日本予防理学療法学会 学術大会プログラム・抄録集
Online ISSN : 2758-7983
第8回 日本予防理学療法学会学術大会
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第8回 日本予防理学療法学会学術大会
一般演題(口述)
虚弱高齢者1
  • 前田 拓也, 上出 直人, 安藤 雅峻, 坂本 美喜
    p. 1
    発行日: 2022/12/01
    公開日: 2023/06/07
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    【はじめに,目的】

    サルコペニアや呼吸機能の低下は,高齢者の誤嚥性肺炎の危険因子となる.近年では,サルコペニアに呼吸機能低下や呼吸筋の筋量低下が合併したrespiratory sarcopeniaという概念も提唱され,両者の関連性も着目されている(Nagano, et al. 2021).一方で,サルコペニアの構成要素と呼吸機能低下との関連性は十分に検証されているとは言い難い.本研究は,縦断的観察研究にて地域在住高齢者の骨格筋量,筋力,歩行能力が呼吸機能に与える影響を明らかにすることを目的とした.

    【方法】

    1年間の追跡調査が可能であった要介護認定のない65歳以上の地域在住自立高齢者259名(男性60名,女性199名,平均年齢71.5±4.5歳)を分析対象とした.除外基準は心疾患や呼吸器疾患の診断,認知機能低下疑いとした.ベースライン調査にて,呼吸機能,下肢筋力,歩行速度,骨格筋量を測定した.呼吸機能として努力性肺活量(Forced vital capacity:FVC),下肢筋力としては等尺性膝関節伸展筋力(膝伸展筋力)を測定した.膝伸展筋力は体重と下腿長でトルク体重比(kgf・m/BW)に換算した.また,骨格筋量は生体電気インピーダンス法にて四肢骨格筋量を測定し,身長で補正した骨格筋指数(Skeletal muscle mass index:SMI)を算出した.加えて,交絡因子として,年齢,性別,身長,体重,内服状況,老研式活動能力指標,Trail making test part Aを調査した.1年後に追跡調査を行い,再度FVCを測定した.統計解析として,従属変数を追跡調査時のFVC,独立変数をベースライン時の膝伸展筋力,歩行速度,SMI,調整変数に交絡要因とベースライン時のFVCを投入した重回帰分析を行った.またInverse provability weighting法(IPW法)を用いて追跡調査における脱落バイアスの影響も検討した.なお,統計学的有意水準は5%とした.

    【結果】

    重回帰分析にて追跡調査時のFVCとベースライン時の膝伸展筋力は有意な正の関連を認めた(B=0.005,p<0.01,調整済みR2=0.88).一方で,歩行速度とSMIは追加調査時のFVCとは有意な関連が認められなかった.なお,IPW法にて脱落バイアスの影響を調整しても追跡調査時のFVCとベースライン時の膝伸展筋力は正の関連を認めた.

    【結論】

    地域在住高齢者における呼吸機能には,サルコペニアの構成要素のうち下肢筋力が影響していることが示唆された.誤嚥性肺炎の予防においては下肢筋力の低下が認められる段階から呼吸機能の評価や介入を考慮していくことが重要であると考えられた.

    【倫理的配慮、説明と同意】

    本研究は北里大学医療衛生学部研究倫理審査委員会の承認を受けて実施した(承認番号2018-008B).また,全対象者に対して書面にて研究参加に関する同意を得た.

  • 白石 明継, 浜野 泰三郎, 山本 遼, 浦谷 明宏, 馬井 孝徳, 山本 諒
    p. 2
    発行日: 2022/12/01
    公開日: 2023/06/07
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    【はじめに】

    ロコモティブシンドローム(以下ロコモ)は中高年者の運動機能低下、サルコペニア、骨粗鬆症との関連が報告されている。しかし、先行研究の多くは要因分析のみを実施したものであり、ロコモへの影響度を検討した報告は少ない。影響度を検討することは、抽出された項目に優先的にアプローチを行うことができ、プログラム立案の一助となると考える。また、ロコモ度1・2に分けて検討した報告も少なく、より早期よりロコモ度1を発見し、早期介入を行うことは重要と考える。そこで本研究の目的は、当院ロコモ健診受診者におけるロコモ度1への影響因子、その影響度を検討することとした。

    【方法】

    対象は当院人間ドックにてロコモ健診を受診した者のうち、45歳以上の者(平均年齢は62.7±9.2歳、男性113名、女性52名)とした。ロコモの判定は2ステップテストが1.3未満、または立ち上がりテストにて片脚40cmから起立困難の者をロコモあり群とした。ロコモ度2に該当する者は除外した。交絡因子として年齢、性別、BMIを調査し、評価項目は、歩行速度、歩幅、大腿四頭筋筋力、握力、骨格筋指数、安静時疼痛の有無、疼痛の程度、運動週間の有無、腰椎・大腿骨骨密度とした。統計学的解析処理はロコモあり群、なし群において性別、安静時疼痛の有無、運動習慣の有無はχ2検定を実施した。その他の項目はShapiro-Wilk検定を実施した後、対応のないt検定またはMann-Whitney検定を用いて群間比較を行った。その結果、2群間で有意差を認めた項目を独立変数、ロコモの有無を従属変数としたロジスティック回帰分析を行った。さらに交絡因子を強制投入し、再度検定を行った。これら全ての検定は有意水準5%未満とした。

    【結果】

    ロコモの有無はあり群91名、なし群74名であった。2群間に有意差を認めた項目は歩行速度、歩幅、握力、大腿四頭筋筋力、骨格筋指数であった。ロコモの有無を従属変数、2群間で有意差を認めた項目を独立変数としたロジスティック回帰分析の結果、歩行速度、大腿四頭筋筋力が抽出された。その後、交絡因子を投入して再度検定を行った結果、歩行速度(オッズ比=1.04、p値=0.01)、大腿四頭筋筋力(オッズ比=1.83、p値<0.01)、年齢(オッズ比=0.9、p値<0.01)、BMI(オッズ比=0.83、p値<0.01)が抽出された。

    【結論】

    本研究において、ロコモの有無に影響する因子は歩行速度、大腿四頭筋筋力、年齢、BMIであった。歩行速度、大腿四頭筋筋力は、交絡因子を加味しても、ロコモの有無を説明する因子であった。影響度については大腿四頭筋筋力、歩行速度の順に強く、ロコモ度1の予防については下肢の筋力強化を中心としたアプローチが最も重要と考えられる。

    【倫理的配慮、説明と同意】

    本研究はヘルシンキ宣言に基づき「人を対象とする医学研究に関する倫理指針」を遵守している。得られたデータは本研究の目的以外には使用せず、研究の結果を公表する際も被験者を特定できる情報は使用しない。また、本研究は当院臨床研究審査委員会における承認番号3321号を取得している。自施設既存情報を用いる研究であるため、倫理指針に従って当院ホームページにて情報公開し、拒否機会を付与している。

  • 出口 憲市, 三浦 哉, 田村 靖明, 橋本 祐司, 森 和之, 島田 祐希, 宮﨑 愛, 宮﨑 友望, 安部 一也, 野々瀬 翔吾
    p. 3
    発行日: 2022/12/01
    公開日: 2023/06/07
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    【はじめに、目的】

    一過性運動後の糖代謝および脂質代謝などの生理学的反応は,身体組成による影響を受けると報告されている.近年,サルコペニアおよび肥満が動脈硬化性疾患の有病率を上昇させると報告されており,これらの身体組成を改善する最適な運動プログラムが必要である.そこで本研究では,有酸素性および無酸素性の運動効果をコンバインドさせた,ステップエクササイズ(StEx)トレーニングが身体組成の異なる対象者に及ぼす影響を検討した.

    【方法】

    健康教室に参加した健常高齢者の女性265名にうち,参加率85%未満を除外した220名を解析対象者とした.Body mass index(BMI)による四分位範囲による下位25%を痩せ型群(51名,年齢: 67.8±5.9歳,BMI: 19.1±1.1kg/m 2 ,サルコペニア該当者: 84.9%),上位25%を肥満型群(57名,年齢: 68.9±5.1歳,BMI: 27.1±2.0kg/m 2 ),中位25-75%を標準型群(112名,年齢: 67.4±5.6歳,BMI: 22.3±1.3kg/m 2 )に分類した.健康教室は,ウォーミングアップ,StExおよびクールダウンから構成しており,1回60分,週2回,8週間実施した.StExは,レペティション形式で3分間(75%HRmax)および1.5分間の休息時間から構成され,合計6セット実施した.トレーニング前後の測定は,身体組成(in Body)およびbaPWVなどをそれぞれ実施した.各群の比較には分割プロットデザイン(SPSSver24.0)を用いた.なお,危険率は5%未満を有意水準として採用した.

    【結果】

    痩せ型群,標準型群および肥満型群のSkeletal muscle mass index は5.48±0.35から5.58±0.37,5.90±0.57から6.04±0.55,6.52±0.77から6.56±0.75kg/m 2 であり,すべての群でトレーニング前後に有意差が認められた(痩せ型,標準型: P<0.01,肥満型: P<0.05).また,標準型群と肥満型群との間に有意な差が認められた(P<0.01).baPWVは,1453±204から1390±168,1515±252から1447±214,1556±226から1525±196 cm/secであり,痩せ型群および標準型群のトレーニング前後に有意差が認められた(P<0.01).また,標準型群と肥満型群との間に有意な差が認められた(P <0.05).

    【結論】

    StExトレーニングは,身体組成に関係なく骨格筋量を増加させており,サルコペニアを改善できる可能性が示唆された.一方,肥満型への有酸素性トレーニング効果は,身体組成の影響を受ける可能性が示唆された.一般的に内臓脂肪が蓄積すると炎症性サイトカインの増悪により,動脈スティフネスが低下すると報告されており,この働きがトレーニング効果を減弱させた一つの原因と考えられる.本研究により,StExトレーニングは高齢女性のサルコペニアおよび動脈硬化性疾患の危険因子を改善させる可能性が示唆された.

    【倫理的配慮、説明と同意】

    本研究は,ヘルシンキ宣言に沿った研究であり,徳島県鳴門病院における研究倫理委員会の承諾(受付番号: 1327)を得たものである.対象者には,インフォームドコンセントを得た後に研究を開始した.

  • 清水 有生, 北川 緑, 米永 悠佑, 岡山 太郎, 石井 健, 三橋 範子, 上原 立資, 鈴木 克喜, 西澤 たまえ, 伏屋 洋志
    p. 4
    発行日: 2022/12/01
    公開日: 2023/06/07
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    【はじめに】

    当院では従来、消化器がんの周術期リハビリテーション治療は主治医がその必要性を判断することが多く、高齢の場合や術後合併症のリスクが高いと判断された場合は、術前リハビリテーション治療を依頼されていた。一方で、術後合併症または離床遅延などによって筋力・歩行能力低下をきたし、リハビリテーション治療を依頼されるケースもあった。当院ではこのような離床遅延を予防し、術後合併症のリスクが高い症例を術前早期にリハビリテーション治療に繋げることを目的として、2020年10月より75歳以上の胃外科、肝・胆・膵外科の手術症例を対象に術前スクリーニングを開始した。今回、術前スクリーニングはより多くの術後合併症リスクの高い症例を拾い上げるために、感度を高くすることを目標とした。今回、術前スクリーニングの有用性について、術後合併症の有無に着目して検討する。

    【方法】

    2020年10月~2021年3月までに当院の胃外科、肝・胆・膵外科にて手術を予定した75歳以上の患者71例に術前スクリーニングを実施し、手術を施行した61例を対象とした。評価内容は年齢、予定術式、肺機能、呼吸器疾患の既往・フレイル・サルコペニアの有無とし、80歳以上、高侵襲手術、換気障害、呼吸器疾患の既往を有する、フレイル、サルコペニアに1項目以上該当で陽性とし、該当しない場合を陰性とした。フレイルの評価は改定日本版フレイル基準を、サルコペニアの評価はAsian Working Group for Sarcopenia 2019の基準を使用した。主要評価項目は術後合併症とした。術後合併症はClavien-Dindo分類(以下:CD分類)grade1以上を術後合併症有りと定義し、術後合併症に対する術前スクリーニングの感度、特異度を算出した。

    【結果】

    術前スクリーニングを行い、手術を施行した61例のうち、スクリーニング陽性は38例、陰性は23例だった。術後合併症を発症したのは29例、このうち偽陰性は5例(17.2%)だった。5例のうち、CD分類grade3a以上となり術後リハビリテーション治療開始となったのは1例で、他4例は術後合併症を発症したが重篤な転帰を辿らなかった。本スクリーニングの検査精度は感度82.8%、特異度56.3%であった。

    【結論】

    今回の術前スクリーニングでは特異度と比較して感度が高い結果となった。また、偽陰性5例のうち、術後合併症により術後リハビリテーション治療開始となったのは1例であった。上記から、本スクリーニングは術後合併症の発症リスクが高い症例を抽出する評価方法として有用であると考える。今後はスクリーニング陰性ながら術後リハビリテーション治療開始となった症例について詳細を評価し、更に感度を高められるよう追加評価項目について検討していく必要があると考える。また、スクリーニング陽性となった症例に対して周術期リハビリテーション治療の方法についても検討が必要であると考える。

    【倫理的配慮、説明と同意】

    本研究は、当院倫理委員会の承認を得ている。今回の調査、報告にあたり、症例の情報については個人が特定できないよう配慮し取り扱っている。

  • 安岡 実佳子, 村木 功, 陣内 裕成, 今野 弘規, 羽山 実奈, 山岸 良匡, 大平 哲也, 北村 明彦, 木山 昌彦, 磯 博康
    p. 5
    発行日: 2022/12/01
    公開日: 2023/06/07
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    【はじめに、目的】

    高齢期の体重変化と低筋肉量との関連は多数の報告がある一方、筋肉量減少が始まる中年期のBMI・体重変化と低筋肉量との関連は明らかでない。そこで、本研究では中年期のBMI・体重変化と低筋肉量との関連を検討した。

    【方法】

    2017-2019年にCIRCSの秋田・大阪地区の健診でフレイル検査を受けた60-69歳のうち、中年期のBMIと体重の変化を捉えるために、50±2歳で1回以上、且つ40-59歳の間に2回以上、すなわち中年期に3回以上健診を受診した男性143人、女性332人を対象とした。フレイル検査時に筋肉量(InBody 770:InBody社)を計測した。低筋肉量の判定は、四肢筋肉量(ASM)を身長(Ht)の二乗で除したSMI(=ASM/Ht 2 )およびBody Mass Index(BMI)で除したASM/BMIを用い、男性はSMI<7.0 kg/m 2 またはASM /BMI<0.789、女性はSMI<5.8 kg/m 2 またはASM/BMI<0.512に該当した状態とした。分析1 では、非低筋肉量群と低筋肉量群で、40-64歳の各年齢での体重の軌跡を男女別に混合効果モデルを用いて算出した。分析2では、50歳頃(48-52歳)のBMIを<20、20-22.9、23.0-24.9、≧25 kg/m 2 の4群に分類した。さらに、各対象者の40歳からフレイル検査時点までの体重変化を単回帰分析の傾きとして算出し、減少群(<-0.2)、不変群(±0.2)、増加群(≧+0.2)の3群に分類した。50歳頃のBMIは20-22.9、体重変化は不変群を基準とし、各群の低筋肉量有病の多変量調整オッズ比(95%信頼区間: 95%CI)をロジスティック回帰分析で算出した。統計モデルには年齢、性別、運動習慣、既往歴(脳卒中、がん、糖尿病)、50歳頃のBMI、体重変化をすべて投入した。

    【結果】

    分析1では、男性の38.5%、女性の36.1%が低筋肉量群に該当し、男女とも低筋肉量群は非低筋肉量群より継続して体重が有意に低かった。体重の軌跡は女性のみ低筋肉量群の50歳以降で体重減少がみられ、低筋肉量と年齢に有意な交互作用を認めた。分析2では、60歳代での低筋肉量者の割合は50歳頃のBMI<20群で82.4%、20-22.9群で32.7%、23.0-24.9群で28.2%、≧25群で32.6%であった。同様に体重変化別では減少群で38.9%、不変群で38.2%、増加群で29.1%であった。50歳頃のBMI20-22.9群を基準とした低筋肉量の多変量調整オッズ比(95%CI)は、BMI<20群で11.85(5.28-26.60)、23.0-24.9群で0.74(0.44-1.25)、≧25群で0.84(0.50-1.39)であった。体重変化では不変群を基準とした低筋肉量の多変量調整オッズ比(95%CI)は、減少群で1.08(0.66-1.77)、増加群で0.68(0.38-1.23)であった。

    【結論】

    中年期のBMIと低筋肉量に負の関連を認めた。サルコペニア予防の観点から、中年期からの継続的な痩せに留意する必要性が示唆された。

    【倫理的配慮、説明と同意】

    本研究は大阪大学及び大阪がん循環器病予防センターの倫理審査委員会の承認を得て実施した。

予防学会セレクション
  • 椎葉 竜平, 中井 雄貴, 富岡 一俊, 谷口 善昭, 白土 大成, 木内 悠人, 竹中 俊宏, 窪薗 琢郎, 大石 充, 牧迫 飛雄馬
    p. 6
    発行日: 2022/12/01
    公開日: 2023/06/07
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    【はじめに、目的】

    サルコペニアは転倒や死亡のリスクを増大させる要因であり、サルコペニアの危険因子のひとつには糖尿病が挙げられる。血糖値が糖尿病の基準には満たないが、正常より高い状態は前糖尿病と分類され、前糖尿病は糖尿病へ進行するリスクが高い。サルコペニアの割合はHbA1c値に比例して増加すると報告されており、前糖尿病の段階からサルコペニアの診断基準である筋量、筋力、身体機能が低下している可能性がある。これらを検討することは早期から機能低下を把握する上で重要である。本研究では、地域在住高齢者における前糖尿病および糖尿病と筋量、筋力、身体機能の関係を検討した。

    【方法】

    地域コホート研究(垂水研究2019)に参加した地域在住高齢者687名のうち、脳卒中、認知症の既往、要介護認定者を除く609名(平均74.0±6.3歳、女性62.1%)を対象とした。基礎情報として、年齢、性別、内服数、糖尿病の病歴を聴取した。四肢骨格筋指数(生体電気インピーダンス法)、握力、5回椅子立ち上がりテスト、HbA1c値を測定した。HbA1c値が5.7%未満を非糖尿病群、5.7~6.4%を前糖尿病群とし、6.5%以上または糖尿病の既往がある者を糖尿病群と分類した。四肢骨格筋指数は男性7.0kg/m 2 未満、女性5.7kg/m 2 未満を筋量低下、握力は男性28kg未満、女性18kg未満を筋力低下とした。また、5回椅子立ち上がりテストは12秒以上を身体機能低下とした。筋量低下、筋力低下、身体機能低下のそれぞれを従属変数とし、糖尿病分類(非糖尿病群、前糖尿病群、糖尿病群)を独立変数としたロジスティック回帰分析を行った。共変量は年齢、性別、多剤併用の有無および筋量低下の有無、筋力低下の有無または身体機能低下の有無とした。

    【結果】

    前糖尿病および糖尿病を有する者の割合はそれぞれ25.0%、15.1% であった。各群における筋量低下の割合は、非糖尿病群40.5%、前糖尿病群33.6%、糖尿病群23.9%であった。筋力低下の割合は、非糖尿病群20.3%、前糖尿病群25.7%、糖尿病群32.6%であった。また、身体機能低下の割合は、非糖尿病群6.6%、前糖尿病群7.9%、糖尿病群14.1%であった。非糖尿病群と比較して前糖尿病群では筋力低下のオッズ比が1.70(95%信頼区間:1.02-2.82)と有意に高かった。非糖尿病群と比較して糖尿病群では筋量低下のオッズ比が0.37(95%信頼区間:0.20-0.69)と有意に低かった。また、糖尿病群では筋力低下のオッズ比が2.10(95%信頼区間:1.15-3.85)、身体機能低下のオッズ比が2.28(95%信頼区間:1.00-5.17)と有意に高かった。

    【結論】

    非糖尿病の者と比較して、前糖尿病を有する者では筋力が低下しており、糖尿病を有する者では筋量は保持しているが、筋力および身体機能が低下していることが示唆された。筋力低下や身体機能低下は将来の日常生活動作能力の低下に影響するため、前糖尿病や糖尿病を有する者は早期から運動介入を検討することが必要だろう。

    【倫理的配慮、説明と同意】

    本研究は鹿児島大学疫学研究等倫理委員会の承認(170351疫)を得て実施した。ヘルシンキ宣言に基づき、対象者には研究内容について口頭と書面にて説明をし、同意を得た。

