日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌
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ISSN-L : 1881-7319
原著
当院における呼吸リハビリテーションプロトコル導入
―標準化と対象者層別化の試み―
新貝 和也 池内 智之松尾 聡森 駿一朗森 大地井元 淳一木 克之自見 勇郎河野 哲也加藤 香織津田 徹
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2025 年 34 巻 3 号 p. 233-240

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要旨

呼吸リハビリテーション(PR)は慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者において不可欠な治療介入である.しかしながら,その介入内容にはスタッフの経験によって差を認める.また,本邦のCOPD患者は欧米と比較して高齢・虚弱であることが多く,国際的なエビデンスベースのPRよりも個人の生活に焦点を当てたPRを優先すべき症例も少なくない.当院では,これらの問題点に対して,PRの標準化および対象患者の層別化を目的としたPRプロトコルを作成・導入した.本研究は,当該取り組みについて,その導入前後のPRの効果を比較することを目的とした.PRプロトコル導入前(CR群)および導入後(PC群)においてPR前後の各臨床指標の変化を比較した.その結果,PC群はCR群と比較して健康関連QOLの改善が大きかった.PR評価・介入の標準化および患者層別化を目的としたPRプロトコル導入は,COPD患者の健康関連QOL改善効果を高める可能性が示された.

緒言

呼吸リハビリテーション(pulmonary rehabilitation; PR)は,慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease; COPD)患者における高いエビデンスが示されており,同患者の疾患管理における標準的治療に位置付けられている1,2.国際ガイドラインにおいてもPRは強く推奨されており3,世界中で広く実施されている.安定期のPRは運動療法を中心としたプログラムで構成され,運動耐容能の向上,呼吸困難の軽減,健康関連QOL(health related quality of life; HRQOL)の向上,身体活動性の維持・向上を主たる目的としている4.PRにおいては運動療法が必須の構成要素であり,呼吸リハビリテーションの効果を検証したCochran review5においても,全身持久力トレーニングの実施がPRを十分に遂行できた基準の一つとされている.

前述のように,PRの中核は運動療法であり,いかに「患者のやる気を引き出し,運動を促すか」がセラピストの重要な任務となる.しかしながら,不快な感覚である呼吸困難を伴う運動療法を患者さんに促すことは大変繊細な作業であり,十分な能力が求められる.通常,このような能力は臨床経験と共に培われていくが,昨今のセラピストの若年化も相まって6,上手く患者のアドヒアランスを引き出すことが出来ず,十分な検討無しに運動強度や量を軽減することで対応している場面が散見される.運動療法はPRの効果に直結しており,当院においても,担当したスタッフの経験による効果の違いが懸念されていた.

一方で,運動療法の適応が難しい,あるいは運動療法の目的と患者のニーズが合致していない症例も少なくない.本邦のCOPD患者は欧米と比較して高齢であり,加えて低栄養,虚弱で合併症を生じやすいことが報告されている7.虚弱症例では,運動療法を中心としたPRの適応が難しく,国際的なエビデンスベースに呼吸困難の軽減や運動耐容能の向上を目指してPRを進めるよりも,より個人の生活に焦点を当てた介入を実施するべきだと思われる.GOLD(global initiative for chronic obstructive lung disease)3においても,高齢等により症状の強い症例や増悪リスクが高い症例は,個々の特徴や合併症に合わせてゴール設定をしてPRを実施することを推奨している.

当院では,上記問題点への対応として2022年6月よりPRプロトコルを作成・導入した.主な目的としては1)評価・介入の標準化によるスタッフ間格差の是正,2)PRプロトコルを適応する症例とよりADL(activities of daily living)やHRQOLに焦点を当てて対応する症例を層別化し,個々の症例に適したリハビリテーションを提供する,の2点である.本研究は,当該取り組みについて,その導入前後のPRの効果について検討することを目的とした.

対象と方法

1. 研究デザイン

後ろ向き観察研究(before-after design).

