日本臨床薬理学会学術総会抄録集
Online ISSN : 2436-5580
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会長講演
  • 蓮沼 智子
    p. 1-
    発行日: 2025年
    公開日: 2026/03/31
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    私が臨床薬理学の世界に足を踏み入れたのは、現在の所属である(旧)北里研究所・(旧)臨床薬理研究所に入職した時のことです。それまでリウマチ・免疫学の領域で臨床と基礎研究に携わっていた私にとって、臨床薬理はまさに未知の分野であり、その新鮮さと奥深さに、大きな刺激を受けたことを今でも鮮明に覚えています。 これまで数多くの早期臨床試験に責任医師・分担医師として関わり、現在日常診療で自ら処方している薬剤の中にも、当時治験を担当したものが少なくありません。処方するたびに、候補物質だった薬が市場に出るまでの道のりを思い出し、創薬に携わる者としての喜びと重みを実感します。成功確率が決して高くない新薬開発の世界で、関わった薬が市販に至る瞬間に立ち会えることこそ、早期臨床試験に携わる醍醐味だと感じています。 一方で、近年問題となっている日本のドラッグラグ/ドラッグロスの背景には、国内で早期臨床試験が十分に実施されていない現状があります。海外では受けられる医療が日本ではすぐに受けられない——この状況は、一刻も早く改善すべき深刻な課題です。そのためには、海外における日本の創薬・臨床薬理のプレゼンス向上が不可欠です。私たちは製薬企業やPMDAと連携し、本学術総会でのシンポジウム開催に加え、次回のアメリカ臨床薬理学会でもシンポジウム企画を進め、欧米への積極的な発信を行っていく予定です。 さらに、コロナ禍を経て世界は大きく変わり、人々の価値観にも“変化を受け入れる柔軟性”が生まれました。臨床薬理学も例外ではなく、新たな技術や概念の登場により、学問そのものが次のステージへ進もうとしています。本学術総会では、これまで築かれてきたレガシーを大切にしながら、この変化の時代における臨床薬理の未来を考えるヒントとなるテーマを特別講演・教育講演として企画しました。一部は後日配信も予定しておりますので、会場にお越しいただけない方にもご視聴いただければ幸いです。 医師になった当初、まさか自分がこのような立場で仕事をする日が来るとは想像もしていませんでした。深く考え込むより「なるようになる」と歩んできた私ですが、その節目節目で多くの先生方に支えていただき、ここまで続けることができました。これまで関わってくださったすべての皆様に、心より感謝申し上げます。

特別講演
  • Nucci Gianluca, Bergman Arthur, Yin Donghua, Baltrukonis Daniel, King ...
    p. 2-
    発行日: 2025年
    公開日: 2026/03/31
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    Quantitative Clinical Pharmacology is redefining drug development, as demonstrated by Pfizer’s integration of Quantitative Medicine (QM) across the clinical research continuum. These strategies employ integrating modeling, real-world data, and novel biomeasures, digital and imaging endpoints to accelerate discovery&development, optimize dose selection, and enhance regulatory engagement. Case studies illustrate the application of mechanistic and more empirical models to inform clinical decisions, support regulatory interactions, and enable robust analyses in complex settings. From early exposure-response modeling to comprehensive frameworks and automated reporting tools, quantitative clinical pharmacology has driven cultural change and productivity gains, fostering objective decision-making and efficient regulatory submissions. Artificial Intelligence is becoming progressively more integrated in the QM toolset and promises transformational increase in productivity. Collectively, these approaches advance a vision for data-driven, efficient, and patient-centered drug development, ensuring that every decision is grounded in quantitative evidence and collaborative innovation. Clinical pharmacology in Japan is consistent with global best practices by embracing quantitative, model-informed strategies, rigorous dose justification, and transparent, evidence-based regulatory submissions. Japan’s early participation in global clinical trials is an opportunity for advancing drug development across all therapeutic areas. The integration of digital measures, real-world data, and advanced modeling will be key to meeting regulatory expectations and ensuring safe, effective medicines for global drug development.

  • Visser Sandra
    p. 3-
    発行日: 2025年
    公開日: 2026/03/31
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    The American Society for Clinical Pharmacology and Therapeutics (ASCPT), established in 1900, is the world’s largest scientific society dedicated to advancing the discipline of clinical pharmacology in service of patients. With a multidisciplinary membership spanning academia, industry, regulatory agencies, and healthcare, the Society has consistently fostered innovation and collaboration across the drug discovery, development, regulatory and therapeutic use continuum. ASCPT’s mission - Advancing clinical pharmacology, translational science, and therapeutics for the benefit of patients and society - has remained constant while its scope has expanded to encompass emerging domains including precision medicine, pharmacogenomics, quantitative modeling approaches, and novel therapeutic modalities. A central pillar of ASCPT’s work lies in its diverse and active membership program. The Society supports networks and communities organized around scientific domains as well as career-stage groups. Members have access to ongoing educational offerings, including an extensive webinar library, podcasts, and online learning modules, which ensure current knowledge and professional skill development. ASCPT also provides leadership and capacity-building opportunities via its Leadership Accelerator Program and the Low- to Middle-Income Country Accelerator Program, promoting global inclusion and nurturing emerging leaders. Through its journals (Clinical Pharmacology & Therapeutics; CPT: Pharmacometrics & Systems Pharmacology; Clinical and Translational Science), the Society enables the advancement of the field’s scientific innovation. In May 2025, ASCPT convened a strategic summit with key stakeholders and thought leaders to articulate a vision for the future of clinical and translational pharmacology. The summit underscored the imperative to integrate multidisciplinary scientific advances, harness data science and artificial intelligence, broaden patient representation in research and clinical trials, and strengthen global collaboration. These priorities are in part informing ASCPT’s forthcoming new strategic plan. The Annual Meeting represents the Society’s central forum for dissemination and exchange within the field, consistently providing high-quality member-sourced scientific programming, dynamic and engaging session formats, and ample opportunities for collaboration and networking. The forthcoming meeting will be held March 4-6 2026 in Denver, Colorado, with its scientific programming highlighting how our field is uniquely positioned to advance pharmacoequity through its scientific tools, cross-disciplinary integration, and patient-centered approach across a wide application range from patient care, drug development to translational research. A joint JSCPT/ASCPT symposium is included that will discuss how global market access can be accelerated through early Japanese clinical pharmacology studies.

  • 赤間 高雄
    p. 4-
    発行日: 2025年
    公開日: 2026/03/31
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     ドーピングはスポーツの価値を損なう行為であり、アンチ・ドーピング活動の目的はスポーツにおける公正性の確保とスポーツを行う者の心身の健康の保持増進である。世界のアンチ・ドーピング活動は世界アンチ・ドーピング機構が統括しており、世界アンチ・ドーピング規程(世界規程)に則り実施されている。国内アンチ・ドーピング機関は、公益財団法人日本アンチ・ドーピング機構である。  アンチ・ドーピング規則違反は、ドーピング検査による禁止物質の検出を含めて全部で11項目があり、違反と判定された場合には関連の試合成績の失効と競技資格停止の制裁が科される。検査やその他の手続きについては綿密な規則として8つの国際基準が定められている。国内のドーピング検査は年間8000件程度実施されており、毎年10件未満のアンチ・ドーピング規則違反が発生し、多くはサプリメントや医薬品の不注意な摂取が違反原因になっている。国内のドーピング検査費用は独立行政法人日本スポーツ振興センタースポーツ振興くじから9割助成をうけている。  禁止物質と禁止方法は禁止表国際基準に掲載されている。①競技力向上効果がある、②競技者の健康に危険性を及ぼす、③その使用がスポーツ精神に反する、の3要件の2つ以上を満たす場合に禁止表への掲載が検討される。禁止表国際基準は毎年見直され、2025年禁止表国際基準には、常に禁止としてS0無承認物質、S1蛋白同化薬、S2ペプチドホルモン、成長因子、関連物質および模倣物質、S3ベータ2作用薬、S4ホルモン調節薬および代謝調節薬、S5利尿薬および隠蔽薬、M1-M2-M3禁止方法、競技会時のみの禁止としてS6興奮薬、S7麻薬、S8カンナビノイド、S9糖質コルチコイド、一部の競技で禁止としてP1ベータ遮断薬がある。禁止物質のほとんどはもともと治療薬であり、アスリートが禁止物質や禁止方法を治療として使用する場合は治療使用特例(TUE)が必要となる。  2023年には全世界で288,865件のドーピング検査検体が分析され、2,769検体(0.96%)から禁止物質が検出されている。検出されて違反が疑われた禁止物質は、S1蛋白同化薬(42%)、S5利尿薬および隠蔽薬(16%)、S6興奮薬(14%)、S4ホルモン調節薬および代謝調節薬(10%)が多い。  アンチ・ドーピング活動の基盤として研究は重要である。世界アンチ・ドーピング機構の研究推進および国内のアンチ・ドーピング研究の状況についても説明する。

  • 尾﨑 治夫
    p. 5-
    発行日: 2025年
    公開日: 2026/03/31
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    近未来の日本の医療は、2025年を境に全国一律ではなく、各都道府県で歩む道が異なっていくことが予想される。例えば東京都では、人口は減らないまま、これから高齢化が進む。ただでさえ少子化のスピードが速く、医療・介護の支え手が少なくなる東京なのに、医療・介護需要はますます増えていくという大問題を抱えている。一方、全国を見ると、外来診療はすでに2025年にピークを過ぎるところが大半で、入院診療も2035年にはピークを迎え、その後減少に転じ、在宅医療のみ全国で需要が増し続ける。一方、東京だけは2045年以降まで、外来、入院、在宅医療ともに需要が増え続ける。このように医療・介護環境は、人口動態、少子高齢化の度合いなどによって、都道府県別に確実に変わっていくのである。 都道府県は、厚生労働省や日本医師会などに医療政策の舵取りを任せるのではなく、コロナ禍の時のように、各都道府県が行政と医師会の連携のもと、多職種と協働して、自分たちの自治体にあった医療・介護環境にふさわしい政策を取っていかなければいけないと考えている。 国の2040年に向けた新たな地域医療構想でも、大都市、地方都市、過疎地域に分けて考えていく方向性を打ち出している。東京にはこの三つの地域が存在しており、今後ロールモデルになるような医療政策の展開を東京都の行政と共に模索中である。 高齢化と医学の進歩によって医療・介護費が増していくにもかかわらず、景気の停滞もあって、必要な財源確保の見通しは立っていない。近年、診療報酬を維持するため、薬価を下げそれを財源とする政策が続いたため、製薬業界は大きなダメージを受け、ジェネリックメーカーの不祥事も相まって、必要な薬の供給が思うようにいかない事態を招いており、社会問題となっている。患者さんの命にかかわる治療に必要な、欧米ではすでに使われている新薬が使えない、迅速に入ってこない、いわゆるドラッグロス、ドラッグラグの問題も、欧米企業からすると日本の不当に安い薬価制度がその一因になっている。 一方で、日本での画期的な新薬の開発は遅れており、基礎研究では良いものが沢山出ているにもかかわらず、それがシーズとなり実りある創薬につながらない問題を抱えている。国際協力のもと、新しい創薬エコシステムを作っていくことがその解決策になると言われているが、そのためにも先を見越して、この分野に十分な財源を投入していく思い切った政策が国に求められている。

  • 忽那 賢志
    p. 6-
    発行日: 2025年
    公開日: 2026/03/31
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    分散型臨床試験(Decentralized Clinical Trial: DCT)は、患者が医療機関に来院することなく同意取得やデータ収集を行える新しい臨床試験の形態である。特に感染症領域においては、隔離を要する患者や広域からの症例集積が求められる場面において有用性が高い。演者はこれまでに2つのDCTを経験した。 1つ目は、洗口液のSARS-CoV-2に対する有効性を検証するランダム化比較試験である。大阪府内の特定ホテルにおける軽症COVID-19患者を対象とし、オンライン面談によりインフォームドコンセントを取得した。研究スタッフはホテルに1名のみ常駐し、物品の準備や被験者対応を補助した。最終的に96名の患者を登録し、隔離下にある患者であっても安全に同意取得と介入を実施できることを確認した。 2つ目は、新規抗ウイルス薬エンシトレルビルがCOVID-19後遺症を減少させ得るかを検証する試験である。全国270の医療機関およびクリニックをパートナーサイトとして組織し、診断直後の患者とオンラインで面談を行い同意取得した。これにより2000例の登録を実現し、地域や医療機関の枠を超えた大規模症例集積が可能となった。 感染症臨床試験の特徴として、登録数は流行状況に強く依存する。症例が急増する局面で効率的に症例を組み入れることが成功の鍵となり、DCTはその柔軟性を支える手段となり得る。 DCTの利点は、患者が医療機関に直接来院する必要がない点にある。隔離を要するCOVID-19患者においても、医療者は曝露リスクを負わずに同意取得が可能であった。また、全国規模で患者にアプローチできることから、より多様な症例背景をもつ患者群を集積できる。これにより、従来の単施設または地域限定の試験では困難であった幅広い臨床的知見を得ることができる。 一方で、被験者の遵守状況の確認、物流の調整、オンラインでの説明における理解度確保など、従来と異なる課題も存在する。今後は、ICT技術のさらなる活用や、パートナーサイトとの連携強化を通じて、より効率的で質の高いDCTの実施が求められる。 以上の経験から、感染症領域におけるDCTは、安全性・迅速性・柔軟性を兼ね備えた試験手法として有望であり、今後の臨床試験実施の新たな標準の一つとなり得ると考える。

