社会学評論
Online ISSN : 1884-2755
Print ISSN : 0021-5414
ISSN-L : 0021-5414
投稿論文
Reiner Keller の知識社会学的言説分析
――社会学的知識分析の新たな展開に向けて――
小田 和正
著者情報
ジャーナル フリー

2021 年 71 巻 4 号 p. 688-703

詳細
抄録

本稿では,1990 年代以降にドイツ語圏を中心に生じている新しい知識社会学の研究動向に着目し,そのなかでもR. Keller が提唱している「知識社会学的言説分析」に焦点を当てる.Keller の知識社会学的言説分析は,知識社会学と言説分析という異なる伝統をもつ知識分析の枠組みを統合し,知識の生産や流通,それらの変化をマクロな水準で経験的に探究するための研究プログラムを提示するものであり,すでにドイツ語圏を超えて国際的な広がりを見せつつある.本稿の目的は,Keller の研究プログラムの基本的な理論枠組みと分析図式を紹介するとともに,その理論的課題を指摘することにある.

Keller のプログラムの特徴は,マスメディア等に媒介されるマクロ水準の言説の内容的構造を分析するだけでなく,その生産・流通・変容を(その特定の)言説外的要素との連関から説明する点にある.その研究視角は,科学知識や新たなテクノロジーの社会的受容をめぐる問題が先鋭化している今日の社会状況を踏まえれば,きわめてアクチュアルであり,社会学的な知識分析に新たな枠組みを提供するものとして重要な意義をもつ.だがそれは,言説外的要素の存在論的ないし認識論的地位の基礎づけに課題を残しており,本稿では,Keller のプログラムに依拠した経験的研究を積み重ねつつ,同時にその課題の解決に向けてさらなる理論的整備を行う必要があると論じる.

著者関連情報
© 2021 日本社会学会
前の記事 次の記事
feedback
Top