現在のエスニシティ研究は、エスニシティやエスニック集団の概念は検討しても、肝心のエスニックという語の意味について、主題的に論じていない。本稿では、エスニックという語そのものを主題にして、その意味や用法についての分析を試みる。具体的には、日常語としてのエスニックと学術語としてのエスニックとの間の意味や語感の相違、専門語のもつ独特の「中立性」、エスニシティと人種概念との関係、アメリカにおける日常語としてのethnicのもつ意味や語感について分析する。叙述の過程で明らかになるのは、語そのものに密着した分析が、エスニシティ論の射程をこえて、社会イメージとしての「文化的多元主義」のはらむ問題性、社会学における「言葉」の問題などいくつかの社会学的問題に目を開かせてくれることである。本稿の狙いは、エスニックという言葉の意味を分析することを通じて、社会学的課題の現在について示唆を得ることにある。