日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌
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原著
肺癌周術期健康関連QOLへの術前身体機能の影響
―PC-PA quadrantsの応用―
石井 伸尚 篠原 悠田口 真希
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2025 年 34 巻 2 号 p. 151-156

詳細
要旨

身体能力(PC)と身体活動(PA)は別々の身体機能という概念的枠組み(PC-PA quadrant concept: PC-PA quadrants)を肺癌周術期に応用し,術前身体機能と周術期HRQOLの関連を明らかにすることを目的とした.PCは%6MWD,PAは歩数を指標とし,基準値の100%未満をそれぞれ低PC,低PA,100%以上をそれぞれ高PC,高PAと定義し,PC-PA quadrantsの4群で術前,退院時,退院1か月後のHRQOLを比較した.術前は低PC低PA群が低PC高PA群と高PC高PA群よりEQ-5D-5L index value(p=0.00),EQ VAS(p=0.01)で有意に低値,退院1か月後は低PC低PA群が高PC高PA群よりEQ VAS(p=0.03)で有意に低値となった.肺癌周術期HRQOLには術前の身体能力,身体活動の双方が高いことが有益であると示唆された.

緒言

肺癌は罹患者数,死亡者数とも第一位の悪性新生物であり,根治を目指した外科治療を受ける患者数は年々増加している1.肺癌患者の手術選択にあたっては,生存期間の延長が期待できることと同時に,患者の拡大に伴い日常生活活動(activities of daily living; ADL)や生活の質(quality of life; QOL)といった社会生活を維持できることも治療選択の一義とされている1.そのため,今後の周術期の呼吸リハビリテーションは,術後の合併症予防に加え,ADLやQOLを維持・向上するための取り組みが重要になると推察される.

これまでに,肺癌に対して手術を受けた患者の1年後の健康関連QOL(health related quality of life; HRQOL)には,術前のHRQOLが影響すると報告されている2.このことから,術前の呼吸リハビリテーションにおいて術前HRQOLを高める取り組みは,術後のQOL維持・向上に有益であると考えられる.これまでの報告では,HRQOLと身体活動量との関連は報告されているが3,身体活動量に身体能力を合わせて検討した報告はない.

近年,身体機能の評価方法として,身体能力(physical capacity; PC)と身体活動(physical activity; PA)とは別々の身体機能領域という概念的枠組みが示され(PC-PA quadrant concept; PC-PA quadrants)4,慢性閉塞性肺疾患患者をはじめとして,多岐にわたる評価に応用され始めている5,6.このPC-PA quadrantsで頻用されるPCの指標である6分間歩行距離(six-minute walk distance; 6MWD)とPAの指標である歩数は,肺癌患者の周術期の評価にも頻用されているが7,8,9,肺癌手術前の身体機能をPC-PAの両面から総合的に評価した報告はなく,PC-PA quadrantsの分布は不明である.PC-PA quadrantsにより肺癌患者の術前身体機能を分類し,術前身体機能と周術期のHRQOLの関連を明らかにすることは,HRQOL向上に必要な身体機能への術前呼吸リハビリテーションプログラム立案の一助になると考えた.

本研究では,PC-PA quadrantsを肺癌周術期に応用し,PC-PA quadrantsによる肺癌周術期の患者の術前身体機能の分布を明らかにし,術前身体機能と周術期HRQOLの関連を明らかにすることを目的とした.

対象と方法

1. 研究の概要

本研究は,肺癌周術期患者の術前身体機能をPC-PA quadrantsで分類し,術前身体機能と周術期のHRQOLとの関連を調査した横断研究である.

2. 倫理的配慮

本研究は,茨城県立中央病院の倫理委員会の承認を得て実施した(承認番号1122).対象者には,本研究の目的・方法・内容を十分に説明し,同意を得て実施した.また,研究の実施にあたっては,ヘルシンキ宣言に基づき対象者の個人情報の取り扱いについて個人情報保護法を遵守した.

3. 対象

対象は,2021年9月から2023年1月の間に当院呼吸器外科において原発性肺癌の診断で肺切除術を受け,周術期に理学療法を実施した患者とした.研究に同意が得られ,術前に活動量計を装着できた147名を対象とした.除外基準として,身体活動量の測定に影響を及ぼす整形外科・中枢神経疾患を合併しているもの,活動量計の装着時間が600分/日未満のもの,HRQOLのアンケートに回答困難なものは除外した.

