2002 年 53 巻 3 号 p. 365-379
本稿の目的は, Hegel主義的なMarx主義が問題とする〈理論と実践の媒介〉問題の克服の可能性を, J. HabermasとA. Honnethによる批判理論の試みのうちに探ることにある.Habermasは言語論的転回以後, 批判理論の規範的基礎づけを, 主に理論的-普遍的アプローチによって試みてきた.しかしその試みは非合理からの脱出と引き換えに, 〈道徳の動機づけ〉問題という形で実践の困難を引き起こす.本稿ではその原因を, Habermasの歴史哲学的な理論構成に求め, 媒介問題への別のアプローチとして, 承認の批判理論に注目した, Honnethは, Habermasが排除した〈正義の他者〉を, 実践の動機づけに据えることを試みているが, 本稿ではHonnethの試みを3つのテーマに分けて検討するとともに, この試みが媒介問題との関連でどのような意義と問題点を持っているのかを考察した.その結果承認論が, 正義の問題に還元できない社会の病理を, 実践的-規範的に診断する可能性を有すると同時に, 実践が非合理的なものに転化するリスクを招くことを示した, そして最後に両者の媒介問題への取り組みが, 生活世界論の水準に移行していることを確認した上で, 生活世界で営まれるコミュニケイションの分析から, 正義への動機づけを客観的な形で導き出す, 社会学の認識実践を構想する必要性を指摘した.