  • 中窪 翔, 土井 剛彦, 堤本 広大, 栗田 智史, 木内 悠人, 西本 和平, 島田 裕之
    p. 7
    発行日: 2022/12/01
    公開日: 2023/06/07
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    【はじめに、目的】

    高齢期において、身体活動は健康状態を維持、改善させる方法として重要な役割を担っており、高い身体活動量の維持が障害発生予防のために有用であることが示唆されている。一方で、睡眠は高齢期の機能維持において重要であり、長時間睡眠が要介護リスクと関連していることが明らかになっている。身体活動と睡眠は相互に影響し合うため、長時間睡眠および身体活動低下が、新規要介護発生に対しどのような関連性を有しているのかを明らかにすることを本研究の目的とした。

    【方法】

    高齢者機能健診National Center for Geriatrics and Gerontology‐Study of Geriatric Syndromesに参加した70歳以上の地域在住高齢者5,257名のうち、ベースライン時点において脳卒中、アルツハイマー病、パーキンソン病の現病・既往のある者、基本的ADL非自立者および要介護認定を受けている者、Mini Mental State Examination(MMSE)が20点未満の者、欠損値がある者を除外した4,372名(女性2,343名、平均75.9±4.2歳)を本研究の分析対象とした。就寝時間と起床時間より睡眠時間を算出し、9時間以上を長時間睡眠とした。身体活動はInternational Physical Activity Questionnaire‐Short Formを用いてカテゴリ化し、High、Moderate、LowのうちLowに該当した者を身体活動低下と定義した。長時間睡眠および身体活動低下を独立変数、新規要介護(要支援および要介護)の発生(ベースラインより5年間の介護認定情報を追跡)を従属変数としたCox比例ハザード分析を実施した。また、長時間睡眠と身体活動低下の各要因の有無により分類した4群を、同様に独立変数に投入した分析も実施した。共変量は年齢、性別、教育歴、服薬数、BMI、うつ症状、歩行速度、MMSE、喫煙歴、飲酒歴、慢性疾患とした。また、2要因の交互作用による相加効果を検証するために、Relative excess risk due to interaction(RERI)を算出した。有意水準は5%未満とした。

    【結果】

    5年間の追跡期間において、878名(20.1%)が新規要介護認定を受けた。Cox比例ハザード分析の結果、長時間睡眠(HR=1.31、95%CI:1.03‐1.65)、身体活動低下(HR=1.32、95%CI: 1.13-1.56)はそれぞれ独立して有意にリスクが増加した。さらに、2要因をもとに4 群に分類した結果、長時間睡眠および身体活動低下のいずれも該当しない者を参照すると、長時間睡眠のみ(HR=1.32、95%CI: 1.01‐1.73)、身体活動低下のみ(HR=1.33、95%CI: 1.12-1.58)、長時間睡眠かつ身体活動低下(HR=1.69、95%CI: 1.11‐2.58)のいずれも有意にリスクが増加した。RERIは0.04でありわずかな相加効果であった。

    【結論】

    長時間睡眠および身体活動低下は、それぞれ独立して新規要介護発生と関連し、その相加効果はわずかであることが示された。介護予防を目指すための理学療法的介入を講じる上で、身体活動と睡眠状況の把握、改善の重要性を示すと考えられた。

    【倫理的配慮、説明と同意】

    本研究は、著者所属機関の倫理・利益相反委員会の承認を受けて実施した。ヘルシンキ宣言の趣旨に沿い、対象者には本研究の主旨および目的を口頭と書面にて説明を行い、書面にて同意を得た上で本研究を実施した。

  • 世古 俊明, 赤坂 憲, 樋室 伸顕, 小山 雅之, 森 満, 大西 浩文
    p. 8
    発行日: 2022/12/01
    公開日: 2023/06/07
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    【はじめに、目的】

    インスリン抵抗性(IR)は種々の生活習慣病の背景因子であり,内臓脂肪の蓄積を基盤とすることが多い。しかし,高齢者では非肥満でもIRを呈するものが多く,従来の肥満に着目した糖尿病予防対策では非肥満ハイリスク者を見逃す可能性がある。我々は,横断研究によって高齢者の下肢筋量が肥満とは独立して,IRに関連することを明らかにした。骨格筋はインスリンの標的臓器のため,身体構成比の大きい下肢筋量がIRに関連したと推測され,今後は因果関係の究明が課題となった。本研究では,地域在住コホート集団を対象に非糖尿病高齢者の下肢筋量がIR進展に及ぼす影響を他の骨格筋指標も含めて検討した。

    【方法】

    北海道壮瞥町の特定健診に参加した高齢者 337 名のうち,ベースライン調査時にIRおよび糖尿病の既往がない194名(平均年齢75.1歳,女性 59.2%)を解析対象とし,最大2年間の追跡調査を行った。IRの指標にはHOMA-IRを用い,ベースラインおよび追跡調査時に繰り返し測定を行った。また既報より,HOMA-IRが1.73以上でIR 進展ありと定義した。骨格筋指標として,BIA法による筋量(下肢,上肢,四肢,体幹),筋力(膝伸展筋力,握力),至適歩行速度をベースライン調査時に測定した。なお筋量と筋力は,各々体重で除して体重比を算出した。解析は,IR進展に及ぼす各骨格筋指標の影響をCox比例ハザード分析にて検討し,ハザード比を算出した。共変量には性別,およびベースライン時の年齢,腹囲径,HOMA-IRを用いた。

    【結果】

    追跡期間におけるIRへの進展割合は 31.9%(62/194名)であった。年齢、性別、初年度の腹囲径、HOMA-IRで調整後の下肢筋量のハザード比は 0.88(95%CI : 0.79-0.98, p=0.031),四肢筋量のハザード比は 0.89(95%CI: 0.81-0.99, P=0.030)であり,筋量が多いほど将来のIR進展に対する危険性が低くなる関連を認めた。一方,他の骨格筋指標はIR進展に有意な関連を認めなかった。

    【結論】

    非糖尿病高齢者における下肢筋量の低値は,肥満とは独立したIR進展に対する危険因子であることが示唆された。本結果より,非肥満の場合でも下肢筋量を測定することで将来の生活習慣病罹患ハイリスク者を検出できる可能性がある。また,下肢筋量を維持することは高齢者のIRの進展,ひいてはIRを背景とする生活習慣病の予防のための新たな戦略として期待できる。

    【倫理的配慮、説明と同意】

    本研究はヘルシンキ宣言に基づく倫理原則と倫理指針を遵守し,札幌医科大学倫理委員会に同意説明文書を含む研究実施計画書とインフォームド・コンセントの内容について諮り、了承を得たうえで実施した。

  • 平瀬 達哉, 大久保 善郎, Delbaere Kim, Menant Jasmine, Lord Stephen, Sturnieks D ...
    p. 9
    発行日: 2022/12/01
    公開日: 2023/06/07
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに、目的】

    高齢者において頻繁に認められる運動器疼痛はフレイルや要介護発生のリスクファクターであり,死亡率の増加にも影響をおよぼすことが示されている.そのため,高齢者の運動器疼痛対策は健康寿命の延伸に不可欠であり,運動器疼痛の持続・悪化のみならず新規発生を予防する介入戦略の開発が求められている.本研究では,2年間の前方視的調査を行い,高齢者における運動器疼痛の持続ならびに新規発生の予測因子について検討することを目的とした.

    【方法】

    対象は70歳以上のシドニー近郊の地域在住高齢者431名(平均78.5歳,男性213名,女性218名)であり,選挙人名簿より無作為に抽出された.ベースライン時の評価項目は,運動器(頸部,腰背部,股関節,膝関節,足関節)の疼痛の有無,基本属性(年齢,性別,BMI,併存疾患,服薬数),運動機能(下肢筋力,静止立位時身体動揺,TUG,6m歩行時間),認知機能(TMT-A,TMT-B,数字符号置換検査),心理状況(GDS-15),身体活動量(IPEQ)とした.そして,ベースライン時の評価結果に基づき対象者を運動器疼痛群(252名)と非運動器疼痛群(179名)に分け,2年後の運動器疼痛の持続率と新規発生率を算出した.あわせて,それぞれの群内において2年後の運動器疼痛の有無を従属変数,単変量解析にて有意差を認めたベースライン時の評価項目を独立変数として投入したロジスティック回帰分析を行い,運動器疼痛の持続および新規発生を予測する因子を検討した.

    【結果】

    運動器疼痛群の内,2年後も運動器疼痛を持続していた者は202名(80.2%)であった.また,非運動器疼痛群の内,2年後に運動器疼痛が新規に発生した者は84名(46.9%)であった.年齢,性別,併存疾患,服薬数で調整したロジスティック回帰分析の結果,運動器疼痛の持続には6m歩行時間高値(OR:1.27,95%CI:1.08-1.49)とGDS-15高値(OR:1.39,95%CI:1.09-1.78)が関連し,運動器疼痛の新規発生にはBMI高値(OR:1.10,95%CI:1.02-1.18),GDS-15高値(OR:1.30,95%CI:1.05-1.61),IPEQ低値(OR:0.92,95%CI:0.84-1.00)が関連していた.

    【結論】

    高齢者の運動器疼痛の持続の予測因子としては歩行速度の低さとうつ症状が抽出され,運動器疼痛の新規発生の予測因子としては肥満傾向,うつ症状,身体活動量の低さが抽出された.したがって,高齢者の運動器疼痛の持続・悪化を防ぐためには運動機能と心理面に着目した介入が,また,運動器疼痛の新規発生を予防するためには体重コントロールや心理面に着目した介入に加え,身体活動性を促進する介入が必要であることが示唆された.

    【倫理的配慮、説明と同意】

    対象者にはヘルシンキ宣言の趣旨に沿い本研究の主旨及び目的について口頭もしくは書面にて説明し同意を得た.具体的には,全ての対象者に対し自由意思による参加であること,研究参加を拒否した場合でもなんら不利益を被らないこと等を事前に説明した.データは全て匿名・コード化し,保管庫に格納して施錠した.なお,本研究はニューサウスウェールズ大学の倫理委員会の承認を得て実施した.

  • 草野 達也, 岸本 勇二, 植村 真奈美, 山根 裕美子, 大寺 弥, 倉信 耕爾
    p. 10
    発行日: 2022/12/01
    公開日: 2023/06/07
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに、目的】

    関節リウマチ(RA)は多関節炎を主徴とする慢性炎症性疾患であり,関節炎と関節破壊による運動機能障害をきたす.一方,ロコモティブシンドローム(ロコモ)は加齢を基盤とした運動機能障害により移動能力が低下した状態と定義され,本邦における地域在住者の有病率は11.9%であったと報告されている.RA患者においては,ロコモの有病率はより高いと推測されるが,RA患者を対象としたロコモの研究は少ない.

    本研究の目的は,RA患者におけるロコモの有病率を調査するとともに,ロコモと関連する因子を検討することである.

    【方法】

    2019年6月~2020年1月の期間,当院に通院していたRA患者173例を対象とした.評価項目は,患者背景として年齢,性別,Body Mass Index(BMI),罹病期間,薬物療法(メトトレキサート(MTX),副腎皮質ステロイド(PSL),生物学的製剤(bDMARD),ヤヌスキナーゼ阻害薬(JAKi))の有無,臨床評価としてC反応性蛋白(CRP),疾患活動性スコア(DAS28-ESR),疼痛視覚的評価スケール(疼痛VAS),およびRA患者における身体機能障害指数(HAQ-DI)を調査した.また,ロコモの評価には25-question Geriatric Locomotive Function Scale(GLFS-25)を用い,16点以上をロコモと判定した.統計解析は,ロコモ有無の2群間で比較し,名義変数はFisherの正確検定を,連続変数はMann-WhitneyのU検定を用いた.単変量解析で有意となった変数を独立変数とし,ロコモ有無を従属変数としたロジスティック回帰分析にて解析した.さらに関連因子として抽出された項目に関して,ROC 解析を行いカットオフ値を算出した.統計ソフトは EZR(ver.1.42)を用い,有意水準は5%未満とした.

    【結果】

    ロコモの有病率は37.6%であった.ロコモ有無別の群間比較では,単変量解析で年齢,PSL,CRP,DAS28-ESR,疼痛VAS,HAQ DIに有意差を認めた.さらに,これらを独立変数としたロジスティック回帰分析では,年齢がオッズ比1.11(95%信頼区間 1.04-1.18, p=0.001),HAQ-DIが38.1(95%信頼区間 8.89-164.00, p<0.001)と統計学的に有意であった.また,ROC曲線より得られたカットオフ値は,年齢が63歳(感度51.9%,特異度92.3%),HAQ DIが0.375(感度87.0%,特異度83.1%)であった.

    【結論】

    RA患者におけるロコモ有病率は高く,年齢とHAQ-DIがロコモ合併に関連する因子として挙げられた.年齢のカットオフ値は63歳であり,RA患者においては非高齢者であっても運動療法の介入を要する可能性がある.また,HAQ-DIのカットオフ値は0.375であり,RAにおける治療目標のひとつである機能的寛解のHAQ-DI≦0.5を達成していてもロコモを合併している症例が存在しうることを考慮すべきと考えられた.

    【倫理的配慮、説明と同意】

    本研究は鳥取赤十字病院の倫理審査委員会の承認を得て実施した(鳥医倫発第87号).また,「ヘルシンキ宣言」および「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」を遵守して実施した.

虚弱高齢者3
  • 河合 恒, 大渕 修一, 渡邊 裕, 平野 浩彦, 藤原 佳典, 井原 一成, 金 憲経
    p. 11
    発行日: 2022/12/01
    公開日: 2023/06/07
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに、目的】

    歩幅とケーデンスの比である歩行比はエネルギー効率最適化によって実験室歩行では一定に保たれる。一方で、歩行比は多発性硬化症、2重課題歩行などで低下することが報告されており、中枢における歩行制御を反映した指標である。われわれは、スマートフォンアプリによる日常生活における歩行速度(DWS)に関する研究を行っており、日常生活において測定されたさまざまな歩行では歩行比は変動し、それがフレイルを鋭敏に捉えるのではないかと仮説した。本研究では、日常生活中の歩行比は変動するのか、変動する場合はフレイルに関連するのか明らかにすることを目的とした。

    【方法】

    地域高齢者のコホート「板橋お達者健診2011コホート」の2018年調査参加者から、DWS測定参加者を募り、20m以上の定常歩行を検出する度にGPSによる測位に基づき歩行速度を算出するスマートフォンアプリによる1ヶ月間のDWS測定を行った。本研究では、アプリによる測定値が50回以上得られた92名(男性35名、女性57名、平均年齢71.9(SD=5.6)歳)を分析対象とした。J-CHS基準によってプレフレイル、フレイルを評価し、対象者をフレイル群と健常群に分けた。対象者ごとの歩行速度と歩行比の関係を散布図とPearson の相関係数にて検討した。歩行比、歩行速度、歩幅、ケーデンスの1か月間の平均値、変動係数(CV)を算出し、フレイル群と健常群の間の差をt検定によって検討した。

    【結果】

    フレイル群は30名(プレフレイル30名、フレイル0名)、健常群は62名であった。対象者全体における歩行速度と歩行比の相関係数の平均値は0.60(0.15)であり、歩行速度が増加すると歩行比が増大する正の相関を認めた。1か月間の平均歩行比はフレイル群、健常群ともに0.006(0.0005)で差を認めなかった。1か月間の平均歩行速度、平均歩幅、平均ケーデンスも両群で差を認めなかった。ケーデンスのCVはフレイル群9.3(2.00)%に対して健常群では10.5(2.92)%で、フレイル群で有意に低値であった(p<0.05)。歩行比、歩行速度、歩幅のCVは両群で差を認めなかった。

    【結論】

    歩行速度の増加にともなって歩行比が増大したことから、日常生活中の歩行では歩幅を広くして歩行速度を増加させていることが示唆された。一方、ケーデンスは歩幅に比べて頑強であり、ケーデンスが中枢の歩行リズム生成系によって制御されるためではないかと考えられた。1か月間の平均歩行比はフレイルであっても最適歩行付近の値であり、歩行比ではフレイルで特徴を認めなかったが、フレイルではケーデンスの変動が小さいことが示唆された。歩行のリズムを調節できることがフレイルでないことを反映しているのかもしれない。日常生活歩行におけるケーデンスの変動に着目することで、フレイルの予兆を鋭敏に捉えられる可能性がある。本研究のフレイル群はプレフレイルのみであったので、フレイルを含むデータによる検証が必要である。

    【倫理的配慮、説明と同意】

    本研究は東京都健康長寿医療センター研究部門倫理審査委員会の審査承認を得て実施し(承認番号:2018年K120)、対象者には口頭及び書面によるインフォームドコンセントを得た。

  • 川 薫
    p. 12
    発行日: 2022/12/01
    公開日: 2023/06/07
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに、目的】

    国民生活基礎調査より,介護予防の観点から要介護・要支援の減少には運動器疾患への対策が急務である.当院では外来通院患者に筋力維持や転倒予防のため体力測定を行い,必要に応じて運動指導を実施しており,そのうち22%が腰部脊柱管狭窄症患者である.転倒歴の有無に分類し身体機能の傾向と,今後の理学療法の展開について考察したので,ここに報告する.

    【方法】

    2018年6月~2019年10月の間に,当院で外来通院し体力測定に応じた腰部脊柱管狭窄症の患者51名に対して,過去1年間の転倒歴の有無を聴取し,転倒あり群(以下,A群)と転倒なし群(以下,B群)に分類した.評価項目は,画像所見による責任病巣レベル,年齢,Body Mass Index(以下,BMI),日本版Cardiovascular Health Study Index(以下,J-CHS),片脚立位,30-seconds Chair-Stand test(以下,CS-30)を比較した.検定方法はウェルチのT検定,マンホイットニのU検定を行い,有意水準は5%未満とした.

    【結果】

    それぞれA群:B群の順に,14名:37名であり,病巣は両群ともにL4レベルで最も多く,6名(46%):17名(49%)であった.年齢は80.4±5.5歳:77.5±5.4歳,BMIは24.4±3.7kg/m2 :24.5±3.7 kg/m2 と有意差は認めなかった.J-CHSは,フレイルが6名(43%):5名(13%)と有意差を認めた.J-CHS評価項目別では,活動量2.7±2.3日/週:4.2±2.3日/週,5M歩行6.4±2.4秒:4.4±1.3秒の2項目において有意差を認め,握力19.2±6.4kg:20.5±7.9kg,体重減少,倦怠感では有意差を認めなかった.その他の身体機能評価では,片脚立位で9.0±2.3秒:22.0±20.7秒,CS-30で10.5±1.9回:13.5±5.1回とそれぞれ有意差を認めた.

    【結論】

    両群ともにCS-30で下肢筋力低下を示していることから,今後の転倒予防のための筋力増強へのアプローチが必要となってくる.日下らは,生活空間と運動機能は相互に影響を及ぼすと述べており,A 群においてフレイルの割合が高く,活動量に有意差を認めたことから,腰部脊柱管狭窄症による下肢筋力低下を基に,活動量の低下が歩行頻度低下を招き,さらに下肢筋群の廃用性筋力低下を生じさせ,筋力・バランス項目において差が生じたと考える.本研究では,詳細な生活空間の把握までは至っていないため今後の課題と考える.今後,要介護・要支援者の減少には,地域や自治体で社会参加を増やす取り組みを行うことで,フレイルからの脱却や,プレフレイル・健常の維持が図れる可能性が示唆された.

    【倫理的配慮、説明と同意】

    本研究は,ヘルシンキ宣言に沿って,対象には本研究の概要を十分に説明し,書面で同意を得,摂津医誠会病院倫理委員会の承認を得た.

