社会学評論
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特集「文化社会学の快楽と困難」
  • 藤田 結子, 祐成 保志
    2023 年 73 巻 4 号 p. 316-326
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/31
    ジャーナル フリー
  • ―井上俊の仕事から考える―
    近森 高明
    2023 年 73 巻 4 号 p. 327-344
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/31
    ジャーナル フリー

    文化社会学の第一人者である井上俊は,自身の文章を「エッセイ」と自称する.そしてまた井上のテクストは,一見すると癖のない透明な文体をもつ.これら2点において,井上の仕事は,文化社会学の「文体」を考えるうえで範型となる.本稿では井上のテクストを対象に,その(隠れた)文体的特徴を明らかにする作業をつうじて,文化社会学という領域に対してエッセイ的文体がもつ意義を考える.

    井上のテクストの文体的特徴として,下記の3点が抽出される.

    ①「動的均衡と遊動的距離」.井上のテクストには,対象のうちにダイナミックな均衡関係を触知しようとする動きが認められる.文体に埋め込まれたこの身振りが,俯瞰的な位置へと視座を押しあげ,対象とのあいだの遊動的な距離を可能にする.②「視座の転換」.井上のテクストには,対象の意味を一変させる視座の転換の技法があちこちに仕掛けられている.「○○としての△△」という表現の出現頻度の高さが,その標識となる.③「譲歩のレトリック」.「たしかに…しかし」という譲歩の構文が,井上のテクストには反復的に出現する.これは①②という2つの特徴をブリッジングしつつ,命題的主張へと落とし込む機能をもつ語法である.

    「エッセイ」は,近年の文化社会学における実証主義への揺り戻しのなかで,忌避される傾向にある.だがしかし「エッセイ」への固定的見方を解毒するためにこそ,井上の「エッセイ」は役に立つ.

  • 永井 良和
    2023 年 73 巻 4 号 p. 345-362
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/31
    ジャーナル フリー

    1980年代,社会学で〈文化の研究〉に従事することにはさまざまな制約があった.大学の正式な授業では学ぶ機会がすくなく,学部をこえた勉強会や学外団体がその受け皿になっていた.本稿では,京都大学人類学研究会(通称「近衛ロンド」)と民間の現代風俗研究会を紹介しつつ,それらの活動が当時の〈文化の研究〉を支えていたことを示す.また1990年代以降にカルチュラル・スタディーズがひろがったことや,少子化のすすむなかで大学が受験生獲得策として〈文化の研究〉をセールス・ポイントにしたこと,海外の日本研究ブームなどによって,文化を学ぶこと,研究することが大学のなかに制度化されていった経緯を跡づける.学術には〈流行りすたり〉があって社会の変化から独立しておらず,大学もその〈流行りすたり〉と無縁ではいられない.

    今日,〈文化の研究〉を志す者は,かつてにくらべて自由に研究テーマを設定することができ,成果発表の機会も拡大した.これらは,大学あるいは社会学が〈文化の研究〉を歓迎し許容するようになった,その変化の恩恵といえよう.いっぽうで,大学のカリキュラムにとりこまれたことによって〈文化の研究〉が画一化する傾向も認められ,希望どおりの研究に従事しながら専任職を得られない人たちが増加するという問題も生じた.

    本稿は,こういった学術の変化の過程を同時代で経験した者として,個人史と重ねあわせるかたちで呈示する試みである.

  • ―個人史に基づくハビトゥスと文化資本の関係を中心に―
    南田 勝也
    2023 年 73 巻 4 号 p. 363-381
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/31
    ジャーナル フリー

    本稿は,個人史研究の有用性を論拠として,ある行為者(著者個人)の幼少期から大学院進学までのライフヒストリーを振り返り,行為者の生育環境や人間関係が特定のテイストのポピュラー音楽といかに結びついていたかを描写する.そのさい,ピエール・ブルデューのハビトゥス概念や文化資本概念の応用可能性を検討し,ハビトゥスが「構造化する構造」とよばれるゆえんについても探求する.もともとはその人にとって偶有的だったポピュラー音楽の嗜好が,階級ハビトゥスと結びつくことで自身の社会的布置を確認する標章となり,主観的な境界感覚が生まれる.次には音楽の作品群が階級性を帯びたものとして表象し,客観的な階級構造の確からしさを強固にする.そうした機制について論じる.

    そのうえで,情報社会が到来した現代において音楽作品は文化資本たりうるのか,という問題を設定する.インターネットの拡散力と生産力によって飛躍的に増大した文化作品群は,上下の区別や系統立った秩序を示すものではなくなりつつある.それでもなお文化と階層の関係を論じる文化的オムニボアの議論がある一方で,社会には趣味を共有するサークルが閉鎖的に林立しているとする島宇宙化論や,アクセスが容易になり収集のコストが低くなった文化作品群を評したフラットカルチャー論も成立している.こうしたフレームワークの妥当性について検討し,文化社会学の今日的な課題を考察する.

  • 髙橋 かおり, 中村 香住
    2023 年 73 巻 4 号 p. 382-398
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/31
    ジャーナル フリー

    本稿の目的は,ジェンダーと階級(とりわけ高級芸術)をめぐる研究動向の整理を通じて,日本の文化社会学における新たな研究潮流をふまえて,今後の研究展望を示すことにある.

