医療の質・安全学会誌
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16 巻, 4 号
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原著
  • 笠松 奈津子, 樫村 暢一
    2021 年 16 巻 4 号 p. 445-453
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/09/30
    ジャーナル フリー
    目的:無投薬に至る要因分析から無投薬防止対策の効果を要因別に評価し,その有効性と課題を検討したので報告する. 方法:時間を意識したダブルチェック機能を無投薬防止対策に取り入れた.対策の効果を判定するため,無投薬に至る要因を1:「指示・処方忘れ,不適切な指示」,2:「指示の認識不足」,3:「指示内容の誤認」,4:「薬剤の取り出し忘れ」,5:「与薬し忘れ」,6:「内服の確認不足」,7:「その他」の7つに分類し,要因項目とした.対策実施前後の各要因の件数を算出し,対策の効果を要因別に比較検討した.対策後も無投薬に至った各要因の背後要因を抽出し,対策を検討した. 結果:無投薬件数は,対策前の2014年度193件,対策定着後の2018年度83件であり,57%減少した.要因項目別には,要因1は不変,要因2,3,4,5はそれぞれ件数が74%,75%,46%,48%減少し,要因6は増加を認めた.特に要因2は対策の効果が最も反映され92件から24件に減少し,年度全体の無投薬に占める割合も48%から29%に減少し,有意差を認めた(P‹0.01).要因6は対策後も増加を認め,無投薬に至った背景には,患者要因と医療者要因が混在していた. 結論:無投薬に至る要因分析を活用した評価により,ダブルチェックによる無投薬防止対策の有効性と課題が明確となった.
  • 栗原 健, 梅村 朋, 深見 達弥, 徳田 安春, 長尾 能雅
    2021 年 16 巻 4 号 p. 454-461
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/09/30
    ジャーナル フリー
    目的:医療用医薬品添付文書(以下,添付文書)は法的根拠のある唯一の医薬品情報に位置づけられている.製品に同梱される添付文書は,改訂内容が即時に反映されないことや紙資源の浪費等の観点から,医薬品,医療機器等の品質,有効性及び安全性の確保等に関する法律(以下,薬機法)改正に伴い2021年8月から電子化が基本方針となる.一方で,臨床医における添付文書記載内容の確認状況については明らかにされてこなかった. 方法:特定非営利活動法人日本医療教育プログラム推進機構が実施するGeneral Medicine In-Training Examinationにおいて,2020年1月,全国の初期研修医を対象とした添付文書記載内容の確認に関する調査を行った. 結果:試験に参加した初期研修医合計6,869人(539病院)のうち, 本研究の参加に同意し,完全に回答した5,468人の回答を分析した.添付文書確認行動の質問に対し,「オーダした全ての医薬品の添付文書を読んでいる」と回答した研修医は1,749人(32.0%)であり,「ハイリスクな医薬品の添付文書のみ読んでいる」は3,497人(64.0%),「全く読まない」は222人(4.1%)であった. 考察:本研究は医師の添付文書記載内容の確認状況について調査したはじめての研究であった.重篤な投薬エラーの中には,添付文書の確認不足により有害事象が発生した事例もあることから,初期研修医が添付文書にアクセスしやすくなるような環境整備や,添付文書確認の意義や必要性についての教育が不可欠である.
  • 宇城 令, 川合 直美, 鶴見 眞理子, 寺山 美華
    2021 年 16 巻 4 号 p. 462-470
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/09/30
    ジャーナル フリー
    目的:本研究の目的は,教育的な転倒予防対策後,病院職員が認識した患者・家族からの苦情状況について4年間の推移を検討することである 方法:A大学病院では,認知機能障害は認めないが移動に介助が必要な患者に対して,2010年2月よりパンフレット等の教育的な情報提供を行った.介入の評価は,医師,看護師等を対象とした無記名自記式質問紙を用いて2010~2013年に行った.調査項目は,転倒した又は転倒しそうになった際の,患者・家族からの苦情等とした.分析方法はKruskal- Wallis検定後に多重比較及び効果量を算出した. 結果:医師自身が患者・家族から苦情を受けていると認識する頻度および医師と看護師による他の病院職員が患者・家族から苦情を受けていると認識する頻度に有意な低下が認められた. 結論:患者への教育的な情報提供は,患者・家族からの苦情を減少させている可能性が示唆された.