  • 星 真行, 荒木 訓, 高橋 寿和, 鈴木 崇広, 渡部 美聡, 渡部 崇久, 相澤 裕矢, 難波 樹央, 小下 弘嗣, 曽根 稔雅
    p. 13
    発行日: 2022/12/01
    公開日: 2023/06/07
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに】

    Motor Fitness Scale(以下、MFS)は14項目で構成される質問票であり、移動性・筋力・平衡性といった運動能力を評価できる。また、MFSは、信頼性、基準関連妥当性、構成概念妥当性、予測妥当性が高く、一般高齢者においてMFS得点はパフォーマンステストと関連があることが報告されている。本研究では、二次予防対象者を対象に、MFS得点をさらにカテゴリー別にし、パフォーマンステストとの関連性を再検討することが目的である。

    【方法】

    対象は、当地域在住の二次予防対象高齢者236名(男性51名女性185名)である。パフォーマンステストは、10m最大歩行時間、Timed Up and Go test(以下、TUG)、握力、左右膝伸展筋力、開眼・閉眼片脚立ち時間、ファンクショナルリーチテスト、長座位体前屈を実施した。質問紙では、MFS、Modified Falls Efficacy Scale、老研式活動能力指標を実施した。MFSは、移動性・筋力・平衡性を質問紙形式で評価するものであり、「はい」は1点、「いいえ」は0 点の14点満点である。移動性は項目1~6で6点満点、筋力が項目7 ~10で4点満点、平衡性が項目11~14で4点満点である。基本特性による群分けでは、前期および後期高齢者、要介護発生リスクとしてのMFS得点により、男性は11点、女性は9点をカットオフ値とし群分けした。統計学的には、2群間の差の検定には対応のないt検定

    (Mann-Whitney's U test)を用い、MFSと各パフォーマンステストおよび質問紙評価との相関の検討には、Spearmanの順位相関係数および重回帰分析を用いた。有意水準は5%とした。

    【結果】

    MFS得点による基本特性では、最大歩行速度やTUGによる移動性において、MFS得点が低ければパフォーマンステストも低下した

    (p<0.01)。また、MFS移動と最大歩行速度の相関係数は0.46(p<0.01)、年齢・性別を調整変数とした標準化回帰係数βは0.38であり、MFS移動のみでも正の関連が認められた(決定係数R 2 =0.29)。MFS 移動とTUGの相関係数は-0.42(p<0.01)、年齢・性別を調整変数とした標準化回帰係数βは-0.32であり、MFS移動のみでも負の関連が認められた(決定係数R 2 =0.26)。MFS筋力と左右の握力との相関は、MFS合計よりもMFS筋力の方が有意な関連性が認められた(決定係数R 2 =0.54)。

    【結論】

    MFS得点は一般高齢者だけでなく、二次予防対象高齢者のパフォーマンステストとも関連があることが示唆された。MFS得点は運動機能因子の中でも、移動性と関連が強い傾向にあり、MFS移動の6 項目のみの聞き取りでも十分に代替可能なスクリーニングである。高齢者の将来的な要介護発生リスクには移動性の低下が先行している可能性があると考える。また、MFS筋力の4項目は、筋力を代表する握力を十分反映していると考える。MFSは運動機能を評価する上で、パフォーマンステストに代替可能なスクリーニングとして活用できる可能性がある。

    【倫理的配慮、説明と同意】

    対象者には本研究に参加するにあたり、口頭と書面で十分に説明した後、書面にて同意を得た。また、当自治体健康長寿課より同意を得ている。

  • 田辺 佳樹, 堤 勇基, 藤井 隆文, 西川 正一郎
    p. 14
    発行日: 2022/12/01
    公開日: 2023/06/07
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに、目的】

    人工膝関節全置換術(TKA)を施行することにより、膝関節機能の改善、ADLが改善することが緒家により報告されている。TKA 患者の多くは高齢者であり、術前から身体機能低下を有しているケースが多い。今回、TKA前の身体機能低下が術後のADLの変化、身体機能の変化に及ぼす影響について後方視研究を行った。

    【方法】

    対象は当院にて術前、退院時、術後3ヶ月(3M)、術後6ヶ月(6M)に評価が実施可能であったTKA患者を対象とした。検討する評価項目は、KOOSにおける日常生活の項目(K-A)、TUG、CS-30を使用した。比較方法は、フレイルの判定基準として使用されるJ-CHS の判定項目の1つである歩行速度基準の1.0m/秒未満を使用し、術前評価において快適歩行速度による1.0m/秒未満であったものを非フレイル群、1.0m/秒を超過したものをフレイル群とした。内訳は、非フレイル群8名(男性: 1名、女性: 7名、平均年齢72.6±4.8歳)、フレイル群18名(男性: 2名、女性: 16名、平均年齢75.2±5.9歳)に対して、1)K-Aの結果(%)、2)TUG、3)CS-30を術前、退院時、3M、6Mの時期別の評価結果を比較検討した。統計学的分析には、Mann-WhitneyのU検定を使用して2群間の各項目を比較した。なお、有意水準は5%未満とした。

    【結果】

    K-Aの術前における比較は非フレイル群64.5±14.0%、フレイル群55.0±16.1%(p=0.06)と有意傾向が見られたが、退院時、3M、6 Mは有意差を認めなかった。TUGの術前における比較は非フレイル群10.5±3.1秒、フレイル群16±6.3秒(p =0.02)と有意差を認めたが、退院時は有意差を認めず、3Mで非フレイル群9.1±1.4秒、フレイル群12.2±3.4秒(p =0.01)、6Mでは非フレイル群8.4±1.3秒、フレイル群11.4±2.8秒(p =0.01)と有意差を認めた。CS-30における比較は、術前、退院時、3Mと有意差を認めなかったが、6Mにおいて非フレイル群12.8±2.4回、フレイル群11±5.4回(p =0.03)と有意差を認めた。

    【結論】

    K-Aにおける比較では、術前は有意傾向を認めたが、退院時、3M、6Mは有意差を認めず、両群共にTKAによってADLの改善を認めたことが推察される。TUGやCS-30における比較では、いずれも退院時に有意差を認めなかったが、TUGでは3M、6Mで、CS-30では6Mでいずれも有意差を認め、フレイル群で低下する結果となった。この結果より、両群共にTKAによってADL能力は向上したが、退院後の経時的変化によって身体機能に差が生じることが考えられた。今回、J-CHSの判定項目の1つである歩行速度で分析を行った結果、非フレイル群において有意に身体機能の改善が見られた。J-CHSには、体重減少や活動量減少などの身体的要素によりフレイル判定を行うが、フレイルには心理精神的要素、社会的要素も含まれる為、このような複合的な要素も含めて判定を行うには、基本チェックリストが有用とされている。今後、他の身体的要素や、複合的な要素も考慮した更なる調査が必要と考える。

    【倫理的配慮、説明と同意】

    患者を特定する個人情報に十分配慮して、堅牢なデータ保管の元に取り扱った。

  • 浦谷 明宏
    p. 15
    発行日: 2022/12/01
    公開日: 2023/06/07
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    【はじめに】

    ロコモティブシンドローム(以下ロコモ)とメタボリックシンドローム(以下メタボ)の病態には共通する部分が多く,お互いが危険因子となることも明らかとなっている.メタボの要因の一つである耐糖能異常は運動不足によって発症しやすくサルコペニアや転倒・骨折のリスクが高いためロコモを呈しやすい.しかし,ロコモとメタボを構成する身体機能の関係性を統計的に解析した研究は少ない.そこで本研究ではロコモとメタボ単独あるいは重複群の特徴とそれらを構成する身体機能の関連性を明らかにすることである.

    【方法】

    対象は2019年6月から2020年1月に当院人間ドックにてロコモ健診を受診した192名(男性129名女性63名)を解析対象とした.調査項目は年齢,性別,BMI,疼痛の程度,運動習慣の有無,HbA1C,ロコモ度テスト(2ステップテスト・立ち上がりテスト)・筋力(膝伸展・握力),歩行速度,身体組成(上肢/下肢筋肉量・四肢骨格筋量指数)とした.対象者をロコモ・メタボ非該当群は健常群,メタボ単独該当者はメタボ群,ロコモ単独該当者はロコモ群,ロコモ・メタボ該当者は重複群の4群に分け,X2検定およびKruskal-Wallis検定にて群間の変数を比較した.統計は,SPSS22を用い有意水準を5%未満とした.

    【結果】

    健常群72名(37.5%),ロコモ群83名(43.2%),メタボ群12名(6.3%)重複群25名(13.0%)であった.年齢はメタボ群(54.9±9.4)がロコモ群(65.6±11)より有意に低く若年であった(P<0.05).運動習慣と疼痛の程度は各群とも有意差は認めなかった.HbA1Cは重複群(6.5±1.3)がロコモ群(5.6±0.5)より有意に高く耐糖能異常を認めた(P<0.001).握力・歩行速度はロコモ群と重複群で有意差は認めず四肢骨格筋量はロコモ群(7.0±1.1)が重複群(7.9±0.9)より有意に低かった(P<0.01).骨格筋量を部位別でみると上肢の低下を有意に認めた(P<0.01).下肢筋力はロコモ群(1.4±0.4)・重複群(1.4±0.3)とも健常群(1.9±0.5)より有意に低下(P<0.01)をしていたがロコモ群と重複群で有意差は認めなかった.

    【結論】

    本研究はメタボ群がロコモ群より有意に若年であったことから中年期のメタボ,老年期のロコモの世代毎の課題を反映している.本研究では耐糖能異常は軽度でありHbA1cと身体機能との関連は認めなかった.また運動習慣のある者が全体で42.7%であり全国平均より高い集団を対象にしており運動の阻害因子となる疼痛は各群で差が生じなかった.よってロコモ群は重複群と比較し筋量の低下は認めるものの筋力・歩行速度は維持されていたことが推察できる.メタボや重複群よりロコモ群へより早期から複合的な問題として対処することが重要である.

    【倫理的配慮、説明と同意】

    本研究は,ヘルシンキ宣言に基づき、当院の臨床研究審査委員会の承認(承認番号:3330号)を受けるとともに,収集した個人情報に関しては,当院の個人情報保護規則を遵守し取り扱った.また,当院所定の様式を用いて,研究の目的と概要,対象患者,研究に使用されるカルテ情報等を文面化したものを倫理指針に従って当院ホームページにて対象者へ情報開示と研究参加の拒否権の提示を行った.

再発予防(運動習慣、行動変容)1
  • 村中 勇太, 北村 匡大
    p. 16
    発行日: 2022/12/01
    公開日: 2023/06/07
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに、目的】

    心不全患者の再入院に影響する因子においては血液データや内服薬の内容などが存在すると知られている。そこで当院心不全患者において再入院に関連する因子を検討することを目的とした。今後、理学療法士・作業療法士が関わることができる知見を得ることをねらいとする。

    【方法】

    平成27年10月25日から令和2年10月24日までの5年間に心臓リハビリテーションを施行した心不全患者連続542例のうち過去1年以内に心不全での入院歴のない患者で自宅退院となった症例284名(平均年齢80.2歳)を対象とし、退院後の再入院有無により再入院群(65名)と、非再入院群(219名)に分類した。転院(109名)、死亡例(18名)、老人保健施設(79名)、過去1年以内に入院歴のある症例(12名)は除外とした。年齢、性別、BMI、入院時のEF値・Hb値、β遮断薬・スピロノラクトンの内服有無、歩行能力、歩行改善度、不整脈・生活習慣病・循環器疾患の既往の有無を調査した。なお、歩行能力は病前と退院時において3段階評価(1 歩行困難、2 100M以下、3 100M以上)とし、歩行改善度は病前から退院時の3段階(1 改善、2 維持、3 低下)で分類した。両群間の特徴の比較にt検定、χ2 検定を用いて、再入院に関連する因子の検討に多重ロジスティック回帰分析を使用した。

    【結果】

    両群間の比較では、不整脈・生活習慣病・循環器疾患の既往・β遮断薬の有無、退院時歩行・歩行改善度に有意差を認めた(P<0.05)。再入院に関連する因子では、不整脈(P<0.005)、生活習慣病(P<0.01)、BMI(P<0.01)、歩行改善度(P<0.003)が抽出された。

    【結論】

    患者背景である生活習慣病は心不全と関連すること、中でも高血圧症や脂質異常症、糖尿病は心不全増悪の独立因子として知られている。また、不整脈に関して心拍出量などの循環動態、心機能に直接影響を与えることやHR>80bpmは予後不良と報告されていることから今回の研究でも有意差が出たと考えられる。BMI低値は低栄養の指標でありカヘキシーや心悪液質との関連が示唆されるが、診断基準の1つであるHb値は今回有意差を認めていない。このことから加齢に伴う低栄養が原因で起こる筋委縮なども含め、低栄養を主とする病態がBMI低値に関与している可能性が考えられる。

    更に歩行改善度に関して、低下例が心不全の再発に関与していることが示唆された。BMI低値の原因と考えられる低栄養からの病態が結果として筋委縮や全身耐久性低下を招き、リハビリ介入による効果を減弱させ歩行改善度が低くなり心不全の増悪、再入院に繋がっていることが考えられる。

    再入院の関連因子およびその集団の特徴から理学・作業療法による介入の知見は得られた。しかし、単に病前歩行能力を目指す介入では更なる低栄養からの心不全増悪を招く危険性があることも示唆された。今後はBMI低値の原因を追跡調査し、より詳細な運動負荷量の設定に繋げていきたい。

    【倫理的配慮、説明と同意】

    本研究はヘルシンキ宣言に基づき、当院倫理委員会の承認を得たうえで患者が特定されないよう個人情報は記載せず、データ管理にも配慮し、身体的負担が増大しないよう歩行能力の評価は入院時と退院時のみとした。尚、演題発表に関連し開示すべきCOI(利益相反)関係にある企業等はありません。

  • 井尻 朋人, 辻井 壮一, 川端 由紀, 鈴木 俊明
    p. 17
    発行日: 2022/12/01
    公開日: 2023/06/07
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに、目的】

    介護を要する高齢者が入居する施設では、介護による生活支援だけでなく、疾患の発症による入院の予防も重要となる。特定施設から医療機関へ入院した理由として、「肺炎」や「転倒骨折」が多いと報告されている(平成29年介護給付費分科会資料)。また肺炎に関しては、高齢者の場合の多くが誤嚥性肺炎であり、食事能力との関係が強い。このため、転倒転落の予防や安全な食事のための支援は重要である。当法人が有する介護付有料老人ホームでも、誤嚥性肺炎による入院や転倒転落が多く発生しており、その予防が必要であった。そこで、セラピストを配属し、入居者の転倒転落、誤嚥性肺炎予防を図ることとした。今回はその取り組みの成果について報告する。

    【方法】

    当法人の所有する介護付有料老人ホーム(56床)に理学療法士、言語聴覚士各1名を令和2年4月より配属し、入居者に対しての定期的なリハビリテーションの提供体制を構築した。理学療法士は基本的にすべての入居者に、言語聴覚士は食事や発話に問題を有する入居者に介入した。介入頻度は週1回、介入時間は15分を基本とした。直接的なリハビリテーションに加えて、他職種への情報提供、指導も実施した。配属前の平成31年度と配属後の令和2年度における転倒転落件数、誤嚥性肺炎による入院件数、区分変更があった際の要介護度の変化を集計した。これにより、理学療法士、言語聴覚士配属の効果を判定した。

    【結果】

    延べ入居者は平成31年度で87名(平均介護度3.69)、令和2年度で81名(平均介護度3.63)であり、年度による大きな違いはなかった。転倒転落件数は平成31年度から令和2年度で、月平均3.7件から2.3件(39%減)、誤嚥性肺炎での入院件数は月平均1.3件から0.8件(44%減)になった。区分変更のあった入居者の要介護度の変化は、平成31年度では0.57ポイントの悪化であり、令和2年度は0.13ポイントの悪化に変化した。各職種の介入内容として多かったものは、理学療法士では移乗・立ち上がり練習、ポジショニング・環境設定、他職種への指導であり、言語聴覚士では舌骨上・下筋のトレーニング、発声練習、食形態の変更であった。

    【結論】

    当施設は平均要介護度が約3.6であり、比較的重症度が高い。重度入居者に生じる事故として、本来介助の必要な入居者の1人での移動による転倒や車椅子からのずり落ち、ベッドでの自己体動による転落、食事場面での誤嚥が多く報告されている。本研究の介入内容の結果から、重度入居者に発生しやすい事故に関係する移乗練習やポジショニング、食事への支援が重要であった。これらの介入により、当施設での課題であった転倒転落件数や誤嚥性肺炎での入院件数が減少した。理学療法士、言語聴覚士の定期的な関わりは、日常生活動作能力、食事能力の維持向上により、転倒転落や誤嚥性肺炎予防に寄与したと考えられた。

    【倫理的配慮、説明と同意】

    本研究実施にあたり、対象者の氏名等の属性情報が漏洩しないよう、配慮して分析した。

  • 原 和志, 東馬場 要, 阿比留 友樹
    p. 18
    発行日: 2022/12/01
    公開日: 2023/06/07
    会議録・要旨集 フリー

    【目的】

    生活期リハビリテーションにおいて運動や日常生活活動等の身体活動量の把握は重要であり,食事や睡眠・休養、喫煙等と並んで健康に影響するとされる.しかし在宅サービスでは身体活動の量的把握は難しく,特に歩行以外の活動の報告は少ない.そこで今回,訪問リハビリテーション(以下,訪問リハ)を利用する2症例を対象として,生活スケジュール別における身体活動量を3軸加速度計付き活動量計を用いて測定し,その特徴を明らかにすることを目的とした.

    【症例】

    対象は,当事業所の訪問リハと通所介護(以下,DS)を週2回ずつ利用している2症例とした.症例1は要介護2の脳梗塞後遺症を呈した70歳代男性.移動は四点杖歩行にて屋内自立,屋外一部介助.ADLはBarthel Index90点.症例2は要支援2の脳梗塞後遺症を呈した80歳代女性.移動はシルバーカー歩行にて屋内自立,屋外は見守り.ADLはBarthel Index95点.

    【方法】

    日常生活中の身体活動量の測定は活動量計(Active style Pro HJA750C,オムロンヘルスケア社製)を用い入浴以外を除く24時間,7日間の測定を行った.測定項目は一日の総活動時間と活動強度別に1.5 METs 以下の座位行動,1.6-2.9 METsの低強度活動,3.0 METs 以上の中高強度活動の時間を算出した.また活動量計での測定とともに質問紙による一日の生活スケジュールの記載を依頼した.分析方法は訪問リハ日,DS日,利用なし日での各1日の測定項目の比較を行った.

    【結果】

    生活スケジュール別における身体活動量を訪問リハ日/DS日/利用なし日の順で示す.一日の総活動時間(分)では,症例1は559/560/894,症例2は998/1059/1101と2症例ともに利用なし日が最も長い活動時間を示した.活動強度別の時間(分)では,症例1は座位活動を448/376/760,低強度活動・中高強度活動111/184/134,症例2は座位活動を838/795/938,低強度活動・中高強度活動を160/264/163と2症例ともに座位活動は利用なし日,低強度活動・中高強度活動はDS日が最も長い活動時間を示した.質問紙より症例1の座位行動ではテレビ等の余暇活動,症例2の座位行動は脳トレや棒体操等の趣味活動・自主練習が多くを占めた.

    【結論】

    今回生活スケジュール別での身体活動量の特徴を整理することができた.生活スケジュールが類似した2症例でありスケジュール別での身体活動量も同様の傾向を示した.活動強度が高い割合を示したのはDS日であったが,総活動時間では2症例ともに利用なし日が最も長く,一日を通した活動時間に着目した評価も重要であると考える.また活動時間と併せて質問紙にて活動の種類を把握することで活動の質の評価も可能となり,時間帯や内容を考慮したより具体的な生活指導に繋がると思われる.

    【倫理的配慮、説明と同意】

    対象者に対して本研究の目的,方法を説明し,研究参加の同意を得た.

