2013 年 27 巻 1_2 号 p. 115-128
大企業といえども社内のR&Dだけで新たなイノベーションを生み出すのは困難になりつつある。ベンチャーは大企業にとって,新たなイノベーション創出のためには欠かせないパートナーであろう。本稿は我が国大手ICT企業によるICTベンチャーとの関係をCVC投資の観点から考察し,大手ICT企業が,どの程度ベンチャーと関わっているのかを定量的に明らかにする。具体的には,上場ICTベンチャー129社に関し,これらの企業が上場を果たす過程でどのような企業から投資を受けてきたのかを目論見書に基づいて構築されたデータベースから分析した。分析結果からは,理論的にはイノベーション活動のパートナーと考えられるICTベンチャーに対し,我が国大手ICT企業は積極的に関わってきたとはいえないことが示唆される。ICTベンチャーに対する投資額の半数以上は,ICTビジネスを自らの主要な事業領域としない企業によって行われたものであり,CVC投資を行っている企業の4割以上は,こうした企業のうちでも非上場の企業である。ICT企業のCVC投資のみをみると,大手ICT企業はそれなりの存在感を示しているものの,これは非常に積極的な少数の企業に牽引されていると捉えることができる。我が国大手ICT企業は,CVC投資に積極的なグローバル企業と比較すると,少なくとも我が国ICTベンチャーを積極的に活用しようとしているとはいいがたい。