抄録
地主制研究は、戦前の農村社会の構造とその変動を理解する鍵である。この点で、農村社会学における寄生地主制研究は、地主による農民支配の構造、逆に、農民の主体形成の社会的・経済的基盤およびその具体的過程を明らかにしようとしてきたのであるが、理論的にも実証的にも十分な成果をあげているとは言い難い。とくに、地主・小作関係の具体的姿が明らかにされない点に大きな弱点がある。
こうした研究状況をふまえて、本稿では、水稲単作地帯の一地主を事例として取り上げ、大正期における地主・小作関係を土地所有に基礎をおく家と家の関係から-とくに労働組織の分析に焦点を据え-把握することを課題としたい。そこには、地主制研究を中心的に担う経済史学において等閑視されてきた諸点を補い、農民層分解を社会学的視点から究明しようとする意図が込められているが、以下の分析はその第一階梯にとどまる。