4. 方法

評価項目は,患者背景として年齢・性別・体格指数(body mass index; BMI)・原疾患進行度(Clinical stage; cStage)・パフォーマンス・ステータス(performance status; PS)・フレイルの評価(日本語版CHS基準;J-CHS)・修正MRC息切れスケール(modified Medical Research Council dyspnea scale; mMRC),呼吸機能の指標として%肺活量(%vital capacity; %VC)・1秒量(forced expiratory volume in one second; FEV1)・1秒率(forced expiratory volume % in one second; FEV1/FVC)・%1秒量(%FEV1),手術関連項目として術式(開胸術・胸腔鏡下手術(Video-assisted thoracic surgery: VATS))・切除領域(葉切除・区域切除・部分切除)・手術時間・術後合併症の発生数・術後在院日数をカルテより調査した.

6MWDは,術前の初回理学療法介入時に評価した.6分間歩行試験は,米国胸部学会と欧州呼吸器学会のガイドラインに従って実施した10.Troostersらの 6MWD の予測式11を用いて,6MWD予測値を計算し,術前6MWDの予測6MWDに対する到達率を計算し,%6MWD予測値(%6MWDpred)と定義し,PCの指標とした.

PAは歩数を指標とし,測定には活動量計Active style Pro(オムロン,HJA-750C)を使用した.本機器は3軸加速度センサーにより加速度を検出し,熱量測定法による実測値と高い相関を示すことが確認されている12.活動量計はオムロン社の示す使用方法に従い装着部位は腰部とし,入浴時を除いて起床時から就寝時まで常に装着するように依頼した.活動量計は手術が決定した主治医診察日より装着を開始し,外来での初回術前理学療法介入時までの期間で装着してもらった.活動量計は歩数を表示できる設定とした.活動量計のデータは先行研究の方法に準じて,1日600分以上装着した連続3日間の平均値を算出した13.身体活動量に関する直接的な指導は行わなかった.

PCは%6MWDpredの100%未満を低身体能力,100%以上を高身体能力と定義した.PAは歩数5,000歩/日未満を低身体活動,5,000歩/日以上を高身体活動と定義した.術前PCとPAを元に4群に分類した:(1)低PC,低PA(Can’t do, don’t do quadrant),(2)高PC,低PA(Can do, don’t do quadrant),(3)低PC,高PA(Can’t do, do do quadrant),(4)高PC,高PA(Can do, do do quadrant).

HRQOLの評価には,日本語版 EuroQol-5Dimention5Level(EQ-5D-5L)を使用した.EuroQol 5 dimensionsは包括的尺度で QOL を評価するための質問票であり,EQ-5D-5L index valueとEuroQol VAS(EuroQol visual analogue scale; EQ VAS)からなる.EQ-5D-5L index valueは「移動の程度」,「身の回りの管理」,「ふだんの活動」,「痛み/不快感」,「不安/ふさぎ込み」の5 項目を「問題なし」,「少し問題がある」,「中程度の問題がある」,「かなり問題がある」,「できない」の 5 段階で評価する.選択された3,125通りからEQ-5D-5L index valueを算出し,-0.025~1.0 の間で点数が高いほど HRQOL が高いと判断する.EQ VASは,垂直方向の線分で想像できる最も良い健康状態を100 とし,最も悪い健康状態を 0 としたときの健康状態を評価表上のものさしに記載してもらった.EQ-5D-5Lの質問紙は,術前は初回術前理学療法介入時に,退院時は退院日に,退院1か月後は退院1か月後の時期に郵送にて回収した.

5. 統計解析

PCとPAの相関の検討にはSpearmanの順位相関係数を用いた.PC-PA quadrantsの4群間の背景因子,呼吸機能,手術関連項目,身体機能,HRQOLの比較は,ポストホック分析(Bonferroni補正)を含むKruskal-Wallis検定,Friedman検定,またはカイ二乗検定を行った.

統計には,SPSS(version 27, IBM, Armonk, NY, USA)を使用し,有意水準はp<0.05とした.