  • 斎藤 環
    p. 7-
    発行日: 2025年
    公開日: 2026/03/31
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     フィンランドで開発された「オープンダイアローグ」は、近年急速に注目を集めつつある統合失調症急性期への統合的アプローチである。1980 年代から実践されており、入院治療や薬物治療を行わずに、きわめて良好な治療成績を上げているとの報告がある。  その基本的手法は以下の通りである。発症直後の急性期、患者や家族からの依頼があってから24 時間以内に、「専門家チーム」が結成され、患者の自宅を訪問する。本人や家族、そのほか関係者が車座になって座り「開かれた対話」を行う。この対話は、クライアントの状態が改善するまで、ほぼ毎日のように続けられる。  オープンダイアローグの主たる対象は急性期の統合失調症であるが、統合失調症に限らず、うつ病やひきこもりに至るまで、その適用範囲は多岐にわたる。演者らはすでに外来診療においてオープンダイアローグ的な手法の導入を進めており、とりわけ思春期事例などにおいて、従来型の治療よりも高い有効性を実感している。  オープンダイアローグの特徴は、診断やアセスメントに重きを置かない、疾患非特異的な「ケア」である点である。それゆえ治療目標を設定せず、ケアの「プロセス」を重視する。このとき改善や治癒は、あくまでも副産物として起こる。しばしばゴールの押しつけになりがちな思春期事例において、治療チームがプロセス重視の姿勢を重視することで信頼を勝ちえ、巧まずして成果に繋がっているのではないだろうか。  本来の対象疾患である統合失調症に対してオープンダイアローグはきわめて有効である。現在演者は自身のクリニックにおいて多くの統合失調症当事者と対話実践を行っているが、幻覚妄想が改善ないし消失し、消失しない場合でも症状の切迫感や衝動性は著しく緩和されることが多い。薬物療法を施行せずになぜこうした変化が起こるのか、十分な解明がなされたわけではないが、以下のような機序が考えられる。①異常体験の言語化と共有による症状の緩和、②当事者と家族のネットワークが修復され、安全保障感が高まる、③さまざまな意見が共存するポリフォニーの余白において、当事者の主体性が回復される、④妄想のような「小さな真理」を、ランダムな対話の運動が揺さぶりをかける。  以上の機序について、当日は事例に基づいて報告を試みたい。

シンポジウム
  • 西村 礼子
    p. 8-
    発行日: 2025年
    公開日: 2026/03/31
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     看護学教育モデル・コア・カリキュラム(令和6年度改訂版)は、ヘルスニーズ・ヘルスシステムを起点として、第1〜第4階層の資質・能力とアウトカムを明確化し、マイルストーンと到達度(Knows/Knows How/Shows How/Does)、さらに臨地実習における「指導体制と委託の程度」を提示した。これにより、基礎教育と継続教育、育成と評価を接続する教育基盤が整備された。コンピテンシー基盤型教育(CBE)では、授業実施というプロセスではなく、卒業時に保証される学修成果の可視化と情報公表、継続的改善を含む内部質保証が中核となる。  本発表は、①DP・AP・CPに整合したコンピテンシー基盤型カリキュラム、②第4階層の資質・能力と臨地実習における指導体制・委託の程度を結節点とするアセスメント・プラン、③ブループリントに基づく評価課題(思考型・シナリオシミュレーション、OSCE)とルーブリックによる評価基準の構成を整理する。また、2025年以降の認証評価見直しの動向を踏まえ、教育成果の実証性・段階評価・情報公表・IR活用によるPDCAを組み込んだ内部質保証も検討する。  とりわけ看護学教育では、医療事故の主要因の一つに薬剤関連が位置づけられ、薬剤に関する臨床判断能力は患者安全と医療の質に直結する。CBEに基づく臨床薬理学教育では、用量反応・薬物動態・相互作用の理解を基盤に、薬剤の安全管理、説明と共同意思決定支援、安全配慮義務(予見可能性・結果回避可能性)の観点、有害事象の早期認識と対応、移行期の服薬支援、専門職連携における薬剤関連の提案・評価などを、段階的に評価する必要がある。患者安全・共同意思決定・専門職連携を基盤とする臨床薬理領域のコンピテンシーは、状況に応じたパフォーマンスとして、学内では「Shows How」、臨地実習では「Does」を保証することが不可欠である。  今後は、CBEの導入により、外部講師にも教育設計・到達度・評価指標および臨地実習前後の評価フロー(学内での「Knows/Knows How/Shows How」の保証と、臨地における「指導体制と委託の程度」を前提とした「Does」の接続)の共有が期待される。学内でのコンピテンシー保証が臨地での実践機会と評価につながり、実習後の評価を踏まえた卒業時点でのコンピテンシー保証へと一貫化することにより、看護実践を通じた看護成果・医療成果・社会的インパクトへの波及と社会的説明責任の達成が期待される。

  • 眞鍋 貴行
    p. 9-
    発行日: 2025年
    公開日: 2026/03/31
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    近年、看護教育は「改訂版看護学教育モデル・コア・カリキュラム」に基づき、知識伝達型からコンピテンシー基盤型への転換が進められている。特に薬物療法領域では、薬物の安全管理、患者個別性の理解、多職種連携に基づく薬物療法支援が看護師に求められており、これに対応する臨床薬理学教育の再構築が急務である。本発表では、薬剤師の視点から、(1)現行コアカリにおける薬物療法に関する必須学習項目の確認、(2)現場で求められる看護師の薬物療法関連コンピテンシー、(3)その達成に資する臨床薬理学教育。 まず、改訂コアカリにおいて薬物療法に関連する学習項目は、投与経路と薬物動態、薬効評価と副作用モニタリング、患者背景に基づく用量調整、ハイリスク薬管理などが明示されている。これらは薬剤師が日常的に支援している領域であり、看護教育においても理論と臨床実践をつなぐ学習デザインが必要である。 次に、現場で薬剤師が期待する看護師の薬物療法コンピテンシーとして、①処方意図の理解と患者背景に基づくリスク予測、②副作用初期兆候の早期発見と報告、③薬剤情報提供・服薬支援、④チーム医療における薬剤師との協働が挙げられる。これらは単なる知識暗記ではなく、臨床判断・患者コミュニケーション・多職種協働力が統合された能力である。 最後に、今後の臨床薬理学教育においては、薬剤師が教育に参画し、症例ベース学習、シミュレーション教育、実習前後のブリッジング教育などを通じて、薬理学的知識を臨床判断に転換する支援が求められる。また、ポリファーマシーや高齢者薬物療法、薬剤関連有害事象の予防といった社会的要請にも対応可能な教育内容が重要である。 本シンポジウムでは、これらの課題と薬剤師による教育参画の実践案を共有し、看護教育における臨床薬理学教育の発展に向けた提案を行う。

  • 大内 基司, 犬山 彩乃, 佐々木 ちひろ, 中水流 彩, 安西 尚彦
    p. 10-
    発行日: 2025年
    公開日: 2026/03/31
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     令和6年度改訂版看護学教育モデル・コア・カリキュラム(新コアカリ)の本文中に記載されている本テーマの関連ワードは、薬が22(薬剤5、薬品4)出現するが、内服・服薬・投薬・与薬さらに“薬理(臨床薬理)”は0である。解剖と生理は各1、基礎看護のワード出現数も6に留まる。特筆すべきはコンピテンシーが261と多く、実践219、臨床70と続く。  体と薬物を含む化学物質との関わりを分子レベルから個体に至るまで明らかにするのが薬理学であり、臨床薬理学は薬理学を基盤として薬の開発、薬物治療において最適な医療を提供しヒトの社会生活を支援する上で不可欠、かつ多面的な学問である。薬理・臨床薬理学を教育する立場として、新コアカリの本文中に “薬理”が出現せず、学問名である「薬のことわり」がないのは残念である。保健師助産師看護師学校養成所指定規則や看護師等養成所の運営に関する指導ガイドラインに“薬理”は明記されており、平成29年版コアカリでは“薬理”ワードが3回出現していた。当方はこれまで医学部医学科の学部教育を主に行っており、コアカリとは 『全大学で共通して取り組むべき 「コア」の部分を抽出し、「モデル」として体系的に整理したもの』という認識である。看護領域におけるコアカリ作成と使用においては、文化の違いが存在する。令和4年度改訂版の他領域コアカリの“薬理”ワード数は、医学10、歯学26、薬学24である。新コアカリの教育内容と資質・能力では“薬理“が各2ワード出現し、教育内容には排泄ケアの薬理的・非薬理的排便調整の記載があり、内服13、服薬3、投薬0、与薬3(投与薬24で別カウント)の出現数である。  医学部医学科の教育・研究者や医師による看護系教育機関での講義は、自身の経験や見聞きしたことからも一定数存在している。今後、薬理教育の担当者数減少となる不安がある中、担当選出は各機関に任されている。当方の背景と新コアカリ本文中の“薬理”ワード数ゼロ等の現状からの視点になるが、コンピテンシー基盤へ合いにくいものを考えおくことが、実りのある持続可能な教育・アウトソーシングも含めた議論へ発展すると推測する。非常勤・兼担の他学部所属教員も学部教育を担い、適応するためカリキュラム指針を参照する。本セッションでは、薬理学・臨床薬理学教育がコンピテンシーの前段階で備える知識にあたるのか、コンピテンシー基盤型教育にどう合わせるのか、一緒に考えたい。

  • 松田 明子
    p. 11-
    発行日: 2025年
    公開日: 2026/03/31
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     看護教育モデル・コア・カリキュラム(以下、「看護学教育コアカリ」)の改訂では、学士課程におけるコンピテンシー基盤型教育を目指し、学生が卒業時点までに必要とされる資質・能力の全体像を4階層に構造化し示された。看護師に求められる基本的な資質・能力を11の領域で示され、薬理学・臨床薬理学に関する内容では、患者ケアのための臨床スキル(Clinical Skill:CS)、専門知識に基づいた問題解決能力(Problem Solving : PS)、ケアの質と安全の管理(Quality and Safety:QS)等に示された。CS-05-10「治療・処置・検査に伴う援助技術」とPS-10-03「健康障害に対する薬物療法」の第4階層に薬理学・臨床薬理学に関する内容が示されている。また、QS-04「対象者の安全促進のための知識と行動」の第4階層に「医療機器・医薬品管理に関する基本的知識」が示されている。  われわれはこれまでに、看護継続教育と看護基礎教育における臨床薬理学教育に関する研究結果から、臨床薬理学分野の教育に関して強化すべき共通内容は、「臨床で起こりやすい併用注意薬や重篤な薬剤による事故の分析・検証」、「患者の特性に応じた薬剤投与と観察の視点」、「患者の症状のリスクアセスメントと薬効評価」、「薬物相互作用」、「医薬品の添付文書の活用」と示した。そこで本シンポジウムでは、これまでに提示してきた看護学における臨床薬理学教育内容を基に、コンピテンシー基盤型教育の実現を目指し、臨床薬理学教育のあり方について検討していく。  本シンポジウムでは、皆さんとともにコンピテンシー基盤型教育への理解を深めていきたいと考えています。