報告
  • 鳥谷部 真一, 戸田 由美子, 田口 由美子, 松村 由美, 長島 久, 小松 康宏, 相馬 孝博
    2021 年 16 巻 4 号 p. 471-478
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/09/30
    ジャーナル フリー
    目的:新型コロナウイルス感染対策のため,従来のような対面・集合形式の授業が行えなくなった.国立大学附属病院医療安全管理協議会教育委員会において,コロナ禍のもとでの,オンライン授業の実施など卒前医療安全教育の変容と今後に向けた課題についてアンケート調査を行った. 方法:教育委員会で調査項目を作成し,Google Formで協議会会員校およびオブザーバー校に自由参加形式でアンケート調査を実施し,個々の大学が特定できないように配慮した上で回答を集計した. 結果・考察:対象校46大学病院のうち42病院から回答があった(回答率91%).「コロナ禍で実施困難になった授業形態」は集合形式の講義と実習がもっとも多かった.「授業中の質疑応答」,「教育効果の評価」,「グループ学習や実習」を行わない大学が30%から50%を占めた. 結論:オンライン授業は発展途上であり,課題が多いことがわかった.先進的な取り組みは大学間で情報を共有する必要がある.
  • 前田 佳孝, 淺田 義和, 鈴木 義彦, 川平 洋, 新保 昌久
    2021 年 16 巻 4 号 p. 479-487
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/09/30
    ジャーナル フリー
    背景:インシデントレポート(IR)の自由記述の多くは,事実記載が不足し,読解しづらいため,効果的な再発防止を行いにくい.本研究では事実を判読し易いIRの記述法を検討し,その研修を設計,実施した.また,研修と記述法の有用性評価を行った. 方法:まず,当院の12件のIRについて不足情報や難読箇所を整理し,記述法を作成した.次に,記述法を用いて模擬的にIRを作成する研修を設計し,研修医57名,新人看護師97名に実施した.有用性評価として,研修に関するアンケートや,研修成果のIRの文字数,頻出語等の算出を行った. 結果・考察:記述法は5W1Hを含む,事象の時系列で箇条書きする,短文にする,各文に主語を含む等とした.有用性評価の結果,記述法を用いたIRで文字数の増加,事故関係者を表す主語の出現頻度の増加が認められ,関係者-事象の関連性が明確になった.また,短文かつ箇条書きにより判読性も向上した.アンケート結果は概ね肯定的であった.
  • 村井 真介, 立石 恵美子, 五十嵐 恵, 森山 潤
    2021 年 16 巻 4 号 p. 488-496
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/09/30
    ジャーナル フリー
    草創期のベトナムの病院が,医療の質・安全の改善をすすめるには,国内で先駆的に当該技術を導入し試行錯誤する人々が必要であった.国立国際医療研究センターは,ベトナムとの国際協力として,2015年度から2017年度にかけて,本邦研修「医療の質・安全」を4回実施し,29名のベトナム人修了生を輩出した.また,修了生を中心とした現地フォーラム「ベトナム病院の質管理・患者安全フォーラム」の開催を3回支援した.フォーラムの参加人数は回を重ねるごとに増えた(第1回:28組織58名→第3回:53組織223名).参加者全体に占める修了生の割合が24%から10%と小さくなった一方で,修了生の所属組織からの修了生以外の参加者の割合は29%から43%と大きくなった.修了生の所属組織外の参加組織数は,第2回38組織,第3回30組織と,いずれも第1回17組織よりも高い値を示した.加えて,第3回現地フォーラムでは,隣国ラオスの視察団(6組織19名)を受け入れた.修了生は,所属組織のみならず,国内外の他の病院にも影響を及ぼしたと考えられた.本プロジェクトは,医療の質・安全という新しい概念の教育と,現地の文脈に沿った実践を国際協力にて促進できることを実証した.
学術集会報告
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