日本予防理学療法学会 学術大会プログラム・抄録集
Online ISSN : 2758-7983
第9回 日本予防理学療法学会学術大会
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産業理学オンデマンド2
作業動作時に運動恐怖を訴える腰痛有訴者に対する産業理学療法の一例:症例報告
藤井 廉今井 亮太重藤 隼人田中 慎一郎森岡 周
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キーワード: 腰痛, 作業動作, 運動恐怖
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p. 126

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抄録

【症例紹介】

症例は慢性腰痛を有する20歳代の男性介護士である.就労状況は腰痛を有しながらも就労を継続可能な状態であり,腰痛による欠勤は認めていなかった.実際の就労場面において症例は,重量物の取り扱いといった重労働への困難感を感じており,「重い物を持ち上げる際,痛みはあまり感じないが,腰を動かすことに怖さがある」といった訴えを認めた.

【評価結果と問題点】

就労場面における運動恐怖の影響を分析するために,作業動作時の体幹の運動パターンと運動恐怖に着目した評価を実施した.動作課題は重量物持ち上げ動作であり,三次元動作解析装置を用いて,体幹の運動パターンを定量的に分析した.その結果,体幹運動の緩慢さとともに,上部-下部体幹運動を過度に一致させる様相を示した.また,動作課題中に生じた運動恐怖(課題特異的な運動恐怖)の程度をNRSで聴取したところ,NRS:7と高値であった.加えて,TSK-11による日常生活等で全般的に生じる運動恐怖(全般的な運動恐怖)の評価は,合計点:43点,下位項目の活動回避(痛みと身体的な活動に関する思考):18点,身体への焦点化(痛みと身体への有害さに関する思考):13点であり,いずれの項目も参考値より高値であった(Roelofs, 2011).一連の評価結果から,本症例は過去の腰痛経験に基づき,「重い物を持ち上げることで,腰に痛みが出現するのでは?」といった課題特異的な恐怖心が生じており,それが全般的な運動恐怖へと波及するとともに,体幹の運動パターンの変調に関与していると推察した.

【介入内容と結果】

研究デザインはABAデザインを適用し,A1期はベースライン期,B期は介入期,A2期はフォローアップ期とした.B期における介入内容は,運動恐怖の改善を目的に,患者教育とセルフエクササイズ指導,面談を個別にて実施した.介入の結果,B期以降で体幹運動の緩慢さが改善した.同様に,課題特異的な運動恐怖,TSK-11の合計点,活動回避の減少とともに,腰痛症状(痛み強度や能力障害)に改善を認めた.一方,体幹の協調運動パターンと身体への焦点化は不変なままであった.身体への焦点化の各質問項目の回答から,“痛みによる自己効力感の低下”や,“再び労働障害に陥ることへの不安”が顕著であることが確認された.さらに,A2期以降においても,これら全ての指標は同様の経過を示し,最終的には腰痛症状の悪化を認めた.

【結論】

一連の産業理学療法アプローチによっても,“自己効力感の低下”や“再び労働障害に陥ることへの不安”は変容が生じづらく,これらが残存した場合,運動制御障害と相まって腰痛症状の再燃に影響する可能性が示された.今後の課題として,腰痛有訴者の運動恐怖を個別的に分析し,体幹の協調運動障害との関係性を明確にするための縦断調査へと展開する必要がある.

【倫理的配慮,説明と同意】

本研究は,畿央大学の倫理委員会の承認(R2-01)を受け,ヘルシンキ宣言を遵守して行った.

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© 2022 日本予防理学療法学会
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