社会学評論
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生殖医療における「素人の専門知識」の潜在力
妊娠を目指す患者の知識収集と受診戦略
竹田 恵子
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2016 年 67 巻 2 号 p. 201-221

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抄録

多くの知識が手軽に入手できるようになった現代では, 科学知識の入手において専門家と素人の垣根が崩れつつある. 本稿では, 生殖医療に関する科学知識の蓄積とこれを媒介するメディアの充実が, 現代の生殖医療患者にどのような影響を与えているかを検討した. 11名への聞き取り調査から, 現代の生殖医療患者は治療経過に沿って異なる科学知識の収集を行っていることが明らかになった. 治療当初は医療専門家, 知人, 書籍・雑誌, ウェブサイトから基礎的な科学知識を収集し, 治療が高度化する際には個人にあった知識を入手していた. そして, 彼女たちは知識を収集するなかで治療経過に関する標準化されたプロトコルを理解のなかに作り上げることが認められた. ただし, 協力者は, 治療が長期化すると妊娠しない原因を指摘する科学知識から遠ざかり, あえて知識収集しなくなると同時に, 医師の前で「素人」を演じるようになることもわかった. 現代の生殖医療患者は大量の科学知識に囲まれ, その収集を続けるなかで生殖医療に関する不確実性にも触れるようになる. その結果, 現代の生殖医療患者は科学知識に頼っても妊娠するとは限らないことを経験的に理解する. そして, これまで手に入れた科学知識がなかったかのように振る舞いながら, 医師の言動を静かに査定する. 現代の生殖医療患者は, 様々なメディアと自らの経験などから作り上げた独自の専門知識を駆使し, 妊娠を目指していた.

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© 2016 日本社会学会
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