抄録
事故からの学びというが,存外難しい.私たちは,事故から何を学び,何を共有し,何を繋いでいかなくてはならないのだろうか.当院では,2011年に異型輸血の事故が発生した.典型的なヒューマンエラーが重なって起きた事故だった.その後,心理学の専門家を加えた事故調査委員会の提言によって,様々な改善が行われ,仕組みもしっかりと定着し,再発はしていない.しかし,10年を経た現在,システムリプレイスやコロナ禍といった社会の変化を契機に,知らず知らずのうちに事故前の状態に戻ろうとする要望も聞かれるようになった.気が付くと,10年前の事故について詳しく背景を知り,語ることのできる「語り部」は筆者と輸血部の責任者の2人だけになっていた.本報告では,当院で発生した異型輸血事故後の10年を振り返り,医療事故を契機に病院の何が変わり,何が変えられなかったのか,今後,何が起ころうとしているのか,そして何を繋いでいかなければならないのか.これらの問いについて,「風化」という概念にも言及しながら私見を述べたい.