  • 桑名 正隆
    p. 12-
    発行日: 2025年
    公開日: 2026/03/31
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    全身性硬化症(SSc)は、多臓器の萎縮と線維化、小~毛細血管レベルの血管リモデリング、自己抗体産生を特徴とする結合組織疾患である。病変の非可逆性と臨床経過の多様性により依然として生命予後不良の難治性疾患である。現時点で生命予後の改善が無作為比較試験で証明されているのは、急速に臓器障害が進行する早期びまん皮膚硬化型SSc(dcSSc)に対する自己末梢血造血幹細胞移植のみであるが、移植関連死亡のリスクや実施可能施設の制限が課題である。そのため、皮膚硬化の改善促進や間質性肺疾患による努力肺活量低下の抑制といった短期的有効性が示された免疫抑制薬(シクロホスファミド、メトトレキサート、ミコフェノール酸モフェチル)、分子標的薬(トシリズマブ、リツキシマブ)、抗線維化薬ニンテダニブが国内外の治療勧告で推奨されている。ただし、これら治療薬には長期予後改善のエビデンスはない。近年、SScの病態に関与するB細胞やⅠ型インターフェロンなどを標的とした分子標的薬の臨床試験が多く実施されている。残念ながら、これまで主要評価項目を達成できず中止となった試験が相次いでいる。一方で、新たな治療戦略として異なる作用機序を組み合わせた併用療法、CAR-T細胞療法、二重特異性T細胞エンゲージャーなどの先進的アプローチも試みられている。また、薬効評価に適した組み入れ基準や包括的アウトカム指標(修正CRISS、morbidity/mortalityイベント)も整備されつつある。さらに、縦断的に収集された皮膚や末梢血検体を用いたバイオマーカーを用いた解析により、個別化医療に資する知見が蓄積されている。本講演では、SSc治療の現状と今後の展望について概説する。

  • 梅澤 夏佳
    p. 13-
    発行日: 2025年
    公開日: 2026/03/31
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     特発性炎症性筋疾患(idiopathic inflammatory myopathy: IIM)は、筋、肺、皮膚を主な罹患臓器とする自己免疫疾患の一つである。病態形成には、T細胞、B細胞、単球、マクロファージなどの免疫細胞が多層的に関与する。本邦の患者数は約2万人であり、皮膚筋炎、多発性筋炎、免疫介在性壊死性筋症(IMNM)などの病型を包含する。近年、筋炎関連自己抗体が複数同定され、自己抗体と臨床的特徴や治療反応性との関連が明らかとなった。  治療は標的臓器や重症度により異なるが、グルココルチコイド(GC)と非特異的免疫抑制療法が主体である。筋病変に対しては、中等量以上のGCに加えアザチオプリンやメトトレキセートを併用しGCの減量・中止を目標とする。亜急性から慢性進行性の間質性肺炎に対しては、中等量以上GCにタクロリムスやシクロフォスファミド間欠静注療法(IVCY)を併用する。発症半年以内で致死的経過となりうる抗MDA5抗体陽性の急速進行性間質性肺炎では、治療導入時から高用量GC、タクロリムス、IVCYの3剤併用療法が行われ、経過により血漿交換療法を追加する。治療抵抗性の皮膚筋炎ではミコフェノール酸モフェチルの使用が検討され、IMNMを含む治療抵抗性で重篤な筋力低下を示す例では免疫グロブリン大量静注療法も選択肢となる。  いずれの標的臓器においても治療抵抗例やGC依存例が少なからず存在し、半数程度はGC減量中に再発を経験することから、病態に即した治療薬が望まれている。疾患活動性の評価方法が標準化されたことや、自己抗体等による患者層別化が浸透した背景もあり、IIMを対象とした臨床試験は積極的に展開されているが、主要評価項目を達成した試験は限定的である。現在は、ヤヌスキナーゼ(JAK)阻害薬、Ⅰ型インターフェロンなどのサイトカイン阻害薬、B細胞標的療法などを用いた第2相、第3相試験が行われている。特にB細胞標的療法の中では、CD19標的キメラ抗原受容体遺伝子改変T細胞(CAR-T)療法の有用性が注目されている。また、特に難治であるIMNMは抗体依存性の病態であることが示されており、胎児性Fc受容体阻害薬の第3相試験も進行中である。  今後はこれらの試験によって分子標的療法の有効性と安全性が明らかとなり、GCに依存しない患者個別の病態に即した治療法の確立が期待される。

  • 宮前 多佳子
    p. 14-
    発行日: 2025年
    公開日: 2026/03/31
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    若年性特発性関節炎(JIA)は国際リウマチ連盟の分類基準で16歳までに発症する慢性関節炎と定義される。成人発症の関節リウマチ(RA)に比べ希少であり、小児慢性特定疾病および指定難病に指定されている。初期治療の中核は抗リウマチ薬メトトレキサート(MTX)経口剤であるが、本邦では他の抗リウマチ薬は承認されておらず、不応・不耐例では生物学的製剤(bDMARDs)が用いられる。実際、MTX経口剤は約2割が副作用で中止され、とくに消化器症状の頻度が高い。条件反射的な悪心を訴える例もあり、生活の質を大きく損なう。十分な用量投与が困難となり、結果的にbDMARDsを早期から使用せざるを得ない実態がある。わが国でのJIAへのbDMARDs処方割合は約60%とRAの約40%を上回り、薬剤費もRAの1.6倍に達するとの報告があり、医療財政への影響も懸念される。米国リウマチ学会のJIAガイドラインではMTX皮下注製剤は経口剤より条件付きで推奨され、欧米では既に承認されている。国内のRAを対象とした第III相試験でも経口群に比べ消化器障害が有意に少なく、JIA治療への導入が望まれる。過去20年間におけるJIA薬物治療の進歩は多くがRAの臨床試験と保険収載に依存し、希少性ゆえのドラッグラグやドラッグロスが問題となっている。2025年9月時点でJIA多関節炎型・少関節炎型に承認されているbDMARDsは4剤であるが、RAのみ承認され今後JIAへの適応拡大が期待される薬剤は5剤に上る。さらに分子標的合成抗リウマチ薬(tsDMARDs)であるJAK阻害薬もRAでは5剤が承認済みだが、JIAでは2024年にバリシチニブが1剤承認されたに過ぎず、RAに比べ7年遅れであった。実臨床では既承認薬で効果不十分な場合が多く、未承認薬の適応外使用を余儀なくされる。加えて小児に適した剤形が不足する薬剤も存在し、臨床上の課題となっている。本シンポジウムでは、JIA薬物治療の現状をRAとの比較の視点から整理し、そこから導かれる将来展望について概説する。

  • 山口 正雄
    p. 15-
    発行日: 2025年
    公開日: 2026/03/31
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    気管支喘息(以下、喘息)は呼吸器領域およびアレルギー領域におけるcommon diseaseの一つであり、年間に千名余りが亡くなる要注意の疾患である。30年ほど前には年間6千名の喘息死が見られたが、吸入ステロイド薬や配合吸入薬の進化と普及、様々な抗体製剤の登場により順調に減少している。喘息の管理は随分行いやすくなったが、決して容易とまでは言えない。 重症喘息患者の多くが2型炎症を呈し、その成立に関わるIL-5, IL-4, IgE, TSLPといった標的分子に対する抗体製剤が成果を上げている。さらに抗TSLP抗体は2型炎症がみられないtype 2 low喘息でも効果を示す。抗体製剤が臨床で威力を発揮することにより、我々の診療研究にも様々な変革が生じている。まず挙げられるのは、研究の進展を通じて、標的分子の多面的な作用が明らかになったことであり、好酸球の細胞死(EETosis)や気管支内の粘液栓といった現象も治療薬との関わりで理解が深まる。次に、抗体製剤の著効を背景として重症喘息の将来予測、特に寛解が脚光を浴び、軽症患者から重症患者までを対象とする臨床的寛解(clinical remission)の達成要件と各薬剤の実力が話題となっている。さらに、喘息だけでなく併存疾患も考慮した治療戦略が重視され、担当医師において肺以外の臓器にも関心を向ける機会が増えている。そして長年の悲願であったアレルギー疾患の発症制御、特にアトピー性皮膚炎に対して抗体製剤を小児期から使用することによる喘息発病の変化にも注目が集まっている。昔の気管支拡張治療一辺倒の考え方から、現在は気道炎症を制御して喘息増悪を抑えQOLや呼吸機能改善を狙う考え方に置き換わっているが、今後はさらに個々の患者の特性を判定し個別治療に結びつけるtreatable traitも浸透していくことが期待される。2型炎症を呈する重症喘息患者における抗体製剤選択に迷うことが多いが、各製剤の作用と弱点、患者の特性を照合して製剤選択を行う指針作りが課題であり、将来新たな治療薬が登場する際に必要性がさらに高まると考えられる。

  • 金子 開知
    p. 16-
    発行日: 2025年
    公開日: 2026/03/31
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    グルココルチコイドは、骨形成抑制と骨吸収亢進を介して骨密度低下と骨折リスク増大を引き起こす。特に投与初期から骨量減少が急速に進行し、骨折に伴うQOL低下が臨床上の大きな課題となる。近年、リウマチ膠原病疾患においては、分子標的薬や免疫抑制薬の使用によりグルココルチコイドの使用を可能な限り回避し、最小限の用量・期間にとどめる診療が重視されるようになっている。しかし、依然としてグルココルチコイドを投与要する症例も多く、グルココルチコイド誘発性骨粗鬆症(GIOP)の予防と治療は臨床上の重要課題である。  この課題に対応するため、日本骨代謝学会は2023年に「GIOPの管理と治療ガイドライン」を改訂し、骨折リスク評価に基づく治療開始基準と薬剤選択を提示した。対象は18歳以上で3か月以上のグルココルチコイド使用予定または使用中の患者とされ、既存骨折、年齢、投与量、骨密度を用いたスコアリングで3点以上の場合に薬物療法が推奨される。  治療薬としては、ビスホスホネート製剤(内服、注射剤)、抗RANKL抗体、PTH1受容体作動薬、活性型ビタミンD薬、選択的エストロゲン受容体モジュレーター(SERM)の使用が推奨される。窒素含有ビスホスホネート製剤は腰椎・大腿骨骨密度増加と椎体・非椎体骨折抑制効果が確立され、強く推奨される。抗RANKL抗体デノスマブも有効性が確認され、腰椎・大腿骨骨密度増加と椎体骨折抑制効果に基づき推奨される。さらに、PTH1受容体作動薬であるテリパラチドは骨折リスクの高い症例に推奨される。加えて、エルデカルシトールなどの活性型ビタミンDは腰椎骨密度増加と非椎体骨折抑制に寄与し、SERMは閉経後女性に限定して使用が提案されている。一方、新規骨形成促進薬に関しては、PTH1受容体作動薬であるアバロパラチドについてはGIOPに対する推奨度は現時点で判断不可とされ、抗スクレロスチン抗体ロモソズマブについても将来の課題とされた。しかし近年、ロモソズマブに関してGIOPを対象とした臨床データが少しずつ報告され始めており、今後の治療選択肢拡大に向けた重要な知見となり得る。今後は、患者背景や併存疾患を踏まえ、骨折リスク層別化に基づいた個別化戦略を構築するとともに、新規薬剤の位置づけを検証することが求められる。本シンポジウムでは、最新エビデンスと2023年改訂ガイドラインに基づき、GIOP薬物治療の現状と展望を概説する。

  • 森 和彦
    p. 17-
    発行日: 2025年
    公開日: 2026/03/31
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    ICH-GCPは1996年に薬事法に規定されて以来、日本の治験を国際的に接続する基盤として機能し、30年の歴史を経て世界標準の臨床試験実施基準として定着している。近年、技術革新や試験デザインの多様化に伴い、従来の枠組みを超えた柔軟かつ合理的な運用が求められ、「GCP Renovation」と呼ばれる改訂作業が進行中である。改訂の主要ポイントには、電子記録の活用、リスクベースドモニタリング、監査効率化などが含まれ、臨床試験の透明性・信頼性を高めつつ効率化を図ることが期待される。 日本はICH発足時からの加盟国として改訂作業に積極的に関与し、アジア地域における規制調和と共同治験推進にリーダーシップを発揮してきた。しかし、MRCT(国際共同治験)の主流化に伴い、タイムリーな参加や規制調和、治験実施体制の整備、被験者登録の難しさなど課題も多い。これらに対応するためには、デジタル化や分散型治験(DCT)への対応、患者理解促進のための教育プログラム、医療機関との協力強化が不可欠である。 さらに、臨床薬理学的視点からは、用量設定の最適化、薬物動態解析の高度化、個別化医療の推進が重要であり、AIやビッグデータの活用が期待される。将来展望として、日本が世界の創薬トップランナーとして存在感を維持するためには、高度人材育成の継続、規制当局・産業界・アカデミア・患者の連携強化、革新的技術導入、オープンサイエンスとデータ共有の推進が求められる。 本講演では、ICH-GCP改訂の背景と最新動向を概観するとともに、日本の医薬品開発における課題と機会を整理し、国際競争力強化に向けた具体的方策を提言する。国際的な規制調和とステークホルダー連携の深化を通じて、持続可能で効率的な医薬品開発の未来を切り拓く展望を示す。

