2019 年 70 巻 2 号 p. 33-44
従来、放送政策の目標は「受信機会の平等」だったが、メディア環境の変化を受け、民間テレビ放送事業において収益性の見込めない「地域情報の流通確保」が新たな課題となっている。本稿では地上波民放テレビの地域情報流通機能の現況分析を試みた。電波を利用し、公益性が求められる地上波民放テレビ事業は、行政裁量による放送対象地域区分と法的根拠のないネットワークの存在を前提として行われており、それらが規定する置局数と自社制作比率を元に「地域情報流通可能枠」と「地域情報流通実質時間量」を算出して、地域情報流通機能を都道府県単位で比較した。住民が主体的に地域情報を流通させる手段として放送電波をとらえ、その提供可能性の定量化も試みて分析した結果、地方の少数チャンネル地域とともに、都市部、特に、三大広域圏の大都市でも地域情報流通機能が不十分であることがわかった。これは、政府の放送政策の検討でも見落とされている点で、地方局の救済という近視眼的議論ではなく大局からの分析の必要性を示したものである。