日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌
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コーヒーブレイクセミナー
医療ガスとしての酸素と呼吸サポートチームの関わり
横山 俊樹, 寺町 涼, 野堀 耕佑, 長江 優介, 平澤 純, 塚田 さやか, 春田 良雄
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2026 年 35 巻 3 号 p. 250-255

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要旨

酸素は最も頻用される医療ガスであり,供給方式と安全管理は医療安全に直結する.本稿では,酸素の歴史と工業的生産,医療機関における供給システムの発展を概説するとともに,当院の呼吸サポートチーム(RST)が行うインシデント分析,標準化,病棟ラウンド,物品管理の取り組みを紹介した.酸素療法の安全な運用には,多職種による継続的な介入と組織的管理が不可欠である.

 

第35回日本呼吸ケア・リハビリテーション学会学術集会 コーヒーブレイクセミナー2

はじめに

人類のみならず,地球上に暮らす生物にとって必ず必要な物質として酸素がある.人体にとっても酸素をいかに取り込みエネルギー産生を行うかということが呼吸の本質である.今年2025年は在宅酸素療法が保険適用となり40年が経過した記念の年だが,今回はあえて医療ガスとしての酸素とその安全管理について,現場の呼吸サポートチーム(RST)の活動を通じて考えてみたい.

酸素とは?

酸素は化学元素・物質としては比較的一般的な存在であり,元素として宇宙では水素,ヘリウムに次いで3番目に多くの質量を占め,地球地殻の元素では実は酸素の質量が最も多く47%を占めるとされている.ご存じのように空気中のガスとしても大きな要素を占め,気体の酸素分子は大気の体積の20.95%,質量で23%を占めるとされている.

科学史において酸素が「oxygène(オクシジェーヌ)」として命名され,理論体系の中に位置づけられたのは18世紀フランスの化学者アントワーヌ・ラヴォアジエによる業績である1,2).ラヴォアジエは1775年頃から酸化水銀を強熱してある種の気体を得る実験を繰り返し,その後1777~1778年頃にこの気体を「酸のもととなるもの」という意味から“oxygène”と命名したとされる.さらに1777年には氷熱量計を作り,動物の呼吸というのは一種の燃焼であることを実験によって裏づけた.なお,本邦には宇田川榕菴によりオランダの化学書を翻訳された舎密開宗(1837年刊行)に「酸素」が記載され,紹介された.ラボアジェによる理論体系構築から実に50年程度と,当時の状況を考えると驚くほどの速さで本邦に届いているのは大変興味深い.

酸素の産生

産業としての酸素生成はどのようにされるのか改めて学んでいきたい.読者らの多くは過去の理科実験での学習から過酸化水素の分解(二酸化マンガン触媒による過酸化水素水H2O2の分解)により酸素が産生されることをご存じであろう.しかし本手法では酸素産生量は限られ,効率は悪い.このため工業生産としての手法は以下の3つが知られる.

① 深冷分離法(Cryogenic Air Separation)

酸素・窒素・アルゴンの沸点の違いを利用した分離技術で,精留とも呼ばれる.高純度ガスを大規模に生産可能だが,巨大な装置を要する.

② 吸着法(PSA: Pressure Swing Adsorption)

吸着剤(ゼオライト)を用いて,窒素を選択的に吸着し,酸素を残す方式.圧力を上げると窒素が吸着,圧を下げると脱離するサイクルを利用.装置が小型で,起動停止が容易である.

③ 膜分離法(Membrane Separation)

高分子膜の透過速度差を利用して酸素を濃縮.純度が低く,高濃度酸素の作成には不向きである.

このうち②吸着法は在宅酸素療法において一般的な手法の一つとしてよく知られている.一方で,病院など大きな施設の酸素配管システムや酸素ボンベにおける酸素は①深冷分離法が主である.深冷分離法では酸素(-183°C)と窒素(-196°C)の沸点の差を利用し,空気の液化と蒸発を繰り返すことで純度の高い酸素を分離・産生する.本手法では酸素産生のために巨大なプラントが必要となるが,大量の酸素を安定的に供給できる利点がある.