  • 植田 真一郎
    p. 18-
    発行日: 2025年
    公開日: 2026/03/31
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    ICHGCPのrenovationの意義は大きくこれを奇貨として企業治験のみならず臨床試験全体を活性化させる良い機会である。 臨床研究法が改正されますます適応外の臨床試験はやりにくくなったが、そもそも臨床研究法はバルサルタン問題をまさに奇貨としてできたやや応急処置的な法律で、良い面もあるが、最大の問題は臨床試験の質を担保できないことにある。情けないことに科学的、臨床的に意味のない企業主導のseeding trialでもCRBで承認されてしまう。ICHGCPの基本は被験者を保護し、かつ将来の患者を保護することであるから当然研究デザインの質は議論される。やや先鋭的ではあるが今回の改訂は、臨床研究法を廃止し全ての臨床試験はICHGCP下に行うことが最も研究の質の担保につながる可能性が高いことを示唆している。 活性化にはやはり研究者、あるいは支援者が「どうしてこれが必要か、自分で考え、常に根拠を示す」ことが必須でこれを習得できるような臨床研究トレーニングを導入する必要がある。治験エコシステム導入のような現場の負担軽減による活性化もまさにICHGCPR3の原則と比例性を踏まえ、自分の頭で考えることができなければすすまない。 臨床試験はそのシーズに依存する薬理作用の解明や薬効の証明の段階から実診療に近い状況での臨床的な有効性の証明までいくつものステップがありそこで原則を踏まえた適切な比例性による研究計画、オペレーション計画が必要になる。早期臨床試験はその薬剤の開発の根幹であるのみならず承認後の適切な使用に必須である、また最近のFDAから発表された承認におけるPlausible Mechanismの同定は遺伝子治療のみならず全てのシーズにとって重要なことであり、医師主導の開発においても例えば既承認薬であれば比例性からの負担を軽減したプロトコルとオペレーションが適用されればより研究推進しやすくなるであろう。既承認薬、適応外ではこのPlausible Mechanismを踏まえた用量設定が成否を決めるかもしれないし、承認後も重要な情報である。後期臨床試験においてはいわゆるPragmatic trialをICHGCP下に実施し、信頼性担保のための「急所」に集中したデザインとオペレーション、品質管理が求められる。ここはPPIとそれに基づく(ハイブリッド)DCTを活用した患者の負担軽減と両立させる必要がある。

  • 宇山 佳明
    p. 19-
    発行日: 2025年
    公開日: 2026/03/31
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    医薬品開発の国際化が進み、国際共同治験の実施が一般化したことで、我が国の承認審査においても国際共同治験の結果を評価し承認の可否を判断する事例が増加している。医薬品の開発戦略として、国内単独での治験に比べ、国際共同治験は医薬品の開発時期を海外と日本で同調化することが可能となり、結果としてドラッグラグ解消に貢献することが知られている。しかしながら、近年では、海外で承認または開発中の医薬品が、国内では未開発であり、国内で承認される見込みが立っていない医薬品が増加しており、いわゆるドラッグロスとして認識されるようになっている。 ドラッグロスを引き起こす要因として、薬事や薬価制度での課題の他、医薬品の開発主体が大手の製薬企業ではなく、ベンチャー等の中小企業による場合が増加していること、治験に係る費用や時間等の日本における治験環境が国際競争性の観点から優位性がないことなどが挙げられている。我々が実施した調査では、近年、日本の承認審査で評価された日本を含む国際共同治験の多くには、韓国、台湾等の東アジア地域が参加しているのに対して、東南アジア地域の参加は少ないこと、一方で、東アジアや東南アジア地域で実施されている国際共同治験の多くに、日本は参加できていないことが明らかとなっている。このような結果は、ドラッグロスが今後さらに拡大する可能性があることを示すもので、他のアジア地域でもICH GCPに準拠した治験が当然の状況となる中、日本での治験の質の高さは必ずしもアピールポイントにはならないということを示唆しているものと思われる。 日本が医薬品開発の場として、今後も選ばれ続け、ドラッグロスを真に解消するためには、グローバルスタンダードでの実施を基礎とした国際競争力を意識し、医療現場、製薬企業、行政等の関係者が、それぞれの立場で取り組むべき課題を着実に遂行していく必要がある。

  • 花岡 英紀
    p. 20-
    発行日: 2025年
    公開日: 2026/03/31
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    GCP(Good Clinical Practice)制定から20年以上、日本版GCP(JGCP)には大きな改訂がなかったが、近く予定されている改訂は医療機関に重大な影響を及ぼすと考えられる。今回の改訂で示される「考えるGCP」という文化が日本に定着するには時間を要するだろう。厚労省はICH-GCP E6(R3)合意(ステップ4)を受け、省令改正を令和9年4月施行を目標に進めており、リスクベースアプローチ(RBA)、電子化、責任分担の再整理などが柱となる。特に注目すべきは二点である。 第一にシングルIRBへの移行である。従来は各施設が独自に倫理審査を行ってきたが、今後は「一試験一IRB」を原則とする方向性が示されている。これにより審査の迅速化や重複作業の削減が期待される一方、施設IRBの役割整理、費用負担、責任分担の再構築が不可避である。さらに、有害事象発生時のCAPA対応や中立性確保に関する議論も残されており、関係者間の合意形成が求められる。 第二に治験計画書の構造的変化である。ICH E9(R1)で導入されたEstimand概念により、試験目的と解析戦略を明確化するフレームワークが必須となった。特に、スポンサーのみならず、すべての関係者がfitness for purposeに基づくRBAを理解することが求められる。加えて、ICH M11(ステップ3)による電子的に構造化された統一テンプレート(CeSHarP)が導入されると、目的、Estimand、評価項目、スケジュール表、CTQF(Clinical Trial Quality Framework)などの記載が標準化される。これにより透明性と一貫性が高まる一方、医師主導治験においてもSOPや文書管理の抜本的見直しが必要となる。 これらの改訂は、被験者保護を最優先としつつ、効率性と国際調和を両立させることを目的としている。しかし、電子化対応やIRB運用変更、責任分担の再定義など、医療機関にとっては運用負担の増加が予想される。今後、各施設はリスクベースモニタリングやeConsent対応を含む体制整備を急ぐ必要がある。治験や医師主導治験への取り組みを通して方向性を考えてみたい。

  • 岩山 訓典, 戸田 貴大
    p. 21-
    発行日: 2025年
    公開日: 2026/03/31
    会議録・要旨集 フリー HTML

     日本臨床薬理学会認定薬剤師には、臨床薬理学の専門家として国民がより有効でかつ安全な薬物治療の恩恵を受けられるために貢献すること、臨床薬理学を普及向上させることが求められている。演者は、前職の大学病院在籍時にCRCや臨床研究を通じて臨床薬理学に興味を持ち始めたことがきっかけで以降の研究は、臨床薬理学的アプローチによるクリニカル・クエスチョンの解消が主な領域となっている。また、研究を進めていく中で認定薬剤師の受験要件を満たすことができ、受験し合格(指導薬剤師も委嘱)することができた。当時新型コロナウイルス感染症患者数がピークだったため、試験は現地(東京)ではなく全国各地で実施された。そのような大変な状況だったにも関わらず、受験する機会を確保してくださった関係者の先生には非常に感謝している。  北海道科学大学薬学部(本学)には、演者を含めて2名の指導薬剤師が在籍しており、研修施設に指定されている。現在までに薬剤師や大学院生に対する認定薬剤師の研修を受け入れた実例はないが、学部生の卒業研究において臨床薬理学の観点からアプローチするテーマを展開している。現在、演者は炎症性腸疾患治療薬で生じる有害事象をバイオマーカー等から予測することを目指して研究指導を実施している。  本シンポジウムでは、認定薬剤師取得に至った経緯や現在実施している教育研究活動について紹介する。

  • 前島 多絵
    p. 22-
    発行日: 2025年
    公開日: 2026/03/31
    会議録・要旨集 フリー HTML

    薬剤師は薬の専門家であり、医療における貢献度は大きい。その中でも臨床現場で患者に最適な薬物治療を提供できる薬剤師こそ、私の理想と考える薬剤師である。EBMの実践によって「最善の薬物治療」の普及が進んでいるが、患者一人ひとりに「最適な薬物治療」を提供するためには、多岐にわたる幅広い知識や臨床での疑問を解決する能力が不可欠であり、臨床薬理学会認定薬剤師の取得は、それらのニーズに応えようとする薬剤師の通過点の一つではないかと考える。  私は病院薬剤師として11年間臨床に従事し、その後、薬学部の教員となり現在に至る。病院薬剤師としては、がん化学療法や妊婦・授乳婦薬物療法のカウンセリング業務など、あらゆる部署で、医師や看護師との協同を深めながら薬剤師としての専門性を発揮できるよう努めてきた。それらの経験が認定薬剤師取得の基盤となっている。病院薬剤師としてそれぞれの背景に応じた薬物療法の最適化や副作用マネジメントに注力し、患者の傍で薬物療法を支援できることは大きな喜びであり、仕事に対する最たるモチベーションであったが、一方で、エビデンスを利活用するのみでは限界があり、自らエビデンスを創出する力がなければさらなる成長は困難であると痛感した。奇しくもそのタイミングで、大学に籍を移す機会をいただき、フィールドを変えることとなった。現在は、病院での臨床経験をもとに、薬の適正使用を目指すための抗精神病薬の副作用の解析や妊婦・授乳婦薬物療法に関わった経験から、大学附属病院の医師と薬の乳汁移行予測モデルの構築に取り組んでいる。アカデミアの強みと臨床での視点により自身が見出した知見を現場に還元することが目標である。また、研究だけでなく薬学部での教育にも携わるようになったことで、臨床での疑問を出発点としたアクティブラーニングの実践に取り組むなど、病院薬剤師の経験から学生に薬剤師の魅力を伝えたいと奮闘している。  認定薬剤師の役割は、臨床現場での薬物療法支援のみならず、研究によるエビデンス創出や教育による次世代育成へと広がっている。本発表では、自身の病院薬剤師としての経験、大学における研究活動と教育に関する取り組みを通じて、認定薬剤師が次世代の薬剤師教育や医療にどのように貢献しうるかを考察したい。

  • 神山 直也
    p. 23-
    発行日: 2025年
    公開日: 2026/03/31
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    演者は2022年に臨床薬理学認定薬剤師試験を受験し、2023年より認定薬剤師となった。この学会を知るきっかけは2012年の薬剤部から治験支援センター(当時)への異動であり、認定CRC制度を有し医療機関における治験・臨床研究の実施における報告や研究発表に触れることのできる学会であることに強く興味を持った。2016年に臨床薬理研究振興財団の臨床薬理学集中講座が「復活」すると聞き、参加を強く願い出たことは今思うと人生におけるターニングポイントだったと感じる。2017年にはAMEDへの出向の機会にも恵まれ、産官学には常識の違いや大事にしていることに違いはあってもそれぞれに熱い思いで仕事していることに感銘を受けた。帰任後はFIH医師主導治験の治験薬製造の管理など、臨床試験におけるプロジェクトマネジメントを軸に経験を積んだ。コロナ禍において人々の交流が大幅に制限される中で、DIA PM Communityのメンバーは逆境を逆手に取ってWebinarを積極的に企画していたことから、背中を押される形で「アカデミアPMカフェ」を仲間と企画し、運営を行った。北海道旭川からでも全国の仲間とつながることを経験し、従来の枠組みにとらわれないフラットな交流が、これからの時代の関係性のベースになるものと思いを強くした。臨床薬理学集中講座の受講者ネットワークによる研究もこうしたなかで関わったプロジェクトのひとつであり、フルリモートでも参加者それぞれが熱意を傾けることで研究チームが成立することを体感した。その後も、業種に関係なく治験・医療DXでわくわくする未来を切り拓こうとする任意団体「Metaverse Medical Challange(Me2C)」の立ち上げに関わり、メタバース空間を利用したシンポジウムや匿名性を利用したCRC交流会の開催まで実施することができた。 情報へのアクセスが容易になり、人とのコミュニケーションの障壁が下がるなかで、臨床薬理学に限らず学問を次の世代に伝えていくには面白さを伝え、皆で楽しみながら発展させていく姿勢がより一層重要になると思われる。認定薬剤師はそうした学びの中の一つのマイルストーンであり、仲間同士で高めあい、それを見た次世代を担う若者が自然と目標とするようなものとなっていくことを願っている。

  • 丹沢 彩乃
    p. 24-
    発行日: 2025年
    公開日: 2026/03/31
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     私は日々NICU病棟に常駐し,患者の傍らで薬物治療を支援している.その現場において常に求められるのは「医薬品の適正使用」である.医薬品の適正使用とは,的確な診断に基づき最適な薬剤を選択し,適切な用法・用量を決定した上で,調剤,投与に至る一連のプロセスを指す.小児領域,特に超早産児や腎・肝疾患時,透析施行時などの特殊病態においては,PK/PDに関する科学的根拠が極めて乏しく,限られた情報を精査し論理的に考察した上で投与設計を行わざるを得ない場面が少なくない.十分な情報が存在しないからこそ,これまでの経験や蓄積された知見を整理・解析し,科学的に信頼できるエビデンスを創出することが重要である.この営みは未来の小児薬物療法に還元され,「薬物療法の個別化」と「科学的エビデンスの創出」を実現する基盤となる.これらは臨床薬理学が重視する概念であり,小児薬物療法に携わる者に不可欠な視点である.  臨床薬理学会認定薬剤師には,「臨床薬理学領域における広範な知識と技能を備えること」「学術・教育・研究活動や技術発展に寄与すること」「医薬品の適正使用を推進すること」「臨床試験領域においてIRB等で重要な役割を果たすこと」が求められている.私は日常業務を通じ,臨床薬理学的アプローチの重要性を実感するとともに,小児領域における必要性を強く感じてきた.実際,これらの活動を行ううえで認定の有無が直接の制約となるわけではない.しかし,認定を取得することで自身の専門性を客観的に示すことができ,自信や責任感を伴い,背筋を伸ばして取り組むことにつながると考えている.日常的に共に働く同僚は私の能力を理解しているが,初めて関わる人や対外的な場においては,「どのような知識をもち,どのような活動を実践してきたか」を示す名刺のような役割を果たすのが認定資格であると感じている.  今後は認定の名に恥じないよう自己研鑽を積み重ねるとともに,臨床現場での実践,教育,研究と多岐にわたる活動を通じて貢献の幅を広げていきたい.本発表では,私が認定取得を志した背景と,取得後に展望する活動について報告する.

