抄録
本稿の目的は, 戦後日本社会の変動とともに展開した社会学における実証研究の到達点を明らかにすることである。戦後50年の代表的な社会変動である高度経済成長と高学歴化によって, 知識の大衆化が進み, 戦後の学問は戦前までの教養主義にかわって, 実証主義によって特徴づけられるようになった。実証主義は, 社会学における実証研究を発展させる原動力となったし, そのような実証研究の代表としてSSM調査がある。SSM調査を第1回調査から第4回調査までふりかえってみると, 理論研究の裏づけのもとにスタートしたSSM 調査が分析手法を高度化するにつれて, 背景となる社会学の理論との関係を曖昧にしていったことが明らかになる。この実証研究と理論研究の乖離は, 社会学の実証研究全般にみられるものであり, ポストモダン思想の登場によって一層エスカレートした。そこで社会学における実証研究がこの困難を克服して, 今後進むべき方向を模索する。