日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌
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原著
新型コロナウィルス肺炎後の肺障害に対する呼吸リハビリテーションの役割
八木田 裕治杉野 圭史 馬上 修一須藤 美和小野 紘貴坪井 永保
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2024 年 33 巻 1-3 号 p. 71-75

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要旨

新型コロナウィルス感染(COVID-19)後遺症として呼吸器症状の継続や倦怠感などがある.そこで,今回我々は重症COVID-19肺炎後に肺障害を遺した患者6名に対して呼吸リハビリテーション(以下呼吸リハ)を実施し効果を後方視的に検討した.対象6名ADLは全例全介助レベルであり,人工呼吸器管理あるいは高流量カニュラ酸素療法管理下での当院へ転院であった.転院後の治療は全例にステロイドが投与され,呼吸リハはベッドサイドより介入し退院まで継続した.結果,ADLはBarthel Index: 5±3.2点から82.5±36.0点,6分間歩行距離は,315±114.0 mから424±181.0 mと向上した.全症例に低酸素血症が残存し,在宅酸素療法の導入となったが,自宅退院を可能とした.以上より重症COVID-19肺炎後の肺障害に対し,薬物療法に加えて呼吸リハの介入・継続が重要であり,有効性が示唆された.

緒言

新型コロナウィルス感染症(COVID-19)は,2019年12月に中華人民共和国河北省武漢市にて発見されて以降,世界中に感染が急速に拡大(パンデミック)しており,いまだ収束の兆しが見えない現状である.厚生労働省の発表によると2022年11月現在,2,400万人の感染が報告されており,死者数も4.8万人と猛威を振るっている.臨床症状としては,発熱,咳,呼吸困難,喀痰,筋痛,関節痛,頭痛,下痢,嘔気,嘔吐,喉の痛みなどで1,軽症例および中等症では予後良好であるが2,COVID-19患者全体の約15%を占める重症例では呼吸困難や,低酸素症を伴う重症肺炎,急性呼吸窮迫症候群を呈し,さらには多臓器障害を合併し予後不良となり得る3,4.重症COVID-19患者において,集中治療室(intensive care unit: ICU)に長期間滞在した患者に神経学的合併症を引き起こした症例が多数報告されている5.ICU獲得性筋力低下(Intensive care unit-acquired weakness: ICU-AW)はICUで生じる神経・筋障害であり,ICU退室後も症状が続くことがある6.ICU-AWは急性疾患,複雑な手術,重度の外傷,熱傷などをきっかけに,軸索神経障害,原発性ミオパチーなどを介して全身の脱力が生じ,その結果,筋力低下や筋萎縮を生じると考えられている7.Appleton8らはシステマティックレビューによって,ICU-AWがICU入室患者の40%に発生することを報告している.さらに,ICU-AWはICU滞在期間の延長や在院日数の延長,死亡率,人工呼吸器使用期間などと関連している9.ICUで管理されたCOVID-19患者にICU-AWが認められたとの報告がある5,7.また,羅患後も回復後1か月経過した患者では72.5%が何らかの症状を訴えており,最も多いのは倦怠感 (40%) で,息切れ (36%),味覚障害 (24%),不安(22%),咳(17%)と続いている10.そのため羅患後の後遺症に対し,専門外来を設立した病院も見受けられるものの,全患者を網羅するまでには至っていないのが現状である.さらに,重症COVID-19肺炎後の肺障害に対する,呼吸リハビリテーション(呼吸リハ)の効果に関する報告は少ない.そこで,COVID-19肺炎後の肺障害を合併した患者に対する呼吸リハの効果について後方視的に評価・検討したので報告する.

