社会学評論
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うわさ否定行動の意図せざる結果
不完備情報ゲームによる数理モデル分析
籠谷 和弘
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1998 年 49 巻 4 号 p. 584-599

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抄録

うわさに対する否定行動は, 多くの場合望ましい成果をもたらさない。逆に否定そのものが原因で, 陰謀論との結びつきなど, うわさの背後にある「物語」の強化が起こることがある。本研究ではこの問題に取り組むために, 「不完備情報ゲーム」を用いた数理モデル分析を行う。まずうわさの伝播に影響を与える要素について検討し, 三要因 (不確実性, 心理的緊張, うわさへの信用度) を取り出す。次に伝播行動に対するうわさを信じる者の利得について, その二側面, 「選好」と「大きさ」を考え, その意味を考察する。そしてこれら三要因と利得の二側面とを考慮に入れた数理モデルを構築し, 分析を行う。その結果, うわさの否定が功を奏するための, いくつかの条件が導出される。ほとんどは自明なものであるが, 一つの興味深い条件が存在することが明らかになった。これはうわさを信じる者にとっての, ゲームの価値に関するものである。その内容は, うわさが虚偽である (否定が正しい) ときに, うわさを伝えることから被るリスクが大きい, というものである。これに対し, うわさが本当であるときに問題の重要性が高い場合, 人々はうわさを伝え続ける。これはうわさが, 陰謀論と結びつきやすいことを説明するものである。

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