2. 対象

PRプロトコル導入前の2022年5月から2023年5月(conventional rehabilitation; CR群),および導入後の2023年6月から2024年6月(rehabilitation protocol; PC群)の間に霧ヶ丘つだ病院にPR目的で入院し,PRを実施した安定期のCOPD患者を対象とした.除外基準は過去4週間以内の急性増悪発症,データ欠損,PR中のドロップアウトとした.CR群は,ガイドライン2,4に準じた一般的なPRを実施したものの,詳細な規定は設けず,個々のスタッフの裁量によりPRを実施した.PC群において,PRプロトコル適応基準を満たす者にはPRプロトコルで定めた標準化されたPRを実施し,適応基準を満たさない者にはADL練習を中心としたPRを実施する形で層別化を図った.本研究は倫理的に十分配慮して実施し,九州栄養福祉大学・東筑紫短期大学倫理委員会の承認を受けた(受付番号:2425号).

3. 呼吸リハビリテーションプロトコル適応基準

PRプロトコル適応基準は,1)ADLが保たれている(セルフケアおよび歩行の自立),2)著しい認知機能障害が無い,3)運動療法適応が困難な合併症が無い,4)PRに対してモチベーションを有する,あるいは引き出すことが可能と想定される,5)PRの期間が確保できる,ことを原則とし,カンファレンスにて適応可否を合議,決定した.適応基準設定の根拠は,1)は運動療法よりもADL練習等を優先すべき症例を除外するため,2)は評価の妥当性を担保するため,3,4)は積極的な運動療法を実施するため,5)は十分な効果を期待するために一定の期間を必要とするためである.

4. 呼吸リハビリテーションプロトコル

PRプロトコルは,原則6週間の運動療法を中心とした包括的プログラムとし,前後に多面的な評価を実施した.その後は維持プログラムあるいは経過観察に移行し,症例の病態や身体機能に合わせて6週間から1年毎に再評価フォローを実施した(図1).PRプロトコル適応症例のプログラム完遂の条件として,全身持久力トレーニングの実施5,計20セッション以上かつ4週間以上の実施5,8,9,プログラム前後の評価の実施,プログラム期間中の増悪が無い(軽微・短期間の増悪で身体・精神的影響が少ないと臨床的に判断した場合は除く)ことを設定し,1つでも該当する場合にはドロップアウトとした.プロトコル導入症例は,その情報を多職種で共有し,声かけや対応等,職種間での整合性がとれるように配慮した.

図1 呼吸リハビリテーションプロトコルのタイムコース

介入内容は本邦のステートメント4に準じ,運動療法(全身持久力トレーニング,レジスタンストレーニング,吸気筋トレーニング),コンディショニング,セルフマネジメント教育とした.まず,事前オリエンテーションとして,呼吸リハビリテーションの目的,効果,内容,予想される不利益(運動中の呼吸困難や筋肉痛等)に加え,評価を含めた全体のタイムコースを詳細に説明した.オリエンテーションについては,十分な経験(PR専門の理学療法士として5年以上の経験)を有する理学療法士(シニアスタッフ)によるサポート下で行う形とした.全身持久力トレーニングは自転車エルゴメータ運動および歩行運動をそれぞれ15分ずつとした10.運動強度は自転車エルゴメータでの漸増運動負荷試験で得られた最大仕事量,および漸増シャトルウォーク試験の最高歩行速度の60%強度から開始し,80%を目標として漸増する形とした.レジスタンストレーニングは1回反復最大重量(1 repetition maximum; 1RM)の80%強度にて,上下肢・体幹のマシーントレーニングを中心に実施し,少なくとも1週間毎に 1RMの再測定,強度の再設定を行なった.運動療法中の経皮的動脈血酸素飽和度(saturation of percutaneous oxygen; SpO2)は88%以上を目安とし,個々の症例に合わせて,適宜酸素併用(あるいは流量増量)やインターバルトレーニングを導入した.吸気筋トレーニングは吸気筋力の低下を伴う症例に対して,POWERbreathe PLUS(POWERbreathe International社)を用いて最大吸気筋力の30%強度にて30回,あるいは15分を1日2回実施した11,12.また,セルフマネジメント教育として,週2回の多職種による集団教育プログラム(疾患管理,酸素・人工呼吸療法,栄養療法,薬物療法,リハビリテーション,医療・介護保険制度等)に加え,症例に合わせた個別での運動指導,各種教育を実施した.運動指導はPR以外の時間における自重やセラバンド,重錘を用いたレジスタンストレーニングおよび歩行運動の指導に加え,歩数計と自己記入式の活動日誌を用いた身体活動性指導を行った.身体活動性指導はベースラインにおける歩数の10%増加した値を目標値とし13,活動日誌の結果を用いたフィードバックと目標値の再設定を適宜実施した.