対象と方法

2020年11月から2021年9月までに急性期病院にて重症COVID-19肺炎に対し,挿管下人工呼吸器あるいは高流量カニュラ酸素療法(high flow nasal cannula: HFNC)管理下にて治療を受けた後,当院に転院した症例を対象とした.方法は,重度の肺障害を遺し呼吸リハを実施した患者6例を転院時と退院時のBarthel Index(BI)と6分間歩行試験(6-minute walk test: 6MWT),在宅酸素療法(home oxygen therapy: HOT)の流量変化や退院6か月後の同項目の変化を後方視的に検討した.呼吸リハの内容として,人工呼吸器管理もしくはHFNC管理下では,コンディショニングを中心に,座位保持練習や起居動作練習を実施,離脱後では,起立動作練習・立位保持練習,歩行練習や階段昇降練習へ移行した.退院調整期では前記の内容は継続し,ADL向上練習やHOTの流量の調整,住環境調整や福祉サービスの検討を実施した11.また,呼吸リハ介入時は主治医指示のもとSpO2 90%以上保持するよう酸素流量や FIO2 の調整を行い介入継続した.入院中の自主トレーニングや退院後の運動内容として臥位や座位で実施可能な下肢筋力向上練習を中心とした資料を作成・配布し,説明を実施した上で,リハ介入時にも実施状況の確認を行い,呼吸リハ介入期間は,退院時まで実施継続した.倫理的配慮に関しては,坪井病院倫理委員会の承認(慈山倫理5-第18号)を受け,個人情報の取り扱いには十分配慮をして行った.また,インフォームドコンセントはオプトアウト方式で取得した.

結果

患者背景は,表1に示す通り対象は6名(男性5例,女性1例)で,平均年齢64±12歳であった.併存症は高血圧症が5例,糖尿病が2例,心房細動が1例であった.呼吸器疾患の合併として,気管支喘息が2例,間質性肺炎が2例,気胸を合併した慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease: COPD)が1例であった.また,症例①においては急性期病院にて挿管管理後に気管切開での人工呼吸器管理下での転院であった.COVID-19の薬物治療は,急性期病院では全例にレムデジビルが投与され,ステロイド大量療法を6例中5例に併用されていた.転院後に再度,ステロイド大量療法を2例に施行し,全例にステロイドの内服 (10-30 mg) を開始,4例に免疫抑制剤を併用,3例に抗線維化薬の投与を行った.転院後の基本動作はほぼ全介助レベルであり,日常生活動作(activities of daily living: ADL)でもBIにて平均5±3.2点と低下しており,要介助状態であった.転院までの急性期病院での平均入院期間は31.5±17.2日間.呼吸リハ開始日は,転院日もしくは3日以内に主治医の指示のもとベッドサイドから介入した.平均入院期間は49.1±31.9日であり,長期療養を要したが,退院時BIでは 5±3.2点から82.5±36.0点へと大幅な改善がみられた.改善項目として,階段動作や入浴動作以外の動作の獲得を可能とした.また,実施可能であった症例,入院時4例と退院時5例に対し,6分間歩行試験(6- minute walk test: 6MWT)を測定し,転院後歩行可能時と退院時を比べると,6分間歩行距離(6- minute walk distance: 6MWD)315.7±113.9 m→417.8±180.9 m,最低SpO2値 79±5.9%→85.4±7.4%,修正Borgスケール 3.25±1.3→2±1.9と改善がみられたものの,退院時に低酸素血症が残存していたため,全症例に在宅酸素療法が導入された.退院時の酸素流量の平均値は安静時2.5±1.4 L/min,労作時4.2±2.1 L/min,就寝時2.5±1.4 L/minにて退院した(表2).