  • 糸原 光太郎
    p. 25-
    発行日: 2025年
    公開日: 2026/03/31
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    臨床薬理学は「薬物と人との関係のあらゆる側面に関係する学問」と定義され、治療医学の中心に位置する薬物治療の有効性と安全性を最大限に高めるための合理的薬物治療を志向している。その中で臨床薬理学会認定薬剤師は、臨床薬理学に関する高度な知識と錬磨された技能を有する専門家として、国民がより有効かつ安全な薬物治療の恩恵を享受できるように貢献する使命がある。この使命を達成するためには、患者一人ひとりの病態や背景に応じた個別最適化された薬物療法を実現することが不可欠であり、その基盤には薬物動態学、薬力学、薬理遺伝学など幅広い学問領域が含まれる。 神戸大学医学部附属病院薬剤部では、目指してほしい薬剤師としてのキャリアプランを掲げている。入職後はまず幅広い薬剤業務を学び、3年目前後にジェネラルな薬剤師として、ベースとなる認定薬剤師の取得を目指す。その後、各自の興味や専門性に応じて、領域別の認定・専門薬剤師の取得を推奨しており、臨床薬理学会認定薬剤師はこの位置付けに含まれ、臨床研究や学術活動を通じて薬物療法の向上に貢献する薬剤師が取得を目指している。 私はこれまで、主に臨床現場で得られた薬物血中濃度データを用いた薬物動態モデル解析を実践してきた。臨床薬物動態解析では、患者から得られる血中濃度データを統計学的手法や薬物動態モデルに基づいて解析することで、薬物の体内動態に影響を及ぼす因子を定量的に明らかにできる。これにより、個体間および個体内のばらつきの背景を理解し、患者個別の背景因子を考慮した合理的な投与設計が可能となる。また、新生児など臨床試験のデータの乏しい特殊な集団における薬物動態の特徴を明らかにし、適切な薬物治療を構築するための有効な手段ともなる。特に薬物動態解析は薬剤師が最も得意とする分野であり、これらの解析を通じて新しいエビデンスを生み出すことは、認定薬剤師が臨床現場で専門性を発揮する上で重要な役割であると考える。 本発表では、私がこれまで関わってきた先天性サイトメガロウイルス感染症におけるバルガンシクロビルの薬物動態・薬効解析を中心にこれまでの研究活動を紹介し、臨床現場における認定薬剤師の活躍について意見交換したい。

  • 鈴木 敦
    p. 26-
    発行日: 2025年
    公開日: 2026/03/31
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    近年の高齢化社会において、心不全を合併する心房細動(AF)や心室不整脈(VA)の管理は重要な臨床課題であり、生命予後のみならずQOLにも大きく影響する。2025年改訂版心不全診療ガイドラインでも不整脈は重要な併存症として扱われている。AF治療の根幹はQOLの改善とともに抗凝固療法が主となり、抗凝固薬の適正使用には腎機能に応じた用量調節や薬物相互作用の理解、出血と血栓のリスクバランス評価が鍵となる。また心不全治療薬を含むアップストリーム治療の意義や、個々の病態に応じたレート・リズムコントロール戦略の選択も重要である。VAに対する治療では抗不整脈薬の副作用リスクを常に考慮し、器質的心疾患の有無に応じた薬剤選択や植込み型除細動器等の非薬物療法との連携も求められる。これらの治療を成功に導くには、臨床薬理学的アプローチが不可欠である。高齢者や多剤併用患者に対し、医師の診断・戦略とともに薬剤師も含めた多職種連携による薬学的管理が必須であり、副作用の早期発見やポリファーマシーの回避といった薬学的介入を通じて、患者中心の医療を実現することが最終目標となる。

  • 田中 敦史
    p. 27-
    発行日: 2025年
    公開日: 2026/03/31
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    虚血性心疾患(特に冠動脈疾患)の予後改善において、低比重リポ蛋白コレステロール(LDL-C)の管理は最も確立された戦略の一つである。従来からスタチンを基盤とした治療は数多くの大規模試験で心血管イベント抑制効果が示され、二次予防における必須治療薬となっている。さらに近年、エゼチミブやPCSK9阻害薬などの薬剤が臨床現場で広く使用されるようになり、より厳格なLDL-C低下が可能となったことから、特に急性冠症候群患者におけるLDL-C低下療法に対しては「より早く、より強く」という治療概念が広まりつつある。一方で、LDL-C管理に関しては依然として課題が残されている。第一に、目標値未達患者が実臨床では少なくないこと、第二に高齢者や多併存症患者におけるエビデンスの不足、第三に費用対効果や長期アドヒアランスの問題である。さらに、日本人を含むアジア人集団における至適管理目標値設定には人種差やエビデンスの外挿に関する議論も必要である。このような背景をもとに、本講演ではLDL-C低下療法の最近の知見とガイドラインの現況を概説するとともに、今後の脂質管理戦略の方向性について展望したい。

  • 澤城 大悟, 五家 里栄, 中村 大輝, 杉山 史弘, 今井 靖
    p. 28-
    発行日: 2025年
    公開日: 2026/03/31
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    「心不全パンデミック」に代表される様に高齢者心不全患者数が著増している。慢性心不全は進行性の病態であり、急性増悪を繰り返しつつ死に至る病態である。超高齢化社会での在宅・終末期医療では癌・慢性疾患と心不全は併存していることが通常であり、治療・緩和のバランスに配慮した介入が必要である。慢性心不全診療において問題となるのは急性増悪が医療介入よりも急峻であること、急性期治療に入院加療が必要となる例が多いこと、また心不全末期であっても治療介入が奏功し退院が可能である例も多く、侵襲的から緩和的治療への移行判断が難しいことである。急性増悪を来しつつある心不全患者の早期抽出・対応により救急入院の回避や社会的負担の軽減が可能であることも示されておりwearable deviceによるデジタルマーカーや遠隔診療による治療介入判断補助システムの整備と実装も危急の課題である。慢性心不全を有する患者の診療には循環器専門医を有する地域の病院(入院診療設備)とかかりつけ医(外来・在宅診療)そして看護・介護等多職種の連携が絶対的に必要である。大都市圏では基幹病院、中核病院が多く、心疾患専門在宅クリニック等、各施設が充足している一方で、栃木県を含む地方では中核・基幹病院内に医療・介護リソースが集約されている例が多いと考えられる。特にへき地においては入院可能病床や病床当たり医師数・看護師・介護職の数も少なく、リハビリ施設なども存在していない場合が多く、限られたリソースでのシステム構築が必要な現状がある。こういった状況の中で薬剤師の役割は更に重要性を増しており、単なる調剤・疑義紹介のみならず、自宅での投薬管理、副作用やポリファーマシー防止につながる服薬情報提供による診療サポート、更には2024年度より算定可能となった持続カテコラミンや終末期麻薬・オピオイド点滴投与管理といった在宅重症心不全管理や終末期緩和医療における主軸を担う立場となっている。本セッションでは地域包括ケアにおける慢性心不全治療の総論をまず紹介する。更に地域在宅診療で遭遇することが多い症例での慢性心不全のタイプ及びタイプ別治療方針の提案と調剤薬局の協力の下に在宅管理が可能であったカテコラミン依存重症心不全の多職種連携の具体例を紹介し、今後の地方地域医療における慢性心不全医療体制の可能性について討論を期待したい。

  • 久保 亨
    p. 29-
    発行日: 2025年
    公開日: 2026/03/31
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    肥大型心筋症(hypertrophic cardiomyopathy: HCM)の治療にあたっては、自覚症状の軽減と突然死を含めた合併症の予防という2つの観点より検討する必要がある。HCM関連イベントには、心不全、突然死、塞栓症が挙げられるが、今回の講演では、心不全にフォーカスして述べる。 HCM患者の心不全症状は拡張能障害に基づくとされ、さらに、左室流出路閉塞や心房細動の合併などにより病態は増悪する。自覚症状軽減のためには、β遮断薬が最も多く使用される薬剤であり、特に左室内圧較差を有する患者には第一選択である。β遮断薬やCa拮抗薬など従来の薬物治療では症状改善効果に限界があったが、本症の病態機序に対応する初の原因治療薬である選択的心筋ミオシン阻害薬が登場し、本邦では2025年から左室流出路閉塞患者に対する治療が行われるようになった。本講演では、選択的心筋ミオシン阻害薬の効果と安全性、そして病態改善薬としての今後の期待について解説する。

  • 田村 雄一
    p. 30-
    発行日: 2025年
    公開日: 2026/03/31
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    2025年3月、日本循環器学会より8年ぶりに「肺血栓塞栓症・深部静脈血栓症および肺高血圧症に関するガイドライン」が全面改訂された。本改訂は、従来の3つのガイドライン(VTE診断・治療・予防、肺高血圧症治療、BPA適応・実施法)を統合し、肺循環領域の最新知見を包括的に反映したものである。VTE領域では、近年の直接作用型経口抗凝固薬(DOAC)の普及や担がん患者・誘因のないVTE管理のエビデンス蓄積、さらにCOVID-19と血栓症の関連知見が加わり、治療戦略が大きく変化した。PH領域では、第6回(2018年)・第7回(2024年)肺高血圧症ワールドシンポジウムの提言を踏まえ、定義変更、薬物治療の最新エビデンス、わが国発のBPA成果を反映。治療層別化も症状中心から多指標による実践的評価へと進化した。今回の改訂は第7回肺高血圧症ワールドシンポジウムム後、世界初の発行であり国際的プレゼンス向上も期待される。本講演では改訂の要点と今後の肺動脈性肺高血圧症の薬物治療の展望を概説する。

  • 志賀 太郎
    p. 31-
    発行日: 2025年
    公開日: 2026/03/31
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    がん診療の目覚ましい進歩により領域によってはがん患者の長期予後が期待できるようになってきた.患者予後が改善し大変良い側面がある一方,多くのがん治療に応じた,主にはがん治療中に生じるがん治療関連心血管毒性 (CTR-CVT) の問題,そして,患者予後の改善にともなるサバイバーの増加から,近年ではサバイバーが抱えるがん治療後の晩期合併症管理についても目を向けなくてはならなくなった.当然,増え続ける高齢がん患者の適切な介入も重要な課題である.この様に腫瘍循環器学では,CTR-CVTへの直接的な診療は言うまでも無く,各新規がん治療にまつわる心血管毒性の理解,AYAや高齢者といった患者世代毎のニーズの理解,医療スタッフの異業種間連携,そして医療機関を超えた病診・病病連携などの社会的連携の構築など,取り組むべき課題は極めて広く,今後も医療界をあげての積極的で長期的な取り組みが必要となる重要な領域である. このように取り組むべき課題は多いが,やはり各がん治療薬による心血管毒性への理解,up-to-dateは重要である.古典的ではあるが,現代も非常に重要な薬剤となるアントラサイクリンをはじめ,その他,抗HER2薬,免疫チェックポイント阻害薬 (ICI),血管新生阻害薬,フッ化ピリミジン系抗腫瘍薬,プロテアソーム阻害薬,BCR-ABLチロシンキナーゼ阻害薬,ブルトン型チロシンキナーゼ阻害薬,EGFR阻害薬など,CTR-CVTに関連する重要薬はその臨床的特徴や管理法についての基本を理解しておくは重要である. これら数々のCTR-CVT関連薬がある中で,今回は前立腺がんアンドロゲン遮断療法 (ADT) についてとりあげる.前立腺がん患者は全て男性で,高齢者が多く,患者背景として心血管疾患を合併した患者を多く含むハイリスク疾患群であり,そうした患者にADTがもたらす心血管への影響についてがん診療に関わる医療者は理解を深める必要がある.本セッションでは,ADTと心血管疾患について概説する.

