に真空ポンプで10^-4_から_-5 Pa程度に減圧され、気相の鉄はヒーターの中心に0.5mm厚の鉄プレートを設置しヒーターで過熱し表面から蒸発させることによってえる。ヒーターを取り囲む断熱板は数箇所穴が貫通している箇所があり断熱板内部で蒸発した気体はその穴を通って外部に排出される。今実験ではその穴の一つの出口をモリブデン製のプレートで塞ぎ、そのプレート上に凝縮した鉄の様相を操作型電子顕微鏡などを使って観察した。実験温度はW-Re熱電対で計測され、中心の鉄を蒸発させる場を約1,130℃に固定し行った。この条件下では凝縮させる場の温度は約430℃であった。実験時間は6,24,96時間の3回行った。回収された鉄のプレートの質量減少量は実験時間に比例しており、実験中の装置内の圧力もほとんど変動してないため、Fe原子は蒸発試料上から定常的なフラックスで蒸発していたものと考えられ、その為凝縮基盤への気相鉄の供給量は時間比例だと考えてよい。走査電子顕微鏡での観察像からは以降の事柄が見て取れた。 6時間の実験では凝縮物は平均径100nm、最大でも200nm程度の球形_から_結晶面らしき面の確認できる塊を単位としてそれらが互いに成長途中で衝突し連結したような凝縮物群が観察された。また、ところどころに基盤の面が見られた。24時間の実験では平均サイズが500nm程度の一つの結晶と見られる塊が同様に連結しあった凝縮物が卓越し、6時間のものに見られた球状の表面は姿を消しほぼ全てが結晶面に覆われた凝縮物の様子が観察された。またそれらは階層状に積み重なっているように見えた。96時間の実験では24時間のものに比べて多少結晶の塊の最大サイズが大きくなっており(700nm程度)それ以外は劇的な変化はなかったが階層構造は空隙を作りながらさらに奥行きを増しているように見受けられた。また、凝縮基板上で断熱板の穴の端の方にあたり、単位時間当たりに到達する気相鉄原子の数が中心部より少ない、と見られる場に凝縮したものは生のモリブデンの基盤が見えている上にぽつりぽつりと最小で径が数十nmから最大で1μm以上程度の大きな鉄結晶を作っており、小さな凝縮粒子でも結晶面が見て取れた。 以上の観察結果から以下のことが言える。この実験の温度圧力条件下では鉄は気相から直接結晶として取り込まれるわけではなく、直線的に飛来して基盤に衝突した場所に蒸着し、その後基板上をある程度移動しておそらく最初はアモルファスな塊として2次元核形成をする。気相鉄のフラックスが多いところでは今回の実験で見られたような密度で核形成が起こり成長し、互いがぶつかる。飛来する鉄粒子のフラックスの少ない断熱板の穴の端にあたる場所では2次元核形成の頻度が少ないので一つの核が他の核と衝突しないため中心部より大きく成長できる。結晶化は実験中にアニーリングの結果として進行する。その為、6時間の実験では比較的大きな塊でも表面が曲面状であったが96時間の実験で見られた凝縮物は小さくても結晶化していた、と考えられる。今回はこのような観察事実を元にダストとしての鉄の様相に言及する。
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© 2003 日本惑星科学会
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