社会学評論
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明治初年大阪での違式?違条例の受容
おどけとあきらめ
山崎 晶
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キーワード: 公共, やり過ごし, 明冶維新
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2006 年 56 巻 4 号 p. 915-930

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抄録

明冶維新期に路上でのふるまいを規制した風俗統制令, 違式?違条例への民衆の反応を通して, 当時における「公共」の捉え方を考察する.
維新期の政策は, 日本社会の近代化の骨格となった.従来の維新期研究は, 当時の民衆の政策への反応形式として順応/反抗のいずれかに重きを置いて論じる傾向にある.しかし, 新政への不満が反抗という形に結実することは極めてまれであり, 民衆の日常的な反応を照射しきれているとは言いがたい.本稿は順応ても反抗でもない反応を「やり過ごし」と称し, 明冶初年にどのように現れていたかを明確にすることを目的とする.それに際し, 当時の庶民の生活慣習を禁じた違式?違条例に関する新聞記事の分析を行う.分析の結果, (2) 取締りの様子を茶化して報じる記事が多数存在し, その記事が (2) 取り締まる側のみならず, 取り締まられる側も笑いの対象としていることから, 「やり過ごし」の形式としてのおどけが確認された.おどけとは, 何がおもしろおかしいのかを客観的にとらえている状態である.ゆえに取り締まりをおどけてやり過ごした民衆は, ただ無意識のうちに〈迷蒙〉状態にあったのではなく, 政府と自らの思惑のズレを自覚していたといえる.この後, おどけが新聞に現れなくなることから, おどけは維新期に特徴的な「やり過ごし」のスタイルであり, 政府と民衆の「公共」の捉え方の違いから生したものと考えられる.

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