抄録
本稿は、行為がいかに単一の出来事として成立するのかについて、ひとつの見取り図を提出しようとするものである。「行為の意味」は、じつは、けっして一意的に決まることがない。この事実をふまえ、まず最初に、「規則」というものを、 (分析の道具としてなおも使用できるように) ある特異なしかたで位置づけておく (一) 。その上で、行為の「意味」をことばの意味ではない「効力」として捉えた発話行為論を、概観する (二) 。そして次に、発話行為論の難点を克服するため、発話行為の水準と行為出来事の水準とを分けることを提案する。後者がいかにして構成されるかについては、エスノメソドロジーの「会話分析」を参照することによりひとつのモデルが与えられよう (三) 。最終的には、一方で、発話行為水準の二つの規則 (「隣接対」・発話行為を構成する言語規則) と、また他方で、相互的なやりとりを基底的な水準で支える「順番取得システム」と、都合三つの規則が確認される (さらに、行為出来事をその周囲にはめ込む装置を加えれば、規則は四つになる) 。行為出来事は、当事者たちによりこの諸規則が相互的なやりとりのなかで「利用」されることによって、その場その場で構成される。