抄録
片麻痺患者はある程度の非麻痺側の代償を用いて,動作の獲得を学習していく。これに感覚障害を伴うことは,麻痺側の機能回復の妨げになるとともに,より非対称で異常な代償にて動作を学習していくと考えられる。報告する症例は弛緩性右片麻痺,深部感覚障害が重度で歩行は困難な状態で転入院してきた。治療は感覚障害に対して視覚代償による自己管理だけを進めるのではなく,運動機能と感覚との関係に注意して運動療法による感覚の回復を求め異常性の少ない歩行の獲得を図った。その結果,右下肢の深部感覚障害は軽度となり自宅周囲の散歩が可能なレベルの歩行を獲得し退院することができた。脳血管障害の感覚障害の改善と運動機能の回復は別々に治療を行うのではなく,互いの関連を考え同時に進めていくことの必要を改めて感じることができた。