時間論には、いろいろなアプローチがありうるが、本稿では時間計測の歴史に焦点をあてることによって、その計測技術の飛躍と近代社会の成立との関連を論じてみたい。近代以前の社会において、時計には時刻を知るためのものと時間の量を計るもの、二つのタイプがあった。ところが、ともに時間をはかる器具でありながら、この二つの時計は互換性をほとんど持っていなかった。しかし、近代の初頭において振り子が機械時計の調速部に採用されると、時間計測の精度は飛躍的に向上し、二つの時計は一つに統合されてゆく。「時計の統合」にいたってはじめて時間計測の普遍性が確立される。それは、近代科学、工業技術の発達の基礎となったばかりでなく、近代人の時間意識を作りかえ、複雑きわまりない近代的社会システムの形成を可能にしたのである.