PRプロトコルから逸脱した場合(十分な運動療法が実施困難,アドヒアランス不良等)には,カンファレンスに症例を提示することを義務付け,対応策および今後の方針をディスカッションして決定する形とした.6週間のPR終了時には,評価結果に基づいた詳細なフィードバックを対象者に実施し,加えて全症例について科内での症例報告を義務付けた.

5. 測定項目

ベースラインにおける基本情報,およびPR実施前後における以下の項目について,診療録より収集した.

5-1.肺機能検査

肺機能検査は,努力性肺活量(forced vital capacity; FVC),1秒量(forced expiratory volume in one second; FEV1),1秒率(forced expiratory volume % in one second; FEV1/FVC)を収集した.

5-2.呼吸困難,ADL,健康関連QOLおよび不安・抑うつ

日常生活における呼吸困難を修正MRC息切れスケール(modified Medical Research Council dyspnea scale; mMRC)14にて評価した.ADLは長崎大学呼吸日常生活活動息切れスケール(Nagasaki University respiratory ADL questionnaire; NRADL)にて評価した.HRQOLはSGRQ(St. George’s respiratory questionnaire)15,不安・抑うつはHADS(hospital anxiety and depression scale)16,17を用いて評価した.

5-3.運動耐容能,下肢筋力,呼吸筋力および身体活動性

運動耐容能評価には6分間歩行試験(six-minute walk test; 6MWT)を用い,米国胸部学会/欧州呼吸器学会(American Thoracic Society/European Respiratory Society; ATS/ERS)のテクニカルスタンダード18に準じて実施した.6MWT中はパルスオキシメータ(リストックス2,スター・プロダクト株式会社)を使用してSpO2を連続的にモニターし,6分間歩行距離(six-minute walk distance; 6MWD)および最低SpO2を測定した.下肢筋力はハンドヘルドダイナモメーター(μTas F-1,アニマ株式会社)を用いて膝関節伸展筋力を3回測定し,利き足の最大値を採用した.呼吸筋力は呼吸筋力測定器(IOP-01,株式会社木播計器製作所)を用いて最大吸気圧(maximal inspiratory pressure; MIP)および最大呼気圧(maximal expiratory pressure; MEP)を測定した.測定はERSのステートメント19に従って実施し,3回の測定値が10%以内となる場合のその最大値(絶対値)を使用した.身体活動性は加速度計(Active style Pro HJA750-C,オムロン株式会社)を用いて,歩数(歩/日)の入院中7日間の平均値を用いた.なお,1日の装着時間が480分未満のデータは除外した20

6. 統計解析

連続変数は平均値±標準偏差,名義変数は件数(%)で示した.CR群,PC群におけるベースライン特性を対応のないt検定,Mann-Whitney U検定およびχ二乗検定で比較した.また,CR群およびPC群,それぞれのPR前後における各指標の変化を対応のあるt検定およびWilcoxon符号付き順位検定にて比較し,それぞれの群におけるPR前後の変化を確認した.さらに,CR群,PC群におけるPR前後の各指標の変化量について,対応のないt検定およびMann-Whitney U検定にて比較した.統計解析はSPSS statistics version 27(IBM社)を使用し,P<0.05を有意とした.

結果

CR群におけるPR対象者は54例であり,7例がドロップアウト(増悪/肺炎1例,拒否1例,短期退院5例),13例がデータ欠損にて除外され,34例が解析対象となった(図2A).なお,CR群においてはPR完遂およびドロップアウトの明確な基準を設けていなかったため,13例のデータ欠損例については,ドロップアウトにてPR終了時評価が非実施であった症例を含んでいる.PC群のPR対象者は42例であり,15例がPRプロトコル非適応と判断され,5例がドロップアウト(増悪/肺炎3例,拒否1例,死亡1例),1例がデータ欠損にて除外され,21例が解析対象となった(図2B).PRプロトコル非適応となった理由は合併症(脳血管疾患1例,運動器疾患3例,呼吸器疾患1例,循環器疾患1例)が最も多く,次いで低ADLが多かった.PR非適応となった症例(15例)は適応症例(21例)と比較して有意に高齢で男性の割合が低かった(平均年齢82.5±5 vs. 78.2±57歳,P=0.016;9例(60%)vs. 19例(90%),P=0.039)が,その他の対象者背景に有意な差は認めなかった.

