抄録
企業間での社会ネットワークのあり方が取引や協力の関係に影響している.近年, ネットワーク組織や戦略的提携などの企業間での継続的な取引や協力の関係が, 市場競争で高業績をあげる例が顕著である.継続的関係を発展させるには, 経済学, 経営学, 組織社会学では「組織間信頼」の関係が企業間での裏切り (機会主義) を「社会的に」抑制するので重要な条件であると学際的に考えられている.これに対して, 本稿では「新しい経済社会学」の「埋め込み (embeddedness) 」アプローチの議論をふまえて, 企業が組織間の社会ネットワークに埋め込まれているので, その関係や構造の全体的特性が組織間信頼の発達に影響するとの視点を検討する.高度な結合を持つ企業間ネットワークでは, 社会ネットワークにおける (1) 互酬関係の強さや (2) 評判情報の流通の高さという全体的特性が, 組織間信頼の発達に影響している.まず強い互酬関係は特定化されない義務関係を構築するので, 関係コミットメントへの意図を組織間に強く共有する「関係的信頼」を発達させる.そして評判情報が多く流通する場合には, ある企業の能力への高い評価を共有させやすいので, 行動遂行への計算可能性が高くなり, 「一般的信頼」を発達させる.「埋め込み」の視点は, 企業組織間での社会ネットワークの構造効果の検討を通じて, 経済的交換関係を支える信頼の発達を明らかにする.