  • 芦澤 遼太, 本田 浩也, 武 昂樹, 吉澤 康平, 大場 慶宏, 亀山 裕斗, 中村 和美, 吉本 好延
    p. 19
    発行日: 2022/12/01
    公開日: 2023/06/07
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに,目的】

    軽症脳梗塞患者の再発予防の一つとして,身体活動量を向上することや座位行動(Sedentary Behavior SB)を減少することが推奨されている中高強度活動(Moderate to Vigorous Physical Activity MVPA)などの身体活動量を高めるアプローチのエビデンスはあるが,SBを減らすためのアプローチのエビデンスは十分ではない我々も軽症脳梗塞患者に対して身体活動量を高めるアプローチを行ったが,座位行動時間(SB Time SBT)は減少せず,SBを標的行動としたアプローチの必要性を示唆したまた,退院後のSBT を減少させるためには,行動変容アプローチを入院中から退院後まで継続する必要が考えられるが,先行研究による検証は不十分である

    本研究の目的は,入院中から退院後まで行うSBの減少を促すアプローチが従来の身体活動量を高めるアプローチと比べて退院後の軽症脳梗塞患者のSBTを減少させるかどうかを明らかにすることであった

    【方法】

    研究デザインはランダム化比較試験である脳梗塞により入院し,National Institute of Health Stroke Scale 5点未満かつMini-Mental State Examination24点以上の61名(年齢71.3±8.3歳,男性40名)を対象とし,介入群(SBの減少を促すアプローチ)と対照群(従来の身体活動量を高めるアプローチ)に割付した介入群には,入院中にSBの減少を促す教育と退院後のSBTの目標設定,SBTと歩数のセルフモニタリングを行い,退院後にSBTと歩数のセルフモニタリング,SBTを減らすことに関するステッカーの送付,電話による促しとフィードバックを行った対照群には,入院中のみ身体活動量を増やすための教育と歩数のセルフモニタリングを行った主要評価項目であるSBTは,オムロン活動量計Active style Pro HJA-750Cを使用し入院中から退院3か月後まで測定した活動量計の装着時間における1.5METs 以下の活動時間の割合をSBT(%)とした入院中の介入前をベースラインとし,退院3か月後に評価を行い,1週間の平均値を採用した副次評価項目は,MVPAと低強度活動(METs・時),歩数,スクリーンタイム,身体活動自己効力感,Geriatric Depression Scale15,The Japanese version of the Pittsburgh Sleep Quality Indexとした2群間の比較として対応のないt検定とMann-Whitney U testを行い,効果量(d)も求めた有意水準は5%とした

    【結果】

    完遂者は両群ともに26名で計52名(85.2%)であった介入群は対照群と比べて,退院3か月後のSBTが有意に短く(介入群48.6%,対照群57.5%,p=0.009,d=0.76),MVPA,歩数が有意に多かった(MVPA 介入群5.7METs・時,対照群4.1METs・時,p=0.018,d=0.68歩数介入群7590.0歩,対照群5763.8歩,p=0.042,d=0.58)

    【結論】

    入院中から退院後まで継続したSBの減少を促すアプローチが軽症脳梗塞患者のSBTを減少させることが示唆された

    【倫理的配慮、説明と同意】

    本研究は,聖隷三方原病院,聖隷クリストファー大学の倫理委員会の承認を得て実施した(研究番号第19-46,認証番号19057)また,University hospital Medical Information Network(UMIN)に事前に登録した(登録番号UMIN000038616)対象者には,研究責任者が書面および口頭にて研究に関する説明と依頼を行った上で,本研究への参加に関する同意を書面で得て実施した対象者には,本研究への参加は自由意志であり,いつでも参加同意の撤回が可能であること,参加に同意されない場合や中断された場合にも不利益が生じないこと,本研究で知り得た個人情報は厳重に守られること,研究結果は特定の個人が識別できないよう処理された結果のみ公表することなどを説明した

  • 大沼 剛, 小暮 英輔, 吉松 竜貴, 杉田 裕汰, 原 毅, 阿部 勉
    p. 20
    発行日: 2022/12/01
    公開日: 2023/06/07
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに,目的】

    訪問リハビリテーション(リハ)は安定した在宅生活を継続するための一助として期待される.訪問リハ対象者の身体機能低下は様々であり,要介護度が比較的重度な例では,入院や死亡などによって短期間で在宅生活が中止となることも少なくない.先行研究において入院リスク要因は様々述べられているが,包括的に評価できる尺度はない.したがって,臨床的に活用可能で,訪問リハ利用者の入院リスクを包括的かつ簡便に評価できるチェックシートが必要であると考える.そこで本研究は,訪問リハビリテーション利用者の入院リスクを把握するためのチェックシート(以下,RCS)を開発し,調査後6ヶ月以内の入院の有無を調査することでRCSの臨床的有用性を確認することを目的とした.

    【方法】

    RCSは,10年以上臨床経験のある理学療法士5名がデルファイ法を用いて,リスク要因として報告されている先行研究を参考に作成した.RCSの構成は,総合入院リスク,肺炎リスク,転倒・骨折リスク,脳血管疾患リスク,心疾患リスク,呼吸器疾患リスクの5項目を大項目として,各々小項目を3~5設問とした.RCS得点が高いほど入院リスクが高いことを示す.調査対象は,2020年8月~11月に東京都内の訪問看護ステーションからの訪問リハを利用している利用者40名とした.また,調査後6ヶ月以内に1週間以上の加療を必要とする入院の有無を調査し,入院あり群となし群に分けて比較し,ロジスティック回帰分析を行い入院の関連要因を抽出した.

    【結果】

    RCSの設問は,総合入院リスク(身体活動,身体組成,服薬コンプライアンス,認知症および中枢神経系疾患の既往),肺炎リスク(水分によるムセ,胃瘻造設,慢性呼吸不全,年齢,口腔衛生),転倒・骨折リスク(転倒歴,居住環境,骨粗鬆症),脳血管障害リスク(高血圧,糖尿病や脂質異常症,飲酒量),心疾患リスク(心機能低下による入院歴,浮腫,労作時の息切れ,水分や塩分制限,心疾患既往),呼吸器疾患リスク(急性増悪による入院歴,室内環境,喀痰量,在宅酸素療法の有無,酸素流量のアドヒアランス)とした.評価は5分程度で可能であった.調査期間中の死亡者はいなかった.入院リスクを評価した結果,RCS合計点は,中央値6(最小値1-最大値14)点であり,入院あり群7名,8(6-14)点,入院なし群33名,5(1-10)点で有意差(P<0.01)が認められた.年齢と性別を調整変数,入院の有無を従属変数,RCS得点を独立変数としたロジスティック回帰分析を行った結果,RCS得点が有意な要因として抽出された(OR=1.834,p<0.05,95%CI=1.078-3.118).

    【結論】

    本研究では,訪問リハ利用者の入院リスクを把握するためRCSを作成した.RCSは簡便に短時間で評価可能で有り,ロジスティック回帰分析の結果,有意な関連要因として抽出されたことから,入院リスクを評価する上で有用な指標であると考えられた.

    【倫理的配慮、説明と同意】

    本研究はヘルシンキ宣言に基づき計画した.なお対象者には,研究の趣旨を十分説明し,書面にて同意を得た.本研究は国際医療福祉大学大学院倫理審査委員会の承認(承認番号19-Io-23)を得て実施した.

健康増進・ヘルスプロモーション3
  • 福井 一輝, 前田 慶明, 小宮 諒, 金田 和輝, 黒田 彩世, 浦辺 幸夫
    p. 21
    発行日: 2022/12/01
    公開日: 2023/06/07
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに、目的】

    2020年3月11日,世界保健機関(WHO)により新型コロナウイルス感染症(以下;COVID-19)がパンデミックと宣言されてから,多くの人々の生活様式が一変した.日本でも緊急事態宣言が発動されるなど,外出自粛が求められるようになった.この状況下で,大学生は対面での授業ができず,遠隔授業に切り替わるなど行動が大きく制約されてきた.緊急事態宣言下では,大学生の約8割が身体活動量の減少を認めたという報告もあがっており(中原ら,2021),不活動による健康への影響が大きく懸念されている.広島県では,2020年12月17日に「新型コロナ感染拡大防止集中対策」が発令され,2021年2月21日までの期間,外出自粛が要請された.しかし,実際に外出自粛要請が大学生の身体活動量や精神的健康度にどのような影響を与えていたかは不明である.そこで本研究では,外出自粛要請期間中,解除後の大学生の身体活動量および精神的健康度を調査し,実態を把握することを目的とした.

    【方法】

    対象は,広島大学に在学する学生のうち,アンケート調査への同意が得られた61名とした.2021年2月1日~10日,2021年4月1 日~10日の期間でそれぞれアンケートを実施した.1回目のアンケートでは,外出自粛要請期間中の1か月間(以下;期間中)について,2回目のアンケートでは,外出自粛要請が解除されてからの1か月間(以下;解除後)について調査した.調査項目は,基本情報,International Physical Activity Questionnaire-Short版(以下;IPAQ-S),WHO-5精神的健康状態表(以下;WHO-5)とし,期間中,解除後での活動量および精神的健康度を評価した.統計学的解析には,期間中と解除後の差の比較にWilcoxon符号順位検定を用いた.いずれも有意水準は5%とした.

    【結果】

    対象の基本情報は,年齢21.6±1.5歳,身長157.6±43.6 cm,体重53.7±17.8 kg,BMI 20.1±5.8 m2/kgであった.IPAQ-Sは,期間中;1486.2±1772.9 MET-min/week,解除後;2410.1±3738.7MET-min/weekで解除後に有意に増加していた(p<0.05).WHO-5は,16.4±5.0点,解除後;17.0±3.9点で解除後に有意な変化は認めなかった(p=0.35).

    【結論】

    長期間の外出制限は,身体活動量と精神的健康度を低下させることが懸念されている(Glen E, et al,2020).しかし,今回の外出自粛要請期間では,大学生の身体活動量を低下させるが,精神的健康度にまで影響を与えないことが示された.一方で,身体活動量の低下は若年者のロコモティブシンドロームのリスクを高めるため(植杉ら, 2018),外出自粛期間中も身体活動量を維持することが必要である.COVID-19流行の収束がみえない現状では,今後も外出自粛を余儀なくされる状況が頻発することが予想される.大学生の身体活動量の低下を予防するために,自宅で身体活動量を増加可能な方法を考えていくことが今後重要になってくると考える.

    【倫理的配慮、説明と同意】

    本研究はヘルシンキ宣言に基づき,研究の目的および研究方法をWebページ上で文章にて十分に説明し,同意を得られた者を対象とした.なお,本研究は広島大学疫学研究倫理審査委員会の承認を得て実施した(承認番号:E-2250).

  • 黒田 彩世, 前田 慶明, 小宮 諒, 福井 一輝, 金田 和輝, 浦邉 幸夫
    p. 22
    発行日: 2022/12/01
    公開日: 2023/06/07
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに、目的】

    新型コロナウイルス感染症流行予防対策の結果,生活範囲が狭小化した.これは大学生においても同様であり,緊急事態宣言下では大学生の約8割で身体活動量が減少した(中原ら,2021).このように生活範囲が狭小化した状況下では,身体活動量を維持するために定期的な運動習慣を身につけることが求められている.広島大学では,2020年12月3日から2021年2月15日まで課外活動が禁止された.このことは,大学生の身体活動量の減少に拍車をかけることが予想される.一方で,運動部に所属しており,普段から運動習慣がある学生は自主的に運動を行い,身体活動量を維持していた可能性が考えられる.しかし,実際に運動部に所属していた者の課外活動禁止期間中の身体活動量や運動習慣は不明である.そこで本研究では,課外活動禁止期間中の大学生の身体活動量および運動習慣が,運動部の所属の有無で異なるかを調査することを目的とした.

    【方法】

    対象は,広島大学に在学する学生400名に募集をかけ,アンケート調査への同意が得られた188名とした(回収率:47%).2021年2月1日~2月10日の期間でGoogleフォームを用いてアンケートを実施し,課外活動禁止期間中(以下;期間中)の1ヶ月間(2021年1月1日~1月31日)について調査した.調査項目は,基本情報(年齢,身長,体重,運動部所属の有無,期間中の運動習慣の有無),International Physical Activity Questionnaire-Short版(以下;IPAQ-S)とした.運動部へ所属している大学生(以下;所属群)と所属していない大学生(以下;非所属群)の身体活動量の比較にMann Whitney U検定を用い,運動習慣の有無の比較にカイ二乗検定を用いた.有意水準は5%とした.

    【結果】

    対象188名の内訳は,所属群85名,非所属群103名であった.基本情報は,所属群:年齢21.2±1.6歳,身長164.8±8.2 cm,体重59.1±10.2 kg,非所属群:年齢20.9±3.6歳,身長158.8±24.0 cm,体重55.7±13.0 kg,であった.IPAQ-Sの合計点は,所属群:1795±1679 MET-min/week,非所属群:1023±1279 MET-min/weekであり,所属群で有意に高値を示した(p<0.01).期間中の運動習慣があった者は,所属群47名(55.3%),非所属群30名(29.1%)で,所属群で有意に高値を示した(p<0.01).

    【結論】

    所属群では,課外活動禁止以前から運動する習慣が身についており,期間中も自主的に運動できていた学生が多い結果,身体活動量が非所属群より大きかった可能性が考えられる.一方,非所属群では,もともと運動習慣がないため期間中も自主的に運動せず,日常生活のみ行っていたことから身体活動量が所属群より小さかったと予想される.WHOガイダンスでも家庭での身体活動量を維持することが推奨されていることから(WHO,2020),運動部に所属していない学生が定期的に運動できる環境を提供することが今後重要になってくる.

    【倫理的配慮、説明と同意】

    本研究はヘルシンキ宣言に基づき,研究の目的および研究方法をWebページ上で文章にて十分に説明し,同意を得られた者を対象とした.なお,本研究は広島大学疫学研究倫理審査委員会の承認を得て実施した(承認番号:E-2250).

  • 財田 征典, 道下 将矢, 宮坂 裕輝, 山口 賢一郎
    p. 23
    発行日: 2022/12/01
    公開日: 2023/06/07
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに】

    近年,健康経営・健康投資に対する企業の取り組みは関心を増している産業理学療法部門の中でも,多様化する労働者の健康確保,生産年齢人口の減少への対応が重要な課題となっており,理学療法士の経験と知識は企業及び労働者における諸問題解決の一役を担えると期待されている

    今回は工作機械メーカーA社に勤務する社員を対象に,当院理学療法士による14週間の運動教室を実施した為,効果判定も踏まえて報告する

    【方法】

    対象はA社に従事するBMI25以上35未満の肥満,年齢35歳以上の男性,14週間の運動プログラムを完遂した49名(年齢53.6±7.0歳)とした

    運動プログラムの内容は,全3回の対面指導とオンライン指導を実施した初回指導では6~8名1グループの集団指導(オリエンテーション・身体測定・有酸素運動指導・レジスタンストレーニング指導)を実施した中間指導では中間経過をもとに個別性のある介入を目的に3グループに分け指導を行ったAグループを順調に経過しており至適運動の再処方を目的とした追い込み型グループ,Bグループを結果が出ず停滞しており仲間意識の醸成よる動機付けを目的とした停滞型グループ,Cグループを疼痛や機能障害により運動継続が困難でありセルフケア指導や運動の代替手段の提案を目的とした非運動型グループとしたなお,A・Cグループは1対1指導,Bグループはグループワーク指導とした最終指導では最終測定の結果より17週間の成果と課題について個別フィードバックを実施した

    効果判定として,メインアウトカムを14週間で体重2kg減量かつ腹囲2cm減少とし,運動教室前後での体重・腹囲・収縮期血圧・拡張期血圧に対応のあるt検定を行い,有意水準は5%とした

    【結果】

    メインアウトカムを達成した対象者は32名(65.3%)であった

    ITT(intention-to-treat)分析の結果,運動教室前後で体重が平均2.7kg(86.1±10.9kg vs 83.5±10.7kg)(p<0.01),腹囲が平均4.1cm(100.6±7.6cm vs 96.5±7.9cm)(p<0.01),収縮期血圧が平均6.3mmHg(148.4±18.7mmHg vs 142.2±17.5mmHg)(p<0.05)と有意に減少した

    【結論】

    健康増進のための疾病一次予防を目的として運動教室を実施した初回指導では,行動変容ステージモデルでの関心期から準備期にあたるステージと考え運動療法と食事療法を重要視した指導を実施したしかし,7週経過した時点で体重減量できていない対象者が7割程度であった中間指導でのBグループに当たるグループワークにて,他者への行動宣言をし自己の解放を実施したこと,またオンラインツールを利用した遠隔的な指導によりメインアウトカム達成率向上に寄与し,A社の健康経営に貢献できたと考える

    一方で運動習慣の定着には6ヶ月間要すとされており,継続したフォローアップが重要となると考える

    理学療法士による14週間の健康増進運動プログラムは,体重減量・腹囲減少・収縮期血圧低下に効果的であった

    【倫理的配慮、説明と同意】

    本研究は,当院の倫理委員会の承認を得て行われた

    オプトアウトにより対象者の本研究への参加の拒否の機会を保障するため,研究計画の概要,利用する情報の種類と対象となる期間を本院ホームページ上に公開し,1ヵ月のオプトアウト期間の後に研究を開始した

  • 武田 広道, 山本 晃太, 新原 航季, 坂下 千尋, 林 信介, 松本 大輔, 高取 克彦
    p. 24
    発行日: 2022/12/01
    公開日: 2023/06/07
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに,目的】

    高齢者の運動継続率向上のための介入方法として,バディスタイル介入(仲間同士でサポートしあって運動を促す方法)の有効性が示されている.しかし先行研究では健常なボランティアをバディとしており,障害高齢者同士の介入効果は明らかとなっていない.そこで本研究では,地域在住障害高齢者同士のバディスタイル介入が12週間の在宅運動プログラムの運動継続率および身体機能,精神・心理機能を改善させるかどうかを明らかにすることを目的とした.

    【方法】

    大阪市にある3ヶ所の通所介護事業所を利用している要支援・要介護高齢者65名を対象とした.適格基準は,独歩が可能な者,除外基準は,中等度以上の認知機能障害のある者とした.適格基準を満たした者の内,65名(年齢79.3±5.9歳,男性13名,女性52名,要支援1~要介護2)をバディ介入群と対照群に置換ブロック無作為化を用いて群分けをした.参加者には,12週間の在宅運動プログラム用紙と運動記録カレンダーを配布し,理学療法士によって本人に合わせた運動を指導した.バディ介入群(n=33)は,週に1回,通所介護事業所で,バディ群の参加者同士で運動継続状況のモニタリング,フィードバック,情緒的サポートを受けるようにした.対照群(n=32)は,バディ介入を除いて同様のプログラムを行った.主要アウトカムは運動継続率とし,運動記録カレンダーを用いて評価した.これは1~4週(Phase1),5~8週(Phase2),9~12週(Phase3)に分け,自宅で運動を実施した項目が1つ以上ある日の割合として算出した.副次アウトカムはShort physical performance battery(4m歩行時間,5回立ち上がり時間,タンデム立位時間),握力,膝関節伸展筋力,質問票(運動自己効力感尺度,アパシースコア)を用いて評価した.統計解析では,群間効果について共分散分析を行い,群内効果にはFriedman検定,T検定,Wilcoxon符号順位検定を行った.なお有意水準は5%とした.効果量はd=0.2, f=0.1を小,d=0.5, f=0.25を中,d=0.8, f=0.4を大とした.

    【結果】

    運動継続率の群間効果ではPhase3で,介入群(96.4%)が対照群(78.6%)よりも有意に高値を示した.また効果量は大であった(f=0.4).群内効果では,対照群でPhase1(85.7%)と比較しPhase3(78.6%)で有意に低値を示した.身体機能,精神・心理機能に群間効果はみられなかった.群内効果では介入群で,ベースラインと比較して,12週間後に,膝関節伸展筋力(d=0.6),4m歩行時間(d=0.3),5回立ち上がり時間(d=0.5)が有意に改善した.対照群では,膝関節伸展筋力(d=0.8),4m歩行時間(d=0.4),5回立ち上がり時間(d=0.4),タンデム立位時間(d=0.4),アパシースコア(d=0.4)が有意に改善した.

    【結論】

    本研究の結果,12週間の在宅運動プログラムに障害高齢者同士のバディスタイル介入を加えることで運動継続率を維持でき,在宅での運動定着につながる可能性が示唆された.

    【倫理的配慮、説明と同意】

    参加者には本研究の目的や方法を書面および口頭にて十分に説明し,書面にて同意を得た.また,本研究は畿央大学研究倫理委員会の承認を得て実施した(R1-30).

  • 田村 靖明, 千川 隆志, 眞鍋 裕昭, 出口 憲市, 橋本 祐司, 島田 祐希
    p. 25
    発行日: 2022/12/01
    公開日: 2023/06/07
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに】

    整形外科疾患と循環器疾患との関係について,変形性関節症は高齢者の心血管疾患の危険因子であることが報告されており,変形性膝関節症については,人工膝関節全置換術の施行により,重度の心血管疾患発症リスクが低下することが明らかにされている.一方,腰部脊柱狭窄症(LSS)は,脊椎の変性疾患であるが,循環器疾患との関連性が十分に明らかにされていない.そのため,腰椎変性疾患および腰椎変性疾患に対する観血的治療の周術期では,疾患特異的な活動量の低下がみられるにもかかわらず,動脈スティフネスへの影響を考慮したリハビリテーションが確立されていない.そこで本研究では,LSSに対する観血的治療前後の動脈スティフネスの変化を検討とした.