深冷分離法による酸素産生の歴史は19世紀末のドイツに端を発し,技術者カール・フォン・リントは1902年に空気液化・分離技術(低温蒸留による酸素・窒素分離)を確立し,1903年にはミュンヘン近傍に最初の商業規模空気分離プラントを稼働させたとされる.日本においても1907年には最初の酸素産生工場が大阪に建造されている(図1).1910年前後には様々な酸素会社が設立され,本格的に酸素の生産が開始された3).

図1 草創期の酸素工場(A)及び 20 m3/hr酸素製造機(B)

大正時代にあった酸素工場及び酸素製造機の写真.エアリキード株式会社より提供(文献8).

医療ガスとしての酸素のはじまり

酸素療法を施行された結核患者の最初期の記録は1783年とされ,すでにラヴォアジエの時代に酸素吸入が試みられていた4).その後時代は下り,1890年にBlodgettが“continuous inhalation of oxygen”を報告し,24時間で約200ガロン(おおむね 6 L/min相当)の酸素を連続投与したと記載している5).とはいえ,当時は酸素生産量に限界があったため,このような治療が一般的な選択肢となるには至らなかった.

20世紀に入り,商業用の酸素がプラントによって大量生産されるようになり,ようやく医療用酸素も臨床現場で広く使用されるようになった.1917年のHaldaneによる論文は近代酸素療法の原点とされ,分圧・酸素毒性・動静脈酸素較差などが整理されるとともに,呼吸制御のCO2仮説,anoxaemia(組織への酸素供給不足)の分類,換気血流比不均等の概念など,現代に通じる考え方が形作られていった6,7).

おりしも1918~1919年にはスペイン風邪が流行し,医療用酸素が大きく注目を浴びる契機となった.本パンデミックでは,続発する肺炎・気管支炎による呼吸不全が死因であったとされ,欧米において酸素療法を試行した記録が残っている.ちょうど医療用酸素ガスの臨床使用が可能となってきていたことから,一部の施設では酸素療法が試行された.ただし,当時の酸素療法は十分に体系化されず,パルスオキシメータによる酸素飽和度測定はもちろん,動脈血液ガス分析の技術もなかった.流量設定も大まかなもので,高圧ガスボンベからゴムチューブ等で患者に酸素を吸入させるだけであったとされる.臨床的にどの程度有効であったかは,現在では明確にはわからない.

しかし,「医療用酸素」に注目が集まるきっかけであり,たとえば日本でも,インフルエンザに対し酸素を吸えば効果があるという噂が広まって特効薬扱いになり,酸素の販売店には客が殺到したという記録も残っている.ある医療用酸素メーカーの社史には「早朝から深夜まで酸素を求める人の長蛇の列が続いたという.急増した酸素の需要に応えるため,初めは空気枕を容器代わりにし,やがて6尺の空気枕のお化けのような容器になった.容器の端をそろえて押して酸素を出し,水を入れた吸入器を通して利用したが,10分も経つと酸素がなくなったそうだ.当時,吸入用酸素は高値で,庶民には何度も買える値段ではなく,一度でも酸素を吸わすことができれば「酸素吸入までしたのだから」と患者の死を諦めたという.」と記録されている8).

医療機関における酸素ガスシステムの進化

その後医療用酸素は改良され,1960年代には酸素療法として徐々に確立されていったが,医療ガスとしての酸素は長らく酸素ボンベを主体とした.実際のところ,1970年代までは高圧ガスボンベに充填した酸素を個別に設置し,交換・充填により管理が行われてきた.人力でのボンベ交換作業が多く,事故(転倒・爆発など)や労力負担も問題となった.なお,日本において,「吸入用酸素」が「医薬品」として扱われるようになったのは,1971年に公布・施行された「第八改正日本薬局方」に「酸素」が正式に収載されて以降である.

1980年代になると,医療機関における手術室・集中治療室・麻酔機器の増設が進み,安定した連続供給が求められるようになったことを背景として,「ボンベ集合室(ガスセンター)」から病棟へパイプで酸素を送る方式が導入され始めた.このシステムは徐々に進化し,1990年代になると液化酸素を一括貯蔵する,定置式超低温液化ガス貯槽(Cold Evaporater:CEタンク)による集中供給が普及するようになった.巨大な液化酸素貯蔵大型タンクを病院敷地内に設置し,そこから気化・減圧して各病棟に配管供給する方式が広く採用された.液化酸素は体積が気体と比べて圧倒的に小さく,長期連続供給が可能であり,この頃から大手医療ガス供給会社がタンク設置,定期補充,保安管理を一体で請け負うサービスも展開されるようになった.現在では病院システムにおいて液化酸素タンク+パイプライン方式が事実上の標準であり,液化酸素タンクは供給会社が所有し,定期的に液酸ローリー車で補充する形態が一般的である.なお,小規模クリニックなどでは現在でも高圧酸素ガスボンベが用いられることがある.

