主催: (一社)日本予防理学療法学会、(一社)日本理学療法学会連合
共催: 第5回 日本栄養・嚥下理学療法研究会学術大会, 第4回 日本産業理学療法研究会学術大会, 第56回 日本理学療法学術大会
会議名: 第8回 日本予防理学療法学会学術大会
回次: 1
開催地: Web開催
開催日: 2021/11/13
p. 6
【はじめに、目的】
サルコペニアは転倒や死亡のリスクを増大させる要因であり、サルコペニアの危険因子のひとつには糖尿病が挙げられる。血糖値が糖尿病の基準には満たないが、正常より高い状態は前糖尿病と分類され、前糖尿病は糖尿病へ進行するリスクが高い。サルコペニアの割合はHbA1c値に比例して増加すると報告されており、前糖尿病の段階からサルコペニアの診断基準である筋量、筋力、身体機能が低下している可能性がある。これらを検討することは早期から機能低下を把握する上で重要である。本研究では、地域在住高齢者における前糖尿病および糖尿病と筋量、筋力、身体機能の関係を検討した。
【方法】
地域コホート研究(垂水研究2019)に参加した地域在住高齢者687名のうち、脳卒中、認知症の既往、要介護認定者を除く609名(平均74.0±6.3歳、女性62.1%)を対象とした。基礎情報として、年齢、性別、内服数、糖尿病の病歴を聴取した。四肢骨格筋指数(生体電気インピーダンス法)、握力、5回椅子立ち上がりテスト、HbA1c値を測定した。HbA1c値が5.7%未満を非糖尿病群、5.7~6.4%を前糖尿病群とし、6.5%以上または糖尿病の既往がある者を糖尿病群と分類した。四肢骨格筋指数は男性7.0kg/m 2 未満、女性5.7kg/m 2 未満を筋量低下、握力は男性28kg未満、女性18kg未満を筋力低下とした。また、5回椅子立ち上がりテストは12秒以上を身体機能低下とした。筋量低下、筋力低下、身体機能低下のそれぞれを従属変数とし、糖尿病分類(非糖尿病群、前糖尿病群、糖尿病群)を独立変数としたロジスティック回帰分析を行った。共変量は年齢、性別、多剤併用の有無および筋量低下の有無、筋力低下の有無または身体機能低下の有無とした。
【結果】
前糖尿病および糖尿病を有する者の割合はそれぞれ25.0%、15.1% であった。各群における筋量低下の割合は、非糖尿病群40.5%、前糖尿病群33.6%、糖尿病群23.9%であった。筋力低下の割合は、非糖尿病群20.3%、前糖尿病群25.7%、糖尿病群32.6%であった。また、身体機能低下の割合は、非糖尿病群6.6%、前糖尿病群7.9%、糖尿病群14.1%であった。非糖尿病群と比較して前糖尿病群では筋力低下のオッズ比が1.70(95%信頼区間:1.02-2.82)と有意に高かった。非糖尿病群と比較して糖尿病群では筋量低下のオッズ比が0.37(95%信頼区間:0.20-0.69)と有意に低かった。また、糖尿病群では筋力低下のオッズ比が2.10(95%信頼区間:1.15-3.85)、身体機能低下のオッズ比が2.28(95%信頼区間:1.00-5.17)と有意に高かった。
【結論】
非糖尿病の者と比較して、前糖尿病を有する者では筋力が低下しており、糖尿病を有する者では筋量は保持しているが、筋力および身体機能が低下していることが示唆された。筋力低下や身体機能低下は将来の日常生活動作能力の低下に影響するため、前糖尿病や糖尿病を有する者は早期から運動介入を検討することが必要だろう。
【倫理的配慮、説明と同意】
本研究は鹿児島大学疫学研究等倫理委員会の承認(170351疫)を得て実施した。ヘルシンキ宣言に基づき、対象者には研究内容について口頭と書面にて説明をし、同意を得た。