社会学評論
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論文
相互行為儀礼と自己アイデンティティ
「ひきこもり」経験者支援施設でのフィールドワークから
荻野 達史
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2007 年 58 巻 1 号 p. 2-20

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抄録

「ひきこもり」支援施設とは,社会的諸活動から撤退していた青年たちが,自宅に限定されがちな生活から,主として就労・就学の場へと生活の場を広げていくことを援助する施設である.こうした施設は一種の「居場所」といえ,その機能は,住田(2004)によれば,利用者のきわめて否定的な自己定義を書き換え,行動上の変化をもたらすことにある.本稿は,ある支援施設におけるフィールドワークに基づき,施設利用者の自己アイデンティティが肯定的に変容する条件とその限界について分析したものであり,以下の諸点を明らかにした.
ひきこもり経験者たちが,対人的な交流の場に定着し,肯定的な自己アイデンティティを構築する上で,施設の場が高度な相互行為儀礼を備えた空間であることは機能的である.しかし,その儀礼性の高さが,新たな自己物語のリアリティを支えるのに必要な「他者性」を支援空間から減退させるために,肯定的アイデンティティは強度を持ちえない.また,施設内の高度な儀礼性に自覚的になるほど,「外部社会」は対照的に,彼ら/彼女らの面目にもっぱら損傷を与える空間として思念されやすくなる.
そして,その結果,外部社会へのアプローチは躊躇され,そのことがまた外部社会の一枚岩的に否定的なイメージを再生産させていることが予測される.ただし最後に,社会理論的視点からみた,相互行為儀礼の遂行能力自体の価値を確認し,本稿の含意を確認する.

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© 2007 日本社会学会
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