  • 清水 信貴, 清水 孝洋, 東郷 未緒, 東 洋一郎, 齊藤 源顕
    p. 32-
    発行日: 2025年
    公開日: 2026/03/31
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    日本排尿機能学会は2023年に約20年ぶりに「下部尿路症状に関する疫学調査(JaCS 2023)」を実施し、その結果、下部尿路症状の有病率は20歳以上で約8割に達し、過活動膀胱(OAB)の有病率も11.9%(20歳以上)と判明した。これらの数値は、排尿障害がわが国において極めて身近かつ重要な健康課題であることを再確認させるものである。本セッションでは、この疫学的背景を踏まえ、臨床薬理学の視点から排尿障害治療における抗コリン薬の意義を改めて検討する。抗コリン薬は膀胱平滑筋のムスカリン受容体を遮断することで尿意切迫や頻尿、夜間頻尿を抑制し、長らく第一選択薬として広く用いられてきた。しかしその一方で、口渇や便秘、さらには認知機能への影響といった副作用は、患者のアドヒアランスや治療継続性を大きく左右する課題である。 本セッションでは、とくに臨床現場で問題となる三つの実践的論点に焦点を当てる。①抗コリン負荷の“見える化”と併用薬整理:治療導入時に併用薬の抗コリン作用を系統的に点検し(例:ACBスケール)、過剰な負荷を避ける取り組みを標準化することが推奨される。これは最新ガイドラインにおいても重要な実践ポイントとされている。②安全性モニタリングの拡張:残尿量や尿流測定といったベッドサイドでの基本指標に加え、高齢者やフレイル患者では転倒・骨折リスク、さらには認知機能への影響を定期的に評価する必要がある。抗コリン作用の蓄積が大きいほど転倒や骨折の発生率が上昇し、3か月以上の使用で認知症リスクが約1.46倍に増加するとの報告もあり、慎重な経過観察が不可欠である。③治療継続性の評価と調整:副作用や有効性のバランスを観察しつつ、長期使用によるリスクを考慮した用量・薬剤選択を行うことが重要である。特に高齢者や多剤併用例では、抗コリン性副作用が増える可能性があるため、きめ細やかなフォローアップと柔軟な治療調整が不可欠である。

  • 相澤 直樹, 藤田 友恵
    p. 33-
    発行日: 2025年
    公開日: 2026/03/31
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    過活動膀胱(OAB)治療薬であるアドレナリンβ3受容体(β3‐adrenoceptor: β3-AR)作動薬は、世界に先駆けて本邦で開発・販売された。現在ではミラベグロン、ビベグロンという2つの薬剤が保険収載され、いずれも本邦の診療ガイドラインでは推奨グレードAである。NDBオープンデータの処方数量をみると、β3-AR作動薬は、同じ推奨グレードAである抗コリン薬を上回っており、本邦におけるOAB薬物治療において第一選択薬と言える。 薬理学的には、膀胱平滑筋層に存在するβ3-ARにノルアドレナリンが作用すると、cAMPを介するシグナル伝達が活性化され、膀胱の弛緩作用が増強することでOABの症状改善に寄与していることが考えられている。その一方で、膀胱におけるβ3-ARは、平滑筋層以外にも局在が確認されている。更に、ヒト摘出膀胱で膀胱弛緩反応を引き起こすβ3-AR作動薬の薬物濃度は、ヒトでの経口投与後の血中薬物濃度より明らかに高いことが報告されている。つまりβ3-AR作動薬は、膀胱弛緩増強反応以外の薬理作用を有しており、それがOABの症状改善をもたらしている可能性がある。この薬理作用の一部には膀胱知覚への作用が示唆されている。 本シンポジウムでは、OAB薬物治療の第一選択薬であるβ3-AR作動薬について、臨床および基礎研究の報告を踏まえ、疾患の病態機序と絡めて概説する。更には、β3-AR作動薬の臨床における課題にも触れたいと考えている。

  • 堀田 祐志, 野田 みすず, 萩田 圭紀, 日比 陽子
    p. 34-
    発行日: 2025年
    公開日: 2026/03/31
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    ホスホジエステラーゼ-5(PDE)-5阻害薬は、もともと勃起障害(erectile dysfunction, ED)治療薬として開発・承認された。現在は、肺動脈性肺高血圧症や前立腺肥大症に伴う下部尿路症状(lower urinary tract symptoms, LUTS)にも適応が拡大し、泌尿器・循環器領域で広く使用されている。現在、本邦で承認されているPDE-5阻害薬は、シルデナフィル、バルデナフィル、タダラフィルの3剤であり、いずれもED治療薬として汎用されているが、前立腺肥大症に伴うLUTSに対して適応を取得しているのはタダラフィルのみである。 PDE-5は陰茎海綿体や血管内皮だけでなく、前立腺、膀胱、尿道などの下部尿路組織にも発現しており、NO-cGMPを介した平滑筋弛緩や血行動態の改善に関与する。こうした作用を背景に、PDE-5阻害薬はLUTSの病態改善にも効果を示すと考えられてきた。特にタダラフィルは、血行動態の改善や前立腺、尿道、膀胱頸部の平滑筋弛緩作用に加えて、求心性神経活動の抑制作用といった神経調節作用も介しつつ、LUTSの改善に寄与している可能性が指摘されている。 また、PDE-5阻害薬は既存のα1遮断薬や抗コリン薬と併用することで、それぞれの薬物の利点を補完し合い、排尿機能の改善をより効果的に促進できる可能性が示唆されている。こうした多剤併用療法は、LUTSの多様な病態に対応した新たな治療戦略として注目されている。 本講演では、PDE-5阻害薬の基本的な薬理作用や各薬剤の薬物動態学的特徴、副作用などについて概説させて頂きたい。さらに、近年の基礎研究や臨床研究から得られた新たなPDE-5阻害薬に関する知見についても説明させて頂き、今後のPDE-5阻害薬の応用可能性についても考察したい。

  • 清水 孝洋, 清水 信貴, 東郷 未緒, 東 洋一郎, 齊藤 源顕
    p. 35-
    発行日: 2025年
    公開日: 2026/03/31
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    本講演では、現在前立腺肥大症(BPH)に対する保険適用を有している6種のα1遮断薬(タムスロシン、ナフトピジル、シロドシン、テラゾシン、ウラピジル、プラゾシン)について、臨床薬理学の視点から作用機序、薬物動態の相違、副作用プロファイルおよび薬効の個人差要因を概説する。α1遮断薬は、前立腺と膀胱頚部の平滑筋収縮に関係するα1アドレナリン受容体を遮断して前立腺による膀胱出口部閉塞の機能的要素を減少させ、BPHによる排尿障害を軽減させる。α1受容体は、α1A、α1B、α1Dのサブタイプに分類され、α1Bは主に血管平滑筋に、α1Aおよびα1Dは主に前立腺に発現しており、副作用(起立性低血圧、射精障害など)の発現には薬物ごとの受容体サブタイプ選択性が関与する。薬効の個人差については背景にある遺伝的要因(CYPの多型による薬物代謝能の差)および肝・腎機能障害に着目して薬効と副作用に与える影響を説明し、実臨床で遭遇する高齢者や併用薬の多い患者における留意点を述べる。BPHに対するα1遮断薬の併用療法(+抗コリン薬、β3作動薬、PDE5阻害薬、または5α還元酵素阻害薬)に関する最近のエビデンスも概説する。以上を踏まえ、BPH患者個々のリスク因子と症状特性に応じたα1遮断薬の使い分けについて、臨床薬理学的エビデンスに基づいて考察する。

  • 加川 建弘
    p. 36-
    発行日: 2025年
    公開日: 2026/03/31
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    薬物による臓器障害は社会的に注目されている。特に薬物性肝障害(drug-induced liver injury, DILI)は急性肝不全で重篤化することもあるため、DILIのリスクを社会に周知するともに、医療現場で見落とすことがないよう注意が必要である。分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬など薬剤が多様化しており、今後さらなる高齢化による投与薬剤の増加、健康志向に伴う健康食品の開発、個人輸入品など、DILIは増加してくることが予想されている。DILIの診断で最も重要なことは、肝障害を診た時に常にDILIを疑い、民間薬、漢方薬、健康食品を含めて、薬物服用歴を詳細に聴取することである。一方で、DILIと確実に診断できる検査所見はなく、診断のためには他の原因を丁寧に除外しつつ慎重に検討する必要がある。 DILI診断のため、いくつかの臨床情報や検査所見を組合せてスコア化し、その合計点数によってDILIの可能性を評価するスコアリングシステムが提唱されている。我々は2021年に欧米で発表されたスコアリングシステムであるRECAM (Revised Electronic Causality Assessment Method)を参考に、日本の臨床現場に合わせて改訂したRECAM-J 2023を提唱した。これらのスコアリングシステムはDILI診断のための判断材料となるものであるが、診断を確定するものではないことに留意すべきである。RECAM-J 2023の問題点も指摘されており、現在、RECAM-J 2023の有用性を検証するための多施設前向き試験が行われている。本講演では臨床現場におけるDILI診断の現状と問題点について紹介させていただく予定である。

  • 伊藤 晃成, 青木 重樹
    p. 37-
    発行日: 2025年
    公開日: 2026/03/31
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    薬物性肝障害(DILI)の大部分は特異体質性に発症し、idiosyncratic DILI(iDILI)と呼ばれる。その臨床像は獲得免疫、特にCD8+T細胞の肝浸潤が特徴的である。発症機序は自然免疫と獲得免疫の協調によるT細胞の最終的な活性化で説明されるが、非臨床段階でリスク薬物を検出することは依然として困難である。通常の動物投与試験では獲得免疫が誘導されず、現行の評価系は肝細胞障害や自然免疫活性化の指標にとどまっているためである。その結果、臨床試験段階でiDILIにより開発中止となる薬物も少なくない。 我々はHLAトランスジェニックマウスを用い、獲得免疫を介したiDILIモデルの構築に取り組んできた。薬物がHLAを介したT細胞活性化に関与することが病態の核心であると考え、まずHLA-B*57:01依存的な分子機序が解明されているアバカビル過敏症をモデルに検討を行った。その結果、HLA多型のみでは発症に至らず、免疫抑制機構の解除が強い応答に不可欠であることを示した。さらにこの知見を応用し、フルクロキサシリン誘発性肝障害モデルの構築を試みたが、CD8+T細胞の活性化までは確認できたものの、肝障害の再現には至らなかった。一方、他の研究グループも同様の遺伝子改変マウスを用いて本課題に取り組み、クッパー細胞や類洞内皮細胞による免疫抑制を除去した条件下で、初めてフルクロキサシリンによるT細胞依存的な肝細胞死が再現されたと報告している。 現在までに複数のHLA多型とiDILIとの関連が報告されているが、保有者全例が発症するわけではなく、他の要因との相互作用が不可欠である。HLAによる抗原提示の機序としてはハプテン仮説などが提唱されているが、肝障害全般に適用できるかは未解明である。iDILIの発症機序を解明するには、臨床病態を反映したモデルの構築が不可欠である。特に、HLA/MHC依存的な獲得免疫の活性化とCD8⁺T細胞が関与する肝障害を再現する動物モデルを用いた機序解析が重要であり、そこで得られた知見を単純化して応用可能な非臨床評価系へ展開することが今後求められる。本講演では、こうした背景を踏まえ、iDILIを動物で再現しようとした研究事例を中心に紹介する。

  • 田中 早織, 加藤 隆児
    p. 38-
    発行日: 2025年
    公開日: 2026/03/31
    会議録・要旨集 フリー HTML

