社会学評論
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スクリーンの「移ろいやすさ」を制御する
戦時下日本の映画上映をめぐる規格化の諸相
近藤 和都
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2019 年 69 巻 4 号 p. 485-501

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抄録

スクリーンにおける映像の現れ方は,たとえば映画であれば「映写機・フィルム・スクリーン」といった器機の複合およびそれらを操作する主体の技法本稿では器機と技法を包括する語として〈技術〉を用いるの節合関係に応じて変容せざるをえない.この意味において,映像的なテクストは「移ろいやすい」性質を持つといえよう.したがって,映像受容のあり方は作品テクストの存立の基盤となる〈技術〉によって条件づけられる.以上を踏まえるならば,映像受容のあり方を捉えるためには,作品テクストを規定する〈技術〉をめぐる問いが不可欠となる.ここから本稿は,プロパガンダ映画の効果を最大化するために,作品テクストを理想的な〈技術〉において呈示することに国家的力点がおかれた映画法制定以降を対象時期として,統制側のアクターと興行側のアクターが交渉/協働しながら上映環境を再構成していく過程を描き出す.具体的には,スクリーンの「移ろいやすさ」を制御することでどの映画館においても同一の経験が媒介されることを目指して,上映作品・上映回数・映写技師・映写機器・従業員といった諸要素が「規格化」されていく様相に焦点を合わせる.考察を通じて,スクリーンにおける映像のあり方が〈技術〉の水準でいかに条件づけられるのかを示し,その上で,映像文化史を「移ろいやすさ」をめぐる制御の観点から展開することの含意について示す.

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© 2019 日本社会学会
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