社会学評論
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社会運動の戦略的ディレンマ
-制度変革と自己変革の狭間で-
石川 准
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1988 年 39 巻 2 号 p. 153-167,225

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抄録
本稿の主題は社会運動の戦略的ディレンマである。諸々の社会運動論の中で戦略論的関心を最も強く表明し、理論枠組みの整備や実証研究に赴いているのが「資源動員論」である。しかし、「制度変革」をめざす道具的集合行為として社会運動を捉える「資源動員論」は、「自己変革」という社会運動のもう一つの不可欠な側面を分析することができない。これは、合理的選択理論を行為論の基礎にした代償である。
一方、「新しい社会運動論」は、国家の市民社会への介入に抵抗し、市民社会への国家の奉仕機能の拡充を要求し、市民社会内部の規範秩序の変革をめざす様々な草の根の市民運動を、「制度変革」と「自己変革」の同時達成をめざす「新しい社会運動」と捉えている。とはいえ「新しい社会運動論」は、ポスト産業社会という歴史的構造的文脈に社会運動を位置づけその意義や可能性を評価することにもっぱら意を注いでいるため、現実の各社会運動に向かって、個別具体的な政治的文脈との関連において戦略的戦術的提案を行なうことにはさほど積極的ではない。
しかし原理的には「制度変革」と「自己変革」の同時達成をめざす社会運動は、深刻な戦略的ディレンマに直面する。社会運動の社会学としても、新しい社会運動のための戦略的分析枠組みを早急に整備しなければならない。その一歩として本稿は「制度変革」と「自己変革」の同時達成をめざす社会運動が経験するであろう戦略的ディレンマを理論的に解明することを目標にする。具体的には、ネットワーク特性、組織構造、第三者からの援助、実力行使の有効性という四つの次元について、戦略的ディレンマに関する九つの仮説を提示する。
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