    特異体質性薬物性肝障害は死亡例が認められる重篤な副作用である。その詳細な発症機序については未だ不明な点が多く、具体的な予測・予防・治療法が存在しない。我々は、薬物あるいは薬物代謝による反応性代謝物が細胞ストレスとなり、damage associated molecular patterns(DAMPs)が放出され、抗原提示細胞(antigen presenting cell, APC)を活性化するのではないかと考え検討を行っている。一例として、未分化リンパ腫キナーゼチロシンキナーゼ阻害薬であるブリガチニブは、ミエロペルオキシダーゼによって反応性代謝物となりインフラマソームを活性化すること、さらにCYPによって反応性代謝物となり、細胞内活性酸素種が増加することでDAMPsであるHSP90およびS100A6が放出されることによってもインフラマソーム反応を活性化することを明らかにしている。このように、反応性代謝物が原因となることで、免疫の活性化が起こりその結果、特異体質性薬物性肝障害が発症することが示唆された。 一方、このような機序で肝障害が起こるのであれば、投与されたヒトすべてに肝障害が起こることが考えられるが、実際には発症しない。我々は、もう一つの発症原因として、免疫寛容に着目している。反応性代謝物で免疫が活性化したとしても、免疫寛容によって免疫の活性化が抑制されるため、通常は発症しないのではないかという仮説である。そこで、PD-1ノックアウトマウスに抗CTLA抗体を投与した免疫寛容を解除したマウスを用いて、APCのインフラマソーム反応を活性化することが確認された薬物投与を行ってみると、通常は発症しない肝障害が、全例で発症することが確認された。ネビラピンを投与した際には、投与後、血中ALT値は3週間後より有意な増加が認められ、遅発性の肝障害の発症が確認されている。以上のことから、特異体質性薬物性肝障害の発症には、免疫寛容も大きくかかわっていることが考えられる。  本シンポジウムでは、特異体質性薬物性肝障害の発症機序について、これまでに我々が行ってきた薬物あるいは反応性代謝物を中心に免疫の活性化についての検討結果を紹介する。また、抗CTLA抗体投与でのPD-1ノックアウトマウスでの検討結果も紹介し、in vitroおよびin vivoからの検討結果を踏まえて、特異体質性薬物性肝障害の発症機序について考えたい。

  • 齊藤 公亮, 加川 建弘, 辻 恵二, 熊谷 雄治, 佐藤 賢, 向坂 彰太郎, 坂本 直哉, 高松 一彦, 西矢 剛淑, 大野 泰雄, 齋 ...
    p. 39-
    発行日: 2025年
    公開日: 2026/03/31
    会議録・要旨集 フリー HTML

    薬物性肝障害(DILI)は、医薬品等によって引き起こされる肝臓の障害であり、急性肝不全の全症例の10%以上を占める等、医療用医薬品の普及に伴いその被害が深刻化している。一方で、他の肝疾患との鑑別に利用可能なDILIの安全性バイオマーカーは十分に確立されていない。そこで本研究では、ヒトにおける薬剤性肝障害(DILI)の新規バイオマーカーを同定することを目的とした。本研究では、DILI患者(N=52)、及びその他の肝疾患患者(N=486)を対象に、専門医を有する7つの基幹病院から被験者を募った。まず、DILI患者および健常者(N=60)の血清サンプルを用いてメタボロミクス解析を行い、DILIの候補バイオマーカーをスクリーニングしたところ、ピログルタミルグリシン(pyroGluGly)、フェニルアラニン(Phe)、フェニルアラニルトリプトファン(PheTrp)の3つの代謝物を混合型および胆汁うっ滞型DILIの候補バイオマーカーとして同定した。続いて、候補バイオマーカーについて、分析性能が検証され、血清中濃度が測定可能なバイオマーカー分析法を構築し、DILI患者、回復後のDILI患者、その他の肝疾患患者における各バイオマーカーの濃度を測定した。測定した濃度を用いて、pyroGluGly、Phe、及びPheTrpの3代謝物の識別能力や特性を評価した結果、混合型および胆汁うっ滞型DILI患者と回復後のDILI患者との間で高い識別能力(ROC-AUC > 0.9)を示した。また、閉塞性黄疸を除くその他の肝疾患患者との比較においても、全てまたは一部の代謝物が高い識別能力(ROC-AUC > 0.8)を示し、3代謝物が混合型/胆汁うっ滞型DILI患者の臨床評価および回復後の患者や他の肝疾患患者との識別に有用な新規DILIバイオマーカーであることを見出した。

  • 永井 将弘
    p. 40-
    発行日: 2025年
    公開日: 2026/03/31
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    パーキンソン病(Parkinson’s disease: PD)は、中脳黒質緻密部に存在するドパミン神経細胞の変性・脱落を主因として発症する神経変性疾患であり、高齢化社会を迎えた今日、その患者数は年々増加している。臨床的には、振戦、筋強剛、動作緩慢、姿勢保持障害といった運動症状を主体とするが、進行に伴い抑うつや認知機能障害、自律神経障害など多彩な非運動症状を呈することが知られている。病理学的特徴としては、αシヌクレインを主要構成成分とする細胞内封入体であるLewy小体の出現が挙げられ、これが病態形成に深く関与していると考えられている。 現在、日常診療において用いられているすべての治療薬は症状改善を目的とした対症療法であり、ドパミン神経細胞の変性・脱落そのものを抑制する疾患修飾療法(disease-modifying therapy: DMT)は未だに実用化されていない。既存の薬剤の多くはドパミン系に作用し、その中でもレボドパ製剤は登場以来半世紀以上にわたりゴールドスタンダードの地位を占めている。しかし、長期投与によりウェアリングオフやジスキネジアといった運動合併症が出現することが大きな課題である。近年、日本においては2023年7月にホスレボドパ・ホスカルビドパ持続皮下注製剤が上市され、レボドパの薬物動態学的欠点を補う新たな選択肢として使用されているが、それ以降新規薬剤は上市されていない。 一方で、低分子化合物以外の新たな治療戦略も積極的に検討されている。その代表例として、iPS細胞由来ドパミン神経前駆細胞を被殻に両側移植する再生医療の臨床試験が国内で実施され、すでに承認申請が行われている。また、PDの病態の根幹に関わるとされるαシヌクレインを標的とした疾患修飾療法の研究開発も世界的に進展している。具体的には、異常凝集したαシヌクレインのクリアランスを促す抗体医薬や、発現抑制を目的とした核酸医薬が開発中であり、いくつかは臨床試験段階に到達している。 このように、パーキンソン病に対する新薬開発は、従来の対症療法を超えて、疾患の進行抑制を目指した多角的アプローチへと広がりつつある。今後は、症状緩和と病態修飾の双方を見据えた治療戦略の確立が期待されており、臨床現場における治療体系にも大きな変革をもたらす可能性がある。

  • 佐久嶋 研
    p. 41-
    発行日: 2025年
    公開日: 2026/03/31
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    筋萎縮性側索硬化症(ALS)は進行性の神経変性疾患であり、根治療法は未だ確立されていない。日本では1998年にリルゾールが承認され、ALS治療の第一歩となった。2015年にはエダラボン静注製剤がALSに適応拡大され、さらに2022年には経口製剤が承認されて、日常診療における利便性が向上した。さらに2024年には高用量メチルコバラミンとSOD1変異ALSに対する核酸医薬品トフェルセンが承認されるなど、新薬開発は大きな進展を遂げている。 一方で、これらの開発を通じて、日本発の医薬品の海外展開の難しさや海外で先行して開発が進んでいる医薬品のドラッグ・ラグ/ロスなどが課題として認識されつつある。また、臨床評価スケールの標準化や疾患修飾効果を捉えるバイオマーカーの確立の重要性も増してきている。さらに、疾患レジストリデータを基盤としたリアルワールドデータの活用や遠隔技術を導入した分散型臨床試験の実施体制の構築も期待されているとともに、海外では複数治療法を並行して評価するプラットフォーム試験などの取組みが先行しており、治療薬開発の効率化に向けた動きが進んでいる。 本講演では、日本におけるALS治療薬開発の現状を俯瞰し、国内で作成中のALS臨床評価ガイドラインの取組みを紹介しつつ、今後のALS治療開発の方向性を展望する。

  • 橋詰 淳
    p. 42-
    発行日: 2025年
    公開日: 2026/03/31
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    脊髄性筋萎縮症(spinal muscular atrophy:SMA)は、SMN1遺伝子の欠失・変異によりSMNタンパク質が欠乏し、運動ニューロン変性をきたす常染色体潜性遺伝疾患である。かつては乳児死亡最多の遺伝病とされ、Ⅰ型は未治療で2歳までに90%以上が死亡すると報告されていた。しかし本邦においても、2017年以降、疾患修飾療法が相次いで承認され、診療現場は大きく変化している。 2017年に薬事承認されたアンチセンス核酸であるヌシネルセンは、SMN2遺伝子のスプライシングを是正し、SMNタンパク発現を回復させる。2020年にはアデノ随伴ウイルス9型ベクターを用いた遺伝子治療薬オナセムノゲン アベパルボベクが承認され、単回静脈注射で外因性SMN発現を誘導できる点で画期的であった。さらに2021年には経口投与が可能な低分子リスジプラムが実用化され、中枢神経系だけでなく末梢組織に作用しうる利点が注目されている。これら3薬は、いずれも国際共同治験において生命予後・運動機能予後の大幅な改善を示し、SMA診療のパラダイムシフトを実現した。 発症予測キャリアに対する早期介入では、歩行や自立呼吸など、従来の自然歴では到達不可能であった発達マイルストンが獲得可能であることが示され、「1日でも早く治療開始すべき」というコンセンサスを形成し、各国で新生児マススクリーニングの制度化を推進させている。 一方で、治療が普及するにつれ新たな課題が明らかとなった。まず、すでに高度な神経変性や筋萎縮を呈する進行期・成人例では、従来の運動機能スケールでは効果を検出しにくい。さらに、疾患修飾療法の直接比較試験は存在せず、最適な薬剤選択や併用戦略を決定するエビデンスは乏しい。 これらの背景から、観察研究やレジストリによるリアルワールドエビデンス(RWE)の創出が不可欠である。日本では名古屋大学を中心に成人SMA患者を対象とした全国レジストリ(jREACT–SMA)が立ち上げられ、運動機能、ADL、QOLの縦断的データ収集が進められている。長期経過における治療有効性や継続判断、さらには新規バイオマーカー探索に資するデータ基盤として期待されている。 SMAは「乳児死亡最多の遺伝病」から「遺伝子治療成功の象徴」へと変貌を遂げた。今後は臨床試験、RWEなどを統合したアプローチにより、神経変性疾患治療全体の新時代を切り拓くことが期待される。

  • 鈴木 啓介
    p. 43-
    発行日: 2025年
    公開日: 2026/03/31
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    日本神経治療学会で実施している医療ニーズ調査において新規治療法の開発が急務と考える疾患ベスト3に必ず入ってくるアルツハイマー病であるが、抗アミロイド抗体薬であるレカネマブが2023年9月に承認され、2024年9月には同じく抗アミロイド抗体薬のドナネマブが承認となった。それぞれ2023年12月、2024年11月に保険適用となり、実臨床での使用が進んでいる。これまでは疾患修飾作用を持たない補充療法的な治療にとどまっていたアルツハイマー病において、薬物治療の新時代が到来したと言える。またこれらの抗アミロイド抗体薬の上市によって、アルツハイマー型認知症のステージだけでなく、新たにアルツハイマー病による軽度認知障害(MCI due to AD)のステージでも保険診療による治療が可能となった。 また症状が進行したステージにおいても、2024年9月、ブレクスピプラゾールが「アルツハイマー型認知症に伴う焦燥感、易刺激性、興奮に起因する、過活動又は攻撃的言動」に対して適応追加となった。加えて2025年3月には、持続放出性のリバスチグミン製剤が承認となり、今まで1日1回貼付する必要があったものが週2回の貼付で済むようになった。 このようにアルツハイマー病において新しい治療法が続々と登場しているものの、アルツハイマー病の医療ニーズが完全に満たされた訳ではない。抗アミロイド抗体薬の第Ⅲ相試験では、約1年半の実薬投与によって臨床症状の悪化をプラセボとの比較で有意に抑制したものの、実薬群でも臨床症状は悪化しており、疾患の進行停止や臨床症状の改善には至らない現実がある。また抗アミロイド抗体薬の投与を希望されても、頭部MRIやアミロイドPETの所見において投与に至らないケースも多く、また投与基準をすべて満たしてもご本人・ご家族の意向で投与を希望されない場合もある。このような抗アミロイド抗体薬の投与を行わない症例に対して、演者が所属する施設では脳・身体賦活リハビリテーションや研究への参加、他の治療法の臨床試験への参加など多様な選択肢を提案しているが、こういったところにも医療ニーズが潜んでいると思われる。 本講演では、失敗続きであった抗アミロイド抗体薬の開発がなぜ成功に結びついたのか、また開発が成功しても残っている医療ニーズについても触れていきたい。

