社会学評論
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メリトクラシー仮説と教育機会の趨勢
近藤 博之
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1999 年 50 巻 2 号 p. 181-196

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抄録
教育機会の趨勢に関する近年の多くの研究は, 教育達成の相対的な格差が長期にわたりきわめて安定していることを示している。それらは教育機会の拡大からもたらされた変化と階層間の格差に関わる変化とを注意深く区別しているが, モデルの構成要素としてメリトクラシー仮説の意味するところを十分に考慮してはいない。本論は, 閾値の発想を取り入れた累積的ロジット・モデルを用いて, この問題に改めて取り組んでみたものである。そこでは, 各出身階層に一次元の連続量として進学の優位度を想定し, それを共通の閾値で区分したものが現実の教育達成をもたらしていると仮定している。この枠組みを用いてSSM調査データ (1955年と1995年) を分析することにより, 1) 戦前期から今日までの教育機会の変動が各出身階層の優位度分布を一定としたまま, もっぱら閾値の低下によってもたらされたこと, 2) 男女の教育達成の差も閾値構造の違いに帰属できること, 3) 高度成長期を含む戦後の教育拡大は階層間の格差を広げるように働いたこと, 4) 相対的な格差は今後も維持されるが, 絶対的な格差は徐々に減少していく見通しであること, などが明らかとなった。優位度分布の布置がつねに同じであるというこの結果は, 教育機会の問題に要因論的アプローチが不適切であることを示すものと解釈される。
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