図2 取り込みフローチャート

A:CR群(プロトコル導入前),B:PC群(プロトコル導入後)

*ドロップアウトによる評価欠損例を含む

CR, conventional rehabilitation; PC, rehabilitation protocol

ベースラインの対象者特性はCR群,PC群で有意な差を認めなかった(表1).PC群は,レジスタンストレーニング,全身持久力トレーニングともに全例が目標である80%強度に到達していた(CR群はデータ無し).CR群,PC群ともに,mMRC,NRADL,SGRQ impact,SGRQ total,6MWDおよび下肢筋力の有意な改善を認めたが,SGRQ symptom,SGRQ activity,HADS不安はPC群のみ有意な改善を認めた(表2).MIP,MEP,歩数はCR群では欠損が多く解析不能であったが,PC群では有意な改善を示した(表2).PR前後のSGRQ symptom,SGRQ activity,SGRQ totalの変化については,PC群がCR群よりも有意に大きな改善を示した(P=0.037, P=0.029, P=0.020)(表3).

表1 対象者特性

CR群(34例)PC群(21例)P値
年齢,歳75.4±6.178.2±5.70.105
性別,男性28(82)19(90)0.340
BMI, kg/m220.9±4.020.7±4.10.744
FVC, L 1.95±0.74 1.88±0.810.504
%FVC, % 61.9±20.9 60.1±21.80.617
FEV1, L 1.0±0.60 1.03±0.660.795
%FEV1, % 41.1±22.4 43.0±24.60.904
FEV1/FVC, % 51.9±20.9 53.5±19.00.767
mMRC0/1/11/9/130/2/2/10/70.791
NRADL 50.7±19.6 53.6±15.10.621
SGRQ 57.5±13.2 52.2±19.90.556
HADS不安 6.6±3.2 6.6±5.10.617
HADS抑うつ 9.1±4.3 7.6±4.00.269
6MWD, m263±93260±780.762
 最低SpO2, %86.0±6.185.2±8.50.965
下肢筋力,kgf23.7±8.422.5±6.50.267
MIP, cmH2O* 52.8±19.8
MEP, cmH2O* 85.0±33.1
歩数,歩/日* 2,387±1,763
LTOT,例21(61.8)14(66.7)0.471

平均値±標準偏差,件数(%)

*  CR群はデータ欠損が多く解析不可

BMI, body mass index; CR, conventional rehabilitation; FEV1, forced expiratory volume in one second; FVC, forced vital capacity; HADS, hospital anxiety and depression scale; LTOT, long term oxygen therapy; mMRC, modified Medical Research Council dyspnea scale; MIP, maximal inspiratory pressure; MEP, maximal expiratory pressure; SpO2, saturation of percutaneous oxygen; NRADL, Nagasaki University respiratory ADL questionnaire; PC, rehabilitation protocol; SGRQ, St. George’s respiratory questionnaire; 6MWD, six-minute walk distance

表2 各群における呼吸リハビリテーション前後の各指標の変化

CR群(34例)PC群(21例)
リハ前リハ後P値リハ前リハ後P値
BMI, kg/m221.4±3.721.4±4.1 0.91320.7±4.120.6±3.8 0.752
mMRC 2.9±0.9 2.2±1.0<0.001 3.1±0.9 2.3±1.1 0.002
NRADL 50.9±20.0 59.0±15.0 0.003 53.6±15.1 65.3±19.3<0.001
SGRQ symptom 53.8±19.3 51.3±22.5 0.509 52.5±21.4 39.7±19.1<0.001
SGRQ activity 80.5±11.3 78.4±11.7 0.376 69.6±24.9 59.2±27.4<0.001
SGRQ impact 46.8±20.4 38.7±15.9<0.001 42.2±22.0 30.2±16.8<0.001
SGRQ total 58.2±13.9 52.3±13.4<0.001 52.2±19.9 40.5±17.2<0.001
HADS 不安 6.5±3.3 5.6±4.0 0.200 6.6±5.1 4.8±3.3 0.035
HADS 抑うつ 9.3±4.5 7.8±4.3 0.028 7.6±4.0 6.5±3.8 0.082
6MWD, m263±93303±89<0.001260±78299±72<0.001
下肢筋力,kgf23.4±8.526.1±9.3 0.00721.9±6.123.3±5.4 0.024
MIP, cmH2O* 52.8±19.8 61.7±23.3 0.001
MEP, cmH2O* 85.0±33.1 92.6±39.7 0.069
歩数,歩/日* 2,387±1,763 3,248±1,911 0.023

