研究 技術 計画
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組織と情報社会の共進化(<特集>IT革命の展望)
Ian Miles
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2003 年 16 巻 1_2 号 p. 20-34

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抄録
情報社会は、発展段階の初期に形成された産業社会から進化する新しい社会技術構造とみなすことができる。さらに情報社会はそれ自身、様々な形態をとる技術知識、組織構造,社会慣行を通じて進化する。本論文では,情報社会を3つの段階,すなわち「孤島」,「群島」,「大陸」という3つのフェーズに区別して論じる。これらは,使用されるIT機器とサービスのタイプによって特徴付けられる。また同じくらいの重要さで,それらのIT機器やサービスが使用かつ応用されている状況や,進化しながら上記の区分の形成を助ける組織的な体化と戦略の種類によっても特徴付けられる。本論文ではまた,将来のフェーズの展望を考察するが,ここではそれを「生態系」と呼ぶことにする。概ね1970年代後半までは「孤島」フェーズであり,コンピュータ,電気通信,放送システムは,高度に分割された状態であった。コンピュータはほとんど存在せず,またリモート環境にあり,利用には高いレベルの専門知識が必要であった。「孤島」という用語は,またIT機器が(現在の基準に比べて処理能力の見地から)典型的に小さく,かつ互いに分離していたことも意味している。新しい技術に対する社会の一般的な態度は,混沌としていた。大規模データベースの持つ非人間的な影響に対する恐怖が,コンピュータに対する畏怖と共に存在していた。政府は国策として,(独自の設計と規格を持つ)国家的な勝者を支援した。組織は,データ処理センタに集約されたIT設備を用いて,集中システムのもとにITを使用していた。1980年代に現れた「群島」フェーズは,当時一般的に標準であった限定的な双方向通信を伴う多数のIT機器の増殖によって特徴付けられる。電気通信分野の規制緩和と戦略的研究計画への支援をもとに,衛星放送が多くの国々に導入された。同時にマイクロエレクトロニクスを用いた多数の新しい産業機器と消費者向け製品が広く普及した。パーソナルコンピュータ(PC)は非常に成功を収めたが,その一方で大衆に狙いを定めた初期のオンライン情報システムは,それほど普及しなかった。ITを使用することが雇用へ衝撃を与えるという社会一般の恐怖が,「単純作業化」についての関心の高まりと共に顕在化してきた。実際,職場における仕事のグレードアップにおいてその傾向はより顕著であり,(主にスタンドアロン環境ではあるが)分散環境下でのPCの子葉が企業の人事担当者に諸問題を引き起こした。同様に,経済学者は,IT投資の効果が生産性統計に顕著に反映されていないという事実(「Solowのパラドックス」)に当惑した。1990年代になると,IT機器の「大陸」は「情報スーパーハイウェイ」により交差し始め,自動化された孤島郡は,ネットワークにより次第に結合されてきた。インターネットは,コンピュータ間を結合するためのほぼ普遍的な媒体となり,音声やデータ通信機能を有する多種類のモバイルシステムが登場してきた。しかし,ネットワークが普遍的に普及したというわけではなく,多くのコンピュータシステムが依然としてスタンドアロンの状態のままであった。またそれらを使うことは特に易しいとは言えず,多くの組織にとって,ネットワーク管理者,Webサイトの作者編集者等といった新しい技能を有する労働者が必要であり,効果的に使いこなしていくには,組織慣行を担当変革しなければならなかった。例えば,電子データの変換の仕様は,予測をかなり下回るレベルであったが,新しい手順を習得し,内部データベースと手順の再構築をおこなうには,コストがかかりすぎた。最近10年間の間で,インターネットへのアクセスが広く普及し,またWebが情報交換のために,よく見なれているデザインパラダイムを与えることによってようやく,より多くの企業と政府組織が業務データおよびその関連データのオンライン移転に積極的になった。90年代の推移を通じて,インターネットのWeb形式は,オンライン情報交換のためのデザインパラダイムである伝達手段になり,既存のサービスは,これらの媒体に移行した。それは,しばしばそこには利用し得る新しいビジネス機会があり,そのため以前より広い市場を手にすることができたからであった。Webを用いたネットワークの形成,携帯電話の予期せぬ急速な普及といった成功の傍らで,1980年代に熱烈に嘱望された技術開発のいくつかは,1990年代には実現できなかった。ここで注目すべきことは,「コンピュータ化した高機能住宅」,「ホームオートメション」,あるいは「双方向住宅システム」についての技術開発が非常に遅れていることである。これは,規格化の採用とそれへ向けての進展が限定的であることが原因であると考えられるが,今世紀中にはある規格が広く採用されるであろうと見られていた。安価なチップで利用可能なBluetoothは,短距離ではあるが装置間の無線通信を実現するであろう。西暦2000年の節目を迎えて,Solowの生産性パラドックスは克服され始めたのではないかという議論があった。IT使用企業における業績の改善とアメリカ経済における新しい傾向が,その証左であった。恐らくネットワーク能力の使用の増大とそれに関連した組織的学習が,最終的に目に見える形で業績に実質的な変化をもたらした。電子商取引は,工場での製造工程,倉庫,オフィス等の自動化による島々の全域にわたるネットワークが有意義に拡張したものである。それは内部プロセスと外部プロセスの統合,及びサプライチェーンの再構築のために,新しいビジネス方式の機会を提供する。これは例えば製造業者,サービスプロバイダ,卸売業者から購入者への直接販売による「金融機関離れ」を引き起こす。さらに新しい「情報メディア」をいう形をとって,「再仲介業務」や電子マネーのシステムを制度化し,(「信託業務」として知られている)Web上のビジネスでの信用状を認証する他の新たな代理業者の出現がもたらされる。また,Webを主催することを支援する役割を担い,あるいは高度情報社会は情報のみでは成り立たないため,物理的な財の配達を行う役割を担う業者も出現する。このようなビジネスにおいて利益を達成するためには,かなりの組織的な学習とエンジニアリングが必要なるであろう。
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2003 研究イノベーション学会
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