  • 今井 靖, 志賀 剛, 植田 真一郎
    p. 44-
    発行日: 2025年
    公開日: 2026/03/31
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     研修医を含め医師の処方ミスは臨床現場における大きな問題であるが本邦においても医学部において「処方」に関する教育は体系的に実施されてこなかった。最近改訂された医学部教育のコアカリキュラムに漸く適切な薬物治療を行う上で習得が必要な項目は記載されたが、実戦的な「処方」そのもののスキルを身につける教育については記載がない。英国ではコアカリキュラムの重要なアウトカムとしてprofessional skillが設定されており、4つのうちのひとつが薬剤の安全な処方である。専門医としての処方というよりも少なくとも「安全に」処方を行うことが目的となっている。これを実現するために英国薬理学会(BPS)の臨床薬理部門の医師、エジンバラ大学のSimon Maxwell 教授が中心になり医学部の最終学年にCBT形式で学ぶPrescription Safety Assessment(PSA)が作成された。このPSAは内科、小児科、外科、産婦人科、プライマリケア、老年医学を中心に症例が提示され、処方、これまでの処方のレビュー、患者への説明、治療計画、効果のモニタリング、検査値の解釈などから構成される。  琉球大学では文部科学省のR5年度からの事業、質の高い臨床教育・研究の確保事業にこの内容を含めて「安全な処方のためのシミュレーション教育」と「患者と研究者の負担を軽減する臨床研究専門職の確保とDCT推進」として申請し採択され、令和5年年度末に英国薬理学会との契約を締結、令和6年度(令和6年12月、7年1月)琉球大学においてM5-M6の有志を対象に日本版でのトライアル試験が実施された。令和7年度は日本臨床薬理学会も専門の部会を構成し参画する形で2025年12月-2026年1月に琉球大学に加え東京慈恵会医科大学、横浜市立大学、金沢大学、大分大学、自治医科大学の6大学でトライアル試験を実施すべく最終調整を行っている。  この教育・試験システムは将来的には医学教育あるいは医師国家試験・卒業前CBT/OSCEに組み入れられていくべきと考えられるものであり、文部科学省、厚生労働省など医学教育を管轄する部署および医学教育にかかる学術団体との密な連携を進め、この日本版PSAが学会・一部の大学のトライアル事業から日本の医学教育システムの中に実装されよりよい実践的な医学教育の展開につながることが期待される。

  • 植田 真一郎
    p. 45-
    発行日: 2025年
    公開日: 2026/03/31
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    Prescribing Skill Assessment(以下PSA)は初期研修医の処方ミスがあまりに多い(処方箋の10%近く)英国、スコットランドではじまった処方に関するCBTで現在は全英の医学部で卒業要件になっている。臨床薬理学という名称は実は問題があり、薬物治療(Therapeutics)があってはじめて成立する。医学部ではどちらかというと疾患別、診断学や病態生理が中心で実際の処方にに関する教育は欠落していた。コアカリにはようやく記載されるようになったものの具体的な方法論に関しては議論されてこなかった。参加型実習が主体になった教育でもなかなか「処方」の実習は困難であった。そこに我々はまず文部科学省の事業として申請し、英国薬理学会と連携し、PSA担当者の指導を受けつつCBT問題の輸入、日本の医学部のための修正などをおこないながら昨年度琉球大学のM5, M6を対象に実施した。本シンポジウムではこれまでの経緯と今後のjPSAの全医学部への実装を目指した取り組みを紹介する。

  • 平井 利典
    p. 46-
    発行日: 2025年
    公開日: 2026/03/31
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     医薬品の適正使用には多くのピットフォールが潜んでおり、その中でも処方オーダーに纏わる不備は時として重大な医療事故にもつながる。英国の卒前医学教育に倣い、本邦の医学部教育にもPrescribing safety assessment(PSA)を導入すべく、臨床薬理学会としても準備を進めている。本講演では、薬剤師の立場としてのPSAワーキンググループの参画やこれまでの臨床経験を中心に紹介したい。  薬物投与設計には、薬物動態学の理解は避けて通れない。例えば、直接経口抗凝固薬は、P-糖タンパク質により体内動態が規定される共通点がある。実際、P-糖タンパク質の阻害薬・誘導薬により塞栓・出血リスクが増大することが報告されており、併用薬の評価を踏まえて処方すべきである。直接経口抗凝固薬の恩恵を最大化するには、薬物動態学的評価は欠かせない過程である。  処方箋の臨床検査値の印字が普及し、疑義照会の効率化が図られてきた。その中でも腎機能に関連する疑義照会は高頻度であり、裏を返せば腎排泄型薬剤の用量設定が軽視されていることを示唆する。実際、バラシクロビルの減量が行われず、中毒性脳症が認められた事例が散見される。次に、カリウムに関連する疑義照会も遭遇頻度が高く、特に心腎保護薬などの基本薬は高カリウム血症の被疑薬となり、診療科を問わず確実に理解しておきたい内容である。  注射薬の配合変化に目を向けると、医薬品に適した溶解液の取捨選択には、化学の素養が求められ、薬剤師の立場として作問した。コロイド製剤である含糖酸化鉄は、生理食塩液の希釈により塩析が生じるピットフォールがある。また、医薬品の休薬期間にも注意を払わなければならない。免疫抑制薬メトトレキサートを誤って連日投与すると、口内炎や骨髄抑制などの副作用が顕在化するため、適切な処方オーダーが最大の防衛策となることを理解すべきである。  臨床現場で直面する処方オーダーの課題である、薬物動態・相互作用、腎機能に基づく用量調整、配合変化や休薬期間の管理などは、いずれも適正な薬物療法に直結し、PSAにおいても重視すべき内容である。卒前教育の段階でPSAを導入することは、医療安全の基盤強化につながると考えられる。

  • 大和田 康子
    p. 47-
    発行日: 2025年
    公開日: 2026/03/31
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    2006年3月に英国で起きたTGN1412の事故をうけ、第I相試験、特にFirst in Human(FIH)試験に対する安全性への関心が高まった。事故後5月に設立されたExpert Scientific Groupは、同年11月に最終報告書を公表し、22項目にわたる勧告を提示した。その中には、FIH試験やExpert Advisory Group(EAG)によるリスク評価が必要な試験を行う施設の、自主的な認定制度を確立することが含まれていた。 2008年4月に正式に導入された本制度は、施設がGCPの基本要件を満たすだけでなく、万一の緊急事態にも対応可能な施設であることを認定するものであり、標準認定(Standard Accreditation)と追加認定(Supplementary Accreditation)の2種類から始まった。 当時、演者が所属していた当社の英国支店では、安全な実施体制構築のためにも、スポンサーの信頼を得るためにも、追加認定の取得を目指す方針が採られた。 2008年5月に申請を行い、実際にやって見せる監査に少し驚きながらも、初回査察および再査察を経て、2009年3月に制度開始以降7番目の施設として正式に認定された。 事故発生直後は、各方面から類似の事例を再発させまいとする強い意識もあり、現場の運用においては一定の改善が見られたと感じている。さらに、本認定制度における基本要件は、その包括的な概念や目的を理解していれば、わが国で治験を実施する上でも一定の示唆を与えるものと考えられる。しかしながら、安全性に限って言えば、いかなる基準を遵守したとしても被験者の安全を保証できるわけではなく、また、これさえ順守していれば被験者は安全だなどという基準もない。手段の背景にある、その理由や影響を正確に理解せずに形式的に運用することは、かえって逆効果を招く危険性すらある。決して試験実施者の恣意的運用を許容するという意味ではなく、直面した現実の状況に対する治験責任 (分担) 医師の判断力、および依頼者とのコミュニケーションや信頼関係が安全確保の鍵になると考える。 本制度の導入から17年が経過した現在、基本的な施設認定要件は日本で治験を行う者にとっても参考になると考えるが、制度が進む英国での現状や制度の利点以外に、実践とのギャップなど、課題や問題点も聞くことが出来れば興味深い。

  • Täubel Jörg
    p. 48-
    発行日: 2025年
    公開日: 2026/03/31
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    The landscape of early-phase clinical trials is undergoing a significant transformation. First-in-human (FIH) trials, once primarily conducted in healthy participants, are increasingly being carried out in patient populations with relevant diseases. A growing number of these trials now take place outside of MHRA-accredited trial locations, many of which are unable to pursue accreditation due to the associated financial burden. These trials often involve complex and high-risk therapies—such as in-vivo gene editing, immunotherapies, and targeted treatments - that require specialist clinical oversight and robust infrastructure. This shift challenges the suitability of traditional Phase 1 accreditation frameworks, which were originally designed around Clinical Pharmacology Units (CPUs). While CPUs may lack the necessary facilities and expertise to safely administer these therapies, hospital-based research units, though better equipped for inpatient care and safety monitoring, often fall short of meeting MHRA FIH governance standards. To safeguard patient safety and uphold public trust in emerging technologies, there is a need to revisit and adapt the Phase 1 accreditation framework. This includes a reassessment of Principal Investigator (PI) qualifications to ensure they reflect the clinical and scientific competencies required for today’s early-phase trials. Building on previous initiatives, this effort aims to align accreditation standards with the realities of modern clinical research. The UK’s Systemic Anti-Cancer Therapy (SACT) framework offers a promising model. It governs the delivery of high-risk therapies in specialist centres under well-defined protocols and is both pragmatic and clinically integrated. Its accessibility to a broader range of clinical environments - closer to patients - makes it a compelling reference point for updating the Phase 1 accreditation. This abstract proposes a strategic review of the Phase 1 accreditation framework to bridge the gap between governance and practice, ensuring that innovative therapies are delivered safely, ethically, and accessibly across a wider network of qualified research sites.

  • Martin Jennifer
    p. 49-
    発行日: 2025年
    公開日: 2026/03/31
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    A regulatory perspective of MHRA Phase 1 accreditation scheme: While a harmful incident did occur, in the UK in March 2006, we will look briefly at what one of the recommendations from the Expert Scientific Group on Phase I Clinical Trials; The Voluntary Accreditation Scheme. Looking back: how did regulators and the industry align on the additional voluntary regulations beyond the current GCP requirement and the direction from the conceptual stage? Were there any objections from the industry side to imposing particularly from the perspective of promoting the development of new drugs? How did patient and patient groups perceive the scheme? Impact of the scheme: While the scheme emphasizes safety, could it hinder access to new treatment options? How does the scheme impact patients versus healthy volunteer trials or single versus multiple investigator sites? The co-existence of accredited and non-accredited units, what are the considerations for sponsor and the units themselves?

  • 中野 重行
    p. 50-
    発行日: 2025年
    公開日: 2026/03/31
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     1969年に日本臨床薬理学会の前身である臨床薬理学研究会が設立された。当時、わが国では薬害(SMON、クロロキン、筋短縮症など)の発生、有効性や安全性に疑念のある医薬品、国内でのみ広く使用されている薬剤の存在などがあり、臨床薬理学の立ち遅れが強く認識されていた。この状況を打開するため、1975年に日本製薬工業協会の支援により、臨床薬理学研究会の中に海外研修制度が設立された。私は5名の応募者の中から第1回海外研修員に選ばれ、Stanford UniversityおよびVA Hospitalに2年間留学した。初めての選考であったためか、その経過と理由が学会誌「臨床薬理」誌上に公表された(4項目の理由が公表されたのは、最初にして最後である)。臨床薬理学研究会は10年間続いた後、1980年に現在の日本臨床薬理学会へと発展的に改組された。  私は心身医学の臨床に従事するかたわら、向精神薬の臨床薬理学的研究を行い、全国規模の臨床試験にも臨床薬理学を専攻する者として参画していた。米国留学では、多くの新規向精神薬の臨床評価を先導していたLeo E. Hollister教授の指導を受けた。当時の米国の臨床薬理学は、医師と薬剤師の協力体制が進み、臨床薬物動態学を取り入れた研究が盛んであった。私はUCSF臨床薬理学部門(Melmon教授)での大学院コース実習にも参加させてもらい、基礎的知識と技術を修得するとともに、ASCPTをはじめとする学会参加や各地の臨床薬理学施設の訪問を通じて、国際的な潮流に触れることができた。さらに、自らの発想による研究をいくつか実施する機会も与えられ、Clinical Pharmacology and Therapeutics誌等に論文を発表することができた。これにより臨床薬理学者として視野を広げ、自らの役割と社会的使命を自覚することができ、臨床薬理学研究者としての自信を確立する貴重な体験となった。  臨床薬理学の守備範囲は研究・教育・社会的活動などにわたるが、本制度は多くの人材を育成し、日本臨床薬理学会の多くの理事・理事長・学術総会会長を輩出するなど、学会発展も大きく寄与してきた。また、各大学で孤軍奮闘していた仲間のネットワークづくりにも貢献し、学会認定医制度(現・専門医制度)の設立、初の教科書『臨床薬理学』(医学書院)の編纂、新GCP普及定着総合研究班(厚生労働省)の活動、学会認定CRC制度の設立、教科書『CRCテキストブック』の編纂など、数多くの取り組みにおいて中心的役割を果たした。

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