平均値±標準偏差

*  CR群はデータ欠損が多く解析不可

BMI, body mass index; CR, Conventional rehabilitation; HADS, hospital anxiety and depression scale; mMRC, modified Medical Research Council dyspnea scale; MIP, maximal inspiratory pressure; MEP, maximal expiratory pressure; NRADL, Nagasaki University respiratory ADL questionnaire; PC, rehabilitation protocol; SGRQ, St. George’s respiratory questionnaire; 6MWD, six-minute walk distance

表3 呼吸リハビリテーション前後の各指標の変化量の比較

CR群PC群P値
BMI, kg/m2-0.04±1.88 0.05±0.690.991
mMRC-0.77±0.99 -0.71±0.900.822
NRADL 8.1±13.9 11.7±9.20.305
SGRQ symptom -2.5±17.5 -12.8±14.40.037
SGRQ activity -2.2±11.5 -10.5±12.70.029
SGRQ impact -8.0±10.5 -12.0±11.80.248
SGRQ total-5.9±7.7-11.7±8.30.020
HADS 不安-0.9±3.4 -1.8±3.70.403
HADS 抑うつ-1.5±3.1 -1.1±2.70.649
6MWD, m 40.0±59.0 39.3±38.70.956
下肢筋力,kgf 2.7±5.1 1.4±2.50.291

平均値±標準偏差

BMI, body mass index; CR, Conventional rehabilitation; HADS, hospital anxiety and depression scale; mMRC, modified Medical Research Council dyspnea scale; NRADL, Nagasaki University respiratory ADL questionnaire; PC, rehabilitation protocol; SGRQ, St. George’s respiratory questionnaire; 6MWD, six-minute walk distance

考察

今回,PRの標準化および対象患者の層別化を目的としてPRプロトコルを導入し,その導入前後(CR群,PC群)におけるPRの効果を比較した.その結果,CR群,PC群ともに身体機能,呼吸困難,HRQOLに改善を認めたが,CR群と比較してPC群の方がHRQOL(SGRQ symptom, activity, total)の改善が大きい結果を示した.

PC導入による利点は主として,1)介入の標準化によるスタッフ間の介入差の是正,2)プロトコルから逸脱した場合にカンファレンスで議論することを義務化したことによる,患者状況の透明化,3)評価抜けの防止と患者へのフィードバックの徹底,4)6週間という集中的に実施する期間を設けたことによるスタッフ・患者双方のモチベーション向上,5)患者層別化による,より個々の患者の希望・目的に合致したPRの提供,6)集中的に介入する症例を明確にして多職種で共有し,より集学的で積極的なPRの提供を可能にしたことに起因すると考える.これらを踏まえ本研究の結果について下記に考察する.

一般的に呼吸リハビリテーションは呼吸困難,運動耐容能,HRQOLの改善に高いエビデンスを認める1,4.本研究においては呼吸困難(mMRC),運動耐容能(6MWD)にはCR群とPC群に差を認めなかったものの,両群ともに有意かつ最小臨床重要変化量(minimal clinically important difference; MCID)(mMRC: 0.521,6MWD: 30 m18)を超える改善を認めた.これはプロトコル導入以前より有効なレベルでPRが実施できていたことを示唆している.また,呼吸筋力および身体活動性はPC群で有意な改善を認めており(CR群はデータ無し),こちらに関しても有効な介入ができていたと考えられる.