    【方法】

    LSSに対する観血的治療を施行し,喫煙者,糖尿病,心血管疾患の患者などを除外した65.0±9.1歳の男性8名,閉経後の女性3名を対象とした.手術内容は,腰椎椎弓切除術3例,腰椎後方椎体間固定術(PLIF)2例,腰椎椎弓切除術/腰椎椎間板切除術4例,腰椎椎弓切除術/完全内視鏡下腰椎椎間板摘出術1例,腰椎椎弓切除術/PLIF 1例であった.対象者は入院の翌日に手術が施行され,後療法はLSS の一般的な理学療法を手術翌日より開始した.手術前,術後3日後および7日後に動脈機能の指標として,上腕足首間脈波伝播速度(baPWV),収縮期/拡張期血圧(SBP/DBP)を測定した.観血的治療前後の動脈機能の経時変化を検討するために,反復測定による一元配置分散分析を行い,事後検定にはBonferroni法をそれぞれ用いた.統計処理はSPSS ver25.0を使用し,有意水準を5%とした.

    【結果】

    手術前,術後3日後および7日後のbaPWVは,16.4 ± 3.8 m/sec,14.6 ± 2.5 m/sec,14.6 ± 2.8 m/secであり,手術前と7日後の間に有意差が認められた.SBPは,133.9 ± 13.3 mmHg,122.7 ± 10.2mmHg,124.3 ± 12.3 mmHg,DBPは,80.9 ± 7.8 mmHg,73.3± 6.9 mmHg,77.4 ± 9.4 mmHgであり,それぞれ手術前と術後3 日後の間に有意差が認められた.

    【結論】

    LSSに対する観血的治療前後に,動脈スティフネスの変化を検討した結果,baPWVおよびSBP/DBPは,手術前と比較して手術後に低下した.したがって,LSSに対する観血的治療は循環器疾患発症リスクの低減に有効である可能性が示された.一方,LSS患者では動脈スティフネスが増大する傾向があり,保存療法では,動脈スティフネスの悪化を予防する理学療法の必要性が示唆された.

    【倫理的配慮、説明と同意】

    本研究は,徳島鳴門病院倫理審査委員会の承諾を得たものであり(受付番号1342),被験者には,事前に文章および口頭にて研究内容・趣旨,参加の拒否・撤回・中断などについて説明し,書面にて承諾を得た後に実験を開始した.

高齢者の栄養管理
  • 高橋 浩平, 田村 哲郎
    p. 26
    発行日: 2022/12/01
    公開日: 2023/06/07
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに、目的】

    大腿骨近位部骨折術後患者では、低栄養やサルコペニアを合併する場合が多く、これらは機能的転帰に影響を与える。また、筋肉量の減少は術後1年間続くことが報告されている。リハビリテーション(以下、リハ)を実施している大腿骨近位部骨折患者に対しては、栄養療法との併用が有効である。今回、大腿骨近位部骨折術後に低栄養とサルコペニアを合併した外来リハ患者に対し、食品摂取多様性スコアなどを用いた栄養指導を併用し、良好な結果を得たため、報告する。

    【症例】

    87歳、男性。身長 168cm、受傷前体重62.0kg、BMI21.9。診断名:右大腿骨近位部骨折。既往歴:左大腿骨近位部骨折、腰椎圧迫骨折。現病歴:X年8月6日自転車走行中に転倒し、受傷した。8月13日に観血的整復固定術を施行し、8月25日に自宅退院したが、10月上旬より右股関節の疼痛が増強した。大腿骨頭が圧潰し、転位したため、10月21日に抜釘、人工骨頭置換術を施行した。11月16日に自宅退院したが、歩行が不安定なため、1月15日当院での外来リハを希望され、開始した。

    【初期評価】

    体重56.1kg、BMI 19.8、体重減少率8%(5ヶ月間)、食欲低下を認め、低栄養の国際基準(the Global Leadership Initiative on Malnutrition:GLIM 基準)で低栄養に該当した。また、下腿周径31.5cm/31.0cm、握力21.0kg、歩行速度0.8m/秒、5回立ち上がりテスト13.6秒であり、サルコペニアの可能性があった。Barthel Indexは85点であった。

    【方法】

    理学療法はレジスタンストレーニング、バランス練習、歩行練習などを40分間、週1回程度実施した。食事状況の評価として、食品摂取多様性スコアとTake10!食生活チェックシートを用いた。また、Take10!食生活チェックシートに管理栄養士が栄養アドバイスを記載し、フィードバックした。

    【結果】

    外来リハ開始5ヶ月後、体重57.9kg、BMI20.5、下腿周径 34.0cm/33.5cm、握力28.0kg、歩行速度1.1m/秒、5回立ち上がりテスト9.7秒であり、栄養状態とサルコペニアは改善した。Barthel Indexは100点であった。食品摂取多様性スコアは5点→7点に増加した。

    【結論】

    レジスタンストレーニングを中心とした理学療法とTake10!食生活チェックシートを用いた栄養指導を実施したことで、食品摂取多様性スコアが向上し、低栄養とサルコペニア、ADLが改善した。外来リハ患者では食事摂取量を把握できないことが多いため、食品摂取多様性スコアなどを用いた評価、介入が有用な可能性がある。

    【倫理的配慮、説明と同意】

    発表に関して、本人に目的及び内容を説明し同意を得た。

  • 柳 吉美
    p. 27
    発行日: 2022/12/01
    公開日: 2023/06/07
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに、目的】

    食べるためのPEG(経皮内視鏡的胃瘻造設術)、経管栄養により栄養状態が向上し、経口摂取可能となった症例報告はあるが、中心静脈栄養による報告はほとんどない。また、臨床において入院を機に、経口摂取困難となる症例を散見する。今回、誤嚥性肺炎を繰り返し発症し、経口摂取困難となった症例に対して、皮下埋め込み式CVポートを造設し栄養管理を行い、経口摂取獲得を含むADL向上が得られたので報告する。

    【方法】

    独居でADL自立していた70歳代男性。急性膵炎で入院となり、改善後、入院12日後から食事開始、入院20日後より理学療法を開始した。当初、起立・歩行練習を行えていたが、その後、誤嚥性肺炎を繰り返し発症して、そのたびに経口摂取と理学療法が中止となり、入院108日後には体重8kg減少(BMIが18.9から15.7に低下)、経口摂取困難でADL全介助となった。経管栄養の導入を提案されたが、本症例が頑なに拒否し、経口摂取を強く望んだ。そのため、長期の静脈栄養が必要と判断され、入院111日後にCVポートを造設して中心静脈栄養を開始した。同時に、多職種協働として、抗重力姿勢での覚醒改善を図り、クッションや枕を使用した摂食姿勢の調整や、間接的嚥下練習を開始した。その後ペーストやゼリーでの直接的嚥下練習を併用し補助食品の追加や調整を行い、一口量制限のため小さいスプーンを使用し見守りや声かけを行った。呼吸リハビリテーションとして、腹式呼吸法や口すぼめ呼吸をして呼吸と嚥下の協調を図った。離床可能後は、起立・歩行練習を追加し1 日1時間を週6日実施した。

    【結果】

    理学療法開始→CVポート施行→入院147日後に療養型病院へ転院までの身体・検査所見、評価として、体重:48.3→40.3→40.8kg、握力:13→未測定→11kg、ALB:2.1→2.3→2.7g/dl、CRP:3.35→0.7→1.01mg/dl、HDS-R:11→未測定→25点、BI:15→0→75点であった。療養型病院へ転院したが、自宅復帰への住環境と社会環境調整のため当院に転院され、軟飯と刻み、水分トロミにて経口摂取で独歩可能となり、自宅退院となった。

    【結論】

    誤嚥性肺炎を発症する症例に対して、早期から呼吸リハビリテーションに加え、摂食嚥下練習と栄養管理を行い体重減少やADL低下を予防することが重要であると考えられる。長期的に経口摂取による必要栄養量を確保できない場合、経管栄養が優先されるべきであるが、本症例のように、経管栄養が困難な場合はCVポートによる中心静脈栄養もADL向上において、有効であると示唆される。

    【倫理的配慮、説明と同意】

    報告にあたり、個人情報に配慮して、本症例にヘルシンキ宣言に基づいた十分な説明を行い、同意を得た。

  • 石光 雄太, 山田 祥子, 末竹 諒, 松田 和樹, 村川 慶多
    p. 28
    発行日: 2022/12/01
    公開日: 2023/06/07
    会議録・要旨集 フリー

    【目的】

    当院は呼吸リハビリテーション(以下:呼吸リハ)が主となる呼吸器専門病院である.呼吸リハのステートメントによると呼吸リハの介入時期は急性期から回復期,更には終末期まではシームレスな介入が可能であるとされている.即ち状態の変化に応じ,柔軟に介入プログラムを調整していくことが肝要と考えられる.その中で難渋する問題点として摂食嚥下障害が挙げられる.慢性閉塞性肺疾患等の慢性呼吸器疾患は吸気後の嚥下を合併することが報告され,誤嚥リスクが高いことが知られている.その様な背景からも終末期の食事は本人のニーズに沿わない形で制限されるケースも少なくない.そこで今回,嚥下理学療法の観点から医師や言語聴覚士と共同で介入し,終末期でも可能な限り安全・安楽に食事が継続出来る様に介入した為,ここに報告する.

    【方式】

    安静時より呼吸困難が強い慢性閉塞性肺疾患(GOLD:IV)の症例と,間質性肺炎の急性増悪により高流量経鼻カニュラ酸素療法管理となり,高濃度酸素投与が必要となった為,食事の継続の可否が問われた2例を対象とした.介入方法として実際に言語聴覚士・医師と共に摂食嚥下場面へ介入し,食事前のコンディショニング方法の検討や,食事(休憩)姿勢の調整,高流量経鼻カニュラ酸素療法におけるFlowの設定検討,その他バイタルサインを表記したモニター等の環境を活用し,休憩のタイミング指導などを実施した.

    【結果】

    食事前のコンディショニングや,食事(休憩)姿勢のポジショニング,モニター等の環境因子を活用した休憩タイミングの指導を行うことで,SpO2低下やPR上昇等のバイタルサインの変動が軽減した.また患者からも「この姿勢の方法なら呼吸が楽」,「食べる前に調整してもらえると飲み込みやすい」と自覚的呼吸困難の改善も図れた.

    【結論】

    嚥下理学療法における理学療法士の役割は多職種と連携して摂食嚥下障害・栄養障害の有無を把握し,摂食嚥下機能を阻害する因子を呼吸・姿勢・身体機能などの視点から多角的に評価した上で,状況に適したゴールを設定し,運動療法などの理学療法技術を通じて,摂食嚥下に関わる局所および全身機能・活動・参加・QOLを最大限高めることと定義されている.終末期領域における経口摂取は医学的知見と倫理的知見の間にある領域と考えられるため,上記定義を吟味しつつ,今後も他職種で介入方法検討し,患者に寄り添った介入方法を提供していきたい.

    【倫理的配慮、説明と同意】

    ヘルシンキ宣言,人間を対象とする医学研究の倫理的原則の下,本報告を行うにあたり,対象者へ十分な説明と同意を得て実施した.

  • 柴田 寛幸, 戸ノ崎 琴子, 大西 史師
    p. 29
    発行日: 2022/12/01
    公開日: 2023/06/07
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに,目的】

    当院の入院高齢患者における低栄養患者の割合と低栄養患者における疾患特性を調査し,低栄養患者に対するリハビリの一助とすることである.

    【方法】

    対象は,令和2年4月から令和3年3月までの1年間で当院に入院した1714名のうち65歳以上とした.術後抜釘目的の患者や血液データに欠損のあった患者,再入院患者は除外した.方法は,入院時に栄養スクリーニングとして,Controlling Nutritional Status(以下,CONUT),Nutritional Assessment-short form(以下,MNA-SF)を用いて評価し,低栄養患者の割合を調査した.また疾患より骨折群と非骨折群に分類し,疾患特性を調査した.骨折群については高齢者の四大骨折である橈骨遠位端骨折,上腕骨近位端骨折,大腿骨近位部骨折,脊椎圧迫骨折での疾患特性を調査した.

    【結果】

    調査対象は術後抜釘目的の患者73名,血液データ欠損のあった患者4名,再入院患者2名を除いた717名であった.717名のうち,CONUTスコアから栄養障害(軽度,中等度,高度)と判別されたのは350名(48.8%),MNA-SFスコアから低栄養のリスクありもしくは低栄養と判別されたのは393名(54.8%)であり,おおよそ半数程度の患者に栄養状態の問題があった.骨折群と非骨折群との比較では,骨折群が297名,非骨折群が420名で.年齢,性別,BMI,CONUTスコア,MNA-SFスコアの全ての項目において有意差があり(p<0.01),骨折群は年齢が高く,女性が多く,BMIが低く,CONUTスコアが高く,MNA-SFスコアが低かった.CONUTスコアから判別する栄養レベルは骨折群で軽度が169名(56.9%),中等度が23名(7.7%),高度が1名(0.3%)であり,非骨折群は軽度が141名(33.6%),中等度が15名(3.6%),高度が1名(0.2%)であった.またMNA-SFスコアから判別する栄養状態は骨折群でAt risk が154名(51.9%),低栄養が59名(19.9%),非骨折群ではAt riskが166名(39.5%),低栄養が14名(3.3%)であった.四大骨折別ではCONUTスコアより橈骨遠位端骨折は軽度が31名(56.4%),中等度および高度はいなかった.上腕骨近位端骨折は軽度が9名(64.3%),中等度は1名(7%),高度はいなかった.大腿骨近位部骨折は軽度が58名(65.2%),中等度が12名(13.5%),高度はいなかった.脊椎圧迫骨折は軽度が45名(60.8%),中等度が5名(6.8%)で,高度が1 名(1.4%)であった.またMNA-SFスコアより橈骨遠位端骨折はAt riskが31名(56.4%),低栄養が2名(3.6%),上腕骨遠位端骨折はAt riskが10名(71.4%),低栄養が1名(7.1%)であった.大腿骨近位部骨折はAt riskが40名(44.9%),低栄養が37名(41.6%),脊椎圧迫骨折はAt riskが41名(55.4%),低栄養が16名(21.6%)であった.

    【結論】

    高齢入院患者の約半数が栄養状態不良であった.また骨折群と非骨折群を比較すると骨折群で栄養状態不良の患者が多く,高齢者の四大骨折の中では上肢骨折患者と比べ,大腿骨近位部骨折と脊椎圧迫骨折患者の栄養状態が不良であった.

    【倫理的配慮、説明と同意】

    本調査は札幌円山整形外科病院倫理委員会の承認を得て実施した.

  • 折内 英則, 鈴木 大輔, 木村 健太, 室井 宏育
    p. 30
    発行日: 2022/12/01
    公開日: 2023/06/07
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに、目的】

    近年、リハビリテーション対象者に対する栄養評価やリハビリテーションと栄養を組み合わせた介入の重要性について検討が行われることが増えてきている。しかし、一方で、医療機関や地域におけるリハビリテーション対象者に対する栄養評価と介入を実践する場面で苦慮する場合が少なくない。当院は脳神経外科、整形外科など34診療科から成る急性期総合病院(461床)である。当院リハビリテーション科(以下、当院リハ科)では、2011年から、多職種で構成されている当院NST委員会と連携して、リハビリNSTチーム(以下、リハNST)を設置している。リハビリテーション栄養学会が提唱するリハビリテーション栄養(以下、リハ栄養)ケアプロセスなどの栄養評価・介入方法の啓蒙活動やリハ栄養の実践システムの運用方法等について以下に報告する。

    【方法・結果】

    当院リハ科では、「脳神経外科」「神経内科」「整形外科」「外科」「循環器」の5つの班から構成されており、理学療法士・作業療法士合わせて計73名のスタッフで構成されている。当科には5名のNST委員会スタッフと各班に1名ずつリハNSTリンススタッフと呼ばれる栄養評価や介入をサポートするスタッフが配置されている。当院で毎週1回開催されているNST多職種カンファレンスではNST委員会へ介入依頼のあった対象者のリハ科スタッフによる評価シートを提出し、ADL能力や生活ゴール、運動機能、運動負荷量等の情報を提供し、カンファレンスでの検討資料として活用している。また、リハ科スタッフからみた栄養リスクを有している対象者の抽出と早期介入を目的とした「リハビリNST栄養リスク者拾い上げシート」を毎週1回の頻度でリハ科所属のNST委員に提出され、対象者の栄養評価と介入の検討を行っている。拾い上げシートで抽出された対象者は必要性に応じて、NST多職種カンファレンスでも検討され、随時、その内容が更新される。この運用システムを開始した当初と比較すると、リハ科スタッフが対象者の体重の変化や、食事摂取量など栄養評価項目にも注意を向け、栄養リスクを有した対象者の抽出される頻度が増加している。

    【結論】

    臨床場面では、リハビリテーション対象者が低栄養を始めとする栄養リスクを有している場合を多く経験するが、リハビリテーション栄養を実践していくには、スタッフ各々が栄養面へ着眼するだけでなく、それを共有し、複数のスタッフで検討ができることが重要である。また、その評価と介入が日常的に実践できるシステムの構築と見直しを繰り返し、スタッフが運用しやすく、また、対象者へより効果的に機能させる方法を検討し続けることも必要であると思われる。

    【倫理的配慮、説明と同意】

    個人が特定される情報等に関して配慮されており当科責任者に承認を得ている。

栄養・嚥下セレクション
  • 松本 季, 吉田 剛, 冨田 洋介, 居村 茂幸
    p. 31
    発行日: 2022/12/01
    公開日: 2023/06/07
    会議録・要旨集 フリー

    【目的】

    相対的喉頭位置は,測定の信頼性及び臨床的有用性が高いとされ幅広く使用されている.重力による姿勢筋緊張の影響を少なくするため側臥位で測定するが,内田は座位で測定し,吉田らよりも低い喉頭位置を基準値として報告した.本研究は座位で測定した相対的喉頭位置およびその信頼性を側臥位条件と比較することで、各姿勢条件における相対的喉頭位置測定の臨床的意義を検証することを目的とした.

    【対象】

    高崎健康福祉大学に通う健常成人大学生29名(男性5名,女性24名,年齢21.07±0.72歳)を対象とした.

    【方法】

    評価項目は側臥位・座位の2条件での相対的喉頭位置および各評価実施後の主観的負担度,反復唾液嚥下テスト,頸部可動域測定(屈曲・伸展・側屈・回旋)とした.本研究では(1)相対的喉頭位置の測定の信頼性検証,(2)測定の安楽性検証,(3)姿勢条件による差異の有無の検証およびその他の項目との関係,の3点を検証した.統計解析は(1)では各姿勢で実施した反復測定の結果から級内相関係数(以下,ICC)を算出し検者内信頼性を検証した.(2)ではWilcoxon の符号付順位和検定を用いて座位と側臥位における安楽性の差を検証した.3)では側臥位・座位間で相対的喉頭位置の差を大小で2群に分け,両群間の頸部側屈可動域をMann-WhitneyのU検定により検証した.有意水準は5%とした.

    【結果】

    (1)座位・側臥位ともにICC 0.94以上と高い検者内信頼性を示した.(2)座位2.79±1.80 点,側臥位2.17±1.64 点であり,側臥位での測定において安楽性が有意に高かった.(3)相対的喉頭位置の各姿勢条件での平均値は座位 0.37,側臥位 0.36あり,相対的喉頭位置は側臥位と比較して座位の方が下降していた.また,姿勢条件間の差が大きい群は座位の頸部側屈可動域が有意に小さかった.

    【考察】

    相対的喉頭位置が座位でより下降する対象者は,座位で頸部側屈可動域がより小さくなるといった姿勢筋緊張の影響を受けやすい結果となった.健常若年者での結果であり,高齢者や対象患者の測定時に,姿勢筋緊張の影響が入った測定がより嚥下運動障害を反映するのかは不明なため,今後はどちらの肢位での測定がより嚥下運動障害を反映するか検討する必要がある.開発者の設定した側臥位での測定は,対象者への負担も少なく,座位保持困難な時期から測定が可能である.実際の臨床現場での今後の応用的発展が望まれる.

    【倫理的配慮、説明と同意】

    本研究は,ヘルシンキ宣言及び「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」を遵守した.研究対象者には書面及び口頭にて説明し同意を得た.なお,本研究は高崎健康福祉大学倫理審査委員会の倫理審査の承認を受けている(高崎健康大倫理第2011号).

