主催: 日本臨床薬理学会
会議名: 第46回日本臨床薬理学会学術総会
開催地: 東京都千代田区
開催日: 2025/12/05 - 2025/12/06
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分散型臨床試験(Decentralized Clinical Trial: DCT)は、患者が医療機関に来院することなく同意取得やデータ収集を行える新しい臨床試験の形態である。特に感染症領域においては、隔離を要する患者や広域からの症例集積が求められる場面において有用性が高い。演者はこれまでに2つのDCTを経験した。 1つ目は、洗口液のSARS-CoV-2に対する有効性を検証するランダム化比較試験である。大阪府内の特定ホテルにおける軽症COVID-19患者を対象とし、オンライン面談によりインフォームドコンセントを取得した。研究スタッフはホテルに1名のみ常駐し、物品の準備や被験者対応を補助した。最終的に96名の患者を登録し、隔離下にある患者であっても安全に同意取得と介入を実施できることを確認した。 2つ目は、新規抗ウイルス薬エンシトレルビルがCOVID-19後遺症を減少させ得るかを検証する試験である。全国270の医療機関およびクリニックをパートナーサイトとして組織し、診断直後の患者とオンラインで面談を行い同意取得した。これにより2000例の登録を実現し、地域や医療機関の枠を超えた大規模症例集積が可能となった。 感染症臨床試験の特徴として、登録数は流行状況に強く依存する。症例が急増する局面で効率的に症例を組み入れることが成功の鍵となり、DCTはその柔軟性を支える手段となり得る。 DCTの利点は、患者が医療機関に直接来院する必要がない点にある。隔離を要するCOVID-19患者においても、医療者は曝露リスクを負わずに同意取得が可能であった。また、全国規模で患者にアプローチできることから、より多様な症例背景をもつ患者群を集積できる。これにより、従来の単施設または地域限定の試験では困難であった幅広い臨床的知見を得ることができる。 一方で、被験者の遵守状況の確認、物流の調整、オンラインでの説明における理解度確保など、従来と異なる課題も存在する。今後は、ICT技術のさらなる活用や、パートナーサイトとの連携強化を通じて、より効率的で質の高いDCTの実施が求められる。 以上の経験から、感染症領域におけるDCTは、安全性・迅速性・柔軟性を兼ね備えた試験手法として有望であり、今後の臨床試験実施の新たな標準の一つとなり得ると考える。
特別講演 6