抄録
マルクスにとって「社会」とは、はじめから近代ブルジョア社会を意味し、かつその止揚のうえに社会主義または共産主義を展望する概念としてもちいられている。経済学批判体系の形成、成熟の過程におけるその彫琢が、生産諸関係の総体としての経済的社会構成の概念にほかならない。また、より一般的ないし歴史貫通的な人間観、社会観、つまり唯物史観も、この特殊歴史的なブルジョア社会をふまえ、そこからとりだされたものなのである。したがって、弁証法的唯物論を社会におしひろげたのが史的唯物論であり、それを近代ブルジョア社会に適用したのが「資本論」だとか、史的唯物論はそれじたい科学であって、その「定式」の諸命題は歴史をつらぬく一般法則だとかいうような、スターリン的体系をわれわれはとらない。