医療ガスとしての酸素の安全管理

現在標準的となった医療用酸素ガス供給システムは,過去と比べれば圧倒的に安全になったといえる.それでも,酸素ガスの安全管理は常に重要なテーマである.配管誤接続や携帯用ボンベ関連,流量調節誤指示から誤使用,火災リスクまで様々な危険と隣り合わせであることは間違いない9).そして酸素は医薬品であると同時に高圧ガスという工業製品である点から,日本薬局方(医療用酸素)・薬機法,高圧ガス保安法,JIS基準による配管・端末の規格,建築・設備としては医療ガス供給設備基準(JMGAガイドライン)といった様々な法整備・規制のもと管理される.

医療ガスとしての酸素の安全管理は,臨床工学技士もしくは病院設備担当(事務職員)が医療ガス安全管理責任者として担当することが多い.病院としては医療ガス委員会を設置し,事故予防・点検・教育を統括するが,近年ではその臨床的側面を中心にRSTが大きく関わる施設もある10).

近年のコロナ禍と酸素ガスシステム

近年この医療ガスとしての酸素が安全面から注目された重要なイベントが新型コロナウィルスによるパンデミックであった.新型コロナウィルスはかつてのスペイン風邪と同様に重症肺炎,ARDSを呈することで多くの重症患者を産み出した.結果,多くの酸素療法を必要とするが,中でも話題となったのが高流量経鼻酸素療法(HFNC)である.ただし,HFNCは酸素・医療ガス流量をを高度に消費するために,施設によっては医療ガス供給を逼迫した.過大なガス消費量により,ガス圧力低下などのトラブルも実際に起きた.この事態は再び医療現場として医療ガスの安全管理が注目されるきっかけとなった.

当院における酸素についての呼吸サポートチームの関わり

当院においては,呼吸ケア・呼吸療法を包括的に支援する役割として,医療ガス委員会及び医療安全管理室の支援のもとRSTが酸素療法全体の安全管理に関わっている.一般的にRSTは診療報酬の定める呼吸ケアチーム加算の点から人工呼吸器離脱支援に重点をおく施設も多いが,医療機関ごとのニーズに応じて様々なタスクを請け負っていることがある11).この一つとして当院では酸素療法・医療ガスにも関わっている.その具体的な関与についても概説する.

当院RSTの酸素への関わりは①インシデントレポートの分析,対応を背景に②マニュアル整備,③病棟・各部署ラウンド,④器材への関わり,の4つである.

① インシデントレポート分析

当院の呼吸に関するインシデント内訳を(図2)に示す.内容は多岐にわたるが,直接的に酸素に関連するとされたものは13%となっていた.もちろん他に確認不足や加温加湿など,様々な分類に酸素関連のものが分類されるため,実際にはこの限りではないが,明確に酸素と分類されたインシデントレポートの中ではボンベに関連するものが最多であった.

図2 当院における呼吸関連のインシデントレポート内訳

2017/3-2023/2に当院医療安全管理室に届けられたインシデントレポートから,呼吸に関連した項目のみを抽出し分析.酸素関連のインシデント(ボンベ+デバイス)は69件(13%)であった.

② マニュアル整備

当院ではRSTにより「標準酸素療法マニュアル」「標準NPPVマニュアル」「標準人工呼吸マニュアル」の3つのマニュアルを作成した.このうち標準酸素療法マニュアルでは,酸素療法の基礎・実際,流量計・機器からHFNC,ボンベまで様々な内容を扱っている.

実際の運用においては,マニュアルを一度作成して終わりとするのではなく,こまめな改訂に重点を置いている.前述の院内インシデント報告はもとより,院外の様々なインシデント事例の報告,日本医療機能評価機構による医療安全情報などをRST会議で共有し,必要な対策をマニュアルに逐次反映させるよう取り組んでいる.