SGRQ symptom, activity, totalはCR群と比較してPC群で有意に高い改善を示した.また,これらのSGRQの変化は,PC群のみMCID(4 units22)を超える改善を認めており,プロトコル導入の有効性を強調する結果となっている.高頻度や高強度の積極的なPRはその効果が高いことが報告されており23,24,PC群では標準化した積極的なPRを促進したことで,HRQOLの改善効果が大きかったのではないかと考えられる.実際,PC群においては,全対象者が最大の80%強度での運動強度に到達しており,十分な運動強度を担保できたことがHRQOLの改善に寄与した可能性が高い.加えて,患者の層別化を行うことで,より個々の目的に合致したPRを実施したこともHRQOL改善に繋がったと考えられる.

Jonesら15は, SGRQ activityの最も強い規定因子は呼吸困難であったと報告しているが,本研究ではmMRCの変化に群間差は認めず,その他の因子による影響と推察される.身体活動性は一般的なPRでは改善が難しく25,26,包括的PRに加えて身体活動促進のための個別アプローチが効果的であると報告されており27,PR以外の時間における運動指導および身体活動性指導をプロトコルに組み込んだことで,PC群での改善が大きかったと思われる.実際PC群の身体活動性(歩数)は831歩/日とMCID(600歩/日28)を超える改善を示しており,これらの介入が有効であったことを裏付けている.

Hajiroら29は,COPD患者のSGRQ symptomの規定因子として呼吸困難と不安が抽出されたことを報告している.HADS不安はCR群,PC群の変化に群間差は認めなかったものの,群内変化についてはPC群のみ有意な変化を認めていた.前述の様に呼吸困難の変化は両群で同程度であったことを考慮すると,PC群における不安の軽減がSGRQ symptomのより高い改善に寄与したのではないかと思われる.

一方で,SGRQ impactはCR群,PC群のPR前後の変化に違いは認めなかった.しかしながら,両群ともにMCIDを超えた有意な変化を認めており,これはPC導入前のPRにおいても,SGRQ impactへの十分な効果があったことを示唆している.当院は入院PRを積極的に導入しており,本研究も入院でのPRを実施した患者を対象としている.Molinierらによるsystematic review30では,入院PRは外来PRと比較してHRQOLの改善効果が高い傾向にあることを報告している.SGRQ impactは主として精神心理社会的要素を反映するとされているが31,手厚いPRに加えて,PR以外の様々な面においてメディカルスタッフによるサポートが施される入院PRは,PC導入に関わらず,SGRQ impactへ有効であったと思われる.また,呼吸困難は精神状態に次いでSGRQ impactに占めるウェイトが大きいことが報告されており15,両群共に呼吸困難が有意かつMCID(mMRC: 0.5 21)を超える改善を示している本研究では,十分な呼吸困難軽減がSGRQ impactの改善に寄与したものと考えられる.

本研究の最も重要な制限因子として,プロトコル導入後におけるプロトコル非適応症例のADLおよびHRQOLの評価が実施できていないことが挙げられる.ADLやHRQOLに焦点を当てた介入をしていくべき症例を洗い出すことがプロトコル導入の目的の1つであり,プロトコル非適応症例のADL,HRQOLの変化を比較することは,プロトコルの有用性を検証する上で極めて重要であり,今後の検討課題である.また,単施設後方視のbefore-after studyであり,データ欠損に加えて様々なバイアスが含まれている可能性がある.さらに,サンプルサイズが小さく,統計学的な検出力が十分でない可能性がある.加えて,入院患者のみを対象としているため,外来リハビリテーション患者では異なる反応を示す可能性がある.今後これらの制限因子を考慮した研究を行うことで,PRプロトコル導入の有用性がより明確に検証可能になると考える.

本研究は,評価・介入の標準化,患者層別化を目的としたPRプロトコルを作成・導入し,その効果を検証した初めての研究である.その結果, PRプロトコル導入は,COPD患者のPRにおいてHRQOLの改善効果を高める可能性が示された.今後は前向き研究にて,より長期的な経過や臨床アウトカムへの影響を検討することが必要と考える.

謝辞

本研究にご協力いただきました対象者の皆様,ならびに霧ヶ丘つだ病院スタッフの皆様に深謝申し上げます.

備考

本論文は,第34回日本呼吸ケア・リハビリテーション学会学術集会(2024年11月,愛知)で発表した.

著者のCOI(conflicts of interest)開示

津田 徹;講演料(ベーリンガーインゲルハイム,アストラゼネカ)

文献
 
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