主催: (一社)日本予防理学療法学会、(一社)日本理学療法学会連合
共催: 第5回 日本栄養・嚥下理学療法研究会学術大会, 第4回 日本産業理学療法研究会学術大会, 第56回 日本理学療法学術大会
会議名: 第8回 日本予防理学療法学会学術大会
回次: 1
開催地: Web開催
開催日: 2021/11/13
p. 56
【はじめに、目的】
腰痛を自覚しながらも就労を継続する労働者が非常に多いため,健康経営の観点から労働生産性の低下が懸念されている.この労働生産性の低下は,痛み強度ではなく,痛みによって引き起こされる運動への恐怖心(運動恐怖)とその運動恐怖から招かれる恐怖回避行動が原因とされる.この恐怖回避行動は作業関連動作時の体幹の運動障害に特徴付けられるが,その運動障害と運動恐怖との関連性は不明瞭である.また,運動恐怖は,質問紙票を用いて日常生活等における全般的な恐怖心の程度を評価することが一般的である.しかしながら,作業関連動作と日常生活動作における体幹の運動パターンや運動恐怖の喚起の仕方には違いがある.そこで本研究は,作業関連動作として代表的な重量物持ち上げ動作に着目し,その際に生じる体幹の運動パターンと,作業関連動作に特異的な運動恐怖との関連性を調査した.
【方法】
対象は慢性腰痛を有する男性就労者(腰痛群)31名と腰痛のない男性就労者(対照群)20名である.動作課題は重量物持ち上げ動作とし,重量物の重さは体重の10,30,50%に設定した.三次元動作解析装置を用い,体幹の運動パターンの指標としてMARP(二関節間の運動の一致度)とDP(二関節間の運動の変動性)を算出した.なお,MARPとDPは,体幹の屈曲相と伸展相の2相のデータを抽出した.痛み関連因子は質問紙票による評価(痛みのNRS,TSK,PCS,FreBAQ)と,NRSにて課題に対する特異的な運動恐怖の程度(Task-specific fear)の程度を調査した.統計処理にはグループ要因(腰痛群・対照群)と条件要因(体重の10%・30%・50%条件)による二元配置分散分析を用いた.また,重回帰分析として基本モデルにTSKを加えたモデル(General fearモデル)とTask-specific fearを加えたモデル(Task-specific fearモデル)を構築し,各モデルにおける体幹の運動との関連を分析した.
【結果】
伸展相のMARPにのみ有意な主効果および交互作用を認めた.また,目的変数を50%条件における伸展相のMARPとした重回帰分析の結果,有意な説明変数としてGeneral fearモデルでは年齢とTSK,Task-specific fearモデルではTask-specific fearのみが選択された.また,基本モデル(Adjusted R2=0.01)に対する各モデルのAdjusted R2の増分(ΔR2)は,General fearモデル(Adjusted R2=0.1,ΔAdjusted R2=0.09)よりもTask-specific fearモデルで(Adjusted R2=0.43,ΔAdjusted R2=0.42)で高値を示した.
【結論】
本研究より,運動恐怖によって作業遂行時の体幹運動の自由度が制限され,これには全般的な運動恐怖よりもTask-specific fearモデルに適合することから,むしろ課題特異的な運動恐怖に強く影響されることが明らかとなった.本結果から,腰痛を有する就労者に対する産業理学療法場面では,特定の作業遂行時に生じる運動恐怖に着目した評価・介入が必要であると思われた.
【倫理的配慮、説明と同意】
対象にはヘルシンキ宣言に基づき,本研究の趣旨を説明し,参加の承諾を得た.なお,本研究は畿央大学研究倫理委員会にて承認を得ている.(承認番号:R2-01)