  • 宇野 勲, 久保 高明
    p. 32
    発行日: 2022/12/01
    公開日: 2023/06/07
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに】

    高齢患者が入院中に肺炎を生じると予後不良の可能性が高くなる。院内肺炎の予防として口腔ケアの有効性が報告されているが、口腔ケアを含む整容動作の自立度が院内肺炎リスクと関連しているかは明らかになっていない。今回、院内肺炎予防の一助とすることを目的として、整容動作能力の自立度が院内肺炎発症に関連するかを調査した。

    【方法】

    本研究は2019年4月~2020年3月までに当院の地域包括ケア病棟に入院した65歳以上の患者を対象とした症例対照研究である。カルテ情報より院内肺炎発症の有無、年齢,性別,身長,入院時の体重,body mass index(BMI)、機能的自立度評価尺度(FIM)、残歯数、義歯の有無、口腔衛生状態、血清アルブミン値、Food Intake Level Scale(FILS)、Geriatric Nutritional Risk Index(GNRI)、必要エネルギー量、摂取エネルギー量、エネルギー充足率、Mini-Mental State Examinaton(MMSE)、在院日数、リハ処方疾患、入院元、退院先を調査した。院内肺炎発症は、入院から48時間以降にX線画像および臨床症状から主治医が新規に肺炎発症と診断した場合とした。院内肺炎発症の有無で2群に分け、各調査項目の群間比較を行った。また、院内肺炎発症と整容動作自立度との関連性を明らかにするためにロジスティック回帰分析を行った。統計学的有意水準は5%未満とした。なお、本研究は当院の倫理審査委員会の承認得て行った(承認番号:2020-02)。

    【結果】

    肺炎群は25人、非肺炎群は191人であった。群間比較では、FIMの全項目の点数、性別(女性10人、男性15人対女性124人、男性67人)、MMSE(8.92±9.29対16.61±10.11)、FILS(7(3-8)対10(7-10))、BMI(17.94±3.56 kg/m 2 対20.16±3.74kg/m 2 )、GNRI(86.18±8.80対96.18±12.03)、エネルギー摂取量(911.40±487.12kcal対1154.66±469.09kcal)、エネルギー充足率(62±34%対75±29%)、在院日数(55.04±8.02日対45.02±16.46日)、退院先で有意差が認められた(p<0.05)。年齢、性別、GNRI、口腔衛生状態、MMSEで調整後、ロジスティック回帰分析では、整容動作自立度は院内肺炎発症と関連していた(OR=0.67, 95%信頼区間: 0.47-0.95, p=0.026)。

    【考察】

    今回の結果から、院内肺炎発症には入院時の整容動作の自立度、栄養状態、男性であることが関連していることが明らかとなった。整容動作は口腔や顔面周囲の清潔に関連するため、清潔保持が困難になることで院内肺炎リスクが増加した可能性がある。

    【結語】

    地域包括ケア病棟の高齢入院患者では、整容動作自立度が院内肺炎リスクと関連していた。今後は整容動作への介入が院内肺炎リスクを減らすことができるか調査していく必要がある。

    【倫理的配慮、説明と同意】

    本研究は「人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針」に基づき研究計画を作成し、当院の倫理審査委員会の承認を得て行った(承認番号:2020-02)。

  • 吉田 剛, 松本 季, 冨田 洋介, 居村 茂幸
    p. 33
    発行日: 2022/12/01
    公開日: 2023/06/07
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに,目的】

    我々は2003年に,簡便な舌骨上筋筋力の評価指標としてGSグレードを開発し,その後の臨床場面などで幅広く使用されてきた.これは,背臥位で頭部挙上し,顎を引いた位置で保持させ落下の程度を4段階で評価する方法であり,測定信頼性および臨床的有用性について検証済みである.近年サルコペニア嚥下障害という概念が登場したが,フレイル高齢者の嚥下筋が筋力低下していてもそれを簡便にスクリーニングする方法がないのが現状である.現行のGSグレードは抵抗を加える段階がない4段階であるため,筋力の高い対象者の軽微な変化をみることが難しい.また,通常の徒手筋力検査は抵抗を加える段階のある5段階である.そこで,本研究では5段階の修正GSグレードの妥当性を検証し,加えて,修正Gr.4と5の違いを検証し,修正GSグレードの意義を検討することを目的とした.

    【対象】

    健常成人29名(男5名,女24名,21.07±0.72歳)を対象とした.

    【方法】

    評価項目は,修正GSグレード,頸部可動域(4方向),舌圧,舌骨上筋筋力の実測値として開口筋力,相対的喉頭位置とした.なお,修正GSグレードの抵抗は約10mmhg程度とした.本研究では(1)修正GSグレードの妥当性検証,(2)修正Gr.4と5の各群とその他の項目との関係を検証した.(1)では開口筋力の実測値と修正GSグレード評価の結果の分析を行い,(2)ではGr.4とGr.5の2群に分け,2群の差を Mann-WhitneyのU検定により検証した.有意水準は5%とした.

    【結果】

    (1)開口筋力はGr.4群は6.65±1.70(kg),Gr.5群は9.26±2.50(kg)と有意差を認め,基準関連妥当性が高かった.(2)Gr.4群は,頸部回旋可動域が有意に小さく,舌圧ではGr.4群は29.94±11.10(kPa),Gr.5群は39.31±10.26(kPa)と舌圧も有意に低かった.相対的喉頭位置はGr4.は0.35±0.03,Gr5は0.39±0.03とGr4.で喉頭位置は有意に上昇していた.

    【考察】

    今まで健常レベルと考えてきたGSグレード4の中には,修正GSグレードでは4と5の人が混在しており,健常若年者でも判別可能であった.舌圧基準値は30kPaがボーダーであり,修正Gr.4群はボーダーラインにあると考えられた.また,Gr.4群は頸部回旋可動域が低下し,舌圧も低いことから,舌骨上筋筋力には頸部筋緊張や舌圧も影響していると考えられた.サルコペニア摂食嚥下障害の嚥下筋の筋力低下を示す指標として舌圧が用いられているが,修正GSグレードで評価できる可能性があり,地域在住高齢者のフレイル予防に対しても,舌骨上筋筋力低下を早期に発見するツールになると考える.今後は高齢者や脳卒中者を対象に臨床的有用性について検討していく必要がある.

    【倫理的配慮、説明と同意】

    本研究は,ヘルシンキ宣言及び「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」を遵守した.研究対象者には書面及び口頭にて説明し書面にて同意を得た.また,データはすべて匿名化して扱い個人情報の保護を徹底した.なお,本研究は高崎健康福祉大学倫理審査委員会の倫理審査の承認を受けている(高崎健康大倫理第2011号).

  • 上出 直人, 村上 健, 秦 若菜, 安藤 雅峻, 坂本 美喜, 柴 喜崇
    p. 34
    発行日: 2022/12/01
    公開日: 2023/06/07
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    【目的】

    近年,高齢者の口腔機能とサルコペニアとの関連性が報告されており,口腔機能が骨格筋量や筋力の低下に影響を与えている可能性が指摘されている.しかし,関連領域の縦断研究が極めて少ないことから両者の因果関係は不明であり,口腔機能が骨格筋量や筋力の低下を引き起こす危険因子となりうるのかは明確になっていない.本研究は,地域高齢者を対象とした縦断的観察研究により,口腔機能が骨格筋量や筋力の変化に与える影響を検証し,口腔機能が骨格筋量や筋力の低下に対する危険因子となりうるかを明らかにすることを目的とした.

    【方法】

    対象は,要介護認定のない65歳以上の自立高齢者197名(男性61名,女性136名)とし,脳卒中の既往,咬合不良,認知機能低下の疑いを有する対象者は除外した.対象者には,ベースラインと6ヶ月後の2時点において,口腔機能,骨格筋量,筋力,歩行能力の測定を行った.口腔機能としては最大舌圧を測定し,骨格筋量は生体インピーダンス法にて四肢骨格筋量を測定し,身長で補正して骨格筋指数(skeletal muscle index: SMI)を算出した.筋力には,握力および等尺性膝伸展筋力を測定し,歩行能力には快適条件での5m歩行時間を測定した.また交絡要因として,生活機能,認知機能,服薬,嚥下機能についてベースライン時点で調査を行った.統計解析は性別で層化して分析し,6か月間の骨格筋量,筋力,歩行能力の変化量をそれぞれ従属変数とし,ベースラインの最大舌圧を独立変数,ベースラインの骨格筋量・筋力・歩行能力および交絡要因を調整変数とする重回帰分析を行った.なお,本調査は2019年2月および8 月に実施されたものである.

    【結果】

    6か月間で,等尺性膝伸展筋力が男性では有意に低下し,5m歩行時間は男女ともに有意に延長した.SMIについては男女ともにわずかではあるが増加していた.最大舌圧と骨格筋量,筋力,歩行能力の変化量との関連については,男性では統計学的に有意な関連性は認められなかった.一方,女性に関しては,交絡要因で調整してもベースラインの最大舌圧は等尺性膝伸展筋力の変化量と統計学的に有意な関連を示し,ベースラインでの最大舌圧が高いほど等尺性膝伸展筋力の低下量が小さいことが示された.回帰式による推定から,等尺性膝伸展筋力の変化量が0となる最大舌圧は26.9±5.3kpa であった.

    【結論】

    本研究の結果,高齢女性においては,口腔機能の低下が下肢筋力低下の危険因子になりうることが示された.一方で,高齢男性においては,骨格筋量低下や筋力低下に対する口腔機能の影響は示されなかった.サルコペニア予防において,高齢女性に関しては口腔機能の評価も重要であり,30kpa程度の舌圧が必要である可能性が示唆された.

    【倫理的配慮、説明と同意】

    本研究は北里大学医療衛生学部研究倫理委員会の承認を得て実施したものである(2018-008B-2).また,全対象者には書面によるインフォームドコンセントを得た.

健康増進・ヘルスプロモーション1
  • 松村 剛志, 松下 太一, 伊藤 健太, 高塚 麻莉子, 後藤 安駿, 西野 千恵美, 吉田 英雄, 楯 人士
    p. 35
    発行日: 2022/12/01
    公開日: 2023/06/07
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに】

    最大二歩幅から得られる2-Step値は、狭い空間でも簡便に歩行能力を推定する指標として信頼性と妥当性が検証されている。一方、小刻み歩行を特徴とするパーキンソン病(PD)においては、歩行時、注意を集中して最大努力下で実施するよりも、特別な意識をせずに遂行する方が歩行困難を強く認める場合がある。そこで今回、PD 患者における通常二歩幅を用いたUsual 2-Step値に着目し、健常および軽度の身体障害を有する高齢者との比較を通じて、本指標が在宅におけるPD患者の歩行をセルフアセスメントする指標として有用であることを確認した。

    【方法】

    本研究の対象者は、静岡県下3カ所の医療機関に通院・通所するPD患者20名(Hohen-Yahr Stage1が1名、2が10名、3が7名、4が2 名:PD群)、1か所の通所リハ事業所の利用者15名(脳神経疾患3名、整形外科疾患9名、内科疾患3名:軽度身体障害群)と健常高齢者30名(健常群)とした。調査項目は基本条件として性別、年齢、身長、体重を確認した。測定指標は、各群にて通常二歩幅、最大二歩幅、TUGT、3軸加速度センサを用いて実測した快適ストライド長(Usual Stride)と通常歩行速度、および最大努力下でのストライド長(Max Stride)と最大歩行速度とした。通常二歩幅と最大二歩幅は、それぞれを身長で除してUsual 2-Step値と2-Step値を求めた。分析は、3群間における基本条件と測定指標の群間差を比較した後に、各群のUsual 2-Step値と2-Step値について、他の測定指標との相関関係を確認し、危険率5%未満にて有意差ありと判定した。

    【結果】

    基本条件では、PD群にて男性が多く、軽度身体障害群が他の2群よりも高齢で、PD群は軽度身体障害群より身長が高かった。健常群はUsual 2-Step値、2-Step値、Usual及びMax Strideにおいて、他の2群よりも有意に大きな値を示し、TUGTと快適及び最大歩行速度は有意に早い値を示した。PD群のUsual 2-Step値は2-Step値と同様に、TUGT以外の測定指標と中等度の正の相関を示し、TUGTとは負の相関を示した。健常群のUsual 2-Step値は、2-Step値とUsual Strideおよび快適歩行速度に対して有意な中等度の正の相関を示し、TUGTとは負の相関を示した。軽度身体障害群のUsual 2-Step 値は、2-Step値のみに有意な中等度の正の相関を示した。

    【結論】

    今回の調査にてUsual 2-Step値は、Strideや歩行速度と同様に、健常群が他の2群より低い値を示した。しかし2-Step値が3群間共通にMax Strideと相関していたことに対し、Usual 2-Step値ではPD群のみに快適および最大歩行におけるStride 及び歩行速度との相関が認められた。この結果から、PD群においてはUsual 2-Step値の測定によって快適速度だけでなく最大速度における歩行状態も推定できることが示された。通常二歩幅から得られるUsual 2-Step値は家庭でも安全に行えるため、歩行に関するセルフアセスメント指標としてPD患者にとって有用と考えられた。

    【倫理的配慮、説明と同意】

    本研究は常葉大学研究倫理委員会の承認を得て実施した(承認番号2020-012H)。対象者に対しては、書面と口頭にて研究内容に関する十分な説明を行い、測定開始前に同意書への署名を得た。

  • 廣瀬 浩昭, 弓岡 まみ, 玉田 良樹, 岡山 裕美, 山野 薫, 奥 壽郎
    p. 36
    発行日: 2022/12/01
    公開日: 2023/06/07
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに、目的】

    近年、全国各地で地域在住高齢者に対する各種事業が開催され、本学でも地域住民を対象とした体力等の測定会とその報告会を実施している。地域在住高齢者における健康関連QOL(Health-related quality of life: 以下HRQOLと略す)に関する研究では、運動や体力に関する認識、転倒等の経験、運動頻度との関係を報告したが、運動の心がけとHRQOLの関係について先行研究を渉猟したが明らかになっていない。本研究は、地域在住高齢者を対象として運動の心がけとHRQOLおよび運動機能の関係を明らかにして、地域住民ヘルスプロモーション事業への示唆を得ることを目的とした。

    【方法】

    大阪府某市の地域在住高齢者を対象に実施した体力測定イベントに参加した100名のうち、日常の移動に介助が必要な者等を除いた高齢者91名(平均年齢73.9歳)を対象とした。本研究は、HRQOLの評価方法にSF-36v2日本語版を用い、対象者の属性と運動の心がけの調査に質問紙を用いた。調査終了後にSF36v2のデータをスコアリングプログラムに入力し、下位8尺度(身体機能、身体役割、身体の痛み、一般的健康認知、活力、社会的機能、情緒的機能、精神的健康)のスコアから計算された国民標準値に基づいたNBS(Norm-based Scoring)得点を算出した。また、運動機能の測定項目は5回連続立ち座り時間、最大1歩幅、TUG、5m最速歩行時間、歩幅、開眼片脚立位時間、握力、等尺性膝伸展筋力、足趾把持力を測定した。統計学的検討には一元配置分散分析を用い、有意水準を5%とした。

    【結果】

    日常的な運動の心がけについて「とても心がけている」21名(23.1%)、「まあ心がけている」66名(72.5%)、「あまり心がけていない」4名(4.4%)、「まったく心がけていない」0名(0%)であった。結果は「とても心がけている」、「まあ心がけている」、「あまり心がけていない」の順でHRQOL下位8尺度は高値を示す傾向があり、身体機能、身体役割、身体の痛み、一般的健康認知、活力、情緒的機能に有意差が認められた(p<0.05)。また、運動機能項目すべてで運動の心がけが高いほど良値となる傾向があり、5回連続立ち座り時間、TUGに有意差が認められた(p<0.05)。

    【考察、結論】

    本研究の結果、日常的に運動を心がけているほうがHRQOL、特に身体機能、身体役割、身体の痛み、一般的健康認知、活力、情緒的機能は良値となること、運動機能も同様で特に5回連続立ち座り時間、TUGが良値を示すことが示唆された。今後、本研究の結果に検討を加え、地域住民ヘルスプロモーション事業を展開していきたい。本研究は薫英研究費助成を受けたものである。本研究にご協力いただいた参加者および協力者の皆様に深謝いたします。なお、本研究における利益相反(conflict of interest: COI)はありません。

    【倫理的配慮、説明と同意】

    本研究は、大阪人間科学大学研究倫理委員会における研究倫理審査で承認(2017-6)された後に実施した。また、対象者に対して、事前に研究の意義および目的、方法、倫理的配慮(起こりうる危険や不利益等、個人情報の保護、インフォームド・コンセントの手続き)について書面と口頭で説明を行い、書面で同意を得た。

  • 西平 美鈴, 高石 果歩, 藤田 直人, 浦川 将
    p. 37
    発行日: 2022/12/01
    公開日: 2023/06/07
    会議録・要旨集 フリー

    運動誘導性の脂肪組織の褐色化は肥満の進行を抑制し、肥満症に伴う慢性合併症を予防することが期待されているが、運動誘発性の褐色化が肥満と非肥満で同等に生じるかどうかは不明である。よって、本研究では肥満症を対象とし、運動が脂肪組織の褐色化に及ばす影響を検証した。肥満モデル動物として19週齢の雄性OLETFラット、非肥満モデル動物として同一週齢の雄性LETOラットを用いた。両系統のラットを運動群と非運動群にそれぞれ区分し、運動群のラットは2週間の実験飼育期間中、暗期の12時間(20時~8時)、自走運動ができるランニングホイールを設置したケージで個別飼育した。自走運動は毎日実施し、平均走行距離はOLETFラットが1.2±0.3km/日、LETOラットが1.5±0.4 km/日であった。2週間の実験飼育期間終了後、肩甲骨周囲から褐色脂肪組織、鼠径部の皮下から白色脂肪組織を摘出した。実験飼育期間中の体重変化について、LETO ラットでは、非運動群は約4%の増加、運動群は体重の変化をほぼ認めなかった。OLETFラットでは、非運動群は約5%の増加、運動群は約11%の減少を認めた。褐色脂肪組織のHE染色所見について、LETOラットの非運動群と比較して、OLETFラットの非運動群では白色脂肪細胞の形態的特徴を示唆する単胞性の脂肪滴を有する細胞の浸潤が顕著であった。また、両系統の運動群において、単胞性の脂肪滴を有する細胞の浸潤は非運動群より少なかった。白色脂肪組織のHE染色所見について、LETOラットの非運動群と比較して、OLETFラットの非運動群では大径の白色脂肪細胞が多く存在していた。また、LETOラットの運動群では非運動群で観察されたものよりも小径の白色脂肪細胞が多く存在していた。OLETFラットの運動群においても大径の白色脂肪細胞は存在したが、極度に大きいものは確認されなかった。褐色脂肪組織におけるUCP1の発現量に関して、LETOラットでは運動の有無による顕著な差を認めなかったが、OLETFラットの運動群におけるUCP1の発現量はその非運動群と比べて顕著に高値であった。白色脂肪組織に関しては、全ての個体でUCP1の発現は検出限界以下であった。運動に伴う体重や脂肪の減少は肥満と非肥満の両者に生じた一方で、運動による褐色脂肪組織におけるUCP1の発現は、肥満において顕著であった。白色脂肪細胞における中性脂肪が分解されると、褐色脂肪組織のエネルギー源となり、UCP1の発現を促進する脂肪酸が生成される。肥満では運動によって分解される中性脂肪が多く、その脂肪酸産生が促進され、褐色脂肪組織におけるUCP1の発現が増加した可能性がある。

    【倫理的配慮、説明と同意】

    全ての実験は広島大学における動物実験に関する指針に従い、動物実験委員会の承認を受けた上で実施した(A19-163)。

  • 高石 果歩, 大島 勇哉, 江藤 ひかり, 西平 美鈴, 越智 亮介, 藤田 直人, 浦川 将
    p. 38
    発行日: 2022/12/01
    公開日: 2023/06/07
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    【はじめに、目的】

    脂肪組織は、脂肪細胞内に単房性の脂肪滴を含む白色脂肪組織と、多房性の脂肪滴を含む褐色脂肪組織に分類される。白色脂肪細胞は過剰エネルギーを中性脂肪として脂肪滴に貯蔵するが、褐色脂肪細胞は代謝的熱産生を介してエネルギー消費に関与するため、褐色脂肪組織の活性化はエネルギー代謝を亢進させ、肥満の予防に役立つと期待されている。肥満の褐色脂肪組織は多房性から単房性の脂肪細胞へと形態が変化し、この褐色脂肪組織の白色化はエネルギー消費を減弱させる。運動によって肥満に伴う褐色脂肪組織の白色化は改善するが、小児期の運動が褐色脂肪組織の白色化に与える影響は不明である。本研究では小児肥満に伴う褐色脂肪組織の白色化に対して、運動、及び脱トレーニングが与える影響を調べた。