表1 患者背景

性別
年齢
身長[cm]
体重[kg]
BMI[kg/m2
  呼吸器  
  合併症  
  その他  
  既往歴  
喫煙歴
(非喫煙者/
喫煙者/
元喫煙者)
BI:ブリン
クマン指数
ステロイド
パルス療法
レムデ
ジピル
転院後
ステロイド
パルス療法
転院後免疫
抑制剤
転院後抗
線維化薬
転院時PaO2
[mmHg]
SpO2[%]
※室内気
転院時ADL
(Barthel
Index)[点]
症例①
54歳
159.5 cm
71.9 kg
28.3
気管支喘息高血圧非喫煙者++PSL 30 mg
TAC 3 mg
NTD
200 mg
54.2
93.1
0
症例②
73歳
169.5 cm
50.1 kg
17.4
間質性肺炎
肺結核後遺症
高血圧元喫煙者
BI:510
++PSL 10 mg
CyA 100 mg
PFD
1,200 mg
36.7
71
5
症例③
76歳
170.0 cm
58 kg
20.1
間質性肺炎心房細動,
高血圧,
前立腺肥大症
元喫煙者
BI:300
++PSL 15 mg
CyA 150 mg
NTD
300 mg
82.4
96.4
5
症例④
76歳
172.2 cm
92.5 kg
31.3
気管支喘息高血圧,
脂質異常症,
糖尿病
元喫煙者
BI:1000
+++PSL 25 mg
CyA 150 mg
41
77.2
10
症例⑤
49歳
166.1 cm
80.2 kg
29.1
糖尿病,
高血圧
非喫煙者+++PSL 10 mg54.5
88.4
10
症例⑥
58歳
162.0 cm
51.6 kg
19.7
COPD,気胸逆流性食道炎元喫煙者
BI:120
++PSL 10 mg62.6
93.6
5

表2 当院転院時と退院時,退院後6か月経過後の測定値の推移(n=6)

転院時退院時退院後6か月経過後
Barthel Index[点]5±3.282.5±36.084.2±36.3
HOT流量 安静時/労作時/就寝時[L/min]2.5±1.4/4.2±2.1/2.5±1.41.2±1.3/2.7±2.2/1.2±1.3
6MWD [m]315.7±114[n=4]424.4±181[n=5]479.6±131[n=5]
・最低SpO2値[%]79±5.986±7.486±7.0
・最大脈拍数[回/分]129±6.9128.8±15.1123.2±7.0
・修正Borgスケール3.25±1.32±1.91.7±0.9

平均±標準偏差

転院時・退院時・退院後6か月で比較

HOT:在宅酸素療法,6MWD:6分間歩行距離

最終的に,全症例自宅退院が可能となり,6例中5例はADL自立レベルとなった.退院後6か月経過時に再度6MWTを行い,退院時と比較すると,6MWD 418±180.9 m→479.6±131.2 m,最低SpO2 値 85.4±7.4%→85.4±7.1%,修正Borgスケール 2±1.96→1.7±0.9と改善がみられた.また,退院6か月後に酸素流量は,安静時2.5±1.4→1.2±1.3 L/min,労作時4.2±2.1→2.7±2.2 L/min,就寝時2.5±1.4→1.2±1.3 L/minへと減量出来た.

考察

COVID-19患者の3~5%は,感染から14日以内に重症化する可能性があることが報告されている12.最重症例では急性呼吸窮迫症候群を合併し,挿管下人工呼吸器や体外式膜型人工肺(extracorporeal membrane oxygenation: ECMO)での治療が必要となる13.また,集中治療室にて救命された重症患者では25%以上にICU-AWを合併することが明らかにされている14.ICU-AWの合併は,人工呼吸器からの離脱遅延やICU在室日数の延長9,15といった短期的なアウトカムを悪化させるとともに,機能予後や健康関連生活の質の低下16,退院後の死亡率の増加17,18,など長期的なアウトカムにも影響を及ぼし,集中治療領域における重大な合併症の1つとされている.さらに重症COVID-19患者に使用されるステロイド薬はICU-AW発症のリスクファクター19の一つとしても位置付けられており,ステロイド投与量は筋蛋白質分解による骨格筋量の減少と関連しており20,21,22,栄養障害も身体運動機能低下に関連があることが明らかにされている23.そのため50~60歳台の生産年齢世代であっても重症化すると,歩行能力,ADL能力の改善には時間を要すると報告されている24

また,本邦においてCOVID-19が未知のウイルスであり,ICU領域での包括的ケアが十分に行えていなかったことによるICU-AWの合併や感染対策下での呼吸リハが十分に介入出来ない現状により長期臥床が発生してしまうのと同時に,ステロイド大量療法などの治療により,著明にADLの低下を認めた.

