現代社会において宗教現象の分析の重要性がますます認識されるようになった一方,社会学は宗教を適切に分析できていないという理論的課題が存在する.本稿は,こうした理論的課題に先駆的に取り組んだロバート・ベラーの「象徴的実在論」に注目し,今日の宗教社会学に対してベラーの宗教論がもつ理論的意義を明らかにする.
1970年前後にベラーが提唱した象徴的実在論は,宗教や道徳といった社会の規範的次元を利害や権力によって説明する還元主義的な社会科学を批判した立場である.ベラーが象徴的実在論を提唱した当時の時代背景に注目すると,功利主義的な傾向が強まる現実世界を批判的に捉えるために象徴的実在論の構想を試みたという,ベラーの規範的関心が明らかとなる.ベラーの象徴的実在論は,パーソンズの規範的関心を継承するものである.象徴的実在論は,実在の開放性・多層性を捉えようとするパーソンズの試みをシュッツの概念を借りて表現しようとしており,また神学者のパウル・ティリッヒの影響を受けて構想されている.
象徴的実在論は「宗教のリアリティ」の解明をめざすだけでなく,ベラーの研究の根底にある立場であり,パーソンズの規範的関心を継承し,宗教と社会科学の対立の克服をめざしており,それは啓蒙主義以来の社会科学を批判する立場である.その試みには課題があるものの,宗教に関心をもつ社会学者であれば応答しなければならない問いを提起している.
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