日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌
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シンポジウム
間質性肺疾患患者の理学療法
有薗 信一俵 祐一金原 一宏
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2023 年 32 巻 1 号 p. 8-11

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要旨

間質性肺疾患の運動療法の短期効果(6-12週間)は6分間歩行距離や呼吸困難,健康関連QOLの改善に有効である.6か月以上の長期効果を検討した報告は少なく,維持プログラムを含めた長期効果も検討されてきている.本論文では間質性肺疾患患者の理学療法の内容や効果,理学療法評価と生命予後,理学療法における酸素療法の視点から論述する.

はじめに

間質性肺疾患(Interstitial lung disease: ILD)の理学療法は,運動療法とADLトレーニングを含めた呼吸リハビリテーション,運動負荷試験と呼吸困難などの理学療法評価,労作時の酸素療法の評価などが行われる.ILDの運動療法の短期効果(6-12週間)は6分間歩行距離(six-minute walking distance: 6MWD)や呼吸困難,健康関連QOLの改善に有効であるとの報告が多い.ILDの中でも特発性肺線維症(Idiopathic Pulmonary Fibrosis: IPF)患者の運動療法効果は乏しいとされてきたが,近年の報告では,IPFでも十分な効果が得られるとしている.しかし,6か月以上の長期効果を検討した報告は少なく,維持プログラムを含めた長期効果を検討することが,今後重要な課題である.本論文では,ILD患者の理学療法の内容や効果,理学療法評価と生命予後,理学療法における酸素療法の視点から論述する.

ILDの理学療法,呼吸リハビリテーションの効果

ILD患者における呼吸リハビリテーションは,運動療法を含む理学療法の他に,患者評価,教育,行動変容の包括的治療であり,身体と精神的コンディションの改善と長期にわたる健康状態の促進を目指すものである1,2.ILD患者の理学療法の内容は運動療法とコンディショニング,ADLトレーニング,セルフマネジメント教育,アクションプランの実践を含んでいる3.ILD患者の運動療法は慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease: COPD)患者と同様に,持久力トレーニングや筋力トレーニング,呼吸練習などがあり,運動の頻度(Frequency),運動強度(Intensity),持続時間(Time),運動の種類(Type)を対象者に合わせた運動プログラム(FITT)として作成する3.ILDに対する運動強度は高強度(最大能力の60-80%)が多く報告されており,運動耐容能や呼吸困難の改善を認めている.運動時間は,最初が5分程度から開始し,徐々に時間を延ばし,20分以上を目標に増やしていく.難しい患者には負荷と休憩を交互に行うインターバルトレーニングから開始すると継続しやすい4.筋力トレーニングは,四肢体幹筋力トレーニングと呼吸筋トレーニングがある.上肢筋力トレーニングや下肢筋力トレーニングは,自重による負荷や,重錘や弾性ゴムを用いるなどの負荷方法がある3.筋力トレーニングは最大筋力の60~80%で負荷量を設定し,筋持久力トレーニングでは,最大筋力の40~60%を用いる.ILD患者における呼吸筋トレーニングを検討した報告は少なく5,6,今後のエビデンスの蓄積が必要とされる7

2023年,米国胸部疾患学会(American Thoracic Society: ATS)が成人の慢性呼吸器疾患患者の呼吸リハビリテーションのガイドラインを発表した8.COPD患者の安定期や急性増悪時の呼吸リハビリテーション,ILD患者や肺高血圧症患者の呼吸リハビリテーションのエビデンスの強さと勧告を発表している.その中で,「ILDの成人患者は呼吸リハビリテーションを受ける必要がありますか?」の問いに対して,ATS勧告は「ILDの成人患者に対して,呼吸リハビリテーションに参加する事を勧める」(strong recommendation, moderate-quality evidence)としている.このガイドラインで,初めてILD患者の呼吸リハビリテーションの勧告の強さが,strong recommendationとなっており,COPD患者の勧告と同様であった.ILD患者の6MWDにおける8-12週間の短期効果は,40.07 m(95%CI, 32.70 to 47.44 m)であり,6-12か月間の維持効果は32.43 m(95%CI, 15.58 to 49.28 m)としており,運動耐容能の長期効果もありエビデンスもModerateとしている.また,他の指標による8-12週間の短期効果は,呼吸困難(modified medical reserch council: mMRC)で-0.36(95%CI,-0.58 to -0.14)であり,健康関連QOL(St. George’s Respiratory Questionnaire: SGRQ)で-9.29(95%CI, -11.06 to -7.52)と報告している.さらに,6-12か月間の維持効果は,呼吸困難で-0.29(95%CI, -0.49 to -0.10),健康関連QOLで-4.93(95%CI, -7.81 to -2.06)であったと報告しており,呼吸困難と健康関連QOLのエビデンスはLowからModerateとしている.ILD患者の呼吸リハビリテーションは運動耐容能や症状を含め,効果が高い事を示しており,勧告レベルをstrong recommendationと挙げている.しかし,IPF患者に限定すると6MWDの短期効果は 37.25 m(95%CI, 26.16 to 48.33 m)であり,6-12か月間の維持効果は1.64 m(95%CI, -24.89 to 28.17 m)と効果が減弱している.この点は,IPF患者に限局した呼吸リハビリテーションの効果に関するデータの蓄積が必要である.