    ジェンダーやセクシュアリティの観点を用いた文化社会学的研究は,時代によってその主たるテーマが移り変わってきた.メディア表現における表象の問題では対象化された女性像が議論されていたのに対し,ポピュラー文化における女性受容者の研究においては,女性の主体的欲望に光が当たるようになってきた.近年ではポストフェミニズム論や第三波フェミニズムの観点を用いた研究も盛んだ.そのうえで,今後は男性学やクィア・スタディーズの視座も用いつつ,より広い文化事象に対するジェンダー・セクシュアリティの観点を用いた分析が必要だと提言する.

    一方,文化における階級を考えるならば,日本ではポピュラー文化を中心に下方の広がりを論じる傾向にあった.文化の序列や差異化を問題とする研究群においては,時代や社会状況に応じてその境界や力関係が更新され続けていることが前提にある.また,高級文化や芸術は,その非日常性が強調されつつも,生産過程においては集合的活動としての人々の日常があり,実証的調査を通じてその探究が行われてきた.さらに,芸術がもつこのような非日常性は文化社会学以外の連字符社会学において社会変化や新たな兆候を説明するための要素として扱われている.

  • 辻 泉, 谷本 奈穂, 工藤 保則
    2023 年 73 巻 4 号 p. 399-417
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/31
    ジャーナル フリー

    本論文では,日本において大きな注目を集め,学生や研究者の数も増えつつある文化社会学について,その特徴と主要な潮流を明らかにしていく.文化社会学の特徴は,研究対象や視座の幅広さにあるが,それだけではない。社会の特定領域だけを対象とした研究というより,むしろ文化を通してその時々の社会の状況に迫ろうとするアプローチという点が,他の(連字符)社会学との違いである.

    文化には,狭義と広義の2 つの意味があるといわれ,前者が通常の日常生活で意味するところの文化であり(たとえばポピュラー文化,大衆文化など),後者は生活様式全般や社会構造,文明といった広い意味合いをもっているが(たとえば,日本文化,西洋文化など),この点からすれば,文化社会学とは,狭義と広義の文化との間のダイナミズムを理解しようとするアプローチといえるだろう.

    そして日本における文化社会学は,これまでに大きく4段階の変化を遂げてきたといえよう.第1段階が戦前の勃興期で,第2段階が戦後から高度経済成長期にかけての発展期であり,幾人もの社会学者が,独自の理論的な視座の精緻化を図りつつ,大衆文化を対象に重要な研究を成し遂げた時期であった.第3段階は,そのあとの定着期であり,文化社会学がますます広まっていった時期である.そして今日,文化社会学は第4段階を迎えつつあるといえる.

投稿論文
  • ―現代中国社会における生権力のあり方の変化―
    宋 円夢
    2023 年 73 巻 4 号 p. 418-434
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/31
    ジャーナル フリー

    本稿は,中国における計画出産の実施・緩和に関して,官製メディアの『人民日報』がどのような言説を構築してその正当性を確保しているか,そこからどのような「生権力」のありよう,変貌がみられるかを探求するものである.

    一人っ子政策期は,優遇措置の実施や「素質」言説の構築により,政策に服従し自発的に1人しか産まない「服従する主体」が求められていた.計画出産が緩和された初期には,新たな人口問題,人々の2人産みたいという希望,一家団欒が重要視されたことから,政策転換の必要性が広報された.それが順調に機能しなかったため,次の段階では,人々の出生意欲と出生行動のずれ,つまり,「産みたいが産まない,産めない」という状態に導いた現実的理由が重要視され,それに対応して子育て支援の施策が導入されていることを広報する,新しい戦略がとられた.

    政策転換の過程において,公共の利益から個人の実際の需要へと統治の正当性を支える説明に変化がみられた.国家による人々の身体への強制的直接的な介入と服従する主体の構築は減少し,その代わりに人々の生の声や主体性を尊重する姿勢が示されている.国家は人々の周囲の環境に介入し,「子育て支援が充実しているため,皆が喜んで産んでいる」という新たな家族規範を創出することで,個人の心・内面まで細かくケアして,喜んで自己統治をする主体の構築を試みるという,生権力のより洗練されたあり方が登場した.

研究ノート
  • ―出生動向基本調査集積データを用いた交際・有配偶への推移確率の推定―
    毛塚 和宏
    2023 年 73 巻 4 号 p. 435-444
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/31
    ジャーナル フリー

    「若年男性が交際から遠のいている」という「草食化」言説は,世間に大きく注目されたが,その注目に反して量的な実証研究は多くない.本稿はコーホートごとの交際状態の推移確率を推定し,若年者の交際状態の長期的な趨勢を明らかにする.このような作業は,「草食化」言説を検討するとともに,今後の交際・結婚研究に貢献することができる.

    データは「出生動向基本調査」報告書にある交際状態の集積データを用いる.推定には,制限付きの最小二乗法を用い,信頼区間の推定には,ブートストラップ法を用いる.

    分析の結果,次の3つが確認された.1)全体として「交際相手がいない」状態への推移確率は上昇傾向である,2)「有配偶」への推移確率は下降傾向である,3)「交際相手がいない」状態から「恋人がいる」状態への推移確率はおおむね横ばいか,わずかに山なりに変化している.

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