日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌
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共同企画
アドバンス・ケア・プランニングと意思決定支援
森 雅紀
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2026 年 35 巻 3 号 p. 245-249

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要旨

非がん性呼吸器疾患では,疾患の進行予測や急性増悪の予測が難しく,患者の意思決定能力も急変することがあるため,アドバンス・ケア・プランニング(ACP)と多職種連携による柔軟な意思決定支援が重要視されてきた.本稿では,非がん性呼吸器疾患におけるACPと緩和ケアの現状,実臨床における課題と対応策,施設内でのACPの実践例,そして信頼関係に基づくコミュニケーションスキルについて概説し,今後求められる実装と展望をまとめる.

 

第34回日本呼吸ケア・リハビリテーション学会学術集会 共同企画7

非がん性呼吸器疾患を取り巻く状況とACP

慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease: COPD)や間質性肺疾患(interstitial lung disease: ILD)などの非がん性呼吸器疾患は,国際的にも主要な罹患・死亡要因であり,呼吸困難や咳嗽,倦怠感,不安といった重度の症状が慢性的に持続することが多い1).これらは患者の生活の質に重大な影響を与えるが,疾患の進行や急性増悪の時期は予測が難しく,治療への反応にも個人差が大きい.そのため,急性増悪時には患者の意思決定能力が低下している可能性があり,あらかじめ本人や家族と希望・価値観を話し合っておくことが重要となる.アドバンス・ケア・プランニング(ACP)は,こうした将来の意思決定の質を高めるためのプロセスとして注目されている.

ACPには様々な定義があるが,必要に応じて信頼関係のある医療・ケアチーム等の支援を受けながら,本人が現在の健康状態や今後の生き方,さらには今後受けたい医療・ケアについて考え(将来の心づもりをして),家族等と話し合うことをさす2).特に将来の心づもりについて言葉にすることが困難になりつつある人,言葉にすることを躊躇する人,話し合う家族等がいない人に対して,医療・ケアチーム等はその人に適した支援を行い,本人の価値観を最大限くみ取るための対話を重ねていく必要がある.本人が自分で意思決定することが困難になったときに,将来の心づもりについてこれまで本人が表明してきた内容にもとづいて,家族等と医療・ケアチーム等とが話し合いを行い,本人の価値観を尊重し,本人の意思を反映させた医療・ケアを実現することを目的とする.

厚労省は「人生の最終段階の医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」(2018年改訂)を発表し,ACPを推進している.また,2024年診療報酬改定では,人生の最終段階の意思決定支援が入院料算定の前提となり,全国の医療機関で指針の作成が行われた.日本を含むアジアでは,患者中心で家族にも配慮したアプローチが推奨されている3).

非がん性呼吸器疾患におけるACP

非がん性呼吸器疾患においては,その特性や現場の課題・ニーズに応じたACPの実装が重要になる.臨床現場からは,「予後が予測しづらい患者さんで,Bad newsを伝えた後の気持ちの支援や長期的な療養の支援が欲しい(スタッフがいない)」「いつ急性増悪が起こるか,急性増悪が起これば良くなるかどうかが不確実.いつ,どのように話をすればよいのか?」「認知症高齢者の肺炎にどこまで治療をするのがよいのか」といった声がしばしば聞かれる.

全国の呼吸器内科医を対象とした調査では,肺癌に比べてILDの患者において,より終末期の意思決定に困難感があることが示された4).終末期についての話し合いを行う時期に関しては,理想的には在宅酸素療法(home oxygen therapy: HOT)導入時や日常生活に介助が必要になった時と答えた医師が多かったが,現実的には呼吸状態が悪化し入院した時に行われることが圧倒的に多いことが示された.また,ILDにおける緩和ケアの障壁として,予後予測が困難であること,呼吸困難治療が未確立であること,心理社会的支援が欠如していること,患者・家族が予後不良であることの受容が難しいことなどがあげられている.

非がん性呼吸器疾患におけるACPの系統的レビューでは,ACPがほとんど行われていないこと,多くの医療者はACPの重要性を認識しつつも始めることにためらいがあることが報告されている5).ACPの阻害因子や促進因子も複数上げられている(図1).

図1 非がん性呼吸器疾患におけるACPの系統的レビュー(n=21)

COPD患者を対象としたスコーピングレビューでは,ACPの導入には,病状の移行点(transition points)を契機とした話し合いが有効であると提唱されている6).たとえば,COPD患者の入院反復,酸素療法の開始,セルフケアに介助が必要な時,意図しない体重減少などは,先々について考える患者の心の準備を確認する契機となりうる(図2).