結果

1. 対象者の背景

対象となった147名のうち,脳梗塞の既往があった1名と活動量計の装着時間が規定に満たなかった45名を除外した101名を解析対象とした.対象者は非小細胞肺癌で,術前化学療法を実施した患者はいなかった.対象者の背景因子を表1に示した.対象者の背景因子では,年齢とJ-CHSで有意差を認めたが,その他の要因では各群で有意差はみられなかった.患者はcStage I(86.1%)が中心で,PSは1以下と全例が日常生活動作を自立して行っていた.年齢は,低PC,高PA群が65.2歳と身体活動の低い2群(低PC,低PA群と高PC,低PA群)よりも有意に低値となった.J-CHSは低PC,低PA群で身体活動の高い2群(低PC,高PA群と高PC,高PA群)よりもフレイルが有意に多くなった.呼吸機能は%VC,FEV1で有意差がみられたものの,調整済み有意確率では群間で有意差はみられなかった.手術関連項目でも4群間での有意差はみられなかった.

表1 患者背景

Total Sample
n=101
低PC,低PA
n=38(37.6%)
高PC,低PA
n=9(8.9%)
低PC,高PA
n=31(30.7%)
高PC,高PA
n=23(22.8%)
p-value
AverageSDAverageSDAverageSDAverageSDAverageSD
Age(years)70.59.672.78.678.66.265.211.0*71.06.60.00
Male/Female52/4918/206/314/1714/90.49
BMI(kg/m223.03.723.04.823.42.922.93.422.82.30.82
cStage UICC8(n)
I/II/III87/10/435/2/18/1/023/5/321/2/00.34
PS 0/1(n)88/1329/98/129/222/10.09
J-CHS(0/1-5)(n)67/3416/22†‡7/226/518/50.00
mMRC(0/1/2/3/4)(n)75/21/4/1/022/11/4/1/08/1/0/0/026/5/0/0/019/4/0/0/00.18
%VC(%)101.013.696.214.299.39.9104.212.8105.313.10.04
FEV1(L)2.10.61.90.52.00.62.30.62.20.40.03
FEV1/FVC(%)71.511.069.714.171.310.071.710.274.05.80.91
%FEV1(%)101.6104.687.724.490.216.792.917.996.712.60.80
6MWD(m)475.3110.2390.9125.5†‡508.353.8512.661.8551.341.10.00
%6MWDpred(%)89.918.775.419.4*†‡108.58.490.19.4*106.45.10.00
歩数(歩/日)5,925.43,357.33,041.71,292.4†‡3,495.31,189.9†‡8,185.32,091.0*8,594.73,244.0*0.00
術式
開胸/胸腔鏡(n)17/847/311/85/264/190.96
切除領域
葉/区域/部分(n)62/13/2620/4/144/2/325/3/313/4/60.15
手術時間(分)181.967.3162.965.4162.272.0204.163.7191.066.40.24
術後合併症(n)210100.81
術後在院日数(日)5.02.05.02.06.04.25.11.54.60.90.64

Average:平均値,SD:標準偏差,Age:年齢,Male/Female:男/女,BMI: body mass index,cStageUICC8:原疾患進行度clinical stage分類,PS: performance status,J-CHS:日本語版CHS基準,mMRC:修正MRC息切れスケール,%VC:%肺活量,FEV1:1秒量,FEV1/FVC:1秒率,%FEV1:%1秒量,6MWD:6分間歩行距離,%6MWDpred(6分間歩行距離/6分間歩行距離予測値×100)

*:p<0.05 versus“高PC,低PA”, :p<0.05 versus“低PC,高PA”, :p<0.05 versus“高PC,高PA”

・%VC,FEV1は調整済み有意確率では群間で有意差なし

低PC,低PA:Can’t do, don’t do,高PC,低PA:Can do, don’t do,低PC,高PA:Can’t do, do do,高PC,高PA:Can do, do do

PCとした%6MWDpredは89.9±18.7%,PAとした歩数は5,925.4±3,357.3歩/日であった.PCは32名(31.7%)が基準値とした%6MWDpred100%以上となり,PAは54名(53.5%)が基準値とした歩数5,000歩/日以上となった.