2023年に,本邦初のニンテダニブ治療中のIPF患者に対する長期呼吸リハビリテーションの有効性を検討した報告が発表された4.19施設が参加した非盲検多施設共同並行群間無作為化比較試験であり,88例のIPF患者に対して,1年間の呼吸リハビリテーションの効果を検討した.1年後の6MWDの改善には,呼吸リハビリテーション介入群とコントロール群で差を認めなかったが,運動持続時間の改善を介入群で大きく認めた(図12).Transition Dyspnea Indexで評価した呼吸困難も呼吸リハビリテーション介入群が,1年間の時点で有意に改善を認めた.本邦で初めて19施設が参加したIPF患者に対する呼吸リハビリテーションの1年間の検討では,運動持続時間や呼吸困難の改善を認めただけでなく,本邦のIPF患者の呼吸リハビリテーションのプログラムの標準化,運動耐容能などの理学療法評価の標準化,対象のエントリー基準が明確になったことは大きな意義がある.

図1 6分間歩行距離のベースラインに対する52週間の変化量

Baselineの6分間歩行距離に対する変化量(m)をPR groupとControl groupで比較した.12週と26週で両群間に有意な差を認めた.

6MWD: six-minute walking distance, PR: Pulmonary rehabilitation, 文献4引用

図2 運動持続時間のベースラインに対する52週間の変化量

Baselineの運動持続時間に対する変化量(秒)をPR groupとControl groupで比較した.12週と26週,52週(1年間)で両群間に有意な差を認めた.

PR: Pulmonary rehabilitation, 文献4引用

理学療法評価と生命予後

ILDの予後因子では,努力性肺活量(forced vital capacity: FVC)や肺拡散能(diffusing capacity of the lung carbon monoxide: DLco)などの肺機能,gender(性別)・age(年齢)・physiology(呼吸機能)からなるGAPスコアの他に,6分間歩行試験(six-minute walking test: 6MWT)の歩行距離や低酸素血症,呼吸困難の重症度などが重要な評価項目である1,9.他には,健康関連QOLであるSGRQの30点がカットオフ値であったり10,CTで評価した脊柱起立筋の筋断面積の減少率が10.5%/6か月間であったり,肺高血圧の有無なども報告されている.ILDの予後因子である運動耐容能や呼吸困難,健康関連QOLは,呼吸リハビリテーションで改善を期待できる.また,脊柱起立筋の筋断面積の減少率が6か月間で10.5%を認めると予後が悪い事も踏まえ,呼吸サルコペニアのように全身の骨格筋量の減少は,ILD患者にとって問題である.しっかりとした栄養療法と筋力トレーニングが,ILD患者の病態管理として必要である.たとえ,ILD患者が運動療法などの呼吸リハビリテーション未介入であっても,定期的な運動負荷試験や筋力などの評価は,ILDの進行や薬物療法の効果判定の観点から重要である.

膠原病に伴うILD(connective tissue diseases-associated interstitial lung disease: CTD-ILD)の中で,多発性筋炎,全身性強皮症,関節リウマチなどを合併している場合は運動障害が出やすく,筋力低下などが現れる.6MWTや自転車エルゴメータなどで運動耐容能を評価する際は,基礎疾患の運動障害を考慮しながら,評価すべきである.関節や骨格筋の機能障害,疼痛による運動制限では,呼吸機能に負荷が全くかからずに,運動を終了する場合もある.運動耐容能を評価する際に,CTD-ILD患者が実施可能な運動形式の選択に注意する必要がある.

理学療法における酸素療法

ILD患者は安定期で労作時の低酸素血症が著しく,さらに急性増悪後の回復過程では著明な労作時低酸素血症を呈するため,運動療法や離床を進めることが困難になる.特にIPF患者は労作時の低酸素血症が著しいため,酸素療法を併用して運動療法を実施することを多く経験する.Cochrane Database of Systematic Reviewsから,ILD患者の運動耐容能や呼吸困難に対する酸素療法の効果のシステマティックレビューが発表された11.レビューでは,ILD患者の運動療法に酸素療法を組み合わせる効果をポジティブにサポートするほどのエビデンスは無いとしている.その中で3つの論文がクライテリアを踏まえ採用されている.うち1つが我々の報告であり12,酸素療法がポジティブな結果を示している.我々は,労作時低酸素血症があるIPF患者72例に酸素吸入 4 L/分と圧縮空気 4 L/分(プラセボ)の2条件下で,定常負荷試験により検討した.酸素吸入の運動持続時間は平均547秒で,プラセボの運動持続時間428秒と比較し有意に増加させ,同時間帯の呼吸困難と下肢疲労では酸素吸入の方が有意に減少した.4 L/分の酸素療法は,労作時低酸素血症を認めるIPF患者の呼吸困難と下肢疲労を改善させ,さらに運動耐容能を向上させることが分かった.酸素療法のネガティブな報告は酸素流量が 2-3 L/分であり,労作時低酸素血症があるIPF患者にはやや少ないかもしれない.労作時低酸素血症があるIPF患者の運動療法の際は,4 L/分程度の酸素療法を併用することで良い結果が得られると考える.

ILDやIPFの理学療法は,運動療法とADLトレーニングの介入が最も重要なプログラムであり,運動負荷試験などの理学療法評価により,ILDの治療戦略の一助になる点も重要である.

著者のCOI(conflicts of interest)開示

有薗信一;研究費(特定非営利活動法人中日本呼吸器臨床研究機構)

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© 2023 一般社団法人日本呼吸ケア・リハビリテーション学会
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