このうち,前述のコロナ禍のHFNC多用に伴う医療ガスへの負荷についても対応した.現在当院の医療ガスモニタリングは臨床工学室内にて行われているが,アラームを2段階に設定し,そのうちの1段階目が作動した時点でRST委員長に連絡し,実際の使用状況の確認のうえ,個々の流量設定変更やデバイス変更等を主治医に提案するフローを定めている.

③ 病棟へのラウンド

当院では,マニュアルを背景として,酸素療法について定期的病棟ラウンドを施行している.一般的にはRSTの主たる活動はラウンドによる人工呼吸器離脱支援と考えられている.しかし,多職種介入の有効な患者は重症例に限らず,むしろ,もっと一般的な呼吸療法である酸素療法のほうが頻度は多い.さらに,酸素療法は呼吸管理に慣れた病棟のみではなく,周術期や慢性期など様々な領域で必要となる基本的な呼吸ケアである.そのため,呼吸管理に慣れていない病棟でも酸素療法を要する場面は少なくない.このため,最も基本的な酸素療法を含めて,場合によっては酸素療法を含めた呼吸ケアに慣れていない病棟までラウンドし,酸素療法デバイスや設備・管理状況を定期的に確認・支援する重要性を考えている.我々のRSTでは,人工呼吸患者ラウンドに加えて,順次各病棟・部門をラウンドし,酸素療法に関連した物品管理状況や患者への使用状況確認をルーチン業務とし,年間かけて1回はすべての病棟をまわれるように日程を調整している.

④ 物品管理

インシデント分析・対策や病棟ラウンド情報をもとに,常に物品の管理・運用・教育は重要なテーマである.当院では,RST内に物品管理のサブチームを設け,常に臨床的効果と安全性,コストを踏まえた物品管理を行っている.特に酸素関連デバイスは,明確な根拠もないままにハイコスト物品が各々の独自ルールのもと頻用されることもあるため,できる限り理論的,EBM的な妥当性も評価しつつ検討している.

近年,当院のRSTにおいて特に重要と考えられたのが酸素ボンベに関する取り組みである.前述のように酸素関連インシデントのうち最多であったのは酸素ボンベに関するものであり,内訳としては「酸素ボンベの元栓開閉忘れ」が最も多く,次いで「酸素ボンベ残量の確認不足」であった(図3).本内容については野堀らにより以前に報告した12).

図3 当院の酸素ボンベに関するインシデント報告(2016年6月~2021年)

ボンベの元栓開閉忘れが37件と最多であった.

特に酸素ボンベの元栓開閉忘れのトラブルについてはより深刻であり,様々な施設において類似の報告がみられている13,14,15).英国/National Health Service(NHS)の報告では,3年間で酸素ボンベの制御装置誤操作による400例のインシデント報告があり,患者6人が死亡,5人の患者は心肺停止後蘇生したがうち4人は意識回復しなかった,とされる16).

このように酸素ボンベの元栓開閉忘れに関連するインシデントは国際的にも共通の問題であり,海外では本邦に先立って酸素流量計をボンベと一体化する取り組みが進められている.現在の問題の主要因は,元栓と流量計が別個に存在することにより,「流量計が回っている=酸素が流れている」と誤認しやすい構造にあると考えられる.これを受け,現在では様々な流量計一体型酸素ボンベが販売されるようになった.当院でも2022年に流量計一体型酸素ボンベを導入し,関連インシデント件数は大幅に減少した.

おわりに

本稿では,医療ガスとしての酸素ガスおよび酸素療法の基礎的事項と歴史的経緯を概説し,そのうえで現在の酸素療法をめぐる問題点,当院におけるRSTを主体とした酸素療法への関わりについて述べた.酸素は様々な診療領域で必要とされる極めて重要な呼吸ケアである一方,あまりにも基本的な医療行為であるがゆえに,必ずしも十分な注目や検討がされてこなかった側面もある.

医療機関としては,酸素療法を「当たり前のケア」として漫然と扱うのではなく,医療ガス供給システムも含めた安全管理・教育体制を継続的に整備していく必要がある.現代においては,RSTのような呼吸ケアに特化したチーム介入が,患者の臨床的利益および医療安全の両面に寄与しうると考えられる.

備考

なお,本総説は第35回日本呼吸ケア・リハビリテーション学会学術集会,コーヒーブレイクセミナー2にて発表した内容である.

著者のCOI(conflicts of interest)開示

本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.

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