抄録
以上論じてきたなかから、主要な結果を要約すれば、つぎのようになる。 (1) 満足度は学歴・勤続年数と関係をもつが、その理由は、学歴・勤続年数が概して昇進見通しと相関を示していることから、この両者が昇進可能性にたいする期待をきめるためであると解される。かくて、満足度は昇進見通しおよび準拠集団によって規定されることが立証される。
(2) 満足度は同調的態度と一定の相関関係をもち、満足度の高いものほど同調的態度を示す。
(3) 上のことから導かれるように、同調的態度も昇進見通しおよび準拠集団と関係づけて考えられる。しかしこの関係は、満足度の場合ほど直接的ではない。むしろ原理的には、高い地位に自己を同一化しているものは、満足度が高いから、したがって逸脱行動をとることなく、同調的態度を示すものを解される。
(4) このように近代産業におけるホワイト・カラーの会社内での行動を規定している態度の諸次元は、大部分、地位にたいするアスピレーションとの関係において考えることができる。
(5) しかしこれらの命題が一貫して成り立つのは、大会社としての組織を確立しているA社の場合である。中小企業たるB社においては、これら一連の相関関係は弱い場合が多く、とくに「同調的態度」に関する項目では攪乱要因による影響がつよい。
(6) つぎに政治経済的態度に目を転ずると、職業においてコロントロールされ、学歴においてもかなり同質性の高いわれわれの調査対象においては、そうでない他の調査におけるホワイト・カラーの場合よりも、 (とくに観念的な項目については) 急進的である。
ω政治経済的態度および階級帰属意識は満足度と顕著な関係をもっており、会社内で満足度の高いものほど保守的態度を示し、かつ自己を中産階級に属していると考える。
(8) この両者はまた昇進にたいする見通しと一定の関係をもち、昇進見通しの明るいものは保守的態度を示し、かつ中産階級に帰属する。この関係はA社においてとくに明瞭である。またこれと関係して、上役を準拠集団とするものは、一般に保守的傾向を示す。
(9) このように、政治経済的態度および階級帰属がとくに関連をもつのは、会社内での満足度と昇進見通しであるが、A社ではこれらと同調的態度のあいだにも一定の関係をみとめた。すなわち会社内で同調的なものは保守的傾向をもち、中産階級に帰属する。しかしB社ではこれは明瞭でない。
(10) さきにも問題としたA社とB社との特殊性によるちがいは、政治経済的態度・階級帰属意識との相関関係において、満足度に関する個々の項目へのあらわれかたの差を生じている。A社では、主として仕事および同僚にたいする満足・不満足が決定的であるのにたいして、B社では会社への誇りおよび上役にたいする満足・不満足が大きく作用している。