日本予防理学療法学会 学術大会プログラム・抄録集
Online ISSN : 2758-7983
第9回 日本予防理学療法学会学術大会
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予防一般口述4
独歩自立に必要な等尺性股関節外転筋力閾値-65歳以上の入院患者における検討-
津田 泰路立石 高稔中井 貴志山﨑 裕司
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p. 35

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抄録

【はじめに、目的】

自立歩行の可否は,下肢筋力水準によって強く規定される.理学療法士は評価と治療の必要性に根拠を示すため,下肢筋力閾値を明確にしなければならないが,現在普及している閾値は膝伸展筋力に限られている.前額面上の骨盤の安定性に寄与する股関節外転筋力の水準は,自立歩行に影響する可能性がある.しかし,これまで歩行に必要な股関節外転筋力に関する報告は少なく,その閾値は明らかでない.

近年,端座位での等尺性股関節外転筋力測定法が考案され,高い再現性と簡便性が報告されている.そこで今回,端座位での等尺性股関節外転筋力(以下,外転筋力)と歩行自立度の関係について分析した.

【方法】

対象は65歳以上の入院患者91例(年齢:80.7±8.5歳,身長:155.5±10.1cm,体重:50.9±11.7kg,男性の割合:47%)である.除外基準は,中枢神経疾患や疼痛を伴う荷重関節疾患,認知症を有する者とした.

外転筋力はアニマ社製μ-Tas F2を用い,柏ら(2019)の方法に準じて測定した.歩行自立度は,独歩自立例(独歩で移動)と独歩非自立例(監視や介助,補助具が必要)に分類した.

統計学的解析には2標本t検定,Mann-WhitneyのU検定,χ2検定,ROC曲線を用いた.また,外転筋力結果より,0.15kgf/kg未満をⅠ群(13名),0.15-0.20kgf/kg未満をⅡ群(9名),0.20-0.25kgf/kg 未満をⅢ群(21名),0.25-0.30kgf/kg未満をⅣ群(20名),0.30-0.35kgf/kg未満をⅤ群(17名),0.35kgf/kg以上をⅥ群(11名)に区分し,各群の独歩自立例の割合を比較した.統計学的有意水準は5%とした.

【結果】

独歩自立例は50例,独歩非自立例は41例であり,年齢,身長,体重,外転筋力に有意差を認めた(p<0.01).外転筋力のカットオフ値,曲線下面積,感度および特異度は,順に,0.23kgf/kg,0.75,63%,78%であった.

外転筋力区分別の独歩自立例の割合は,Ⅰ群から順に,7%,55%,48%,65%,59%,100%であった(p<0.01).

【結論】

外転筋力は独歩の自立可否を判別可能だが,精度は中等度であった.区分別では,0.15kgf/kg未満は概ね独歩非自立であった.一方,0.35kgf/kg以上は全例が独歩自立であった.このことより,独歩の自立には最低限0.15kgf/kg以上が必要なものと推測された.また,0.35kgf/kg以上は全例が独歩自立しており,これ以上の外転筋力は独歩自立に影響しないものと考えられた.

一方,0.15-0.35kgf/kg未満の群において,独歩自立例と独歩非自立例の割合は近似していた.これらの筋力域では,外転筋力は独歩自立の可否に影響しない可能性が示唆された.

【倫理的配慮,説明と同意】

本研究は土佐市立土佐市民病院倫理審査委員会にて承認を受けて実施した(承認番号:3-1).また,測定は対象者へ研究参加についての説明を文書にて行い,同意を文書にて得た後に実施した.

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