主催: (一社)日本予防理学療法学会、(一社)日本理学療法学会連合
共催: 第5回 日本産業理学療法研究会学術大会, 第7回 日本栄養・嚥下理学療法研究会学術大会, 第57回 日本理学療法学術大会
会議名: 第9回 日本予防理学療法学会学術大会
回次: 1
開催地: 赤羽会館(東京都)
開催日: 2022/11/19 - 2022/11/20
p. 33
【はじめに、目的】
同種造血細胞移植(以下、移植)は、白血病などの造血器疾患の根治を目指す治療である。一方で、移植患者は出血傾向や骨粗鬆症のリスクが高く、合併症の発症率が高いことが知られている。先行研究は年齢や疾患、薬剤が転倒と関連することや、転倒発生率が20~40%であることを報告しているが、横断的研究かつ転倒リスク因子を十分に検討した報告ではない。本研究は、移植後の合併症を時間依存性変数として扱い、移植前の因子から転倒リスク因子を明らかにすることを目的とした。
【方法】
本研究のデザインは後ろ向きコホート研究とした。対象は2019年5 月~2021年4月に当院で移植治療を受けた20歳以上の造血器疾患患者とした。調査項目は移植前の基本属性や臨床情報、Barthel index、転倒歴、Morse fall scale、Profile of mood states 2 抑うつ-落ち込み得点とした。先行研究に従って、Barthel index 65点未満を日常生活動作能力障害あり、Morse fall scale 25点以上を転倒高リスク、Profile of mood states 2 抑うつ-落ち込み得点56.8点以上を抑うつ症状ありとした。また、移植後の合併症情報として感染症やgraft-versus-host disease、human herpesvirus 6(以下、HHV-6)辺縁系脳炎の有無を調査した。アウトカムは初回転倒の有無とした。統計学的分析は、転倒の累積発生率を検討するために従属変数を転倒の有無、観察期間を転倒または退院までの日数、競合イベントを死亡としてGray検定を行った。次に、時間依存性変数を選定するために転倒と関連する合併症を単変量解析で検討した。最後に、転倒のリスク因子を分析するために従属変数を転倒の有無、独立変数を収集した移植前の因子、競合イベントを死亡、時間依存性変数を単変量解析で有意であった合併症としてFine-Gray 比例ハザード回帰(ステップワイズ)を行った。
【結果】
計236名(中央値年齢[interquartile range、IQR]、55歳[45-65歳];男性60%)の患者が抽出された。急性骨髄性白血病の患者は58%、臍帯血移植を受けた患者は93%だった。入院期間中央値(IQR)は85日(70-103日)で、入院期間中に41名が転倒し、そのうち1名が治療を要した。転倒までの移植後日数は中央値(IQR)53日(30-82日)、移植後90日時点での累積転倒発生率は15.8%(95% confidence interval [CI] 11.1-21.2)、累積死亡発生率は19.5%(95%CI 14.4-25.1)だった。転倒と合併症の分析では、HHV-6辺縁系脳炎あり(n = 20)が有意に転倒と関連した(P < 0.001)。Fine-Gray比例ハザード回帰では、HHV-6辺縁系脳炎を時間依存性変数として分析し、年齢(≧55歳)(hazard ratio 2.76、95%CI1.44–5.27、P < 0.001)、抑うつ症状あり(hazard ratio 2.36、95% CI 1.27 – 4.39、P = 0.006)が転倒のリスク因子として検出され、HHV-6辺縁系脳炎は抽出されなかった。
【結論】
移植患者における転倒リスク因子は、年齢と抑うつ症状であることが示された。移植前に55歳以上や抑うつ症状を有する患者への転倒予防策の強化が転倒率の減少につながる可能性が示唆された。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は当院の倫理審査委員会の承認を得て、ヘルシンキ宣言に則って実施した(承認番号:2272)。本研究は後ろ向きコホート研究であることから、あらかじめ研究に関する情報(目的、利用する項目、利用者、管理責任者)についてホームページで公開し、研究対象者やその家族が拒否できる機会を保障する方法をとった。