2. PC-PA quadrantsによる患者分布と相関関係

患者の分布は以下の通りであった:低PC,低PA群(Can’t do, don’t do)38名(37.6%),高PC,低PA群(Can do, don’t do)9名(8.9%),低PC,高PA群(Can’t do,do do)31名(30.7%),高PC,高PA群(Can do, do do)23名(22.8%)(図1).

図1 PC-PA quadrantsによる患者分布と相関関係

PA Step count(steps/day):身体活動量 歩数(歩/日) PC %6MWDpred:身体能力 %6分間歩行距離予測値

相関解析の結果,PC-PA間に正の相関が認められた(r=0.411; p=0.00).

3. PC-PA quadrantsにおけるHRQOLの比較

EQ-5D-5L index valueは,術前において低PC,低PA群が,身体活動の高い2群(低PC,高PA群と高PC,高PA群)に比べ有意に低値となった(p=0.00).

EQ VASでも術前は低PC,低PA群が,身体活動の高い2群(低PC,高PA群と高PC,高PA群)より有意に低値となった(p=0.01).退院1か月後は低PC,低PA群が,高PC,高PA群より有意に低値となった(p=0.03)(表2).

表2 PC-PA quadrantsにおけるHRQOLの比較

Total Sample
n=101
低PC,低PA:
n=38(37.6%)
高PC,低PA:
n=9(8.9%)
低PC,高PA:
n=31(30.7%)
高PC,高PA:
n=23(22.8%)
p-value
EQ-5D-5L
index value
AverageSDAverageSDAverageSDAverageSDAverageSD
開始時0.910.120.860.15†‡0.910.110.960.070.950.090.00
退院時0.850.150.850.130.930.100.800.180.890.130.07
1か月後0.850.110.820.130.850.110.850.100.880.100.23
EQ VAS
開始時79.119.070.321.7†‡77.223.385.214.686.310.60.01
退院時72.118.970.616.873.317.570.121.376.719.90.52
1か月後75.616.368.919.975.215.678.511.982.710.70.03

Average:平均値,SD:標準偏差

*:p<0.05 versus“高PC,低PA”, :p<0.05 versus“低PC,高PA”, :p<0.05 versus“高PC,高PA”

低PC,低PA:Can’t do, don’t do,高PC,低PA:Can do,don’t do,低PC,高PA:Can’t do, do do,高PC,高PA:Can do, do do

群内比較では,身体活動の低い2群(低PC,低PA群,高PC,低PA群)は,EQ-5D-5L index value,EQ VASのいずれも術前,退院時,退院1か月後の間に有意な差はなかった.低PC,高PA群は,EQ-5D-5L index valueで術前と退院時,術前と退院1か月後,EQ VASで術前と退院時の間に有意な差が見られた.高PC,高PA群はEQ-5D-5L index valueで術前と退院1か月後の間に有意な差が見られた.

考察

この研究は,PC-PA quadrantsを肺癌患者の術前身体機能評価に応用し,術前身体機能と周術期のHRQOLの関連を調査した最初の報告である.

患者背景として,年齢は平均70.5歳と手術適応患者の高齢化を反映した対象となった.本研究では,年齢を除き,患者背景,呼吸機能,手術関連項目とも4群間で大きな差を認めず,PC-PA quadrantsを用いた肺癌周術期のHRQOLを比較する際に,これらの要因の影響は少ないものと推察された.J-CHSで低PC,低PA群が身体活動の高い2群(低PC,高PA群と高PC,高PA群)よりもフレイルが多くなったことは,低PC,低PA群はフレイルのリスクが高いことを示唆する結果となったと考える.フレイルはHRQOL低下に関連しているとされる14.歩数の増加は身体的フレイルの予防に有効であり,社会的フレイルおよび認知的フレイルは身体活動指標と関連しないが,身体的,社会的,認知的フレイルのうち 2タイプのフレイルの重複は中高強度の歩行と有意に関連していたとされている15.これらのことから,低PC,低PA群へはHRQOL向上だけではなく,総合的なフレイルの改善の視点からも術前リハビリテーションの必要性が高いと考えられた.

