日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌
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モーニングセミナー
陰圧換気再考:BCV
~The Old Rookie~
門脇 徹
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2026 年 35 巻 3 号 p. 256-260

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要旨

陰圧換気(Negative pressure ventilation: NPV)は陽圧換気(Positive pressure ventilation: PPV)に先行する人工呼吸の原点であり,生理的呼吸により近い換気様式である.現在国内で唯一使用可能なNPV機器である体外式陽陰圧換気(Biphasic Cuirass Ventilation: BCV)はキュイラスを胸腹部に装着して陰陽圧を制御し,換気補助や排痰,さらにはリハビリ効果も期待されるデバイスである.従来機(RTX®)の供給終了を受けて後継機(TCV-100K®)が新たに登場し,操作性・安定性が向上した.NPVは決して“過去の遺物”ではなく,現代の呼吸管理において再注目に値する有用なデバイスである.

 

第35回日本呼吸ケア・リハビリテーション学会学術集会 モーニングセミナー3

緒言

現在では急性期・慢性期を問わず,非侵襲的陽圧換気療法(Non-invasive positive pressure ventilation: NPPV)や高流量鼻カニュラ酸素療法(High flow nasal cannula; HFNC)などの非侵襲的呼吸管理(Non-invasive respiratory support: NIRS)が呼吸管理の主流となっている.NPVはマイナーな呼吸管理法であり,ほとんど行われていないが,人工呼吸はNPVから始まった歴史を持つこと,そしてNPVはNIRSのひとつであることを忘れてはならない.さらにNPVの方がPPVより生理的呼吸に近いことを考えれば,その利点に再注目する価値がある.現在日本国内で使用可能なNPVは体外式陽陰圧人工呼吸(biphasic cuirass ventilation: BCV)のみだが,これを活用すれば呼吸管理の選択肢は大きく広がる.

陰圧式人工呼吸のメカニズムとデバイス

A. 陰圧換気の歴史

人工呼吸の歴史を紐解くと実はNPVが侵襲的PPVに先行している.19世紀にはいわゆる鉄の肺(“Iron lung”=Tank ventilator)のアイディアが既に発明されており1),ヨーロッパでポリオ後遺症による呼吸不全に対して“Iron lung”を用いたNPVが1920年代後半から1950年代前半ごろまで広く普及した1,2).その後侵襲的PPVが主流となり,1990年代からNPPVが普及していったことは周知の通りである.

B. 陰圧換気と陽圧換気の相違点

PPVの原理は人工呼吸器などで外部から空気を押し込み,肺を膨らませるものであり,吸気時に気道内圧が上昇して肺胞に空気が流入し,胸腔内圧はやや陽圧方向に変化する.NPVは,吸気時に胸郭の表面を大気圧より低い圧(陰圧)にさらすことで機能する3).この圧力により胸郭が拡張し,胸膜内圧および肺胞内圧が低下して気道開口部から肺胞へ空気が流入するための圧力勾配が生じる.胸郭を取り巻く圧力が上昇し,大気圧またはそれ以上になると呼吸器系の弾性収縮力により呼気が受動的に生じる.NPVにおける吸気時の胸膜内圧および肺胞内圧の変化は,自発呼吸時のそれと近い3).NPVには2つの主要な構成要素が必要である.胸郭と腹部を密閉する剛性のある気密チャンバーとそのチャンバー内の圧力を変化させるポンプである3).この気密チャンバーによりNPVはタンク型,ジャケット型,キュイラス型の主に3つのタイプに分類される3).

C. 体外式陽陰圧人工呼吸(biphasic cuirass ventilation: BCV)と各種モード

現在国内で使用可能な陰圧式人工呼吸はBCVのみである.キュイラスを胸腹部(主に前胸部)に装着し,体外から胸郭に陽・陰圧をかけることで,横隔膜および胸壁の動きを補助する4,5,6).BCVには長らくRTX ベンチレータ®が用いられてきた.後継機種として国内メーカーがTCV-100Kベンチレータ®を開発・販売開始しており,国内では今後本機種が中心となる見込みである.筆者が考えるBCV の臨床的効果は主に2つ,「①排痰促進・無気肺解除」と「②換気補助・リハビリテーション効果」である7).BCVは使用するモードにより得られる効果が異なる.BCVを提供できる機種の特徴とモードについて表1にまとめた8).