    【方法】

    4週齢の雄性Otsuka Long-Evans Tokushima Fatty(OLETF, n = 18)ラットを肥満動物として用い、非肥満動物として同一週齢の雄性Long-Evans Tokushima Otsuka(LETO, n = 6)ラットを用いた。OLETFラットは非運動群(n = 6)と自走運動を行う運動群に区分した。OLETFラットの運動群は10週齢から12週齢の期間のみ運動を行なった群(OLETF Ex, n = 6)、及び4週齢から6週齢まで運動を行い、6週齢から12週齢まで運動を実施しない脱トレーニング期間を設けた群(OLETF DT6, n = 6)に細区分した。運動群のラットは、ランニングホイールを設置したケージで1日12時間(20:00~翌8:00)個別飼育し、自走運動を促した。12週齢の時点において、肩甲骨間の褐色脂肪組織を摘出し、ヘマトキシリン・エオジン(HE)染色所見を用いて組織学的解析を行った。

    【結果】

    褐色脂肪組織の湿重量に関して、OLETFラットの非運動群はLETO ラットと比べて有意に高値であった。OLETF DT6群とOLETFラットの非運動群の間に有意差は認めなかった。OLETF Ex群はOLETFラットの非運動群と比べて有意に低値であった。褐色脂肪組織のHE染色所見において、その小葉の辺縁部では、OLETFラットはLETOラットと比較して白色化を示唆する単胞性の脂肪細胞が多く観察された。その細胞の直径は、OLETF ラット非運動群においてLETOラットと比べて有意に高値であり、OLETF DT6群はOLETFラット非運動群と比べて有意に低く、OLETF Ex群はOLETFラットの非運動群、及びOLETF DT6群と比べて有意に低値であった。

    【結論】

    小児期の運動は褐色脂肪組織の組織学的な白色化を抑制するが、脱トレーニング期間によってその持ち越し効果は減弱することが明らかになった。

    【倫理的配慮、説明と同意】

    全ての実験は広島大学における動物実験に関する指針に従い、動物実験委員会の承認を受けた上で実施した(A19-163)。

  • 有田 真己, 岩井 浩一, 万行 里佳
    p. 39
    発行日: 2022/12/01
    公開日: 2023/06/07
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    【目的】

    本研究の目的は、まず、運動による効果の主観的実感と身体パフォーマンステストの客観的結果との関連を定量化し、主観的実感を認識するまでに必要な身体パフォーマンステストの客観的変化量のカットオフ値を明らかにすることである。

    【方式】

    要支援・要介護者48名を対象に5種類の在宅筋力トレーニングを2か月間にわたり週5日実施した。身体パフォーマンステスト(開眼片脚立ち、TUG、階段昇降時間、5m最大歩行速度、FTSS)は、Pre(T1)、Post(4週後;T2)およびFollow Up(8週後;T3)の3回計測し、その変化量を解析に用いた。一方、主観的実感は身体パフォーマンステストの結果がT1と比較し、改善を実感できたかどうかについて7件法(1点かなり悪化している、7点かなり改善している)を用いて回答してもらった。客観的変化量は0を基準に悪化群と改善群に、主観的実感は4点以下を悪化群、5点以上を改善群に割り付けた。統計解析には、SPSS24.0を用いて相関係数、一致率、およびカットオフ値を算出した。有意水準は5%とした。

    【結果】

    主観的実感と身体パフォーマンステストの客観的変化量との相関係数を算出した結果、T2時点で有意であった項目は、開眼片脚立ち(r=0.57)、FTSS(r=-0.30)、T3時点では、TUG(r=-0.36)、階段昇降時間(r=-0.53)、FTSS(r=-0.32)であった。次に主観的実感と客観的変化量における悪化群および改善群との一致率を算出した結果、(T2/T3)、開眼片脚立ち(66.6/59.6)、TUG(52.1/63.8)、階段昇降時間(58.3/74.5)、5m最大歩行速度(62.5/54.2)、FTSS(64.6/66.0)であった。最後に、T2時点での客観的変化量の改善群のみを対象として、主観的実感の悪化群と改善群の感度・特異度からカットオフ値を算出した結果、開眼片脚立ちの項目のみ有意な差が認められ、6.04秒(AUC=0.81)であった。

    【結論】

    運動による効果の主観的実感と身体パフォーマンステストの客観的変化量との関連は、強い相関が認められなかった。これは、主観的実感を認識するまでに十分な身体機能の客観的変化が得られなかった可能性がある。次に、主観的実感と客観的変化量のそれぞれ改善群および悪化群との一致率は、およそ60%程度であることから、身体パフォーマンステスト項目は、主観的実感を認識させるツールとしては十分でない可能性が示唆される。本研究で唯一、主観的実感を認識するに足る評価項目は、開眼片脚立ち時間の変化量であり、主観的実感を認識するに必要な変化量は、およそ6秒であることが明らかとなった。本研究結果から、身体パフォーマンステストの客観的結果と主観的実感との齟齬の程度が明らかとなった。今後は、実感を直接的に伴うような評価指標の開発に向け、運動の動機づけとの関連を探求する必要がある。

    【倫理的配慮、説明と同意】

    本研究の実施にあたっては,事前に所属しているつくば国際大学倫理委員会より承認を得て実施した(承認番号第28-7号)。研究対象者本人への説明は申請者が実施し,研究への参加は任意であること,同意を得られない場合であっても不利益を被らないこと,参加後も自由意思により同意の撤回および中断が可能であることについて説明文書にて説明し,同意書に直筆サインをもらうことで同意とみなした。研究を開始する際,事前の健康チェックをはじめ,常備している看護師が対応できる環境を整えて実施した。得られたデータは個人名が特定できないようID番号で管理し,データへのアクセスは申請者に限った。

介護・転倒の予防2
  • 吉田 司秀子, 川口 徹, 新岡 大和, 篠原 博, 工藤 健太郎
    p. 40
    発行日: 2022/12/01
    公開日: 2023/06/07
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    【はじめに、目的】

    当院は、住み慣れた自宅・地域でより長く生活したいという患者の思いを尊重する地域包括ケアシステムの構築において重要な役割を果たしている。以前、我々が当院で行った調査において、在宅復帰が可能になる因子として、同居家族がいること、退院時移動能力が高いこと、認知機能低下がないことが明らかになった。しかし、在宅復帰をしても、在宅生活を長く継続できず、再入院するケースもある。そのため、前述の3要因が、再入院を予防し、より長く在宅生活を続けられる要因にもなると考え、再入院しない群に同様の傾向があると予測し、再入院する群と、再入院しない群にはどのような違いがあるのかを調査したため報告する。

    【方法】

    2018年4月1日から2020年6月31日の期間にリハビリテーション(以下、リハ)処方が出されたケースを対象に、診療カルテおよびリハ実施記録を用いて後方視的にデータを収集した。患者の傾向を明らかにするため記述統計を用いた。さらに、性別、年齢、在院日数、リハ処方が出されるまでの期間、疾患の種類、緩和ケアに該当する疾患の有無、居住する地区、当院からの直線距離、リハ開始時のFIM得点(合計、運動、認知)、退院時の移動能力、認知機能低下の有無、同居家族の有無および人数、同一町村内に居住する家族の有無の各項目において、再入院あり群と再入院なし群の違いを把握するため、t検定、Fisherの正確検定を用いた。解析には、統計ソフトEZRを用い、有意水準を5%とした。

    【結果】

    当院で、上記期間中にリハ処方が出された全449ケースのうち、繰り返し入院した者の2回目以降の入院を除外した重複のない336名を記述統計の対象とした。その後、転帰先が自宅となった105名(平均年齢81.0±10.2歳、男性45.7%)を選択し、再入院あり群と再入院なし群とを比較するための解析対象とした。自宅退院105名のうち29.5%が再入院をしており、再入院なし群は再入院あり群に比べ、独居が多く(p=0.010)、同居家族がいる場合には人数が少なく(p=0.019)、当院と自宅までの直線距離が800m未満または15km以上であった(p=0.039)

    【結論】

    今回、同居家族がいて、退院時の移動能力が高く、認知機能低下がない患者が、再入院せずに在宅生活を長く続けられるという仮説のもと、調査を行ったが移動能力、認知機能の項目では再入院あり群と再入院なし群で有意差はなかった。また、同居家族に関しては、同居家族がいる患者の方が再入院しているケースが多かった。今後は、家族の年齢、就労の有無、続柄等によりどの程度家族の支援を期待できるかといった点や、移送サービスや訪問リハなど受けられるサービスの地区ごとの違いも考慮して検討したい。

    【倫理的配慮、説明と同意】

    本研究は、ヘルシンキ宣言に則って行い、得られたデータは個人情報が特定できないように配慮した。

  • 堤本 広大, 土井 剛彦, 中窪 翔, 栗田 智史, 木内 悠人, 西本 和平, 島田 裕之
    p. 41
    発行日: 2022/12/01
    公開日: 2023/06/07
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    【はじめに、目的】

    中年期における肥満は、認知機能低下や認知症との関連する一方で、認知症高齢者においては体重が減少することが報告されており、認知機能と体重との関連に一貫した結論は得られていない。認知症により体重減少が生じる1つの経路として、嗅覚や味覚の低下、及び意欲低下に関連して食欲が低下し、体重減少が生じると言われている。軽度認知障害(MCI)は認知的健常と認知症の移行期にあたり、認知症で生じる食欲低下や体重減少が早期にみられる可能性が考えられるが、それらの関連については明らかになっていない。「やせ」は低栄養の兆候であり、その後生じる健康問題を予防するためには、早期に介入する必要がある。そこで本研究の目的は、MCI高齢者と食欲低下、及び、やせの関連を明らかにすることとした。

    【方法】

    高齢者機能健診参加者のうち、神経疾患を有する者、日常生活非自立者、肥満者(BMI 25kg/m 2 )、MMSE24点未満の者、欠損値がある者を除外した6487名(男性2856名、平均73.8歳)を分析対象とした。MCI判定基準として、日常生活が自立しており、MMSEが24点以上で、客観的認知機能低下が認められた者とした。客観的認知機能は、記憶・注意・遂行機能・処理速度を測定し、年代・教育歴に応じた標準値より1.5SD以上の低下が認められた場合に認知機能低下とした。やせはBMIが18.5kg/m 2 未満であることと定義した。また、食欲はsimplified nutritional appetite questionnaire(SNAQ)で評価し、13点以下を食欲低下ありとした。目的変数に、やせ及び食欲低下、説明変数にMCIを投入したロジスティック回帰分析を行った。共変量は年齢、性別、教育歴、服薬数、慢性疾患、うつ傾向、喫煙歴、飲酒歴、身体不活動とした。また、MCIが食欲低下を介してBMIに影響を与えること検証するために、媒介分析Sobel testを実施した。有意水準は5%未満とした。

    【結果】

    6487名中1245名(19.2%)がMCIであった。多重ロジスティック回帰分析の結果、MCIであることが、やせ(OR=1.31、95%CI: 1.03‐1.65)、および食欲低下(OR=1.32, 95%CI: 1.13-1.56)とそれぞれ独立して関連していた。また、MCIとBMIの関連につて、SNAQを媒介因子とした媒介分析を行った。結果、MCIとBMIの関連に関して、総合効果は有意であり(effect = -0.173, 95%CI:-0.302‐-0.445)、関連があることが示された一方で、直接効果については有意な関連は認められたかった(effect = -0.121, 95%CI:-0.249‐0.008)。ただし、SNAQを介した間接効果は有意な関連を示していた(effect = -0.053, 95%CI:-0.073‐-0.035)。

    【結論】

    MCI高齢者において、体重減少および食欲低下との関連が認められた。MCI高齢者におけるやせは、食欲低下を介して生じることが示唆された。MCI段階においても、認知症高齢者で報告されている食欲低下が生じ、微小な体重減少が始まっている可能性が考えられ、今後更なる検証が必要である。

    【倫理的配慮、説明と同意】

    本研究は、著者所属機関の倫理・利益相反委員会の承認を受けて実施した。ヘルシンキ宣言の趣旨に沿い、対象者には本研究の主旨および目的を口頭と書面にて説明を行い、書面にて同意を得た上で本研究を実施した。

  • 牧野 圭太郎, 李 相侖, 裵 成琉, 千葉 一平, 片山 脩, 原田 健次, 冨田 浩輝, 森川 将徳, 島田 裕之
    p. 42
    発行日: 2022/12/01
    公開日: 2023/06/07
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    【はじめに、目的】

    高齢期の転倒は要介護状態を引き起こす主要な原因であり、転倒リスクの予測は理学療法における重要な課題である。多くの先行研究で転倒予測に向けたスケール開発やカットポイント算出が行われてきたが、多様な因子が影響する転倒発生の予測は容易ではなく、転倒予測モデルの探索には未だ検討の余地があると考えられる。近年、機械学習手法が疾病や事象の予測に活用され始め、中でも決定木分析を用いた予測モデルは論理的解釈が容易であり臨床応用の観点からも注目を集めている。そこで本研究では、地域高齢者を対象とした4年間の縦断調査から、簡便に評価可能な既知の転倒予測因子を組み合わせ、決定木分析による転倒予測モデルの構築を行った。

    【方法】

    2011年のベースライン調査と2015年の追跡調査に参加し、脳血管疾患やパーキンソン病、認知症のない地域高齢者2,658名(平均71.1±4.8歳)を分析対象とした。転倒予測因子としてベースラインの年齢、性別、服薬数、変形性膝関節症の有無、下肢の痛み、歩行速度、Timed Up and Go test、転倒恐怖感、過去1年間の転倒歴を評価し、アウトカムとして4年後における過去1年間の転倒歴(1回以上)を評価した。決定木によるモデル構築にはC5.0アルゴリズムを用い、10-fold cross validationにてモデル性能を評価した。さらに、同じ予測因子を用いたロジスティックモデル(ステップワイズ変数減少法)を構築し、決定木モデルとロジスティックモデルとの間で予測性能の比較を行った。

    【結果】

    4年後の転倒歴は、2,658名のうち426名(16.0%)に認められた。決定木分析の結果、6つの予測因子(ベースラインの転倒歴、年齢、服薬数、下肢の痛み、Timed Up and Go test、転倒恐怖感)から成る7 つの分岐を持った決定木が構築された。予測性能について、ロジスティックモデルでは、正答率0.62、曲線下面積0.64、感度0.50、特異度0.73であったのに対し、決定木モデルは、正答率0.65、曲線下面積0.70、感度0.62、特異度0.69であり、正答率、曲線下面積、および感度において決定木モデルの方が高い値を示した。

    【結論】

    本研究で構築した決定木モデルはロジスティックモデルと比べて予測精度およびモデル解釈の容易さの面で、転倒リスクの一次スクリーニングツールとして有用である可能性が示された。また、本研究で用いた予測因子は地域での機能健診や臨床での理学療法場面において一般的に評価されている変数であり、従来の転倒関連因子を活用しつつ転倒予測精度をさらに向上させる上で、決定木分析を含む機械学習手法は効果的であると考えられる。今後、より広範囲にわたる予測因子の検討や他の学習モデルを含めた検証により、予測精度のさらなる向上を目指す必要がある。

    【倫理的配慮、説明と同意】

    本研究は、著者所属機関の倫理・利益相反委員会の承認を受けて実施した。ヘルシンキ宣言の趣旨に沿い、対象者には本研究の主旨および目的を口頭と書面にて説明を行い、書面にて同意を得た上で本研究を実施した。

  • 福井 貴暁, 緒方 宏武, 大園 菜摘, 馬場 健太郎, 長野 友彦, 立丸 允啓, 小泉 幸毅, 大野 重雄
    p. 43
    発行日: 2022/12/01
    公開日: 2023/06/07
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    【はじめに、目的】

    我々は脳卒中患者の歩行自立後の転倒を予防するために、高精度な歩行自立判定指標(以下、指標)の開発を続けてきた。第1報では、病棟歩行自立判定基準日を病棟歩行開始後14日目に設定し検証した結果、独自に開発した杖把持片脚立位(以下、杖OFS)が最有用指標として選択された。第2報では、高次脳機能障害(以下、高次脳)の影響はADL能力に包括されると考え、高次脳有の評価基準を「作業療法士・言語聴覚士の評価を基に主治医が高次脳有と判定した者、かつ更衣・排泄FIMが何れも5点以下(以下、第2報高次脳)」と設定し検証した結果、「高次脳無、かつ非麻痺側杖OFS17.9秒以上」であれば歩行自立と判定できる指標が作成できた。しかし、詳細な高次脳評価を用いた検証の必要性が課題として残った。そこで本研究では、定量化した高次脳評価であるCognitive-related Behavioral Assessment(以下、CBA)を用いて、歩行自立後の転倒を予防するための指標完成を目的とした。

    【方法】

    対象は2018年3月から2021年4月までに当院回復期リハビリテーション病棟を退院した脳卒中患者のうち、入院時に病棟歩行非自立、かつ退院までに病棟歩行が自立または見守りとなった94人とした。

    主要評価項目として病棟歩行自立判定基準日(病棟歩行開始14日目)の評価(非麻痺側杖OFS、第2報高次脳、CBA)、病棟歩行自立後から退院までの転倒の有無を前向きに調査した。退院時の歩行自立度で自立75人と見守り19人に分類、統計解析はROC曲線でCBAのカットオフ値を算出し、第2報高次脳とCBAのどちらが指標として有用であるかを正確度で判定した。また、この結果を反映した指標の妥当性をFisherの正確検定を用いて比較し、病棟歩行自立後の転倒率も算出した。

    【結果】

    CBAのカットオフ値は21点であり、感度は94.7%、特異度は78.9%、AUCは0.947であった。正確度はCBAが91.5%、第2報高次脳が85.1%であった。よって指標は、「CBA21点以上、かつ非麻痺側杖OFS17.9秒以上」となった。本指標該当者55人のうち、病棟歩行自立が52人・94.5%、非該当者39人のうち、病棟歩行自立が23人・59%であり、両者の間に有意差を認めた。病棟歩行自立後の転倒率は、本指標該当者が17.3%、非該当者が26.1%であった。

    【結論】

    今回の検証の結果、CBAの方が第2報高次脳よりも指標として有用であると考えられた。CBAは病棟生活での認知に関連する行動を評価できる点が特徴であり、更衣・排泄能力を基に判定した第2報高次脳よりも指標として高精度であることが確認できた。また本指標該当者は、非該当者に比べて病棟歩行自立率が高く、自立後の転倒率が低い傾向にあった。このことから、高次脳評価と立位バランス評価を組み合わせた本指標の妥当性が確認できた。つまり、病棟歩行開始から14日目を基準に行うCBAと非麻痺側杖OFSの評価が、病棟歩行自立後の転倒を予防する指標になるという結論を得た。

    【倫理的配慮、説明と同意】

    人を対象とする医学系研究に関する倫理指針によると本研究は、侵襲と介入がなく、人体から取得された試料を用いず、要配慮個人情報も新たに取得しない研究に該当、かつ臨床で通常行う理学療法での測定・評価を用いるため、必ずしもインフォームドコンセントを必要としない。しかし、対象者には、口頭での説明と同意を得て測定を行った。また、本研究を行うにあたり当院倫理委員会の承認を受けた(倫理審査承認番号共倫第290023号)。

  • 小藤 大樹, 野中 崇大, 原 弘明, 平石 宏行, 杉浦 憲子, 菱澤 方勝, 宮﨑 博子
    p. 44
    発行日: 2022/12/01
    公開日: 2023/06/07
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    【はじめに、目的】

    入院中の転倒・転落により、時に骨折や頭部外傷を生じ、入院期間の延長やADLの低下を来すことがある。したがって、入院中の患者に対し、転倒リスクが高い患者のアセスメントや予防対策は重要で、多職種で連携して行うことが推奨されている。当院では、血液内科病棟に理学療法士が専従配置されており、患者の身体機能とADLを評価して、病棟内で血液内科医師・看護師・その他の医療スタッフと共有するよう努めている。本研究の目的は、当該病棟において転倒した患者について身体機能要因を分析し、今後の転倒予防に向けて対策を検討することである。

    【方法】

    対象は、2020年4月から2021年3月(12ヶ月間)に当院血液内科病棟に入院した患者607名のうち、身体機能とADLを評価でき、除外基準の患者を除いた443名(年齢72.3±12.2歳、女性39%)とした。除外基準は、Mini-Cog2点以下で認知症が疑われる患者、失神による転倒患者、調査項目で示す身体機能検査が困難であった患者とした。調査項目は、基本属性として年齢、性別、身長、体重、BMIを、身体機能・ADL評価項目として、握力最大値、握力体重比、Standing test for Imbalance and Disequilibrium(SIDE)、Functional Ambulation Categories(FAC)、歩行速度(m/分)、入院時Barthel Index(BI)を設定した。統計解析は、転倒の有無を従属変数に、調査項目を独立変数とするロジスティック回帰分析を用いて、オッズ比を算出した。有意な連続変数因子では、受信者動作特性曲線(ROC 曲線)を用い、曲線下面積(AUC)を求め同時にカットオフ値を算出した。いずれも全体数ならびに男女別にて検討した。統計解析にはSPSS ver.21を用い、有意水準は5%未満とした。

