抄録
月面撮像/分光機器(LISM)は2005年打ち上げ予定の月周回衛星SELENEに搭載される観測機器である。マルチバンドイメージャ(MI)は、LISMを構成する3つのセンサのうちの1つであり、他の2つのセンサ、地形カメラ(TC)やスペクトルプロファイラ(SP)と共有の電気回路を持つ。MIは高度約100kmの軌道から可視・近赤外波長域合計9バンドの月面分光撮像データを高空間分解能、高S/Nで取得し、月全球の鉱物分布を知ることによって、月の起源と進化を明らかにすることを目標としている。MIデータを用いた解析目標のうち最も重要なものの1つがクレータ中央丘であることから、本研究においてはクレータ中央丘を例とし、製作および光学性能試験がほぼ終了したMIフライトモデルのハードウェアについて実際の観測を想定した性能評価を行うとともに、MIデータから得られる研究成果について考察を行った。具体的な手順は以下のとおり。1)ある中央丘における月面反射率(ただし位相角関数については中央丘内で一定とする)を仮定する、2)MIによる中央丘の観測条件(太陽高度、蓄積時間等)を仮定する、3)本地域を観測した場合に得られるMI画像を光学性能試験の結果(S/N測定値、画像のぼけ具合の指標であるMTF測定値等)をもとに求める、4)3)で求めたMI想定画像とクレメンタイン中央丘画像を比較し、考察を行う。評価の結果、MIフライトモデルは実際のデータ解析のために要求されるS/NやMTF等の性能を十分に達成しており、これまでに同様の月面分光画像を取得したクレメンタインによる観測データと比較して格段に質のよいデータが得られ、科学的意義が大きいことが確認できた。また同時に、観測データの質において重要な補正・校正項目の洗い出しを行った。今回の発表ではMIデータの解析目標とともにMIハードウェア・ソフトウェアの開発状況についても紹介する。