表1 BCVの換気モード8)

モードの
大分類と
使用目的
機種別換気モードモードの特徴NPPVに
相当する
モード
TCV-100RTX
排痰補助
胸壁振動
Sputum AssistS. clearance胸郭外高振動により気道壁から分泌物を剥がし,と疑似咳により剥がした分泌物を上気道に移動させ,分泌物排出促進を行う.なし
持続陰圧
キュイラス
フィッティング
Continuous
Negative
設定された陰圧値で持続的にキュイラス内(胸腹部)を陰圧にすることで,肺容量を増加させるCPAP
二相性
換気補助
Control設定された陽・陰圧,換気回数,I:E比で自発呼吸関係なく,強制的に換気させる.T
Inspiratory
Triggered
Respiratory
Triggered
自発呼吸の吸気をトリガーして設定された陽・陰圧,換気回数,I:E比で換気する.トリガー検出されない場合は設定した条件で強制換気(バックアップ換気)を行う.PCV
Respiratory SynchronizedRespiratory Sync自発呼吸の吸気時と呼気時に同期して,設定された陽圧・陰圧で換気する.トリガー検出されない場合は設定した条件で強制換気(バックアップ換気)を行う.S/T

Secretion clearance/Sputum assist モードは胸部に高頻度振動を与え,痰を気管支壁・肺内で移動させ,圧(=擬似咳)を加えて喀出させることを目的としている.このモードによる排痰はいわゆる高頻度胸壁振動法(High frequency chest wall oscillation, HFCWO)9)に分類される.Continuous negative モードはcuirass 圧を持続的に陰圧にすることで患者の肺容量を増加するモードである.キュイラスのフィッティングをチェックする目的でも使用する.Control モードは二相性(biphasic),即ち吸気時に陰圧,呼気時に陽圧をかけて換気改善を図るモードである.いわゆる調節呼吸を行うモードであり,I:E比・呼吸回数も設定する必要がある.Biphasicなモードとして他にRespiratory synchronized モード・Respiratory trigger/Inspiratory triggeredモードが使用可能である.

BCVのエビデンスと臨床適応

国際的に見てもNPVは非常にマイナーな呼吸管理法であり,ガイドライン的なものは存在しない.BCVにおいても明確なエビデンスがないものの,有効とする報告が散見される.以下BCVの使用目的別に解説する.本稿では誌面の都合上,詳細な症例提示は割愛する.

A. 排痰促進・無気肺解除効果

Secretion clearance/Sputum assist モードを用いた排痰促進は無気肺(虚脱肺)改善に有効7)とされる.施行中・後において換気量が増加する場合があり,胸郭の揉みほぐし効果10)などの排痰促進以外の効果も推測されている.谷山らは脊髄小脳変性症ベースの閉塞性肺炎に対して気管挿管後のBCVによる排痰促進が有効であった症例を報告している11).また三好らは肺炎の治療に理学療法としてBCVを施行した16例を詳細に検討している12).そのうち6例は5日以内に肺炎の画像所見が完全に消失しており,通常治療にBCVを追加することで早期改善に寄与した可能性が示唆された.また広範囲な片側の無気肺に対して,キュイラスを胸部側面に装着して劇的に改善を得た2症例の報告もある13).このように,通常治療や様々な呼吸管理デバイスを用いた管理中にも補助的に使用が可能であり,工夫次第で排痰促進効果が得られることが大きな利点である.

B. 換気改善・リハビリテーション効果

① 換気改善効果(慢性期)

BCVをこの目的で使用したケースは極めて少ない.当院ではNPPVが不適の病態に対してBCVが奏効したケースを経験した.本症例はすでに他誌に症例報告14)しているため詳細は論文を参照していただきたいが,BCV の臨床的有用性について考える時に非常に示唆に富む症例であるため要旨を記す.症例は52才・女性.32才時に全身性強皮症と診断され,肺高血圧症を合併し,呼吸状態が経年的に増悪していた.50才で在宅酸素療法,52才で在宅NPPV(S/T モード,IPAP/EPAP 7/4 cmH2O,呼吸数16/分)を導入されていた.しかしながら全身性強皮症の消化管病変が高度(繰り返すイレウスの既往あり)であり,会話をしながら噯気を繰り返している状態であった.したがってこのような低圧NPPV であっても受け入れが困難であり,入院の上さらに低圧(IPAP/EPAP 6/3 cmH2O)に再設定しても2時間程度の連続運転が限界であった.患者・家族ともに最終的に気管切開下陽圧換気療法(Tracheostomy positive pressure ventilation; TPPV)まで行うことを希望されていたが,当面は症状コントロールとQOLの維持を優先させたいという強い希望があった.NPPV による呼吸管理は極めて困難と判断し,長期の呼吸管理法としてBCVを施行した.装着中は換気量の増加や自覚症状の改善が得られ,換気不全の進行を抑えることができた14).

② リハビリテーション効果

Secretion clearance/Sputum assistモードやControlモードに代表される二相性モードの両者には共通して呼吸リハビリテーション的効果が推測されている15,16).継続的なBCV の実施は従来の陽圧換気にはない直接的な呼吸筋トレーニングになり,呼吸リハビリテーション的効果が得られる可能性がある17).Secretion clearance/Sputum assistモードの胸郭に高頻度の振動を与えるバイブレーション機能は,排痰のみならず胸郭の揉みほぐし効果もあるとされている15,16).当院の経験でもBCV装着後に数時間換気量が増加する現象も認められたことから,短時間のSecretion clearance/Sputum assistモードによるBCVにおいても胸郭への直接的作用によるストレッチ効果を持つ可能性が示唆される.

