2025 年 34 巻 2 号 p. 122-124
2015年に始まった特定看護師制度は2025年までに10万人となることを目指しているが,目標にはほど遠いのが現状である.理由の一つは,特定看護師は厚生労動省から終了証をもらうことになるが,資格としての効力がないことである.認定看護師は看護協会による資格であるが,現在の認定看護師資格のみを得るA課程は2026年度で終了し,特定行為を組み込んだB課程のみとなるが,すでに2020年度から開始されている.これにより全19分野の認定看護師教育に,特定行為研修を組み込むこととなる.さらに専門看護師制度もあり,そのすみわけも必要である.認定看護師養成がすべてB課程になるがために,認定看護師を目指す者が少なくなる可能性があるが,認定看護師,特定看護師の活躍の場は広く,認定看護師,特定看護師が増加することにより,呼吸管理レベルが向上することが期待される.
特定看護師制度は2025年までに10万人となることを目指しているが,2020年7月時点で,修了者総数は2,646名(修了延べ人数:17,982名)にとどまっている1).一方,看護協会の資格である認定看護師に関しては,特定行為研修を組み込んでいない21分野の認定看護師教育機関(A課程認定看護師教育機関)は2026年度をもって教育を終了,2020年度から開始されている特定行為研修を組み込んでいる19分野の認定看護師教育機関(B課程認定看護師教育機関)となる.呼吸器に関する認定看護師数はA課程,B課程修了者を合わせても新型コロナウイルスの流行で注目された感染管理認定看護師の1/10程度であり,2022年11月現在,B課程呼吸器疾患看護認定看護師教育機関(特定行為研修を組み込んでいる教育機関)は全国で1機関しかない.しかし,今後認定看護師,特定看護師はますます必要となることが予想される.
医師による診療は,医師のみしか実施できない「絶対的医行為」と,看護師が「診療の補助」として実施することができる「相対的医行為」に分類される.相対的医行為のうち高レベルな行為を明確に区別し,「特定行為」としている.特定行為とは,21区分38行為であり2),この行為を実践するための必要な高度知識と技術を指定機関で学び修了認定を受けた看護師のことを特定看護師という.
急性期医療に関しては,2024年度から開始される医師の働き方改革のために,これまで医師が行ってきた仕事を他の医療職が行うことが必要と考えられている.医師の時間外労働は年間960時間に制限されるため,特定行為を特定看護師に委託することで医師は本来の診療業務に集中でき,長時間労働の削減や業務の効率化が進むことが期待されている.また,特定行為を通じて,医療チーム全体で患者のケアを行う体制が強化され,医療の質が向上することも期待される.
急性期医療以上に特定看護師を必要としているのは,中小病院,訪問診療などの慢性期医療である.2025年度に予定されている地域医療構想において,高度急性期,急性期の病床は減少し,回復期や訪問診療が増加することになる(図1).このような医師の少ない慢性期医療の現場においては,患者が長期間にわたって医療管理を必要とすることもあり,特定看護師は重要な役割を果たすことになる.
2025年度には高度急性期,急性期病床を減らし,回復期病床数が増加するが,さらに訪問診療,看護が増加すると考えられている.
特定行為研修を組み込んだ新たな認定看護師制度(B課程)の目的は,特定の看護分野において,熟練した看護技術および知識を用いて,あらゆる場で看護を必要とする対象に,水準の高い看護実践ができる認定看護師を社会に送り出すことである.
期待される役割は次の3つがあげられる.
1.実 践
特定の看護分野において,個人,家族および集団に対して,高い臨床推論力と病態判断力に基づき,熟練した看護技術および知識を用いて水準の高い看護を実践する.
2.指 導
特定の看護分野において,看護実践を通して看護職に対し指導を行う.
3.相 談
特定の看護分野において,看護職等に対しコンサルテーションを行う.
以上のような目的と役割が設定された認定看護師制度が開始されており,社会からより高度な看護が求められていることが反映されているものと考えられる.
呼吸器に関する認定看護は2020年にB課程教育の開始にあたり,慢性呼吸器疾患看護から呼吸器疾患看護へ変更されている.変更の理由は,急性と慢性が連続性を持った病態であるため,区別せずに専門的なケアの提供が必要である,と考えられたためである.