本研究の主目的であるHRQOLに関しては,肺癌患者は術前よりHRQOLが低下していることが報告されており2,3,本研究の結果はEQ-5D-5L index value,EQ VASとも先行研究と同程度となった.HRQOLは術前において,EQ-5D-5L index value,EQ VAS とも低PC,低PA群が身体活動の高い2群(低PC,高PA群と高PC,高PA群)よりも低くなった.これはHRQOLが高い客観的PAレベルと関連する16という先行研究の結果を支持するものになったと考える.加えて,PAにはPCが強く関与するとされており9,本研究の結果から,PAだけでなくPCも高いほうがHRQOLに有益であることを示唆する結果になったと推察された.また,退院時HRQOLには差がなかったものの,退院1か月後のEQ VASは低PC,低PA群よりも高PC,高PA群が有意に高くなっており,周術期HRQOLの改善の視点でみても,術前のPC,PAともに高いことが有益である可能性が示唆された.

今回のHRQOLの結果の背景となったPC,PAに着目すると,PCとPAの両方が基準値を超えていたのはわずか23名(22.8%)と,多くの肺癌手術予定患者の身体機能が低下していることが明らかとなった.本研究では,PCは%6MWDpredの100%を基準値として設定した.肺癌手術を予定される患者の多くは,日常生活動作の制限がほとんどないことを示すPS0または1であることから,健常人と同等の設定は,患者の手術適性を評価するためにも適切であったと判断した.これまでの肺癌治療では6MWD 400 mを術後合併症発生のカットオフ値としてきた8,9.しかしながら,肺癌手術を受ける患者の高齢化を考慮すると,年齢や性別の影響を考慮する必要があり,本研究でPCを6MWDの予測式に対しての割合で評価したことは有益であったと考える.健常人と比較すると,予測値の100%に到達したのは31.7%と,肺癌手術を予定される患者の多くでPCが低下していることが明らかとなった.特に,本研究では低PC,低PA群がこれまでの先行研究で示された術後合併症のカットオフ値とされる6MWD 400 mを下回っており,術後合併症予防の観点から,この群のPCに対する介入の必要性が高いと考えられた.また,低PC,高PA群は年齢が有意に若く,年齢がPC100%未満と分類された要因の一つとして考えられた.この群は,6MWD 400 mを超えるため,これまでの術後合併症のリスクの層別化に抵触しない.一方で,年齢と比してPCが低下しているため,6MWD 400 mを超えていても,年齢が若い場合にはPCへの介入を検討する必要があると考えられた.PAは,5,000歩を基準値として設定したが,この閾値は過去の研究で一貫して使用されており4,5,6,活動レベルを評価するための妥当な基準であると判断した.歩数の平均値は先行研究17と同程度の5,925歩となった一方で,歩数が基準値を上回ったのは53.5%と約半数であり,肺癌患者の術前歩数としては低PC,低PA群と高PC,低PA群に分類される3,000歩程度の低活動群と低PC,高PA群と高PC,高PA群に分類される8,000歩程度の高活動群に2極化することが明らかとなった.このことから,手術を予定する肺癌患者の多くに,術前リハビリテーションで歩数を中心とした身体活動量向上への介入が必要であると考えられた.がん診断前後のPAは,がん特異的および全死因死亡率の有意な減少とも関連していることから,がん後のPAを促進することの重要性が示唆されている17,18,19.本研究の結果から,PC-PAは相関がみられており,身体機能向上へ向けた術前呼吸リハビリテーションはPC,PA両面への相乗効果が期待できると考えられる.

研究制限として,単一施設での検証であること,術式や切除範囲による影響を検証する必要があることがあげられる.また,本研究では退院1か月後までのHRQOLに着目したが,今後は長期的なHRQOL変化を検証する必要がある.

本研究の結果から,肺癌周術期へのPC-PA quadrantsの応用は,肺癌患者の周術期のHRQOL改善へ必要な術前呼吸リハビリテーションプログラムを明確にするのに有益な方法となる可能性が示された.

備考

本論文の要旨は,第33回日本呼吸ケア・リハビリテーション学会学術集会(2023年12月,宮城)で発表し,座長推薦を受けた.

著者のCOI(conflicts of interest)開示

本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.

文献
 
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