そのため,当院転院後より包括的呼吸リハを介入実施し,各々の症例状況に合わせて負荷量の調整をしたことや適切な酸素流量の設定を行うことにより,動作時の低酸素血症や心負荷の軽減図った.症例①においては,COVID-19感染によるびまん性肺胞損傷が生じ,線維化が顕著に残存してしまった為,抗線維化薬の投与が必要となった.

症例②においては,COVID-19感染後に間質性肺炎の急性増悪を発症したため,再度HFNC管理下およびステロイドパルス療法を要し,労作時の著明な低酸素と心室性期外収縮などの循環器症状を合併したことにより,離床が遅れ,ADLの改善に時間を要した.そのため,目標を座位保持時間の延長と家族の介護量の軽減に変更し,呼吸リハ介入を継続した.また,症例②と症例⑥は痩せや転院時の体重減少が問題となったため,主食の米飯に中鎖脂肪酸 (medium chain triglyceride: MCT) オイル又はMCTパウダーを混ぜ,昼食には分岐鎖アミノ酸(branched chain amino acid: BCAA)入りの飲料を提供する事などの対応によって,総摂取カロリーの増加を目標とした.また,急性期病院にて長期挿管管理下および気管切開での人工呼吸器管理による嚥下機能障害を発症したため,食形態の検討や調整を主治医の指示のもと栄養士と病棟看護師などの多職種でカンファレンスを実施し決定した.ICU入室患者は,ICU入室時より早期離床と状態に合わせた運動療法を中心とした介入が必要であるとともに,栄養療法との併用や,嚥下障害への関与が必要であるとされている25.本研究の対象者においても積極的な包括的呼吸リハを実施することにより全症例のADLの向上と自宅退院を可能とした.

今回の対象症例全例に6MWTにおいて79±5.9%の労作時低酸素血症を認めた.COVID-19の半数に,運動誘発性低酸素血症 (exercise induced hypoxemia: EIH) を伴っていたという報告26がある.また,間質性肺炎は高度のEIHを起こしやすい27との報告もある.EIHは遷延すると低酸素性肺血管攣縮をきたし,肺高血圧症を誘発する恐れがある28.また,COVID-19感染による拡散障害は軽症者においても約30%に認められている29,30,31.酒井らはCOVID-19後遺症の中で肺間質障害と長期的な肺線維症への進行が最も危惧されており,長期的な経過観察と状況に応じた対応が必要であろう31と述べている.本研究の対象者においてもEIHが生じ32,低酸素血症が遷延し在宅酸素療法と導入が必要となったと考えられる.そのため,リハビリにおいてSpO2 のモニタリング,適切な在宅酸素の酸素流量調整は非常に重要であり,退院後においても定期的な6MWTの施行により酸素流量の調整を行い,個々の症状に合わせた対応が必要であると考える.

結語

重症COVID-19肺炎後の肺障害は,呼吸困難による長期臥床や筋力低下が生じたが,酸素流量の検討や包括的呼吸リハの介入により6分間歩行試験の改善をはじめとしたADL向上・社会復帰・自宅退院を可能とした.退院後においても継続的なSpO2 のモニタリングや6MWTの施行による酸素流量調整を行うことや個々の症状や身体状況に合わせた包括的呼吸リハの介入継続がADL向上・社会復帰において必要である.

備考

本論文の要旨は,第32回日本呼吸ケア・リハビリテーション学会学術集会(2022年11月,千葉)で発表し,座長推薦を受けた.

著者のCOI(conflicts of interest)開示

本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.

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