呼吸器疾患看護認定看護師に必要とされる能力は,多岐にわたる(表1).呼吸障害に対して高い臨床推論力と病態判断カに基づき,モニタリング,アセスメント,マネジメントを行うことにより,高度な看護を行うことが求められている.また,倫理的に患者の権利,自己決定を尊重した看護が期待される.
期待される能力 |
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呼吸障害に対して高い臨床推論力と病態判断カに基づき,身体的・心理的・社会的・スピリチュアルな側面の的確なアセスメントができる |
呼吸障害に対して高い臨床推論力と病態判断力に基づき,呼吸症状のモニタリングと評価ができる. |
呼吸障害のある対象者に対して症状緩和のためのマネジメントを行い,QOLを高めるための療養生活行動を支援することができる. |
呼吸障害のある対象者の身体的・心的・社会的な対象特に応じて地域へつなぐ生活調整ができる. |
呼吸器疾患看護分野において,役割モデルを示し,看護職への指導を行うことができる. |
呼吸器疾患看護分野において,看護職等に対し相談対応・支援を行うことができる. |
呼吸器疾患看護分野において,多職種と協働しチーム医療のキーパーソンとして,役割を果たすことができる. |
呼吸器疾患看護分野において,患者・家族の権利を擁護し,自己決定を尊重した看護を実践できる. |
呼吸器疾患認定看護師B課程に組み込まれる特定行為区分は,対象の多くが高齢で呼吸器管理を必要とすることから,栄養及び水分管理に係る薬剤投与関連2行為,呼吸器(人工呼吸療法に係る行為)関連4行為となっている(表2).
特定行為区分 | 特定行為 |
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栄養及び水分管理に係る薬剤投与関連 | 持続点滴中の高カロリー輸液の投与量の調整 |
脱水症状に対する輸液による補正 | |
呼吸器(人工呼吸療法に係るもの)関連 | 侵襲的陽圧換気の設定の変更 |
非侵襲的陽圧換気の設定の変更 | |
人工呼吸管理がなされている者に対する鎮静薬の投与量の調整 | |
人工呼吸器からの離脱 |
呼吸器ケアにおいてこのような能力をもった看護師が求められているが,その理由として高齢化に伴い呼吸器疾患をもった患者が多く,2021年の厚生労働省のデータでは,死因の第5位が肺炎であり,肺炎,誤嚥性肺炎を合わせると死因の8.5%を占めている3).また,喫煙を原因としたCOPDや肺がん患者も多く,高度な看護力を持った呼吸器疾患看護認定看護師,特定看護師が重要な存在となる.
少なくとも特定行為2行為の研修が含まれることになったB課程であるが,B課程になったが故の課題もある.呼吸器疾患認定看護師教育基準カリキュラムでは,研修時間も大幅に増加し4),認定看護師を目指す者が認定看護師研修を希望しない者が出てきた.今後認定看護師は中小医療機関や訪問看護などで活躍することが期待されるが,そのような医療機関では人が少なく,経済的援助も困難なため,スタッフを認定看護資格取得のための研修に参加させることが困難である場合も多い.e-learningを用いた講義や,自施設での特定行為研修で時間的拘束を少なくすることが可能であるが,中小病院では特定行為の指導医不足など,自施設での研修が困難である場合も多い.
研修終了後にも,認定看護師になったにもかかわらず特定行為のみ期待されるといったことや,急性期医療では医師がいるため特定行為を使う場がないなどの問題もある.さらに,例えば共通である特定行為では脱水に対して補液が可能となるが,看護師には処方権がなく,そのため医師に連絡しなければならず,看護師による特定行為といえるのか,といった問題もある.このような状況を事前に想定し,医師との綿密な打ち合わせと手順書の作成が必要となる.また,認定看護,特定行為では責任が重くなることが考えられるが,多くの医療機関ではインセンティブがないなどの問題もあり,希望する看護師の減少も危惧され,今後も議論が必要であると思われる.
A課程認定看護師教育機関は2026年度をもって教育を終了,2020年度から開始されている特定行為研修を組み込んでいるB課程認定看護師教育機関となる.B課程になったがために,新たな課題が生まれている.しかしながら,医師の働き方改革,地域医療構想により,認定看護師および特定看護師は今後より社会に必要とされるものとなることが予想され,多くの看護師がB課程認定看護師研修に参加すること,また,特定行為研修を修了することが望まれる.
本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.