抄録
筆者らは,アカデミックソサエティの健常性を阻害する,あるいは助長する環境素因を明らかにすべく,複雑系科学の手法を援用して,大学-学会モデルの構築を行っている。本報では,特に,大学における組織運営システムに注目した。大学が,研究に加え,教育を主務とするその他の社会的要請に応える上で,如何なる組織形態が効率的であるか,すなわち,所謂,小講座を解体した教官独立型か,それとも従来の講座システム的チーム形成型のいずれが効率的であるか否かを検討した。モデルの実装には,マルチ・エージェント・シミュレーションを適用した。モデルでは,研究リソースと研究外リソースが散布する2次元空間により構成された人工社会に,教官エージェントを放ち,エージェントには研究者生命維持のため研究成果と研究外成果の双方をあげることが課される。チーム形成型では,研究成果と研究外成果のチーム内での財の共有がはかられるから,同一エージェントで双方の制約条件を課される場合よりも生存条件は緩和され,各エージェントが研究か研究外活動かを明確に分業することで,効率的組織運営が行われることが観察された。