抄録
月周回探査衛星計画「セレーネ」は、月の極周回軌道から月面全域のグローバルな探査を10数種類の観測機器を用いて行う。本機器、蛍光X線分光計(XRS)は、極域を除く全域の主要元素組成を空間分解能約20kmで定量的に決定する。月地殻の構成岩石とその水平分布を観測的に得ることによって、月の初期進化過程を探るための情報を得るのが最大の目標である。 本機器は、空間分解能と元素組成決定精度の向上を目指す。セレーネ周回衛星は月面に対して相対速度約1.5km/sで移動するため、短時間で統計的に有意な光子計数を稼ぐ必要がある。そのため、エネルギー分解能向上と有効検出面積の拡大が必須である。そこで、X線CCDをアレイ化し、CCDを放射冷却によって低温に保持することによって厳しいスペック要求を満足させる。さらに極薄ベリリウム窓の使用によって低エネルギー域の窓材による減衰効果を低減した。 現在、本機器はフライトモデルの設計・製作を実施し、衛星や他の観測機器とのインターフェース噛み合わせ試験を実施中である。電気設計やソフトウェアのインターフェースを確認し、また電磁干渉評価を衛星全体で実施する。本試験の終了後には、フライト仕様への最終組立てや詳細性能評価を月周回軌道を模擬可能なチェンバを用いて、熱真空槽中で実施する予定である。 本報告では、本機器の基本仕様や機能について概要を紹介し、さらに今後の試験計画、打上後の観測計画について述べる。