    【結果】

    対象者443名のうち、転倒した患者は14名(3.2%)であった。転倒者の疾病と疾病別の転倒者割合は、悪性リンパ腫が7/257名(2.7%)、多発性骨髄腫が3/43名(7.0%)、急性リンパ性白血病が2/6名(33%)、骨髄異形成症候群が2/53名(3.8%)であった。各項目の転倒に影響する有意なオッズ比は算出されなかった。男性では、転倒に影響する因子として歩行速度(オッズ比: 0.93、95%信頼区間: 0.89-0.97)が抽出された。転倒の有無と歩行速度におけるROC曲線を評価した結果、AUCは0.84で、カットオフ値は31.2m/分(0.52m/秒)であった(感度: 0.97、特異度: 0.90)。女性では、転倒に影響する因子としてSIDE(オッズ比: 0.40、95%信頼区間: 0.18-0.89)が抽出された。

    【結論】

    本研究では、入院中の転倒に影響する身体機能要因に男女差を認めた。男性では歩行速度が低下している患者、女性では下肢バランス能力が低下している患者に、特に転倒に注意する必要があると考えられた。今後の転倒予防を推進するため、男性には歩行速度、女性には下肢バランス能力を維持改善する理学療法が必要であると示唆された。

    【倫理的配慮、説明と同意】

    ヘルシンキ宣言に基づきデータの集計は患者が特定されないよう匿名化し管理を行った。

地域実践活動1
  • 仲村渠 亮, 高取 克彦, 松本 大輔
    p. 45
    発行日: 2022/12/01
    公開日: 2023/06/07
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    【背景】

    高齢化の現代では、介護予防を目的とした高齢者の社会参加が重要視されており、ソーシャルキャピタル強度との関連が注目されている。しかし、そういった一般介護予防事業に資する社会参加ができていない高齢者が多い現状にある。

    【目的】

    地域の既存のコミュニティを介護予防の観点から見直す為、日常的に通う銭湯が代わりにその一端を担い、地域高齢者のソーシャルキャピタル構成要素と関連しているか調査することである。

    【対象と方法】

    対象は大阪市西成区在住の銭湯利用高齢者のうち、本研究参加に同意を得られた74名(男性 58名、女性 16名、平均年齢 76.8±5.7歳)である。方法は銭湯の利用頻度や目的、健康に関する対面式聞き取り調査と体組成検査(骨格筋量測定)を実施した。聴取した項目は、基本属性(年齢、性別、身長、体重)、主観的健康感(5段階)、個人レベルのソーシャルキャピタル構成要素(近隣住民との交流、近隣住民への信頼の強さ、社会参加の多さ)、慢性疼痛箇所と程度、睡眠の満足度である。対象者を銭湯の利用頻度により群分けし、各種データについて群間比較を実施した。ソーシャルキャピタル構成要素のうち近隣住民との交流と近隣住民への信頼の強さを従属変数とした多重ロジスティック回帰分析を実施し、常的な銭湯利用の有無が独立した関連因子となるか検討した。有意水準は5%未満に設定した。

    【結果】

    銭湯利用の理由として最も多かったのは自宅にお風呂が無いと回答した39%であり、頻度は週 3~4 回と回答した 39%であった。また地縁活動等の社会参加をしている者は 31%であった。ロジスティック回帰分析の結果、銭湯利用頻度は地域への信頼の強さに独立して関連する因子であり(オッズ比(OR)4.98,95%信頼区間(CI)1.56~15.82, p<0.01)、近隣住民との交流とも有意に関連していた(OR 3.39, 95%CI 1.36~8.24, p <0.01)。銭湯を週に3 回以上使用している群は週 2回以下の群と比較して近隣住民との交流、近隣住民への信頼の強さが有意に高く(p<0.05)、総合的にソーシャルキャピタル強度が有意に高い(p<0.01)結果となった。その他の項目に関しては、有意な関連を認めなかった。

    【結論】

    対象者である銭湯利用者の多くは社会参加が乏しく、自宅環境から日常的に地域銭湯を利用している方が多かった。その中でも銭湯の利用頻度が多い群が少ない群と比較して個人レベルのソーシャルキャピタル強度が高かったことは、銭湯に日常的に通うことにより独自のコミュニティが形成されている可能性があり、これによってソーシャルキャピタル強度が向上された可能性がある。地域での生活に関わる専門職や行政が銭湯という既存のコミュニティへの促しや存続に関与すれば、一般介護予防事業に資する社会参加ができていない高齢者を、「入浴」という日常生活動作を通して介護予防に繋げることができる可能性もある。

    【倫理的配慮、説明と同意】

    本研究は個人情報保護法を遵守し施行した。年齢・性別などの情報が記録されるが、個人が容易に特定される個人情報は入手しておらず、また情報の取り扱いには十分注意し、得られたデータは登録番号にて匿名化した。研究目的に関する十分な説明を口頭で行い、アンケート調査協力に対する同意を得た。また、畿央大学倫理委員会で承認を得ている。

  • 屋成 匠, 植田 拓也, 土屋 彰吾, 鹿内 誠也, 畠山 浩太郎, 前田 悠紀人, 柴 喜崇
    p. 46
    発行日: 2022/12/01
    公開日: 2023/06/07
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    【はじめに、目的】

    新型コロナウイルス感染症(以下,COVID-19)の感染拡大によるロックダウンや活動の自粛による高齢者の健康に関する調査研究は世界的に報告されているが,郵送での質問紙調査やインターネット調査などの非対面形式の調査に限られている.そこで,本研究は,日本における第1回の緊急事態宣言期間(自粛期間)の運動頻度の変化が,地域在住高齢者の身体機能,精神的健康状態(Quality of Life: 以下,QOL)へ与える影響を明らかにすることを目的とした.

    【方法】

    対象は神奈川県A市のラジオ体操会に参加する高齢者から募集し,2018年の9月,10月に実施された体力測定会(以下,ベースライン調査)に参加した129名のうち,2019 年度及び2020年度調査の全てに参加した69歳~91歳の地域在住高齢者49名(男性: 28名,女性: 21名,平均年齢: 77.9±5.0歳)を対象とした.対象者には,5m最大歩行時間等の体力測定及びWHO-5精神的健康状態表(以下,WHO-5)を用いたQOL及び基本属性等の質問紙調査を実施した.また,2020年の調査では,想起法による自粛期間前と比較した自粛期間後の運動頻度の増減を調査し,減少した者を減少群,変化なしまたは増加した者を維持増加群の2群に分類し,自粛期間での運動頻度の変化が身体機能およびQOLに与える影響を検討した.

    【結果】

    対象者は,減少群19名(男性: 10名,女性: 9名,77.4±4.7歳),維持増加群30名(男性: 18名,女性: 12名,77.9±5.0歳)に分類された.ベースライン調査時点では,すべての測定項目において2群間で統計学的な有意差は確認されなかった.3時点における反復測定分散分析の結果,身体機能項目には群及び調査時期での交互作用は確認されなかったが,QOLの指標であるWHO-5得点で群と調査時期での交互作用が確認され,減少群においてWHO-5得点に2019年度と2020年の調査間での有意な低下が確認された(p=0.046).

    結論: 運動頻度の増加はQOLの向上に寄与することが報告されている.自粛期間後の運動頻度の減少群においては,運動頻度の直接的な減少とともに,ともに運動する友人との接触頻度の減少にもつながり,精神的健康状態の低下の原因になったと考えられた.一方,身体機能については維持されていたが,本研究の対象者は,早朝にラジオ体操に参加可能な高い身体能力を有する元気高齢者であったと考えられ,自粛期間後の運動頻度の減少が直接的に身体機能の低下には影響しなかったと考えられた.

    【結論】

    COVID-19感染拡大による自粛期間後の運動頻度の減少は,運動習慣を有する高齢者においては,QOLの低下に影響するが,身体機能には影響を与えなかったことが示唆された.

    【倫理的配慮、説明と同意】

    対象者には,対面にて文章を用い研究の目的,個人情報の保護について説明を行い、同意書の提出を持って調査協力への同意意思を確認した。本研究は桜美林大学研究倫理委員会の承認を得て実施した。

  • 安藤 雅峻, 上出 直人, 柴 喜崇, 坂本 美喜, 村上 健, 渡辺 修一郎
    p. 47
    発行日: 2022/12/01
    公開日: 2023/06/07
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    【目的】

    高齢者の歩行能力は,生活機能を維持するための重要な規定要因である.近年,システマティック・レビューにて,高齢者の居住地周辺の環境要因(近隣環境)が,歩行能力等の身体機能と関係することが報告されている(Won,2016;Rachele,2019).しかし,関連研究において,結果が一致していない点がある.研究間の結果の不一致の背景として,対象者の属性(年齢,健康状態等)が影響している可能性が考えられる.そこで,本研究の目的は,歩行能力と近隣環境要因について,両者の関連性に影響を与える高齢者の属性を,回帰木分析を用いて探索的に検証することとした.

    【方法】

    本研究のデザインは横断研究であった.対象は,要支援・要介護認定を受けていない65歳以上の地域在住高齢者624名(71.7±4.7歳,男性174名)とした.歩行能力の指標として,5m歩行時間を快適速度条件にて測定した.近隣環境の指標として,国際標準化身体活動質問紙環境尺度(IPAQ-E)の日本語版を用い,住居密度,商店・スーパーへのアクセス,バス停・駅へのアクセス,歩道,自転車道,運動施設へのアクセス,犯罪(夜間),交通安全,運動実践者,景観の10項目について評価した.その他,混乱要因として,基本属性,精神・心理的要因,社会的要因を調査した.統計解析は,性別で層化して行った.はじめに,歩行能力と関連を示す近隣環境要因を抽出するため,従属変数を歩行能力,独立変数を近隣環境要因,調整変数を混乱要因とする重回帰分析(ステップワイズ法)を行った.次に,CaRT(Classification Regression Tree)アルゴリズムによる回帰木分析を用いて,近隣環境要因と混乱要因によって歩行能力を分類する回帰木モデルを生成した.決定木分析では,先の重回帰分析においてモデルに採用された近隣環境要因および混乱要因を投入した.最後に,回帰木モデルによって分類された群間の比較を,Kruskal Wallis検定およびpost-hoc検定(Steel法)にて行った.

    【結果】

    重回帰分析の結果,男性では,歩行能力と近隣の運動施設へのアクセス(B=-0.31,p=0.004)が有意な関連を示した.続いて,回帰木分析の結果,男性高齢者の歩行能力に関連する要因として,年齢,腰痛,うつ状態,運動施設へのアクセスが選択された.具体的には,80歳以下で,腰痛およびうつ状態がない男性高齢者において,近隣の運動施設へのアクセスが良いと5m歩行時間が短いことが示された(p<0.001).一方,女性においては,5m歩行時間と関連を示す近隣環境要因は抽出されなかった.

    【結論】

    本研究の結果,男性高齢者においては,比較的年齢が若く,身体的・心理的に健康状態が良好な場合,近隣の運動施設へのアクセスが歩行能力の維持に関連することが示唆された.男性高齢者の年代や健康状態に応じ,近隣環境の評価や利用可能な運動施設などの情報提供が介護予防策として有用であると考えられた.

    【倫理的配慮、説明と同意】

    本研究は北里大学医療衛生学部研究倫理委員会の承認を得て実施した(2018-008B).また,全対象者には書面によるインフォームドコンセントを得た.

  • 岡本 昌子, 安齋 紗保理, 柴 喜崇
    p. 48
    発行日: 2022/12/01
    公開日: 2023/06/07
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    【はじめに、目的】

    社会的孤立(以下,孤立)は要介護認定や認知症発症,早期死亡へのリスクが有意に高くなることが示されており,さらに孤立高齢者は,抑うつ傾向や将来の不安も高いことが明らかになっている.そこで,孤立に至るのを予防するためには定期的な社会活動への参加頻度を高めることが重要であると示唆されている.しかし,どのような社会活動が孤立に影響するかを言及した報告はないため,社会活動の種類に着目し,どのような社会活動が孤立しないことと関連しているかを検討した.

    【方法】

    本研究は,A市に居住している要介護認定を受けていない65歳以上の高齢者28,637名を対象にした高齢者実態調査のデータを用いた.本調査は自記式質問票の郵送により行い,対象となった28,637名のうち22,048名(男性10,028名,平均年齢74.1±6.2歳)から返送があった(回収率77.0%).調査項目は家族構成や現在の住まい,健康度自己評価,主観的経済状況,グループへの参加頻度,孤立状況とした.グループへの参加頻度はボランティアのグループ,スポーツ関係のグループ,趣味関係のグループ,学習・教養サークルにそれぞれどのくらいの頻度で参加しているかを調査した.孤立の判定は,別居家族・親戚,および,友人・知人との対面接触と非対面接触のいずれもが週に1回以下を「孤立」,それ以上を「非孤立」,孤立状況に関する質問に無回答の者を「孤立状況不明」とした.

    【結果】

    6,902名(31.3%)が孤立状態であった.孤立は性別による違いが大きく,女性の孤立者は2,738名(22.8%)であった一方,男性の孤立者は4,164名(41.5%)であった.また,従属変数を孤立の有無,独立変数を家族構成,現在の住まい,健康度自己評価,主観的経済感,各グループへの参加頻度としたロジスティック回帰分析の結果,週1回以上,趣味関係(オッズ比,95%信頼区間:0.32,0.28-0.37),ボランティア(0.38,0.30-0.48),スポーツ関係(0.49,0.44-0.55),学習・教養(0.52,0.41-0.66)のグループに参加している者はそれぞれの活動に参加していない者と比較して有意に孤立者が少なかった(すべてp<0.001).月1~3回の参加頻度では,ボランティア(0.61,0.50-0.75),趣味関係(0.65,0.57-0.73),スポーツ関係(0.66,0.55-0.79)が参加していない者と有意に孤立者が少なかったが(いずれもp<0.001),学習・教養(0.89,0.73-1.07)は有意でなかった(p =0.213).さらに,年に数回の参加頻度では趣味関係(0.83,0.69-0.99)のみが参加していない者と比べて有意に孤立者が少なかった(p<0.03).

    【結論】

    本研究の結果から,社会活動への参加頻度が週1回以上ではどの種類でも有意に孤立者が少ないこと,月に1~3回ではボランティア,趣味関係,スポーツ関係のグループで有意に孤立者が少ないこと,年に数回では趣味活動のみが有意に孤立者が少ないことが明らかになった.

    【倫理的配慮、説明と同意】

    調査協力者には,郵送時に文書にて研究の目的,個人情報の保護について説明を行い,調査票への記入を持って調査協力への同意意思を確認している.本研究は北里大学倫理委員会の承認を得ている.

  • 田中 繁弥, 齊田 高介, 村山 明彦, 樋口 大輔, 目崎 智恵子, 石井 純子, 鳥塚 典恵, 青木 久美, 井野 由美, 篠原 智行
    p. 49
    発行日: 2022/12/01
    公開日: 2023/06/07
    会議録・要旨集 フリー

    【目的】

    COVID-19感染拡大予防のために外出自粛が求められたことにより、身体機能ばかりでなく認知機能等精神機能の低下も危惧される。主観的認知機能低下(subjective cognitive decline:以下SCD)は、客観的な認知機能の低下は認められないが自覚的な認知機能の低下を訴える状態であり、将来の軽度認知障害や認知症の発症との関連が指摘されている。本研究では、地域在住高齢者を対象に前向き観察研究を行い、半年後のSCD発生に関連する要因を検討した。

    【方法】

    A市在住高齢者1953名に質問紙を郵送配布・回収にて調査を行った。第1次調査は2020年5-7月、第2次調査は2020年11月-2021年1月に実施し、1次調査時点でのSCDがなく、欠損値の認められなかった534名を解析対象者とした。

    SCDはJessen Fら(2014)、およびSlot REら(2018)を参考に、本研究では後期高齢者の質問票で「周りの人から『いつも同じことを聞く』などの物忘れがあるといわれていますか」「今日が何月何日かわからないときがありますか」の2つの質問のうち、1つでも「はい」と回答した者と操作的に定義した。

    対象者のうち、2次調査時のSCD発生有無で2群に分け、基本属性と1次調査時点における後期高齢者の質問票の項目に対してマンホイットニーのU検定及びχ二乗検定を行った。さらにSCD新規発生有無を従属変数として、群間比較にて有意であった項目を独立変数とする強制投入法による多重ロジスティック回帰分析を実施した。共変量として年齢、性別、併存疾患数、同居家族の有無で調整を行った。

    【結果】

    第2次調査でのSCD新規発生者は534名中85名(15.9%)だった。SCD発生有無での群間比較の結果、後期高齢者の質問票の歩行速度(p=0.001)、喫煙(p=0.001)、相談相手(p=0.002)に有意な差が認められた。有意差が認められた項目を独立変数に強制投入したロジスティック解析の結果、後期高齢者の質問票の歩行速度(オッズ比2.115、95%CI: 1.259-3.553)と相談相手(オッズ比3.619、95%CI: 1.553-8.443)が有意な関連要因であった。モデルχ2 検定の結果はp=0.003で有意であり、各変数も有意であった。Hosmer とLemeshowの検定結果はp=0.787で良好であり、判別的中率は83.6%であった。

    【考察】

    地域在住高齢者の半年後SCDの発生には、歩行速度の低下に加えて、ソーシャルサポートの有無による影響が示唆された。主観的認知機能低下に対しては、外出自粛が求められる中でも、心身状況を相談できる機会の確保が重要と考えられた。今後はSCD者の追跡を継続し、生活変化について検討を行う必要があると考える。

    【倫理的配慮、説明と同意】

    本研究はヘルシンキ宣言に基づき、高崎健康福祉大学研究倫理委員会審査会の承認を得て実施された(許可番号2009号)。研究参加の同意は質問紙への氏名の記載をもって取得とした。

職場における健康管理2
  • 吉田 健悟, 渡 良太, 藤倉 惇, 青木 真也
    p. 50
    発行日: 2022/12/01
    公開日: 2023/06/07
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    【目的】

    令和1年度当院看護師を対象に,腰痛に着目したアンケート調査を行った.アンケート調査にて腰痛保有者は約7割と多く,業務上での腰痛に対する啓発と対策が必要であると考えられた.その後自身の身体的特性を知ってもらう目的でメディカルチェックと柔軟性陽性項目に対するストレッチ指導を実施した.令和2年度は,腰痛の実態に加え,前年度の取り組み後に,腰痛・自身の身体に対する意識の変化がみられたかを明らかにすることを目的にアンケート調査を実施したので報告する.

    【方法】

    対象者は本研究に同意の得られた当院看護師128名(男性16名女性112名)とした.

    項目は基礎情報(性別・年代・経験年数),腰痛歴(腰痛の有無),疼痛(NRS)については選択式で,昨年度からの変化(腰痛・意識)について二件式で調査した.

    【結果】

    現在腰痛がある人は75名,ない人は53名であった.全体としての割合は,前年度の69%と比較し58%へと減少した.腰痛保有者の腰痛の程度はNRSで平均4.01±1.8であり,前年度の平均NRS4.9±2.3を下回った.昨年度と比較して腰痛が軽減した人は58名中25名(43%)であった.アンケート実施後より,腰痛に対する意識が変わった人は77名中36名(46%),メディカルチェックを受けて自身の身体への意識が変わった人は44名中31名(70%)であった.

    【結論】

    全体の傾向としては前年度と比較し腰痛保有者の割合は11%減少した.アンケート実施により腰痛に対する意識が変わった人は46%であったのに対し,メディカルチェックを受けて自身の身体への意識が変わった人は70%であり,アンケート調査に加え,メディカルチェックの様な直接的な介入を行うと,より意識変化が得られやすいことが示唆された.これらの結果から,令和1年度の取り組みは,職員の腰痛軽減に貢献できたのではないかと考えられる.

    上記の結果をふまえ令和2年度は,院内職員向けに腰痛に関する基礎知識を講話という形で発表させて頂いた.また,新型コロナウイルス感染防止の観点からメディカルチェックなど対面での介入は控える形となった.そのため,自己管理能力を高めることを目的とし,個人で出来る腰痛対策としてセルフケア指導・パソコン作業環境についてのポスターを作成し,各部署にポスターを配布・掲示した.今後も活動を継続し効果・検証をしていきたいと考えている.

    【倫理的配慮、説明と同意】

    本研究は院内倫理委員会にて承諾を得るとともに,ヘルシンキ宣言に則り紙面にて説明を行い同意が得られた者を対象者とした.

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