リハビリテーション効果は主に二相性換気でもたらされる.Controlモードは設定した陰陽圧をそれぞれ吸気・呼気に設定した呼吸圧で作用させる換気方式であり,体外から圧を加えて直接的に胸郭運動の補助を行うモードである.加藤らの報告ではCOPD症例でRTX装着前後の胸郭周囲径を計測しており,使用後に下部胸郭での拡張を認めている16).キュイラスは横隔膜を含む形で胸郭前面に装着するのが標準的な装着方法であるが,症例や用途に応じて背面や側胸部への装着も可能である.BCVはキュイラスを介して行うため,理学療法士が用手的に行う呼吸介助より広範囲かつ長時間行うことが可能であり,理学療法の一手段としても有用性が高いと考えられる.

HuangらはCOPD患者を対象に病院ベースの呼吸リハビリテーションプログラムとNPVの併用が臨床転帰に及ぼす長期的な影響を評価した18).129名のCOPD患者をNPV群とコントロール群に分けて5年以上追跡した研究であった.NPV群(n=63)は,NPV(吸気圧 -20-30 cmH2O を60分間/週1回)と1日20-30分の自主的な自宅運動プログラム(ウォーキング)を実施した.コントロール群(n=66)は自主的な自宅運動プログラムのみを実施した.肺機能検査および6分間歩行試験は3~6カ月ごとに実施し,救急外来受診,入院および医療費を記録した.1秒量(FEV1)の年間低下率,6分間歩行距離はNPVで有意に優っており,ER受診および入院はNPV群で66%(p<0.0001)・54%(p<0.0001)減少した.さらにNPV群では年間医療費の有意な削減が認められた(p=0.022).この研究ではNPVとしてBCVが用いられたが,奏効した原因として換気パターンの変化,吸気筋の負荷軽減がメカニズムとして考えられた18).しかしながらBCVにおける詳細な呼吸リハビリテーション効果についてはそのメカニズムが不明な点が多い.今後の臨床研究による解明が待たれる.

③ 合併症,回避した方が良い病態について

NPV一般的な有害事象として無呼吸,使用デバイスに対する不耐,重度の褥瘡,上気道保護ができないこと,そして筋骨格痛がある19).BCV使用に伴う合併症は発生しない12,19,20,21)とする報告が多いが,キュイラス関連の有害事象(装着部位の疼痛や皮膚障害)については注意を要する.

またBCVの使用を回避した方が良い病態としては肋骨骨折(最近の骨折も含む)や最近の腹部手術などが挙げられる19).後側弯が高度なケースではキュイラス装着が難しいことがあるが,前述のように側面からのキュイラス装着が可能な場合13)もあるためケースバイケースでの対応を行いたい.

BCVと他のNIRSデバイスとの組み合わせについて

A. HFNCとの併用について

気道インターベンション中の併用19)の他に,肢帯型筋ジストロフィーを基礎疾患として肺炎による急性II型呼吸不全を呈した症例に HFNCと+断続的な腹部圧換気とNPV(ジャケット型)を組み合わせた呼吸管理が奏効したとする症例報告がある22).このケースは患者が初期治療で用いたNPPVに不耐であり,挿管下人工呼吸,気管切開下人工呼吸を拒否した.酸素化改善や死腔のwash out,加温加湿効果による排痰促進などのHFNCの特性23)を活かしながらNPVで換気量を増加させるという相乗効果によるものと考えられる.当院ではHFNC併用下にSecretion clearanceモードでBCVの使用経験があるが,このデバイスの併用は排痰には効果的な印象がある.この併用は今後検討すべき治療戦略であろう.

B. NPPVとの同時併用:“Double ventilation”

当院から低圧NPPVとBCVの同時併用した2症例の報告をしている24).いずれもII型呼吸不全かつDNI症例であった.1例はNPPVによる気胸のためNPPVを断念し,BCVによる呼吸管理を開始した.気胸治癒後に低圧のNPPVを同時併用し,徐々にNPPVの圧力を上げ,最終的にはBCVから離脱した.もう1例は入院中の肺炎による特発性肺線維症の急性増悪であった.最近の気胸の既往があるため,低圧のNPPVで管理を開始したが,管理困難であり,BCVを同時併用した.その後改改善したためBCVを離脱した.このように(N)PPVの欠点をNPV(BCV)が補うことができたケースであった.同時併用(著者はDouble ventilationと呼んでいる)は非常に特殊な呼吸管理法であり,2つの人工呼吸器の同調も難しい.推奨される管理法ではないが,BCVの一つの可能性として記しておく.

おわりに

PPV全盛の現在では,NPVは過去の異物と見なされがちではあるが,この選択肢を持つことで診療の幅と視野がかなり広がる.BCVに関してはエビデンスが少なく,標準化が難しい.現時点では経験に頼るところが大きく,一部のマニアが使用している管理法となってしまっている.しかしながら使用しているうちに“効く”ケースが見極められるようになってくるし,非常に便利なデバイスであることに気づくであろう.読者の皆さまにも“これは”という症例にぜひ使用していただきたいものである.

著者のCOI(conflicts of interest)開示

本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.

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