図2 ACPのきっかけとなる「移行時点」~COPDのScoping Review(n=28)

非がん性呼吸器疾患における緩和ケア

国内では専門的緩和ケアは主にがん患者や心不全患者に対して提供されているが,諸外国では非がん性呼吸器疾患をはじめ非がん性疾患の患者も広く対象になっている.非がん性呼吸器疾患における緩和ケアの紹介基準の系統的レビューでは,ニーズに基づく基準(症状の重さ,意思決定支援の必要性,家族の負担感など)と,疾患に基づく基準(ICU入院,呼吸不全,予後不良など)の両面から紹介基準が検討されている(図3)7).

図3 非がん性呼吸器疾患における緩和ケアの紹介基準の系統的レビュー(n=62)

非がん性呼吸器疾患(COPD,ILDを含む進行性疾患)における緩和ケアの効果に関しては,比較試験8件の系統的レビューが報告されている1).緩和ケア群は通常ケア群に比べて,有意に呼吸困難(主にコントロール感)やACPの選択が改善することが示されたが,症状や生活の質,不安・抑うつなどのアウトカムには改善がみられなかった.今後は,いつ,どの患者群にどのような介入が効果的なのかなど,より詳細な効果の探索が必要である.

医療機関でのACPの実践

医療機関では多職種や多診療科が関わるため,疾患や職種を問わず共通の考え方を示し,合意を得ておくことが重要である.患者が話せる時(加えて病状が悪化していく時),意思表示できなくなった時でアプローチは異なる.

①患者が話せる時

この時期の話し合いや意思決定支援の目的は,患者の思いが尊重され,希望に沿ったケアが提供されること,そしてその時々の不安が軽減されることである.今や少し先の意思決定を含む話し合いであり,意思決定能力が低下した時に備えた「ACP」というより,「重い病についての話し合い」や「リアルタイムのケア目標の話し合い」「その時々の意思決定支援」に近い.体制づくりとしては,多職種間で心理的安全性を確保し協働する体制の整備,電子カルテでの情報共有,迅速な参照が可能になるような体制などが重要である.ACP関連のツールや事前指示書を活用する際は,してほしくない治療や適応範囲を確認し,家族にも事前に共有しておいてもらうことが望ましい.

②患者が意思表示できなくなった時

病状悪化やせん妄,認知症などで本人の意思が確認できない場合,(推定意思を含め)本人の価値観を尊重した治療が目標となる.意向が不明な場合は,家族との話し合いを通じて方針を探るが,それも困難な時は最善の治療を判断する体制が必要である.日本では制度上,事前指示書や医療上の代理意思決定者制度が法制化されておらず,家族の意向が優先されやすい.事前の意思表示も状況によっては適用が難しく,救命可能な状態では救命が優先されることもある.本人のかつての意思と現在の推定意思のどちらを重視するかも意見が分かれる.したがって,本人の意向が不明な場合の「最善の利益(Best interest)」や延命治療に関する施設の方針整備が求められるが,その適切な形は施設の文化に応じて検討していく.

コミュニケーションの考え方とスキル

ACPの要である信頼関係に基づく対話には,協働意思決定(Shared decision making: SDM)の考え方が有用である.SDMでは,本人・家族と医療チームが情報を共有しながら,個別化された治療・ケア目標を合意形成する.生物学的な判断(医学的妥当性)と物語的判断(患者の価値観)を統合することが重要である.

具体的な話し合いの手順としては,“REMAP”や“3段階プロトコール”などが提唱されている(図4,5).REMAPはケア目標についての話し合いを構造化したものであり8),3段階プロトコールはより時間が取れない状況で有用である9).これらにより,限られた時間の中でも要点を押さえたコミュニケーションが可能となるだけでなく,医療者がACPに関する話し合いを苦手と感じにくくなり,患者や家族との対話が増え,価値観や目標,意向に沿った意思決定支援に繋がる可能性がある.

図4 ケアの目標の話し合いの手順:“REMAP”

図5 時間が取れない場合の話し合い:“3段階プロトコール”

まとめ

非がん性呼吸器疾患を持つ患者が意向に沿ったケアを受けられるために,ACPは重要と考えられる.患者の心の準備や感情に配慮した平時の話し合いと,急性増悪時の意思決定支援・本人の意向を反映するための体制構築が各施設に求められている.患者・家族と同じ方向を向き,気がかりや希望の表出を聞き逃さず,多職種連携を通して個別化ケアを提供することが肝要である.

著者のCOI(conflicts of interest)開示

森 雅紀;講演料(第一三共,中外製薬)

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